HIPPYインタビュー 最新アルバム『ひろいしま』で広島から全国、そして世界へ届ける願いとエール

インタビュー
2025.8.8
HIPPYインタビュー 最新アルバム『ひろいしま』で広島から全国、そして世界へ届ける願いとエールのサムネイル画像

多くのプロ野球選手が登場曲に使用していることでも知られる代表曲「君に捧げる応援歌」は、YouTube・TikTokでともに1億回再生を超えるヒットを記録。地上波音楽番組への出演やタイアップ楽曲でも全国のリスナーに力強くエールを送り続けているシンガーソングライター・HIPPY。6月14日に地元・広島のサンプラザホールにて開催された初のアリーナワンマンライブは見事ソールドアウトし、約4000人の観衆の前で「紅白歌合戦への出演」「日本武道館でのワンマン開催」という新たな目標を宣言した。同日にリリースされた最新アルバム『ひろいしま』では、広島の平和への思いとこれまでの活動が繋いだ絆の強さがその歌声に宿っている。様々な声を拾い上げ紡いだ同作について、話を聞いた。

 
取材・文 : サイトウマサヒロ
 
 

全国を地元にしたい

――6月14日に広島サンプラザホールで開催されたアリーナワンマンは見事ソールドアウト、およそ4000人ものオーディエンスが会場に詰めかけました。HIPPYさんにとって、地元・広島でのアリーナワンマンは念願の舞台だったのではないかと。

ホールでのライブはともかく、アリーナで地元アーティストがやるっていうのはなかなかないなと思って。それが達成できたら地元の仲間たちにも大きな舞台まで夢が繋がっているということが伝えられますし、デビュー10周年、被爆80周年という節目の年でもあるので、ここは一つ頑張って、その様をしっかり地元のみなさんに見てもらおうという気持ちで挑みました。とはいえ「簡単にできるわけないよな」と思いつつ、ソールドになるなんて想像もしてなかったですし、ステージに立った時の光景は、本当に幸せでした。

――当日はTEEさん、財部亮治さん、KAYLLYさんに加えて、Bリーグ広島ドラゴンフライズ専属チアダンスチーム・FLYGIRLS、崇徳中学・高等学校グリークラブ、広島県高校生活動推進委員会の学生、呉市立呉高等学校の吹奏楽部など多数のゲストが出演しました。ライブの内容はどんなことを考えて組み立てたのでしょうか?

デビューから10年の歩みを凝縮したようなセットリストにしました。音楽活動自体は25年やってますけど、25年前から知ってくださっている方もいれば、1か月前に知った方も、もしくはその日初めて観る方もいるので。ライブを見て僕の人となりがわかるような仕掛けができたんじゃないかなと思いますね。集大成でありつつ、自分の名刺代わりでもあるというか。「HIPPYっていうのはこんなヤツで、こういう歩みでこのステージに立ちました、よろしくお願いします」みたいな。この日をゴールとせず、スタートにしようっていうライブになったと思います。

――お客さんの反応はいかがでしたか?

ステージに登場したら「ワーッ!」ってなるかと思いきや、「お、地元のあいつだ」みたいな(笑)。ジワーっと盛り上がっていく感じで。スッゲー温かくて、やりやすい空気感でしたね。アットホームで、居心地の良いステージでした。

――じゃあ、「カマすぞ!」っていうよりは、大きいホームパーティー的なテンションで?

カマす所はカマしつつ、基本は温かいパーティーが8割っていう感じでしたね。

――そんなアリーナワンマンの当日にリリースされたのが最新アルバム『ひろいしま』ですが、制作はいつ頃から意識していたのでしょうか?

制作自体は、もう前作を作った直後からですね。いろんなタイアップも決まってきてたので、気付けば曲も溜まっていて。結果10曲以上が揃ったので、もうこのタイミングでアルバムを出しちゃおうっていう流れで。

――『ひろいしま』というタイトルはどのような思いで名付けられたのでしょう?

