Glansインタビュー 1stアルバム『slow tree』で注目の札幌発5人組が反復と解放の中で追い求めるエクスタシー

2024.7.4

Glansインタビュー

衝撃のデビュー作だ。北海道出身の5人組バンド・GlansがGEZAN主宰のレーベル・十三月から5月8日にリリースした1stアルバム『slow tree』で彼らは、7分半のドローン~アンビエント・トラック「Oceans11」で静かに目を覚まし、2分強を駆け抜けるハードコア・アンセム「hi de to」で絶頂に達するまで、シームレスな音の中を自在に泳ぎ続ける。そのエクスペリメンタルな音像は、ダンスミュージックを包摂しながらあらゆる方向へと無限に拡散していく。

2019年に江河達飛(Vo,Gt)、高田陸人(Gt)、木下怜(Ba)、ヤマダノブヲ(Dr)にて札幌で結成。2023年11月からヒデト・チンポ(Perc)を加え、同月に十三月による『Road Trip To 全感覚祭』への出演も果たした彼らは、いかにしてこの異形の音楽性に辿り着いたのだろうか? 江河、高田、木下、ヒデトの4人を招き、比類なきサウンドの源となったダンスミュージックからの影響、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN、十三月)との邂逅と『Road Trip To 全感覚祭』のステージ、『slow tree』の制作やバンドのビジョンなどについて話を聞いた。

 
取材・文 : サイトウマサヒロ

 
バンドを変貌させたダンスミュージックとの出会い

——バンド結成の経緯を教えてください。

江河達飛(Vo,Gt):僕とノブヲはツイッターで知り合って。ノブヲがブッチャーズ(bloodthirsty butchers)のツイートをしてたのに僕が反応して、「知ってんの?」みたいな感じから仲良くなりました。陸人とは……。

高田陸人(Gt):ライブで出会ったよね。

江河:そうだね。昔僕が組んでたバンドのライブに来てくれて、それで仲良くなりました。で、僕と陸人とノブヲと3人でバンドをやろうって話になって。ベースも欲しいなと考えていたら、陸人の幼なじみで雨の音を使ったノイズを作ってるベーシストがいるって聞いたんです。確実にヤバいでしょ!ってことで、陸人の家に誘って話して、それが怜でした。

——活動初期のライブ映像をYouTubeで拝見しましたが、歌モノ要素もあるポストパンクといった趣で、現在とは音楽性が異なっていますよね。当初はどのようなバンド像を目指していたのでしょう?

江河:みんな、SuiseiNoboAzが共通して好きなので、こういうのをやりたいとは話してましたね。

——現在はDischarming manやthe hatchとも交流が深いGlansですが、札幌のオルタナシーンからの影響はその時からあったんですか?

高田:そのあたりは、カーシーフ(CARTHIEFSCHOOL)と仲良くなってからだよね。

江河:カーシーフと繋がってから、どっぷり札幌のシーンに浸かっていきました。

——ちなみにGlansは「亀頭」という意味ですが、どのような由来が?

江河:何も考えずに色んな言葉を並べて、「グランズ」って響きがめっちゃカッコいいからそれに決めました(笑)。

——のちにメンバーとなるヒデトさんとはどのように出会ったのでしょう?

高田:最初は軽音部繋がりじゃなかった?

ヒデト・チンポ(Perc):軽音部で高文連(北海道高等学校文化連盟)の大会に出た時に、達飛がマキシマム ザ ホルモンのコピーバンドをやってるのを見て、凸りに行きました。その1か月後にはめちゃくちゃ遊んでた。ちょうど、達飛とノブヲが知り合ったのと同じくらいのタイミングだったと思います。メンバーになる前からGlansとは仲良くしてて、写真撮影を手伝ったりしてました。

——バンド始動後、PROVO(札幌のクラブ/バー)でのDJパーティに影響を受けてクラブミュージックに傾倒していったそうですね。

江河:2年前くらいからミドさん(山田みどり/the hatch)がPROVOでDJをやり始めて、パーティに誘われたんです。そこで「なにこれ!?」ってなって。それから僕とノブヲ、ヒデトでミドさんのパーティや、そこで見たDJのパーティにも勝手に顔を出すようになって、どんどんのめり込んでいきました。

——それまでライブハウスで味わっていた音楽とは明らかに違う感覚があった?

