乃紫 インタビュー 「全方向美少女」がTikTokを席巻、話題のシンガーソングライターに迫る

2024.2.19

クリエイターも高く評価する乃紫の楽曲たち

——TikTokに最初に投稿している曲が音源としては未発表の「踊れる街」ですが、あれを作ったときはどういう感じだったんでしょうか?

あれは最初に作った曲で。曲を聴いてほしいというよりは素人でもここまで作曲できるよというのを見せたかったという感じです。どうやったらバズるのかを模索していた時で、作るのには結構時間がかかりました。

——配信リリースされた曲としては「杯杯」が最初ですが、 これはどういうきっかけで生まれたんでしょうか。

この曲は「踊れる街」の次くらいにちょっとバズった曲で。今の事務所でお世話になると決まって1発目に出した曲です。「杯杯」は、ちょっと愚痴っぽいニュアンスの曲ですね。ひねくれた性格が出た曲というか。

乃紫「杯杯」

乃紫「杯杯」

 
——「接吻の手引き」はどうですか?

この曲はTikTokでどんなフレーズがバズるかを考えて作った曲です。高校生、大学生というワードを入れてみんなの注意を引いて、メロディーラインと歌詞をなるべくキャッチーにして一発で覚えてほしいという。それで最初にUGCが伸びた曲でした。振り付けをつけて踊ってくれる子がいたり、高校生の子たちが制服で撮った動画が回ったり。UGCだけでなく、ライブでも盛り上がる、みんなで歌いやすいような曲調を考えて作りました。

乃紫「接吻の手引き」

乃紫「接吻の手引き」

 
——この曲を筆頭に、乃紫さんの歌詞は韻を踏んでいるところが特徴的ですよね。そのあたりはどういうこだわりがありますか?

それに関連して思うのは、最近、ラップが好きなんです。ヒップホップが好きで、音源だけじゃなくバトルが好きで、友達と一緒に現場に見に行ったりするんです。特に呂布カルマさんとかSKRYUさんのファンで。ラップバトルの現場って即興で言葉の格闘技をしていて、韻を踏んでいると聴いていて心地がいいし、フロウもすごく勉強になる。ヒップホップを聴いてなかったら、聴き心地がいい言葉はあんまり出てこなかったかもなって思います。

——「ホットレモン」はSKRYUさんをフィーチャーしたバージョンもありますが、これはどういう経緯で?

レーベルの方に去年の夏ぐらいに「冬の曲を作ってみましょうか」と言われて。部屋の温度を下げてニットを着て冬の気持ちを味わいながら作った曲です。「冬ソング」にはR&Bのイメージがあるので、バンドサウンドじゃなくて R&B系なビート感がある曲に挑戦してみようと思ってオリジナルを作って。SKRYUさんはもともとファンだったんで、間奏のところで誰か客演で一緒にできたらいいよねというお話から、オファーをしてやっていだきました。どんなリリックが来るのかも楽しみでしたし、やり取りをして楽しかったです。

乃紫 & maeshima soshi「ホットレモン (feat. SKRYU) [Remix]」

乃紫 & maeshima soshi「ホットレモン (feat. SKRYU) [Remix]」

 
——「先輩」も反響の大きかった曲だと思うんですが、これはどうでしょうか。

これもTikTok見ながら、どんなニーズがあるのか考えて作った曲です。ニーズというのは、みんなが今どんな恋愛をしているのかということで。あの曲を書いた去年の夏頃はアニメの『チェンソーマン』が流行っていて。主人公のデンジにマキマという女の先輩がいて、余裕があって、ミステリアスで、手に入りそうで入らない関係なんですよね。それがまさに「先輩」なんです。「マキマさんみたいな人と付き合いたい」とか、年上のお姉さんに憧れている人が沢山いて。男性目線の曲を女のシンガーが歌うというのもあまりない切り口だなと思ったので、そこの共感を狙って書きました。

——そういうところが曲の種になるんですね。

どんな感情のムーブメントがあるかとか、どんな恋愛が流行っているのかとか、みんなが何に興味があるのかとか、そういうことを感知しながら曲を作りたいと思ってます。

乃紫「先輩」

乃紫「先輩」

 
——その観点でもう一回「全方向美少女」について聞ければと思うんですけど、これはどういうものが曲の種になったんでしょうか。

TikTokで一番バズりやすい動画って、やっぱり美男美女がインカメラで顔を撮って載せている動画なんですね。それがTikTokという文化を作っていて。ルッキズムというか、みんな人の外見が気になるし、自分の外見も気になる。それが詰まっているアプリだと思うんです。「全方向美少女」は「美少女」ってタイトルに入っているように、容姿がモチーフになった曲、女の子の顔というものがモチーフになった曲なんですけど、それもハマったのかなと思います。曲名も大事で、「先輩」とかも「接吻の手引き」とかもそうですけど、TikTokで反応がいい曲というのは、タイトルが選びやすいというのも大きかったと思います。曲がないと動画が撮れないアプリなので、曲で「こういう動画を撮ってね」というのを誘導してあげるみたいな感じですね。

——「全方向美少女」は韓国でもいろんな動画が投稿されて国境を超えて盛り上がっているわけですが、ここに関してはどうでしょうか。

まさに「全方向美少女」の韓国語版のリリースを控えているんですけど(2月28日配信リリース)、韓国に広がったのは必然かなと思います。日本と韓国のブームが強く結びついているので。日本のインフルエンサーが使ってくれたら韓国のインフルエンサーも使うし、逆輸入もあり得るし。韓国が流行ったら台湾で流行る。そういう順番もあるみたいで。特にK-POPアイドルの方たちが「全方向美少女」をオフィシャルにあげてくださったのはすごくありがたいですね。

@aespa_official 全方向美少女 #aespa #에스파 #KARINA #카리나 ♬ 全方向美少女 – 乃紫

——韓国と日本のカルチャーの結びつきはどんどん強まってる感じがありますよね。

TikTokを見ていても、韓国の美容とか文化とかブームを日本人の子たちも取り入れていて。流行りに敏感な子は韓国のことを沢山知っているし、どんどん一体化していると思います。

 

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この記事の執筆者

Tomonori Shiba

柴 那典(しば・とものり) a.k.a シバナテン。音楽ジャーナリスト/執筆/編集。1976年生。著書に『平成のヒット曲』『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』『ヒットの崩壊』。共著『渋谷音楽図鑑』『ボカロソングガイド名曲100選』

https://twitter.com/shiba710