Lilniinaインタビュー Y2Kエモとの時を超えた共振、広がるコミュニティと深化するオリジナリティ
今年7月にリリースしたシングル「cigirl」がTikTokを中心に話題を呼び、国内外で大きくリスナー層を拡大させたLilniina。ルーツにあるというY2Kエモの空気感をサウンドのみならずビジュアルでも存分に押し出した同楽曲がヒットしたことは、「バズった」以上の意味を彼女にもたらしたのではないだろうか。続いて10月に発表された最新EP『onyx』では、ダークでゴシックな世界をモノトーンで描き出し、その表現をさらに純化させている。創作を一層研ぎ澄まさせた体験と出会い、愛するカルチャーからの影響についてインタビューした。
取材・文 : サイトウマサヒロ
企画 : Jiro Honda
My Chemical Romanceのようにリスナーを救いたい
——『PUNKSPRING 2023』でMy Chemical Romanceのライブを観たそうですね。
はい。ほぼ最前で観れて。
——以前よりエモロックからの影響を公言されているLilniinaさんですが、やっぱりその中でもマイケミは特別な存在?
そうですね。元々親が流してたLinkin ParkやNirvanaを車の中で聴いたりしてたんですけど、中学生になってiPodを手に入れて、自分で音楽を探す中でマイケミと出会って。バンドでコピーもしてました。Frank Iero(Gt)が大好きで、自分の楽曲「CRUSH」でも「まるでyou are my frank iero」ってリリックを書いたりしてます。
——彼らのライブを初めて観て、自身の制作にも影響があったのではないでしょうか? というのも、今夏以降のLilniinaさんのリリースからは、どこか吹っ切れたような印象を受けていて。
確かに、ちょうど制作が停滞してたタイミングだったのでエネルギーをもらいましたね。ずっと憧れで、崇めていた存在だったので……。もっと突き進まなきゃという意志を無意識に抱いた気がします。しかも、ライブ後にスタッフの人がメンバーの使ってたタオルを客席に投げてくれて、Frankのタオルをじゃんけんで勝ち取ったんですよ。それがずっと部屋の壁に飾ってあるので、そこからパワーが出てるのかもしれない(笑)。
——それはすごい! 洗濯しました?
いや、してないです(笑)。
——エモにルーツがありながらも、Lilniinaさんの曲が直接的にパンクっぽいかというと、そういうわけでもないですよね。
ハイパーポップなサウンドが自分の声質にも合ってるし、バンドと違って1人で音楽を表現できるラッパーという形態にもマッチしているので。でも、そこにルーツであるエモやロックのテイストを取り入れるのは、自分らしいオリジナリティを出す方法だと思ってます。リリックの雰囲気やギターサウンドを盛り込んだトラック、あとファッションも、2000年代のエモっぽさをイメージしていますね。
——エモって、歌ってる内容は繊細な心の動きやヘヴィな思いなんだけど、それをあえてファンタジックかつポップに見せることに本質があるような気がしています。その究極が、死という最大の恐怖をパレードに見立てるマイケミの名盤『The Black Parade』で。Lilniinaさんの楽曲も、辛さや苦しさを綴りながらそれを触れやすい形にデザインしている点がY2Kエモと共通しているんじゃないかと思います。
本当にそうですね。学校に行きたくなかった時期、昼過ぎの電車でマイケミの「I’m Not Okay (I Promise)」を爆音で聴きながら「大丈夫じゃなくてもいいや」と思えたり、そういう音楽に救われた経験が何回もあるから、自分も同じようにリスナーを励ましたい。なので、みんなに届きやすい、触れやすいリリックで思いを伝えることはすごく意識しています。
——個人的には、最新EP『onyx』でオープニングを飾る「angel+」のリリックから、「I’m Not Okay (I Promise)」を連想しました。
「angel+」のフックも、最低限の単純な日本語で伝えたいことを伝えるように書きました。とても好評なリリックですね。
——エモ以外のカルチャーからの影響も気になっていて。SNSではゲームやアニメの話題も目立ちますよね。
単純にそういうのを話せる友達が少ないから、フォロワーの子たちに「いいよね!」っていう気持ちを共有したくて。
——Key作品への強い思いも伝わってきます。
アニメ『Angel Beats!』が大好きで。Girls Dead Monsterっていうバンドのボーカルをやってる岩沢って女の子が出てくるんですけど、彼女は学校や家に居場所がない時に音楽と出会うんですよね。CDショップでヘッドフォンを掛けたら、その瞬間に世界がワーッと広がる。自分もそうだったなと思うんです。あの感覚は絶対忘れちゃダメだなって感じますね。それと、やっぱりKeyの作品って音楽の使い方がすごく良くて。物語の引き金になる部分に音楽を持ってくるし、強い情熱を感じて……普通にオタク話ですみません(笑)。