江河:そうですね。なんか、まったく理解できなくて、「やべー!」みたいな。

ヒデト:根本的には同じなんですけど、奇跡が生まれる瞬間の感動具合が全然違くて。

江河:クラブミュージックをバンドに取り入れたいっていう妄想も膨らんじゃった。

高田:ループを取り入れたのはテクノを聴くようになってからだよね。溜めて溜めて開放、みたいなやり方はそれまでやってなかった気がする。

江河:KATANAっていうDJの友達がいて、そいつが色んなヤバいループミュージックを掘ってくるんですよ。それを聴いて「ヤバい!」、KATANAがPROVOで出会ったDJのパーティに行って「ヤバい!」みたいな。

ヒデト:あとは音の良さ。バンドは生音で演奏してるけど、DJはデジタルで音を流していて、その生では表せないような鮮明さも大きかったですね。

——その影響をどのようにバンドに落とし込んでいったのでしょう? それまでと制作のプロセスが変わったとか?

江河:っていうよりは、ひたすらそっちのパーティに行ってたら自然に作る音楽が寄っていった。

ヒデト:札幌にプレシャスホールっていうクラブがあって、そこでの経験がデカかったですね。洗練されたDJしかいなくて。そこに行くようになってから色々変わり始めた。

高田:昔は複雑なのがカッコいいと思ってたところあったじゃん。でも、4つ打ちでミニマムな音楽ってこんなにカッコいいんだって気付いてからは、無駄を排除するようになったよね。

——そうして活動を続ける中で、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN、十三月)との出会いがありました。偶然PROVOでライブを目撃したマヒトさんが声をかけたそうですが、その時のことは覚えていますか?

ヒデト:2022年の秋ごろ、まさにKATANAのパーティでのことで。バンドとDJが交差するイベントでした。

江河:ライブ中、(波打つような手の動きを真似つつ)こういうふうにめっちゃ踊ってる人がいるなと思ってて。ライブが終わった瞬間に、その人がガーっと近付いてきて、「マヒトさんだ、来てたんだ!」って。そこでアルバムを出さないかって言われたことを覚えてます。

高田:ちょうどその頃からアルバムを作り始めてたから、タイミング良かった。

ヒデト:バイブスの嵐だったね。

——以前からGEZANに影響を受けてたりは?

江河:個人的にはすごい聴いてました。

高田:「DNA」とかめっちゃ聴いた。

ヒデト:最高だよね。

——『slow tree』のシームレスな構成は、GEZANの近作と重なる部分もあるなと思います。

高田:そういうふうに見えてるんだ。

ヒデト:まったく自覚なかった。

——そんなマヒトさんとの出会いが、昨年11月の『Road Trip To 全感覚祭』出演にも繋がります。その日からヒデトさんが正式加入しましたが、そのきっかけは?

江河:音をもっと増やしたくて。それで思い浮かぶのはヒデトしかいないってことで。

高田:それまでは、俺や怜がギターを弾きながらノイズを出したり、達飛がギター弾きながら歌いつつタムを叩いたりみたいな、一人二役をやることが多くて。物理的な手の数が足りなくなってたっていうのはあったね。

ヒデト:一瞬で一緒にやれるバイブスはあったし、それで気持ちよくなれる想像もできた。同い年でそう思える存在がGlansのメンバーしかいなかったので、やってみようかなって。自分は元々違うバンドでドラムをずっとやってて、その様子とかもGlansのみんなには見てもらってたんで。

江河:ヒデトが加わったことで、音楽的な可能性はめっちゃ広がりました。

——『Road Trip To 全感覚祭』は、バンドにとってもひとつのブレイクスルーになったのではないかと思います。ステージの感触はいかがでしたか?

江河:ひたすらにデカかった。

ヒデト:Glansとしては、野外でやるのも、あれだけデカい規模でやるのも初めてだし、本番まで全員地に足が付かない状態で。でも始まったら、行ける!カマそうぜ!みたいなゾーンに入っちゃって。楽しかったっすね。全員が目を瞑ってひたすら踊ってて、俺らも気持ちよくて……。

——手応えのあるライブができた?

ヒデト:手応えはあったけど、もっと行けるなとは。

高田:現状のGlansは、ちっちゃい箱に合った音だったんだなって思った。

——大きなステージで新たな快感を知りつつ、そこで課題も見つかったんですね。

 

 
 

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