【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード10「音楽出版社との契約」

2024.4.18

 
■琴 太一弁護士による解説

 
音楽出版社とは?

音楽出版社は、作曲家や作詞家といったクリエイターの楽曲を管理し、楽曲の利用促進と収益化を行う存在です。音楽出版社は、通常以下のような業務を行います。
 

  • 著作権の管理:JASRAC等への届出、第三者への利用許諾、著作権使用料の徴収
  • 楽曲の利用開発(プロモーション):業界関係者への紹介、タイアップ交渉など
  • 収益分配:著作権使用料のクリエイターへの分配
  • このような業務は、本来的にはクリエイターが自身で行う必要があり、しかも複雑なものも多いのですが、音楽出版社と契約することで、このような業務から解放されることになり、音楽活動に専念できるというメリットがあります。音楽出版社は、クリエイターのビジネス面をサポートするという大切な役割を担っている存在といえるでしょう。

     
    音楽出版社と契約すると著作権はどうなる?

    音楽出版社が楽曲の著作権を管理する前提として、クリエイターは音楽出版社と著作権契約を締結し、当該楽曲の著作権を譲渡します。音楽出版社は、著作権を譲り受けることで契約期間中は楽曲の著作権者となるため、楽曲が様々な場面で利用されるよう自ら各種プロモーションを行い、又、著作権管理の一環として自ら使用料を徴収できるようになります。

    もっとも、著作権の管理については、実際には、音楽出版社の多くが楽曲の著作権の大部分の管理をJASRACやNexToneといった著作権等管理事業者へ委ねています。そのため、著作権等管理事業者が楽曲の著作権使用料を徴収し、これを音楽出版社に分配し、そこから音楽出版社がクリエイターに分配するという流れを辿ります。クリエイター側から見たこの分配が、いわゆる「著作権印税」と呼ばれるものになります。

    なお、楽曲の著作権のうち編曲や訳詞に関する権利(翻案権)は、著作権等管理事業者が管理できないものになるため、引き続き音楽出版社が窓口になります。編曲に関しては、本連載エピソード3「楽曲の編曲権」もご参照ください。

     
    著作権契約書のポイント

    ここでは特に大切な2つのポイントを取り上げたいと思います。1つ目のポイントは「印税率(分配率)」です。つまり、楽曲が生み出す収益(著作権使用料)をクリエイターと音楽出版社とで何パーセントずつ分け合うのか、という点に関する契約条件です。一般的には50%以上がクリエイター側に分配されるという条件が提示されることが多いですが、長期間の契約になるのが一般的ですので、クリエイターとしては、音楽出版社のプロモーション効果がどれだけ期待できるのかといった視点も踏まえて、慎重にパーセンテージの妥当性を検討したいところです。なお、後述するように、最近ではプロモーション機能を持たないリーズナブルな音楽出版社や著作権管理サービスも登場しています。

    2つ目のポイントは「契約期間」です。つまり、楽曲の著作権管理をいつまで音楽出版社に委ね続けるのか、という点に関する契約条件です。一般的には「10年」や「5年」と定められることが多いのですが、この期間が終わるまでクリエイターは著作権者ではなくなりますので、自分の楽曲であっても自分で管理することはできませんし、この期間中は収益の分配が続くことになります。影響範囲が大きい項目になるため、クリエイターとしては、プロモーション効果の点も踏まえて、適切な期間になっているか(長すぎないか)という点に留意しましょう。最近では「3年」や「1年」という比較的短い期間が設定されることもありますので、そのような打診をしてみることも考えられるところです。

    なお、著作権契約書の書式は、日本音楽出版社協会(MPA)の契約書フォームが用いられることが多いようです。この書式の各契約条項についてMPAの解説も公開されていますので、適宜参照することをオススメします。

    以上のとおり、音楽出版社と契約することはクリエイターにとってメリットもある一方、著作権を譲渡することによる影響は小さくありません。契約内容をよく確認し、不明点や疑問点などがある場合は、Law and Theoryの無料相談をお気軽にご利用ください。

     
    著作権管理に特化したサービス

    以上で解説したのは、伝統的な音楽出版社の機能や契約内容になりますが、最近では、プロモーション機能を持たずに著作権管理だけに特化した音楽出版社や、著作権管理サービスなども色々と登場しています。プロモーション機能がない分、手数料がリーズナブルで、楽曲の収益はクリエイターにより多く分配されることになります。

    例えば、TuneCore Japanの著作権管理サービスなら、手数料は著作権収益の15%ですので、85%がクリエイター側に分配されることになります。昨今ではクリエイターが自らプロモーションを推進していくことも多く見られるようになっていますので、このようなサービスを積極的に活用することを検討してみてもいいかもしれません。

     


     

    今回の内容をはじめ、音楽に関する法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

    『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
    https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

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    この記事の執筆者

    琴 太一弁護士

    音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。  音楽、ファッションをはじめカルチャー領域に関する案件を幅広く手掛ける。Law and Theoryきっての南米音楽フリークであり、ブラジルへの渡航経験あり。

    https://twitter.com/kottinho