TOTALFAT インタビュー「俺らは自分たちが思ってたよりも強いバンドだった」 “独立&DIY”を選択した3人の新たな決意と覚悟

インタビュー
2023.9.16

三曲三様の新EP『A YEAR OF STRENGTH』

——9月16日にリリースされるEP『A YEAR OF STRENGTH』は、まずタイトルがガツンと来ました。直訳すると「強さの1年」ですが、独立されてから現在までの1年ということですよね。

Shun:そうですね。俺たちのこの1年をどういうワードで表現したらいいか、ChatGPTに相談しました(笑)。もともと仮で「ONE YEAR STRONG」っていう案とかが自分らの中にあって、そしたらChatGPTで『A YEAR OF STRENGTH』が出てきて、COUNT OF STRENGTH(2012年まで活躍した埼玉出身のハードコアバンド)みたいでカッコいいじゃん! って。

——ということは、3曲とも独立されてから書かれた楽曲ですか?

Shun:はい。ただ、独立直後はマジでやることが多すぎて曲を書いてる暇もなく。

Jose:ありがたいことに、仲間が誘ってくれて去年はたくさんライブをやらせてもらえたんですけど、もうヘトヘトで。

Shun:1本のライブが、条件面の交渉から始まって、スタッフ押さえて、資料作って、移動行程考えて、ホテル予約して、演奏して、物販やって……だからね。

——楽曲制作に取り掛かれたのはいつごろでしたか?

Shun:今年に入ってからですね。ストックのデモはいっぱいあるんですけど、そこからピックアップするより、色々な筋道が見えてきた今のタイミングで曲を作りたいということで、春頃からスタジオでセッションを始めました。

TOTALFAT

 
——1曲目の「New Shit」は、今のTOTALFATが持つエナジーがギュッと詰まった一曲に仕上がっています。コロナ禍の鬱憤を晴らすような、ナンセンスながら痛快な歌詞も印象に残りました。

Shun:コロナを経てフルマックスでライブができるようになった時に、絶対に「New Shit」って曲を書きたいなと思ってたんですよ。いろんなことにフラストレーションが溜まりすぎて。ケツを拭いて、その紙をトイレに流す気持ち。サビのコード進行やメロディーの流れは、コロナ禍によく聴いていたNo Pressureの曲を分析して取り入れてます。後半の1か所だけにマイナーコードを仕込んで、そこにトップのメロディーを乗せるみたいな。それに加えて、The Story So Far、State Champs、Neck Deep辺りの、イージーコアまでは行かない縦ノリ感やポップセンスをTOTALFATに落とし込んだらどうなるか、という曲です。

——再生直後の打ち込みの音からバンドインするギャップも面白いですよね。

Jose:既にライブでは演奏してるんですけど、「イントロでがっかりしたけど、アレはズルいですよ!」って言われて、狙い通りの反応が得られたなと。

Jose

 
——続く2曲目の「Fire Works」は個人的にすごく好きな曲です。レゲトン風のリズムには、最新のメインストリームとの連動も感じました。ラテンのエッセンスを取り入れた前作EP『BAND FOR HAPPY』(2022年5月13日リリース)の収録曲「Dirty Party」をさらに進化させて、より自然にパンクと融合させています。

Shun:元々はサッカーのチャントみたいな曲を作りたいねっていうアイデアだったのが、どんどんレゲトンになって、それに合わせて歌詞もスピットしていきましたね。あと、サビのメロディーはバブルガム・ブラザーズをイメージしてみたり。

——Shunさんの、三連符を交えたラップのアプローチもハマってますね。

Shun:最初はKREVAさんを参考にしようとしてたんですけど、難しすぎて何も吸収できず(笑)。でも、HIPHOPじゃなくてレゲエにヒントがあるんじゃないかと思った時に、この曲にハマるテンションや言葉の熱さを持ったアーティストとしてCHEHONが浮かんで。そのイメージでバースを組み立てたら上手くいきました。

