【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード8「ミュージックビデオの権利処理」

アーティスト向け
2023.11.14

 
■山城尚嵩弁護士による解説
 
ミュージックビデオ(MV)に含まれる権利

一般に、映像作品には複数の権利が絡み合っています。このことはミュージックビデオ(以下「MV」といいます。)でも同様です。例えば、MVでは、ある楽曲とその音源が使用されることになるので、当該楽曲に関する著作権及び原盤権はもちろんのこと、①動画自体の著作権、②振り付けやダンスに関する権利、場合によっては③出演者の肖像権などが問題となります。

 
動画自体の著作権

MVやライブ映像は「映画の著作物」と呼ばれる類型の著作物に当たります。詳細には立ち入りませんが、この「映画の著作物」は、著作者・著作権者を決めるルール、つまり誰がその映像の著作権を持つのかに関するルールが特殊です。過去には、ある日本の有名なロックバンドの解散ライブ映像の著作権を巡って、制作会社とレコード会社側が激しく裁判で争ったことも有名な(?)話です。

ジローのようなアーティストがMVを制作する際、DIYでMVを制作する場合を除けば、アーティストは映像制作会社や映像作家にMV制作を委託することが通常です。MV動画の権利について、以後のトラブルを回避するためにも、委託時に契約(メールのやり取りなどでも有効な契約となり得ます!詳細は過去の連載記事をチェックしてください。)を交わすとともに、動画自体の権利を買い切りで移転を求めたり、利用を許諾してもらうこと(以下この作業を「権利処理」といいます。)が必要です。

 
振り付けやダンスに関する権利

MVにダンスの要素が含まれる場合、そのダンスの振り付けについても、創作的なものについては「舞踊の著作物」として著作権が認められることになります。

TikTokが公開している「著作権侵害のケース紹介」においても

ダンスの振り付けも、基本的で単純な振り付けパターンを組み合わせたものではなく、独創性があれば(例:R.Y.U.S.E.I.ダンス)、著作権が認められます。そのため、著作物と判断される振り付けのダンスをする際には、作者の許諾が必要です。

とされています。

また、そのMVの出演者(プロのダンサーであるかは問いません。)がその振り付けでダンスをする場合、出演者は、そのダンスの実演家として、実演家の権利を有します。実演家の権利の詳細は前回記事をご参照ください。

このように、MVの一部にダンスを取り込む場合、ダンスの振付師との間で振り付けの著作権の、出演者(ダンサー)との間でダンサーの実演家の権利の権利処理を、それぞれ行う必要があります。

そう考えると、今回の設例のジローの場合はどうでしょうか。ジローはあるTikTokerグループが考えた振り付けを自分のMVに採用しようとしているため、その振り付けが創作的なものである場合(つまり著作物にあたる場合)には、原則として、当該TikTokerグループに振り付けの利用の許諾を得るなどの権利処理が必要です。

また、出演者との間では、出演時の実演をMVに利用することの権利処理が必要となります。

 
補足:肖像権について

権利処理の対象となる権利は著作権法などの法律上の権利だけではありません。最高裁判所の判例によって認められた権利なども含まれ、その代表的なものが肖像権と呼ばれる権利です。肖像権は、平たくいうと、人の容貌等をみだりに撮影され、また撮影された写真・描写されたイラスト画をみだりに公表されない権利です。

今回の設例のジローがUPするようなダンス動画であれば、通常、キャスティングされた出演者は肖像の使用について承諾していると考えられます。そのため、今回は幸い、肖像権の問題が発生する可能性は低そうですが、撮影の場所や態様によっては問題となりうる可能性があるため、頭の片隅に留めていただけると幸いです。

 


 

今回の内容をはじめ、音楽に関する法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

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この記事の執筆者
山城尚嵩弁護士
弁護士(STORIA法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。音楽ビジネスを中心としたエンタテインメント領域やAI・データをはじめとするIT/テック領域が専門領域。Law and Theoryメンバーの中でもHIPHOPへの思いは負けないと(勝手に)思っている。