【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード5「ディストリビューションサービス」
音楽家に無料で法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective “Law and Theory” の弁護士メンバーによる連載【アーティストのための法と理論 ビギナークラス – Law and Theory for Artists beginners’ class】。
音楽活動をはじめたばかりの方やまだ音楽に関する権利等に詳しくない方へ向けて、マンガを解説する形で役立つ情報を発信しています。
エピソード5のテーマは「ディストリビューションサービス」。
前回は「タイプビートの注意点」について学んだジロー(前回のエピソード4はコチラ)。今回は、ようやくオリジナルEPが完成したジローに、弁護士エーちゃんが配信リリースについて教えてくれます。
■清水航弁護士による解説
ディストリビューションサービスとは
近年では、世界的にApple MusicやSpotifyといった音楽配信プラットフォーム(とりわけサブスクリプション型)の売上が上昇していますが、大手レコード会社に所属していないインディーズのアーティストがこれらのサービスを運営する企業と直接に配信のための契約をすることは原則として出来ません。
そこで、アーティストからこれらの配信サービスに対する共通の窓口の役割を果たしているのが、ディストリビューションサービス(音楽配信代行サービス)です。アーティストは、ディストリビューションサービスに自分の楽曲を登録することで、世界各国に向けて様々なプラットフォーム上で当該楽曲を配信することができ、当該配信による収益の分配を受けることができます。
ディストリビューションサービスの登録について
現在ディストリビューションサービスには様々な企業が運営するものがありますが、それぞれ条件が異なる部分がありますので、各サービスの利用規約やウェブサイト上の説明をよく理解して登録することが推奨されます。具体的には、以下に掲げる条件等を確認するようにしてください。
①利用料及び収益分配方法:
リリースやアーティスト毎にかかる固定費(この中にも年額のものと、1回限りのものがあります)と楽曲の売上に関して何パーセントがアーティストに還元されるかの双方を確認してください。
②契約期間及び更新時期:
契約期間の途中における配信停止の可否はサービスによります。また、年額で固定費がかかるサービスの場合には、定められた時期に手続きをしないと自動的に更新される場合もあるので注意してください。
③配信先のプラットフォーム:
サービスによって、日本国内向けのプラットフォームが対象となっていない場合等があります。
④配信地域:
カバー曲について、別途アーティスト自身で原曲の権利者に対する手続等を行なわなければ、特定の外国地域ではダウンロード配信ができないといった制限が存在する場合があります。
⑤利用資格:
レーベルと一体となったディストリビューションサービスの場合には、誰もが利用できるわけではありません。
⑥付随サービス等:
スプリット(収益分配)機能、レポート機能、リンクシェア機能、プロモーション、日本語対応の有無等のサービスの充実度や、楽曲登録後に配信開始までに要する期間等も実際の選択の際には重要となるでしょう(但し、これらのサービス内容について、契約内容の一部として法的な保証がされていることは限られているように思われます)。
※参考 – TuneCore Japanの場合(2023年2月時点)
①利用料等
https://www.tunecore.co.jp/distribution#price
②契約更新等
https://support.tunecore.co.jp/hc/ja/articles/360007022192-更新について
③配信先プラットフォーム
https://www.tunecore.co.jp/store
④配信地域
アメリカとインドでダウンロード販売を行う場合には、アーティスト自身で原曲の権利者に対する著作権使用料の支払手続をする必要があります。
⑤利用資格
https://www.tunecore.co.jp/terms/person
音楽配信に向けた楽曲登録の際の注意点について
ディストリビューションサービスにおいて楽曲を登録するということは、法的に言えば、当該楽曲の原盤権(レコード製作者の権利及び実演家の権利)及び著作権(歌詞を含みます)のうち、複製権や送信可能化権・公衆送信権と言われるものを、ディストリビューションサービス会社にライセンスする(そしてディストリビューションサービス会社からプラットフォームにさらにサブライセンスする)ということになります。したがって、アーティストは、自分の登録する楽曲について、それぞれの権利が十分に処理されているかをしっかり確認したうえで登録をする必要があります。特に、当該楽曲中に他人の楽曲のフレーズや音源を利用している場合(カバー・アレンジのみならず、サンプリングのように一部のみ利用する場合も含みます)には、自己申告をしたうえで権利者から許諾を得ていることを示す資料を提出する必要があります(具体的に必要な権利処理については本連載の他の記事をご参照ください)。なお、楽曲登録の際には審査がありますが、審査に通りさえすれば法的に問題なくなるわけではありませんので注意してください。
なお、各楽曲の著作権に関して、JASRAC等の著作権管理団体に管理委託している場合には、アーティスト側において当該団体における識別番号等の情報を入力し、ディストリビューションサービス会社側で許諾手続きを行う場合が多いかと思います。ここで、自作曲について、著作権をJASRAC等に管理委託しなければ配信ができないというわけではありませんが、管理委託されていない場合には、配信による収益のうち著作権使用料に相当する部分の分配を受けられないことがあります。この点、音楽出版社を介さずにアーティスト個人がJASRAC等と契約をしようとした場合、①自分の楽曲を全て管理委託しないといけないことや、②第三者の利用実績等の登録条件があること等から、ハードルが高いと感じていたアーティストの方もいらっしゃるかもしれませんが、近時においては、一定の手数料を支払うことで、アーティストに代わって楽曲単位でJASRACに管理委託をしてくれるというサービスも登場しています。
最後に、楽曲登録の際には、ジャケット写真も登録することとなりますが、この写真についても他人の著作権等を侵害しないように注意する必要があります。この点については、本連載で別の機会に触れられればと思います。
今回のディストリビューションサービスをはじめ、音楽の法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!
『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/