Jose:サビだけは先に出来ていたけど、それ以外はどうなるか想像がついてなくて。Shunが作ってきたバースを聴いたら、「だいぶ攻めてきたな!」と。

Shun:同じコード進行のまま、譜割を変えてAメロ・Bメロと展開していくのもレゲエのマナーを意識してますね。

——パーカッションやホーンの音色がより楽曲を立体的に盛り立てています。

Shun:ホーンはORESKABANDにプロデュースしてもらいました。Macklemore & Ryan Lewis「Can’t Hold Us (feat. Ray Dalton)」をリファレンスに、迫り来る緊張感を表現してほしいっていうイメージを伝えたら、それを見事に形にしてくれて。そのアレンジに合わせて改めてコード進行を変えたりとか、新しいスパイスが加わりました。

——Buntaさんによる次々に展開していくドラムフレーズは、耳で追っているだけでも楽しいですよね。

Shun:Buntaのビートを追求するモチベーションっていうのはすげえ高い。俺たちはBPMとビート感から曲を作り始めるから、Buntaが新しいビートを手に入れると新曲が生まれるんです。

(ここで、別件で遅れていたBuntaが絶妙なタイミングで到着)

Bunta(Dr/Vo):ドラムを追求していくうちに、ラテンのグルーヴをやりたくなったんですよね。ラテンのリズムのアクセントって、スペイン語の発音で母音が強いことに関連してるらしくて。で、英語は子音が強いけど、日本語もやっぱり母音。だからTOTALFATの楽曲に取り入れたくて。

Jose:ラテンっていいよね。

Bunta:Joseは“Jose”だしね(笑)。

Bunta

 
——最後に、3曲目の「Garakuta」。これはもうとにかく、歌詞が素晴らしいなっていう。今のTOTALFATだからこそ響く言葉だと思います。

Shun:オケは5秒で出来たけど、歌詞はかなり悩みましたね。20代の頃は、等身大の青臭い歌詞がそのまま刺さることもありましたけど、もう今年40じゃないですか。40歳が日本語で、夢だの、道だの、向かい風だの、景色だの、時代だの……を語るのってマジ難しいと思って。若いバンドと対バンして、そのお客さんが10代だったりする時に、おっさんの戯言みたいにもなりたくないし。

Jose:居酒屋のトイレに貼ってあるやつね(笑)。

Shun:その恥ずかしさを回避するあまり、毒にも薬にもならないようなことを書いてもしょうがないし。

Bunta:TOTALFATっていうバンドに似合う言葉を探すのって難しいよね。

Shun:ラーメン屋がフランス料理出しちゃった、みたいなことになったらヤバいからね。TOTALFATに合うものを出す。自分たちのことをわかってるつもりでも、実は難しいですよね。

——そこで、「宝」とかではなく「ガラクタ」というワードに辿り着いたのがTOTALFATらしさなんじゃないかなと。

Shun:確かに、最初は「宝探し」とかいう言葉をハメてました。でも、俺らがやってきたこの20年を超える年月って、誰かにとっては褒められたものじゃなくても、誰かにとっては大きな価値のあるもので、ガラクタみたいなものだなと気付いて。人によっては無価値でいい。みんなが欲しいものじゃなくていい。バンドの人生なんてそんなものじゃないかなと。ガラクタという言葉に辿り着いてからは、前後の歌詞も一気に広がっていきました。Buntaも「『ガラクタ』っていいね」って言ってくれて。

Bunta:「宝探し」は自分に持ってないものを探しにいくっていう感覚だけど、「ガラクタ」って言われると、実はもう手の中にあるものが大切なんじゃないかと思える。

Jose:「New Shit」から始まって「Garakuta」で終わるのは面白いなと思ってて。クソとゴミの話なんだけど、超ポジティブっていうのがすごく気に入ってます。

Shun:抜けた事務所の人にもきっと喜んでもらえたり、しばらくTOTALFATのライブに行けてない人を引き戻したり。離れてしまった人にもう一度俺らのことを思い出してもらえるような曲になったと思います。

Shun

 

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