Thliveインタビュー 「GAL」がバイラルヒットしたきっかけ、ミックステープでヒップホップを広める
現在、バイラルヒット中の「GAL」という曲をご存じだろうか。元々はラッパー・OHAYOによるオリジナル楽曲なのだが、Thlive(スライヴ)という東京のDJクルーが、昨年末にリリースしたミックステープ『FTL Mixtape vol.2 (mixed by Thlive) [DJ MIX]』に楽曲をミックスして収録したのをきっかけに、TikTokでその音源を使用するユーザーが急増加。バイラルヒットに至った経緯や、ミックステープにした理由などをThliveのRyuNosuKに訊いた。
取材・文 : カービィ少佐
なぜ今ミックステープなのか
——まず、Thliveさんのプロフィールを教えてください。
元々、Goodkid TAKEKIと、MCとDJで2人でやってて、2020年にミックステープを配信でリリースしてたんですよ。以降ミックステープの配信の時は、分かりやすいようにThliveっていう名前にしました。自分はクラブDJをメインで、ビートを作ったり、ミックステープのイントロとかは自分で作ったりしてます。Goodkid TAKEKIは、イベントオーガナイザーで、『BLUE MAGIC』とか『NEVER BROKE』などのイベントを、渋谷HARLEMとかでやってます。あとは作品も出してくみたいな感じですね。Thliveは3人なんですけど、役割的には自分がDJ、Goodkid TAKEKIがMCでサイドマイク、GDM Beatsはビートメイクや裏方的なことをやってます。
——ミックステープを軸に活動されてるとおっしゃってましたが、ミックステープに拘る理由はなんでしょうか?
自分がヒップホップを好きになったきっかけでもあるのと、ミックステープだとDJの人が選んだ曲が繋がってるじゃないですか。厳選された良い曲だけが入ってると思うんですよね。だから、ヒップホップとかまだあんまわかんない人とか、何から聞いていいかわかんない人とかもそれを聞けば、どういうのが流行っててとか、どういうアーティストがいるのか知るきっかけになればいいなと思って。あとは、自分たちが全国のラッパーと知り合うことが多くて。そういう繋がりがあって、オフィシャルでミックステープを出せる人は少ないと思うので、そういう見せ方をしたいって思ってます。
——ミックステープに対するリスペクトや拘りもすごくわかるんですけど、やはり今はSpotifyやApple Musicによるプレイリストの影響力が強いと思うんですよね。その中で配信でミックステープという形式はかなり特殊だと思うんですよ。なぜプレイリストではなかったんでしょうか?
言い方悪いですけど、プレイリストだと、全体の流れで見ると曲のいらない部分とか、繋がってた方がいいとことかもあるじゃないですか。ミックステープだとそういう長さとか繋ぎとかアレンジして、よりクラブに近い聴かせ方ができます。
——確かに、1番聴かせたい所を抜粋してくれてる方がリスナーとしては入りやすいですね。ピックするアーティストもイベントで出会う事が多いですか?
そうですね。以前はリリースが年に1回ぐらいだったんで、入れる曲を出会った中で集めるのが簡単だったんですけど、今は2ヶ月に1回ぐらいのペースで出そうと思ってて。そうなってくると、中々チェックしきれないんで、最近は音源だけ聞いて連絡して許可取ってる人もいます。何個か作品を出したんで、「まずこれ聞いてください。」って言って、このシリーズに入れたいと伝えればOKしてくれる人も結構増えてきましたね。
——2ヶ月に1回っていうペースはどういう理由からでしょうか?
単純に、だいたいその位の周期でのリリースが多いからです。あと、頻繁にリリースしていってリスナーを定着させたい。このミックステープは、自分たちの作品というより、皆に新譜をチェックして欲しいという意識で作ってて。「あのミックステープにピックされたアーティストだから間違いないでしょ。」と言われるのが目標ですね。あと現場では日本語だけじゃなく、やっぱUSのヒップホップも好きなんで、そっちはSoundCloudで出しつつって感じですね。色々自分たちのことをチェックしてくれるコンテンツを増やしたいです。
——ヒップホップファンとしては、そういうコンテンツありがたいです。配信のプレイリストだと、人がセレクトしているものももちろんあるけど、AIがレコメンドしてきてごちゃごちゃしてる場合があるから、方向性が定まってないというか、信憑性が薄いと感じることもあって。
結構そう思いますね。偏るっていうか…プレイリストは再生数は多いと思いますけど、本当にかっこいい音源を探してるとかだったら、ミックステープの方がいいと思います。
——自分たち以外で最近良かったミックステープはありますか?
