【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード3「楽曲の編曲権」

2023.1.12

音楽家に無料で法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective “Law and Theory” の弁護士メンバーによる連載【アーティストのための法と理論 ビギナークラス – Law and Theory for Artists beginners’ class】。

音楽活動をはじめたばかりの方やまだ音楽に関する権利等に詳しくない方へ向けて、マンガを解説する形で役立つ情報を発信しています。

エピソード3のテーマは「楽曲の編曲権」。

前回は「楽曲の原盤権」について弁護士のエーちゃんから教えてもらったジロー(前回のエピソードはコチラ → https://magazine.tunecore.co.jp/skills/258011/)。エーちゃんのアドバイスを受けながら、今回いざカバーに挑戦しようとするジローですが……。

 

Law and Theory × THE MAGAZINE
漫画 : mot / Produced by PARK

 
エピソード3「楽曲の編曲権」

【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード3「楽曲の編曲権」

 
 
■安江裕太弁護士による解説

原曲に忠実なカバーをするとき注意することとは?

カバー曲をめぐって問題になる権利として、まずは複製権があります。

複製権は著作権の中に含まれる権利の1つですが、原曲に何らのアレンジも加えずひたすら忠実にカバーされた曲であれば、それは単なる原曲の著作物の利用行為にあたるため(いわゆるコピーのようなものです)、複製権について許諾を取るだけで問題ありません(複製権等の著作権については「曲」と「歌詞」それぞれの許諾を得る必要があることに関し、連載アーティストのための法と理論vol.3楽曲のカバー「1.原曲の演奏・録音=著作物の利用」参照)。

そして、複製権については、通常JASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者が管理をしている場合が多いので、このような著作権等管理事業者から利用許諾を得る必要があります(なおJASRACやNexToneの管理区分上は「録音権」と称されています)。

もし、JASRACやNexToneのデータベース中に当該楽曲が無い場合には、複製権は音楽出版社が管理している可能性が高いのでそちらから利用許諾を得ることになります。

なお、YouTubeなどのプラットフォームを利用してカバー曲を配信する場合、当該プラットフォーム自体がJASRACと包括契約を締結していればあらためて利用許諾を得る必要はありません。

 
 
原曲にアレンジを加えたカバーをするとき注意することとは?

他方、原曲に何らかのアレンジを加えたカバー曲については、原曲を利用していると同時に、原曲を基にしてアレンジされた二次的著作物を新たに創りだしているともいえるため、複製権に加えて編曲権が問題となります。

編曲権とは、文字どおり原曲を編曲(アレンジ)する権利のことです。

そして、当該楽曲の複製権についてJASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者が管理している場合であっても、同曲の編曲権については同事業者が管理することはなく、著作権者が管理をしています(通常は音楽出版社が管理していますが作曲者などの著作者が管理している場合もあります)。

したがって、アレンジを加えたカバー曲を配信する場合には、複製権の利用許諾だけでなく、編曲権を持っている著作権者又は著作者の許諾を得る必要もあります。

 
 
原曲にアレンジを加えたカバーをするときもう1つ注意することとは?

原曲に何らかのアレンジを加えたカバー曲については、同一性保持権も問題になります。

同一性保持権とは、「著作物を自己の意に反して改変されない権利」であり、「著作者人格権」という著作者だけが持つ権利の一つであるため、複製権や編曲権のように音楽出版社などに譲渡されることはありません。そして、たとえ細かなアレンジでさえしてほしくないと考えている著作者もいます。

ですので、カバーをする際のアレンジにより曲の一部のメロディーを変更したり歌詞の一部を変更したりした場合、作曲者や作詞者などの著作者から自己の意に反した改変だというクレームを受けないように、著作者の事前の許諾を受けておく必要があります(同アレンジが「やむを得ない改変」として許される可能性があることについては、同vol.3楽曲のカバー「3.同一性保持権とは?」参照)。

なお、著作者からの許諾は、音楽出版社を通じて行われることが一般的ですので、編曲権と同一性保持権は一括して音楽出版社に許諾を依頼することで足りると思われます。

 
今回の編曲権をはじめ、音楽の法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

 


『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

この記事の執筆者

安江裕太弁護士

弁護士(安江法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyers Collective「Law and Theory」メンバー。知財、交通事故等を中心に様々な案件を扱いながら、音楽家への相談対応も行っている。プライベートではSoul Funk DiscoをはじめBrazilian J-pop K-pop等ジローに負けない雑食のコレクターを目指しておりDJも練習中である。