【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード2「楽曲の原盤権」

2022.11.11

音楽家に無料で法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective “Law and Theory” の弁護士メンバーによる連載【アーティストのための法と理論 ビギナークラス – Law and Theory for Artists beginners’ class】。

音楽活動をはじめたばかりの方やまだ音楽に関する権利等に詳しくない方へ向けて、マンガを解説する形で役立つ情報を発信しています。

エピソード2は「楽曲の原盤権」について。前回「楽曲の著作権とコピー」について弁護士のエーちゃんから教えてもらったジロー。
(前回のエピソード1はコチラ → https://magazine.tunecore.co.jp/skills/223056/

今回はジローが自分で作った曲をエーちゃんに聴いてもらうところから始まります。

 

Law and Theory × THE MAGAZINE
漫画 : mot / Produced by PARK

 
エピソード2「楽曲の原盤権」

【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード2「楽曲の原盤権」

 
 
■尾畠弘典弁護士による解説

楽曲の原盤権とは?

音楽をめぐる権利には、著作権の他に原盤権があります。

原盤権とは、レコードやCDなどの媒体に記録された音源そのものに発生する権利で、コピーや配信を独占的に行うことができる権利のことです(正確には、著作権法上、著作隣接権として「レコード製作者の権利」が規定されており、この中にこれらの行為を行う権利が含まれていますが、便宜上ここでは「原盤権」という言葉を用いて説明します)。

音源のコピーや配信を行うには、原盤権を持つ人(原盤権者といいます。)の許可が必要となります。

音源の制作費用を負担した者が原則として原盤権者となるため、レコード会社が原盤権者となっている場合が多いですが、個人が媒体の制作費用を負担した場合など、個人が原盤権者となる場合もあります。あなたが自分の機材を用いてDTMでオリジナル音源を制作した場合は、あなたがその音源の原盤権者ということになります。

市場に流通している音源のデータをコピーしたり配信をする場合には、まず間違いなく原盤権が問題となると考えて良いでしょう。

一方、既存の楽曲を自分で演奏したり、DTM上で再現する場合は、原盤権は問題となりません(著作権の問題は生じます。エピソード1参照。また、ギターリフの著作物性について「アーティストのための法と理論 Vol.8 – 他人のギターリフを自分の曲に借用しても大丈夫か?」参照。)。

 
 
過去の名盤をサンプリングしてもいい?

原盤権の対象となっている音源は、原盤権者の許可がない限り、たとえその一部であったとしても、サンプリングして自分の楽曲に取り込んだり配信することはできないということになります。

JASRACやNexToneは原盤権の管理を行ってはいませんので、原盤権に関する許可は個々の原盤権者から得る必要があります。

 
 
個人で楽しむ場合には許される

著作権と同様、原盤権者の許可がないとコピーできないのが原則ですが、個人的な範囲で行う場合には例外的に許されています。

例えば、他人の楽曲をサンプリングして自分の曲に取り込んで個人的に楽しむことは、例外的に許されるということになります。

一方、サンプリングしたものを配信することは、個人的に楽しむという範囲を超え、このような例外には当たらないということになります。

なお、JASRACやNexToneと包括契約を締結している配信プラットフォームがありますが、これはあくまで著作権に関する包括契約であり、原盤権については対象とはなっていません。

そのため、配信プラットフォームにおいて原盤権者の許可なく楽曲を配信することは、たとえ楽曲の一部であったとしても、できないということになります。

 
 
原盤権も一定期間が過ぎると消滅する

原盤権は、基本的にはその音源が制作された年の翌年から数えて70年の経過により消滅することになっています。

原盤権が消滅した後は、原盤権者の許可なく楽曲を自由に利用することができることになります。

 
原盤権をはじめ、音楽の法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

 


『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

この記事の執筆者

尾畠弘典弁護士

弁護士(尾畠・山室法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyers Collective「Law and Theory」メンバー。離婚、相続、行政案件等を広く手掛けるかたわら、音楽家への相談に対応している。プライベートではジャズピアノの演奏活動を精力的に行っている。

https://twitter.com/obata_1115