日本だけ、だと同じような動きをしてる人がほぼほぼいないと思うんで、あんまりないですね。DJでミックステープを出してる人はたくさんいるんですけど、TUNECORE経由で色んな媒体に、オフィシャルで配信リリースしているのは僕らが初だと思います。
——(THE MAGAZINEスタッフ)ミックステープに収録されている楽曲は、正式に許諾を取ってスプリット(*アーティストで曲の収益を自動分配できるTuneCore Japanの機能)で分けてやってるんですね。
そうです。フリーで活動してる人はメッセージとか、口頭でって感じですが。
福岡で生まれた「GAL」
——今回のミックステープに収録されている「GAL」が、Thliveさんがピックしたことをきっかけに、かなりバイラルヒットしてますね。
自分達もここまで流行る想像はしてなかったですけど、そういうことになってほしいなと思ってました。
——アルバム全体の再生数とか反響とかありましたか?
めちゃくちゃありました。「GAL」の流れで聴いてくれる人も結構いたりとか、アルバム単位で買われることが多くなったりとか、ありがたいですね。
——曲をピックする時、これバズりそうだなとか思ってましたか?
元々、この曲って福岡のストリートで流行ってたらしくて。Yvngboi Pとかがやってる箱でめっちゃかかってるみたいな。たまたま、その様子を友達のDJのInstagramのストーリーで見て、「何コレ」ってなって連絡して教えて貰ったんです。曲自体のポテンシャルっていうか、流行りそうだなって思って。
——(THE MAGAZINEスタッフ)先日、LIL Gさんにメールインタビュー( https://magazine.tunecore.co.jp/stories/206826/ )したんですけど、彼もYvngboi Pさんの話めっちゃしてましたね。
Yvngboi P人気ですね。福岡でも引っ張ってる存在みたいです。コムドットの件で多分こんだけ炎上してんのも、Yvngboi Pのせいっていうか、おかげっていうかもあると思いますね(笑)
——DADAさんだったり、今回の件だったりとかで、福岡最近すごいなと思って。RyuNosuKさん的にどう見てますか?
今は福岡がHotですけど、日本今のヒップホップはどこ行ってもきっかけ次第で、人気が爆発するような人はたくさんいると思います。自分20歳ぐらいから、この業界いますけど、今まではそんなことはあんまなかったっすね。どこ行っても盛り上がってるって言うし、各地に1人は絶対そういう有名なラッパーがいると思います。だからあとはもうきっかけだけで、どう全国的にしていくかだと。数年前とかでいうと、それが横浜だったりとか、沖縄だったり。それが段々と、それがスタンダードになってくる。そしたら他もまた出てきてみたいな、どんどんでかくなるかなと思ってます。だからみんなきっかけを探してると思います。
TikTokでのバイラルヒット
——「GAL」はミックステープがリリースされてから割とすぐTikTok内でバズり始めましたよね。「GAL」を使用した動画が5万件以上あって追えなかったのですが、TikTok内のきっかけとかって分かりますか?
誰が始めたとか、どういうきっかけっていうのは全くわかってないんですけど。自分たちのミックスのバージョンが使われてる理由はおそらく、曲の再生開始の位置が曲のサビだったからじゃないかって思ってます。最近だと、楽曲制作時にイントロは派手にした方がいいみたいな事があるんですよ。最初に何秒間か聞かれて気に入られたら、そのまま再生されるじゃないですか。だからそういう曲の入りも関係あるのかなって。ただ、本当のきっかけはわかんないです。
——色んな偶然が重なった感じなんですね。狙ったわけではないけど、TikTokに合う形で楽曲がミックスされちゃったというか。
そうそう、曲自体も元々TikTokに合ってる思うし、もしかしたら、福岡のギャルの子たちが使って流行らした可能性もあるかと思います。
——TikTokって音源を色んな使われ方をしちゃうじゃないですか。日常系の動画だったり、全然楽曲とリンクしてない内容だったり。そういうヒップホップじゃない消費のされ方に対して何か思うことはありますか?
特にそれはないっすね。普段TikTokあんまり見ないし、全く別世界っていうか。ヒップホップ聴かない人達は、単に流行ってるから使ってるだけだろうし。そこをマーケットにしたいってよりは、本当に良い楽曲を流行らせて、それを良いと思ってくれる人口を増やしたいです。自分らの肌感なんすけど、ヒップホップでもかっこいい曲とそうでない曲の違いが分からない人が多いと感じてて。今炎上してるコムドットとか。
——今話題になってますよね。
あの音源自体弾き直しされてるんですけど、ビートの弾き直しってヒップホップではないんですよね。Remixならよくあるけど、人の曲を勝手にビートも変えて同じ歌詞で歌ってみましたっていうのはないし、そっちが原曲みたいに思われると結構きついすね。あの元々のビートと、OHAYOのフックがあっての「GAL」だと思うので。
——なるほど。そういうトラブルもありますが、音楽業界全体がTikTokに向けて何かプロモーションをやっていこうという流れになってますよね。もし今後ミックステープを作るにあたって、ピックアップする基準の1つに、「これTikTokで流行りそうだな」っていうのはありますか?
