FANI インタビュー | バイト辞めてシーン駆け上がる京都発新鋭ラッパー
「人生最高」のおかげで人生が最高に
──今年リリースされた「人生最高」は転機になった1曲なんじゃないかなと思うんですけど、制作の経緯はどんな感じだったんですか?
「人生最高」は3年前くらいに出来てライブでも歌ってましたけど、自分としてはたくさんの持ち曲の中の一つとしか捉えてなくて、どうやって作ったのかも覚えてないですね。でもfaction studio(FANIのMVを手がける映像プロダクションチーム)の方に聴かせた時に「これヤバイでしょ」って言われて、本格的にレコーディングし直してリリースすることになりました。
──faction studioはどういった方々なんですか?
僕も去年の夏ぐらいに初めてお会いしたんですけれど、働いてる居酒屋の常連さんが、また別の昼に働いてるくじら食堂っていうお店にお客さんを連れてきてくれはって。その中に居た若いお兄ちゃんと「ラップしてるんです」みたいな話になって、そっから「俺の友達が映像とか撮ってるからよかったら」っていう。回り回って紹介してもらいましたね。
──ある意味、「バイトしててよかった」と言えるエピソードですね。
そうですね。地元も隣の中学校とかで。車を10分ぐらい走らせたらいつでも集合できる感じだったんで、いつでも話し合ったり制作進めたり出来たのが良かったですね。
──「人生最高」を出して、周囲のリアクションはいかがでしたか?
「人生最高」を出してからだいぶ人生が最高になりましたね(笑)。最近配信した「こっから」っていう曲は「人生最高」を出した後にすぐ出来た曲なんですよ。「人生最高」がバーンと伸びて、「お前、売れたなぁ」とか言われる中で、「何を言ってるんすか、こっからですよ」っていう思いで。


──リリックは普段、どうやって書くんですか? 時間をかけて書くタイプ?
比べたことないのでわからないですけど、書くぞってなってからは早いんちゃうかな。一人の時が多いですね。誰かといる時はその時間を大事にしたいんで。家でゆっくりしている時はノートにペンで、移動中はiPhoneで書いてます。ビートを聴いた瞬間に思い浮かぶこともあって、「奥歯痛い保険証ない」のビートは自然に「奥歯痛い」っていうラップが聴こえてきました。
──リリックを書く上で意識していることは?
みんながよく使ってるワードはチョイスしないこと。使うとしてもちょっと変わった文脈で使うとか。あとは単純に嘘をつかないことと、誰かが傷付くことは言わないことですかね。普段話す時から気を付けてるんで、そういう言葉はあんまり浮かばないですけど。
──生々しい内容でも、リスナーにネガティブな感情を与えないということですね。
どうせなら楽しい気持ちになってほしいです。たとえば「奥歯痛い保険証ない」を聴いて「こいつアホやな」って笑ってもらえたらラッキーですよね。「人生最高」も「こんなヤツでも人生が最高になってるんやから俺も細かいこと気にせず楽しもう」って思いながら聴いてほしい。だから「地獄」は僕自身も明るくなれない曲であんまり好きじゃなかったんですけど……。
──でも、FANIさんの楽曲のパワーをより鮮やかにするために必要な楽曲なんだと思います。
はい、僕もリリースして気づきましたね。そういう一面をリスナーに知ってもらえてるかどうかで、楽曲の響き方って全然違うと思うんで。

──『Out the 貧乏』を聴いただけだとぶっ飛んだ人間が無茶をしてるようにも見えるけれど、「地獄」があることで前後のストーリーが補完されてFANIさんのポジティビティに奥行きが生まれています。『Out the 貧乏』はスキット含め全19曲とボリューミーな作品に仕上がりましたが、収録曲の制作期間にはどのくらいの幅があるのでしょうか?
一番古いのは「繰り返し」で、作ったのは多分4年前とかですね。それからずっと、一枚のアルバムで人生を変えてやるんやと思いつつ、生活に追われてなかなか形にできず。「人生最高」のMVを出したことで良い波を感じたんで、今年の1月にアルバムを出すことを決意しました。「I wanna be a」はリリースの直前までリリックを書き直してましたね。
──この4年間で作り溜めた楽曲がパッケージされつつ、作品としての方向性が見えたのは最近のことなんですね。
そうですね。「Out the 貧乏」という曲が出来て、曲名自体がパンチラインと言われたので、アルバム名にしちゃおうと。何の根拠もないんですけど、絶対行けるっていう自信があって、「このアルバムで貧乏を抜け出すんや!」って決めてしまいました。自分の曲がオリジナルなのか、面白いのかもわかりませんけど、なぜか可能性を感じたんです。
で、それに合った曲を入れていったらこのサイズになりまして。90年代によくあった、1時間以上平気であって聴きながら寝ちゃうようなアルバムが好きなんですよ。そのくらいボリュームがあったら、聴いた人の人生のある期間をこの一枚のアルバムで埋め尽くせるような気がして。誰かの青春時代に食い込むようなアルバムになることを意識しました。周りには「いやいや、シングルとかEPを出した方が良いよ」とか言われたんですけど、変なところでこだわりが強い性格なんで。
──ご自身ではどんな作品になったと思いますか?
3ヶ月でアルバムを完成させるのは厳しいってエンジニアの方にも言われてたんですけど、短い時間の中で自分の持てるだけの力は出し尽くせたんじゃないかなと思います。思い出深い期間になりましたね。アルバム1枚を出しただけなんでまだ何も満足はしてないですけど、人生を変えるという目標は達成できたんちゃうかな。
──特に思い入れのある曲は?
やっぱり「人生最高」はすべての始まりになった曲なんで感慨深いですよね。何回も歌ってますけど、リリック良いなあって我ながら思います。レコーディングで苦労したのは「push」。僕のライフスタイルを語る上では欠かせない曲なんでどうしても入れたかったんですけど、ラップのスキルが試される曲でもあって。かといって、バースごとに切り貼りして録ると一定のテンションを保つことができないので、なるべく走りきれるように何回もやり直しました。
──ラップやリリックのクオリティはもちろんですけれど、ビートも全曲めちゃくちゃ良いですよね。
全部、自分で選んでますね。ビビッときたビートじゃないと僕も歌詞を書けないんで。なるべく毎回違ったテイストにすることを意識しながらチョイスしてます。
