中国音楽市場に挑む国内インディペンデントアーティスト ― 世界有数の巨大音楽マーケットにどうチャレンジする?
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中国でもシェアが拡がるインディペンデント・シーン / アーティスト
先日AWALがソニーミュージックに買収されるなど独立系の音楽アーティストを取り巻く業界の動向は日々激しく移り変わっていますが、世界で4番目のユーザーを抱える音楽ストリーミングサービスTencent Music(QQ Music、Kugou、Kuwoなどのプラットフォームを運営)が展開されている巨大市場・中国もその例外ではありません。インディペンデントアーティストのシェアが広がる中国では、Tencent Musicがインディペンデントアーティストを支援するTencent Musician programを2017年から展開しており、2020年7月にはプログラムを通じインディペンデントアーティストへ5億9,000万元(約95億円)の収益を還元、そのアーティストの40%以上が収益が倍増し、80%以上が収益が50%以上増加したとアナウンスしています。また、同じく大手音楽ストリーミングサービスNetEaseで配信している中国のインディペンデントアーティストは2020年10月には20万組を越えており、それらアーティストの楽曲は同サービスで2019年だけで2,730億回以上の再生を記録しています。
中国の音楽ストリーミングユーザーのほとんどが使うTencentとNetEaseで自分の楽曲が聴かれるためには?
このようにインディペンデントシーンが拡大するグローバルトレンドの中、日本国内のインディペンデントアーティストも上記のTencent MusicやNetEaseへ自ら自分の楽曲を配信できるようになりました。ただ、やはり日本を含めその他のマーケットと同じく、単に配信をするだけでは音楽を拡めていくことは難しく、その地域およびその配信サービスを利用しているリスナーにあわせてどうアプローチしていくかが大事となります。
国内インディペンデントアーティストはどのような見通しをもって中国最大級の音楽配信サービスにチャレンジしていけばいいのか ―― エンタテインメントとテクノロジー領域のコンサルティングやカンファレンス主催、海外展開支援を行うParadeAll社代表の鈴木貴歩氏と、元Spotifyで現在は音楽専業のデータ分析、デジタルプロモーション、マーケティングなどを手がけるarne社代表の松島 功氏に伺いました。
「UGCサービスも意識、『抖音』や『We Sing』、『全民K歌』へのアプローチを欠かさずに」
中国は合法の音楽ストリーミングが立ち上がってからほんの数年で世界の音楽市場のTOP10入りを果たし、2019年には7位となっている世界有数の優良(有料)音楽マーケットです。そこに日本のインディペンデント・アーティストがTuneCore Japanを通じて音源をダイレクトに配信できるのは、大きな可能性と言えます。億単位の月間アクティブユーザーと日本のインディペンデント・アーティストの楽曲が出会う場ができるのです。
今やストリーミングに関するデータを直ぐに閲覧、分析でき、TuneCore Japanであればランキングインした情報もオンラインで把握できるので、中国の配信サービスにも対応されれば、自分たちの楽曲をどう中国で拡げていくかの指針を今までよりずっと立てやすくなるでしょう。
いわゆる音楽ストリーミングだけではなく、中国版TikTokの「抖音」のようなUGCからの音楽の盛り上がりやマネタイズも重要となるでしょう。MiDIA Researchのレポート「The Rising Power of UGC」では、UGCに使われる音楽からの収益が新たな音楽市場を作ると分析されています。その市場規模は2022年に約6,000億円とされ、その中でもTikTok/抖音が大きな役割を果たすと予測されています。またカラオケは中国でも国民的レクリエーションなので、カラオケアプリ「We Sing」や「全民K歌」も意識しておく必要があります。「歌ってみた」、「踊ってみた」を日本以上に奨励し、Weiboでシェアすることにより中国のファン/潜在ファンとのエンゲージメントを高める必要があります。
日本のインディペンデント・アーティストならではの多様性がある作品が中国でどう拡がり、人気を得ていくのか、とても大きな期待をしています。
ParadeAll代表 鈴木貴歩
http://paradeall.com/
https://twitter.com/SuzukiTaka/
「WeiboとWeChatは必須、SNSと音楽ストリーミングの紐づきは世界共通」
まず中国への安定した音楽ストリーミング配信を個人で行うハードルの高さをクリアされたTuneCore Japanチームの皆さんの尽力に拍手を!これでインディペンデントアーティストのみなさんも中国へ配信することができるようになりましたね。しかもTencent系列のQQ、KuGou、Kuwo、We SingのみならずNetEaseにも配信できることが非常に大きなポイントのように思います。
QQ Musicは大きな経済力とユーザー数をもって現在、インディペンデント系音楽の取り扱いを大いに増やしつつありますが、(個人的な主観ですが)日本のポップス音楽含めインディペンデントアーティストに関してはNetEaseユーザーの嗜好性の強みも感じており、NetEaseにも配信できることは非常に大きいです。
またこれらのサービスで音楽配信ができるようになったということで、本格的に中国での存在感を示していきたいのであれば、Weibo、WeChatにてアカウントの開設は必須になっていくでしょう。SNSと音楽ストリーミングの紐づきが深いのは世界共通です。
Weibo、WeChatのアカウント作成から運用までのお手伝いをするエージェント的な存在の方も必要とされていくでしょう。インディペンデントアーティストでいうと特にWeChat内でにある “群” 的なグループ機能は相性良さそうですし、活用されるとよいと思います(LINEでいうLINEグループとタイムライン投稿に近い事ができるイメージ)。
配信プラットフォームとしての違いとしては、QQよりNetEaseのほうが単なる音楽配信というだけではなくソーシャルプラットフォーム的な色合いを(2020年末時点では)強く感じます。NetEaseはアーティストプロフィールの運用・投稿なども個人でできるようですし、Weibo、WeChatと同じくここをアーティスト本人でできるようになるか、もしくはお手伝いしてもらえる人材を探すことがまずは急務になるでしょう。
一方QQグループは最近になって日本の音楽チャートが登場したりとさらなる歩みを続けているように思えますし、今後はWe Singで自分の曲が歌われる日が来るかもしれません。そういう意味では、より一層日本のコンテンツが届きやすくなっているのかもしれませんね。
いずれにしても、大切なことは日本での活動と全く同じです。棚に商品を並べるところまではできるようなりました。でも棚に置いているだけでは誰も気づいてくれません。ですので見つけてくれたことをきちんと察知し、取りこぼさないようにしていくことが大事です。
自分の曲を中国の方が聴いてくれて気になってくれて、SNSで検索してくれたとき、きっちりファンとして獲得できるような上記のようなインフラ整備・ならびにインフラ整備できる人材創りを業界全体でしていきたいですね。わたしもこれを機に一緒に学びたいです。
arne代表 松島 功
http://arne-jp.com/
https://twitter.com/komatsushima/
基本をおさえて確度を上げる
お二方のコメントからも、やはりアプローチの基本は中国でも変わらないことが分かります。楽曲のクオリティは大前提となりますが、再生データの分析、UGCサービスの活用、SNSでの情報発信とファンとのコミュニケーション、適した人材の確保、興味を持ってくれた人に対する導線の設計とファンベース構築、などを丁寧におさえていくことが中国での再生増の確度を上げるカギになりそうです。
日本発のインディペンデントアーティストがいよいよ中国でバイラルすることも現実味を帯びてきました。