元々「ひろいしま」っていう曲があって(2017年リリース「ひろいしま feat. 財部亮治, ABTVnetwork」)、それをもう一度フックアップしたかったっていうのと、地元の広島だけじゃなく、日本中、世界中、一つの大きな島のように繋がってるんだぞっていう意味合いで付けました。色んなステージに立たせてもらっていますけれど、どこも同じ空の下、同じ島として、自分の活動の地がどんどん広がっていきますようにっていう思いも込めています。もう、全国を地元にしたいなと。

――タイアップのシングルも数多く収録されてはいますが、作品全体を通したテーマやコンセプトはありますか?

アルバムは、セットリストみたいに作ることが多いんですよ。なので、こういうライブがあったら面白いだろうなっていうのも考えながら制作しましたね。緩急を意識しつつ、最後には改めてここからスタートしようっていう思いで「ぼくらのスタートライン」で締めるっていう。

――HIPPYさんは2017年から『原爆の語り部 被爆体験者の証言の会』開催、2023年には島谷ひとみさんとともに発起人となり音楽で平和を発信するイベント『PEACE STOCK 78’』を開催するなど広島に根付いた平和に関する活動も行っていますが、そこで得たものは今作の制作に反映されているのでしょうか?

それはもちろん。「ほしになった町」「サクハナ」は、自分が思う平和について書かせてもらった楽曲です。被曝から80年、広島から発信するメッセージとして、僕から提案したい楽曲で。平和に関する楽曲は、壮大だったり、エモーショナルになることが多いと思うんですけど、「ほしになった町」に関してはポップに作ろうという意識がありまして、それは僕の中での大きな挑戦でした。

――あえて重苦しくならないように?

はい。被曝伝承活動を続ける中で、いろんな伝え方や入口があってもいいんじゃないかって思ったんですよ。楽曲はポップに、でも歌詞では伝えるべきことを伝える。それをみんなが歌ってくれて、言葉やメロディーを身体に落とし込むことで、楽曲が広がっていけばいいなと。

――スッと耳に馴染みつつ、言葉が徐々に心にまで沁みていくような。

そうなんですよ。少しずつみなさんに浸透していって、「この言葉の意味はなんだったんだろう?」って考えてほしい。歌詞には中島本町っていう、原爆によって「消えた町」の名前が入っているんですけど、今は平和公園があるその場所は、元々繁華街だったんです。これ以上、どこかの町を星にしちゃいけんっていう思いを込めて、この曲を書きました。

――歌詞にはきっと、『証言の会』で耳にした言葉も反映されていますよね。たとえば、「夕焼けは大っきらいさ」というフレーズは生々しい引っ掛かりがあって。

実際に戦争を体験した方からすると、夕焼けの赤は大好きなものを燃やした色だから、それがトラウマなんだと。その話を聞いた時には衝撃を受けました。夕焼けって、僕らからすると綺麗で写真映えするし、価値があるもののように感じるけど、被曝した方にとってはそうじゃない。街並みは復興しているかもしれないけど、心は全然復興しないんだなと思うと、その気持ちはしっかり伝えないといけないと思って、歌詞にしました。

――街並みのように目に見えるものが再生されていくことで、むしろ傷付いた記憶は見え辛くなって、まるでそこにないもののように扱われてしまうのかもしれませんね。でも、それを残せるのが歌の力だと。

そう。歌詞になって、誰かが歌って、「『夕焼けは大っきらいさ』ってどういうこと?」っていうところにぶち当たってくれて、調べてくれたら嬉しいですね。

――広島に関する曲といえば、「ほしになった町」の次に収録されている「明日のハーモニー」は東広島市の市政50周年を記念して制作された一曲です。

町のことを調べていくと、50年前よりももっと昔、何千年という歴史が紡がれた上でこの町があるんだなと。この曲をさらに50年後にも、今の子どもたちが未来の子どもたちに向けて歌ってくれたらいいなと思いながら書きました。

 

次のページ: 「ぼく」ではなく「ぼくら」の応援ソング
1 / 3
次へ >
この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。