【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード9「レーベルとの契約」

2024.2.6

■安江裕太弁護士による解説

 
アーティストがレコード会社と契約するメリットって?

レコード会社の業務は原盤を制作するだけでなく、プロモーションなどにも及びます。アーティストは、契約したレコード会社に原盤を制作してもらえるというメリットはもちろん、ジローのように原盤を自分で制作できるアーティストにとっても、レコード会社と契約することで、楽曲に対するプロモーションを受けることやその会社のネームバリューを享受できることが期待できるというメリットもあります。また、レコード会社がアーティストのマネジメント業務を行うことも多く、そういった面でのメリットも考えられます。

なお、ジローが契約を検討しているような小規模なレコード会社のプロモーション力は、大手レコード会社のそれと比べるとどうしても小さくなってしまいますので、アーティスト自らもSNSなどを利用して積極的にプロモーションしていくことも大切です。半面、小規模なレコード会社ではよりきめ細やかなマネジメント業務が行われる場合もあることから、その意味で大手にはない良さもあるといえるでしょう。

アーティストは、金銭面(原盤制作費や後述するアーティスト印税)の観点やそのレコード会社から受けることが期待できるプロモーションやマネジメント等の観点から、そのレコード会社と契約するメリットがあるか判断することになります。

 
 
アーティストとレコード会社との契約の仕組みはどうなっているの?

アーティストはレコード会社との間で専属実演家契約を締結することになります。そしてその際、多くの場合専属実演家契約とセットでマネジメント契約も締結されます。

この専属実演家契約により、アーティストはレコード会社の専属アーティストとなり、そのレコード会社の許可がない限り、それ以外のレコード会社のために歌ったり、演奏したりすることができなくなります。

また、この契約により、通常の場合、アーティストが持つ実演家の権利や、原盤を自分で制作したアーティストが持つレコード製作者の権利はレコード会社が保有することになります。もっとも、近年はレコード製作者の権利をアーティスト側に帰属させる場合もあるようです(実演家の権利について詳しくは本連載エピソード7「ビートメーカーが持つ実演家の権利」、レコード製作者の権利について詳しくは同エピソード2「楽曲の原盤権」もご参照下さい)。

その代わり、アーティストは、レコード会社からアーティスト印税を受け取ることができます。また、先ほど述べたように、原盤制作費を負担してもらう、楽曲のプロモーションについて期待できるなどのメリットもあります。

 
 
アーティストがレコード会社と契約する際に注意することとは?

とにかく契約書の内容をしっかりと理解することです。

まず、アーティストの報酬であるアーティスト印税に関する規定は言うまでもなく重要です。せっかく音源の制作費を出してもらっても、もらえるアーティスト印税(通常は印税率にストリーミングの再生数やCDの出荷枚数等を掛けた算定式が用いられます)に関する条件がアーティスト側に不利な場合には、やっぱり自分で制作した方が良かったということになりかねません。

次に、原盤制作にかかる費用をどうするかに関する規定やレコード製作者の権利がレコード会社とアーティストのどちらに帰属するかに関する規定も重要です。

また、見落としがちなものとして契約期間に関する規定もとても重要です。このような契約の期間は2~3年が一般的とされていますが、不用意に長期にわたる契約を締結してしまったばかりに、それが足かせとなった結果、アーティストが自分のやりたい音楽活動をいつまでもできないということになる恐れがあります。

さらに、再録禁止期間や実演禁止期間の規定がある場合には、契約期間が終わった後でも自由な活動ができない恐れもありますのでここにも注意が必要です。

それ以外にも、レコード会社がアーティストの名前や写真を商品等に使用する場合につき肖像権やパブリシティ権に関する規定がある場合には、その使用条件等がアーティスト側にとって納得できるものとなっているかにも注意する必要があります。

以上のように、レコード会社との契約においては色々と注意すべきポイントがありますので、場合によっては専門家に相談しながら、契約書の内容を全て理解したうえで納得のいく契約を締結するようにしてください。そして、その際にはLaw and Theoryの無料相談も是非ご活用ください。

 


 

今回の内容をはじめ、音楽に関する法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

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この記事の執筆者

安江裕太弁護士

弁護士(安江法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyers Collective「Law and Theory」メンバー。知財、交通事故等を中心に様々な案件を扱いながら、音楽家への相談対応も行っている。プライベートではSoul Funk DiscoをはじめBrazilian J-pop K-pop等ジローに負けない雑食のコレクターを目指しておりDJも練習中である。