ミックステープに関してはないですね。でも自分たちが作る楽曲は多少意識はすると思います。ただ、TikTokで流行る曲っていうのは定まってないと思うんですよね。だから楽曲全体をTikTokに寄せるってよりは、そのプロモーションでTikTokを使うのかなとは思いますね。
ヒップホップを広げる
——次のミックステープはどんな感じになりますか?
お世話になっているラッパーのT2KさんとGreedyさんていう先輩の、その渋谷のストリートあるある的な、「ここにあのレコード屋があって」とか「ここで飯食って」とか歌ってる「MECCA」って曲があって、そのRemixで、最近東京で活躍してる018っていうラッパーを入れた曲を作る予定です。それはビートジャック(*人の曲のトラックに、オリジナルのリリックを乗せるという、ヒップホップでよく行われる形式)みたいにしたくて。スプリットがあるおかげで、アーティストの許可が取れれば色々やりやすいですね。
——アーティストとしてもピックされるのが光栄だと思うし、自分のファン以外の人に聴いてもらえるのはいいですよね。
はい、それは良く言って貰えますね。あと、参加したアーティスト同士で、お互いチェックし合って、ミックステープをきっかけに連絡取って曲作ったこともあったそうです。
——ちょっとしたコミュニティみたいにもなってるんですね。ミックステープ以外でやりたいことはありますか?
オリジナルの楽曲に力を入れたいなと思ってて、出し方を色々考えてます。他にないことをしたくて、今までにない組み合わせとか曲とか。最近日本でもヒップホップ人気が出てきてるけど、USとかと比べたときに、同じヒップホップでもテイストが違う楽曲も多いと思ってて。日本独特のポップなラップソングというか。自分達はUSのヒップホップに近いことをやりたいです。
——USだと特にどのアーティストに影響を受けてますか?
好きなラッパーとかたくさんいるんですけど…DJ DramaっていうDJがいて、ミックステープを売りすぎて逮捕されちゃった人なんですけど。当時はDJ Dramaのミックステープにピックアップされればステータスみたいな感じだったので、俺らもそうなりたいですね。
——やろうとしてることは時代やメディアは違いますが一緒ですね。
そうですね。ただ、日本ではヒップホップが世間にめちゃくちゃ浸透しているわけではないと思ってて。まだ広めている段階。ヒップホップを広げる人がもっと増えたらいいし、自分達の活動から影響を受けた人が、めっちゃ売れたら一番成功だと思います。けど、サグい感じのヒップホップも好きなので、そういうのは無くならないでほしいですね。
——確かに、元々あんまりヒップホップを聴いた事がなくて「GAL」を聴いてあのミックステープに飛んだ方は、かなり衝撃受けると思います(笑)
でしょうね。でもヒップホップは1回衝撃受けちゃったら、そっからずっと聞いてくれる人も多いと思うから、そのきっかけ作りです。
——ありがとうございました。
Info :
Thliveの新しいミックステープ、『FTL Mixtape vol.3』が4月27日にリリース!
Thlive『「FTL Mixtape vol.3 (mixed by Thlive) [DJMIX]」』
2022年4月27日リリース
▼各配信サービスで聴く
https://linkco.re/zH5Bu4sq
Thlive『「FTL Mixtape vol.3 (mixed by Thlive) [DJMIX]」』収録曲
1. Vol.3 / Thlive
2. MECCA / T2K a.k.a. Mr.Tee × Greedy
3. MECCA (Remix) / 018
4. Alive/ PAX
5. CASTER / Yella Flat Boys
6. Walk My Dogs / AI jacky
7. Rounge of down / TENOHILLA
8.Black Zombies (feat. G YARD & Gypsy Well) / I-SET-I
9.B-BOY CORE / Jah Mike & Brian X
10. Gas to Music / LSBOYZ & MIKI
11. EGO / BIG FAF
12. BLACK COFFEE / MIKAZUKI
13. MEDITATION / S-Kaine, ENEMY & Mes The Funk
14. 行き当たりばったり(feat. JAGGLA) / DJ COH
15. Amen / KID PENSEUR
16. 好きなこと / 柊人
17. Ahour / KK & YAMATO HAZE
18. 街風 / 18scott
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