DinoJr. × Kingo × Black petrol『anthem』鼎談 オルタナティブな泥臭さで繋がる3組が作り上げる至高の一夜

インタビュー
2023.11.21

3MCの思いを包み込んだ楽曲「anthem」

——楽曲「anthem」についても聞かせてください。トラックメイクはDinoJr.さんが中心となったそうですが、どのようなアイデアからこのサウンドに至ったのでしょうか。

DinoJr.:楽曲を制作すると決まって、電話ミーティングをした時に、3組が共通して通っているゴスペルっぽさとD’Angeloっぽさがキーワードとして登場して。会話中にギターを触って考え始めて、ミーティングが終わった15分後くらいに出来ました。

takaosoma:しかも3案送ってきたよね(笑)。

DinoJr.:その3つのうち2つを組み合わせる形で基盤が出来たので、アレンジはそれぞれのバンドから何人かを選出してリモートで制作してます。僕のバンドでいつもベースを弾いているオオツカマナミちゃん、Black petrolからはtakaosoma、石尾紘樹(Key.)くんなどですね。

——それぞれ、ご自身のバースはどのような思いで制作しましたか?

Kingo:「anthem」というタイトルは決まっていたので、そのタイトル通り、自分という存在を代表するようなバースにしたいと考えてましたね。となると、自然に自分のルーツを遡ることになりました。リリックではThe Roots、Mac Miller、大貫妙子、竹内まりや、Kendrick Lamar、Logicといった、僕の大好きなアーティストにリスペクトを示しています。彼らを思いながら、自分たちもこれからオーバーグラウンドに向かっていくぞという気持ちを込めて。「Anthem, the only one for us」という締めくくりにも、この楽曲を3組を代表する一曲にするぞという意気込みが表れてますね。

SOMAOTA:僕は、Kingoのバースがビックリするぐらいカマしてたから、スキルで勝負するのは無理やなと思って一度書き直したんですけど(笑)。書き直す前に他のMCのバースが出揃った段階で、「全体的に(歌詞の内容が)明る過ぎるな」と思ったんです。「anthem」ないし讃美歌っていうのは祈りを捧げる時、つまり自分の苦しみを昇華させたい時に歌うもの。だから、自分がその当時抱いていた葛藤をそのまま出すことでこの曲に必要なノイズを加えることができるかなと考えて書きました。

DinoJr.:自分のリリックに関しては、“神様”になったような気持ちで書きました。他の3人がパーソナルなことをラップするだろうから、僕は抽象的なスタンスが良いだろうなと思って、曲全体を包み込むように。「anthem」っていう曲名から祝福や福音といった温かいイメージを抱いてたので、最終的に全員が幸せになれればいいな、という気持ちを込めてますね。

SOMAOTA:この鼎談には参加できなかったんですけど、Black petrolのもう1人のMCであるONISAWAのリリックについてもお話しさせてください。って言っても、本人から話を聞いているわけじゃないんですけど…。いま彼は関西から離れて、東北地方でテレビのディレクターの仕事をしてるんです。「当日録音環境なんか悪くたって声に出して放送」っていうリリックはそんな彼じゃないと書けないし、初めてミュージシャンじゃなくディレクターの顔をしてるONISAWAくんに出会ったので、新鮮でもあり寂しくもあり、すごく印象に残ってます。それに、「だんだん貧乏になるこの国に生まれて」っていうラインも、僕ら世代の感覚を端的に言い表したパンチラインやと思います。

takaosoma:僕はONISAWAのバースだと「あのステッカーが見えるようにスマホケース透明」っていうラインが好きですね。これは彼自身のことで、文字通りのなんでもないことではあるんですけど、めちゃくちゃ「令和」だなと思って。個人の生活から時代を切り取るのがすごい上手いですよね。

——それぞれのパーソナルな生活を感じさせつつ、DinoJr.さんの“神の視点”までダイナミックに視点が変わっていくという、3組だからこそできる楽曲になりましたね。

Dino.Jr:曲構成もかなり独特ですからね。全員が加わるとなると、そうやって工夫しないと収まりきらなかったので。ラッパー3人が続く中でトラックをどう変化させていくかを考えたり、作曲者として面白い経験をさせてもらいました。

 

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