reina & Kota Matsukawaインタビュー 自分と人と間合いを見つめるR&B 1st EP『A Million More』も話題のw.a.u所属シンガー
静けさに意味を持たせられるシンガー
——2月21日にリリースされた1st EP『A Million More』では、ストリートな空気感漂う『You Were Wrong』から打って変わって、洗練されたムードを打ち出しています。どのような経緯で辿り着いたコンセプトなのでしょうか?
reina:『You Were Wrong』のリリースパーティが終わって一段落した去年の秋ごろ、単純にイメチェンしたくて金髪にしたのが始まりですね。
Kota Matsukawa:reinaって普段から猫みたいなキャラなんで、じゃあツンとした高貴なイメージに寄せていくかと。「私を見て」みたいなエネルギーが全然ないからこそ、そのコンセプトが合ってると思いました。制作途中でアー写を撮影して、そのビジュアルからさらにインスパイアされる形で照準が定まっていきました。
——ビジュアル面もMatsukawaさんがディレクションを?
Kota Matsukawa:そうです。基本的には僕が「こういうのやらない?」って言って、本人が嫌じゃなければそれを遂行するというか。ただ元から、UKのCleo SolやLittle Simzのようなインドア側のアイコン的存在になりたいという理想があって。「歌姫」とか「R&Bの女王」みたいなシンガーは全然目指してない。金髪のルックスに合わせたっていうのは事実ですけど、以前から志していたイメージやサウンド感でもありました。
——コンセプトの設定にあたって、グローバルなトレンドへの目配せは意識しましたか?
Kota Matsukawa:世の中の流れを見るようにはしつつ、今の人がやれば何でも今っぽくなると思うので、トレンドはあんまり気にしてないですね。ハイブランドのルックをPinterestで集めて、制作時に眺めながら「こういう音が鳴ってそうだな」みたいなことを想像することはありますけど。
——なるほど。なぜこの質問をしたかというと、『A Million More』と3月にリリースされたAriana Grandeの最新作『Eternal Sunshine』に、繊細かつ複雑な共通のムードを感じたからなんですよ。リリースの順序は『A Million More』が先ですけど、もしかしたら同じビジョンを共有していたんじゃないかと思って。
reina:順番が逆だったらすごく影響を受けてただろうなと思います。毎日めっちゃ聴いてますね。
Kota Matsukawa:今は主張する時代だから、その逆を行きたいとは個人的に考えてます。表明が目に見えるからこそ、そこにハッキリとある情報しか拾わない状況になっていて、それに対するカウンターとして「お前らもっと掘れよ」と。w.a.uが発信する情報の少なさにもそういう意味があって。reinaはそのスタンスに合うシンガーだと思うんですよ。クワイエットな、何も言ってない状態にも意味を持たせられる。
——確かに、静謐であることがひとつの態度となっていますね。『A Million More』収録曲の歌詞も、内省的な言葉が目立ちます。作詞にあたって、テーマなどはありましたか?
reina:通底するコンセプトみたいなものはないけど、『You Were Wrong』に比べて定型的な言い回しが減ったように思います。R&Bにおいて歌詞がすごく重要とは思ってないんですけれど、それでもなるべく粘って、自分と向き合うことで出てくる言葉、自分だから言える言葉を歌おうという姿勢で書きました。
——作詞はどのようなインスピレーションから出発するのでしょうか?
reina:好きな小説の一節や登場人物のことをメモに書き溜めてるんです。送られてきたトラックを聴いて思い浮かぶ景色に誰がいるかを思い浮かべて、それに沿って書いてました。
Kota Matsukawa:reinaは移動中もずっと読書してるんですよ。
reina:おすすめの本の情報はTikTokで知りますけどね。
Kota Matsukawa:でも、スマホで見てる動画もマジで面白い。こないだは、めちゃくちゃケツのデカい外国人がTwerkしてる動画を何回も見てました(笑)。
——(笑)。今作で特に影響を受けた小説は?
reina:たとえば、Colleen Hoover『It Ends with Us』とか。デートDVに関する恋愛小説なんですけど、負った傷や、傷付けてきた人に向き合いながら、それらを否定せずにどうやって共存していくかについて、自分なりに昇華して歌詞にしたり。作詞は自分自身が感じたことの記録みたいな役割も果たしてますね。忘れたくない感情を曲に残しています。
——作詞を通して内省していると。楽曲制作はMatsukawaさんが作ったビートにreinaさんがメロディと歌詞を付ける形で進むそうですが、Matsukawaさんからreinaさんが書く歌詞やトップラインについて注文を付けることはありますか?
Kota Matsukawa:ほとんどないですね。ラップの譜割りを任されることはあるけど、90%以上はreinaが作ってきたもののままで。サウンドについて話し合うこともないよね。完全に分業です。
reina:流れ作業ですね。工場みたいな(笑)。
——そこはお互いのクリエイティブを信頼し合って。
Kota Matsukawa:無駄に介入すると全部が純粋じゃなくなる気がするので、得意なことをそれぞれがやればいいだけかなと。ミックスに関してオーダーするアーティストもいるけど、マスタリング後の仕上がりを前提としてこういうサウンドを作ってる、みたいなことって説明しようがないじゃないですか。そういう意味でも、変に首を突っ込まない方が二人の作りたいものに近付くと思います。
——改めて、『A Million More』をリリースして「reinaらしさ」を獲得できたという感覚はありますか?
reina:どうだろう。reinaというアーティストのイメージのうち、私の力が作用してるのは全体の1/3ぐらいだと思ってるので。プロダクトとしてのreina像が見えてきたのは確かですね。
Kota Matsukawa:これまでは模索しながら作品を作っていたけど、最近はぼんやりとした正解があって、そこに辿り着くための道を探しているという感覚になってきました。