tiger baeインタビュー 『SXSW』で注目集めたシンセポップバンド、海を超えて掴むビジョンとコネクション

インタビュー
2025.9.26

海外でのステージは新たなビジョンとコネクションを掴むチャンス

――『KEXP』のステージでは、手話通訳の方がステージに上がっていましたよね。

Kobayashi:僕が事前に説明を受けていたんですけどいかんせん英語がわからないもので、「音量が大きかったらハンドサインを送るから、そっちで調整してくれよ」みたいな話をしてると勘違いしてまして。いざ本番になったら、僕の横で手話を始めたので驚きました。

Iwamoto:僕ら以外のライブでも常に手話の方がいてすごかった。普通に踊ってるだけの時もあるし(笑)。

Kobayashi:歌詞が共有されているわけではないと思うので、音を手話で表現してるんですよね。ギターソロでは気持ち良さそうにギターを弾いてるような動作をしてたり。耳の聞こえない人にも音楽フェスを楽しんでほしいっていう思想がベースにあって、それは日本のフェスにはあまりない感覚だなと思いました。視覚から音像を想像させる試みっていうのも新しいですし。

――音楽を楽しむ権利が全員に保障されているんですね。その他にSXSWならではの文化を感じた出来事はありましたか?

Kobayashi:二日目の『Italians Do It Better』(LAのインディレーベル)のステージに出てたDJが、観客のほとんどを舞台に上げてお祭り騒ぎみたいになってたのが面白かったですね。こんなパフォーマンスありなんやって思いました。

Iwamoto:あれだけアーティストがいたら、ボーカル・ギター・ドラム・ベースのよくある形態じゃない、見たことないような編成のバンドもいましたし、全体としてはDJに歌をプラスしたセットが多かったですけれど、すごく多様化してるように感じました。あとは、「このバンド良いな」と思って調べてみたら好きなバンドのメンバーがやってるバンドだったりして、そういう繋がりが普通に転がってるのはさすが『SXSW』だと思いましたね。

――約1,000組ものアーティストが出演しているんですもんね。

Yuco:この時期のオースティンではそれ以上の人が演奏しています。SXSWに出演しないアーティストの方々も街中にいて、そこら辺を歩いているとストリートドラマーに出会ったり、ちょっとした広場で女子高生4人のバンドがインディロックを演奏してたり。そういう、日常に音楽が溶け込んでいるところには感激しましたね。

――街全体が音楽に染まっているような。

Yuco:はい。それがナチュラルで。日本だと気張って「サーキット」とか「フェス」っていう感じですけど、『SXSW』は言わなくても自然に誰もが参加しているような雰囲気が心地良かったですね。私は夜型なので、夜中までたくさんの人が外で音楽をやっていて、色んなところから音が漏れているのも良かった。共演したChinese American BearのメンバーやHIENさんと一緒に回ったり、みんなで飲んだり、ライブを見た後に「良かったです」って言ったらすぐに繋がれるのも新しい感覚でした。

――今はサブスクやSNSで世界中のリスナーにリーチできる時代ですけれど、そんな中で日本のアーティストが国外の大きなイベントに出演したり、ライブをしたりすることの意義や価値というのはどんなところにあると思いますか?

Iwamoto:サポートしてくれたPoor Vacationの二人は初めての海外ライブだったんですけど、終わった後に「価値観が変わった」「来て良かった」って言ってて、僕らくらいの年齢のミュージシャンがそう語るっていうのがもうすべてなんじゃないかなと思います。

Kobayashi:James Minorさん(『SXSW』音楽部門の総責任者)がある記事で話してたんですけど、『SXSW』は出て終わりではなく出た先の展望を考えておいてほしいと。行った先で誰かと繋がって、そこで未来に繋がるオファーを受けたりとか、ライブをして満足して終わりじゃないということは僕も心がけてましたね。

Yuco:素敵なものをどんどん吸収して、私たちも現地の人々に良いものを与えるっていう。それが掛け算になることで、新たな機会や次のビジョンが生まれるかもしれない。私たちはシンガポールや台湾といったアジアの国でも活動したいのだけど、『SXSW』ではオースティンがそのきっかけを生む場所にもなり得ると思います。

――国内のオーディエンスとはまったく違うリアクションが得られるというだけでも、大きな意味のある体験なのかもしれませんよね。

Iwamoto:特に僕らのような、国内でのシーンがあまり大きくないジャンルのアーティストからしたらこういうきっかけはすごくありがたいもので。改めてやってることに自信を持つ機会にもなるし、環境を変えてみると自分たちが必要とされていることを感じられるというのもありますね。

――『SXSW』をはじめ、海外の舞台に挑戦したいと考えている国内のミュージシャンに向けて、何かアドバイスはありますか?

Yuco:アドバイスというとおこがましいですけど……とにかく蓋をしないというところかなと。本格的なクリエイターほど謙虚な人が多いと思うんですけど、作品を抱えてる人はそれを外に持っていかないともったいない。それと、ライブや曲作りに関するリアルな悩みを共有できるグローバルな仲間ができるのも貴重な経験なので、恐れずにコミュニケーションを取って。

Iwamoto:確かにバンドマンはコミュ力がない人が多いかも(笑)。ただ、『SXSW』はフェスというよりもショーケースだから、ファンに求められてライブをするというわけではない。だから、向こうの空気に合わせて、今後のためにうごいたり話したりしないと、本当にライブをするだけで終わっちゃうんじゃないかなと。広がりを生む機会は意識した方が良いですね。

Yuco:とにかく、10曲以上持ち曲がある人はみんな国外に出てみたら、可能性がぐっと広がるはずだと思います。

――曲やライブに少なからず自信があるなら、まずは応募してみようっていう。

Yuco:そうですね。オースティンで忙しいJamesを捕まえて、なぜtiger baeを選んでくれたのかを訊いた時にも、シンプルにデモが良かったから、と言ってくれましたから。悩んでいらっしゃる方は、バンドのSNSアカウントにDMをくれたら悩みに乗ります(笑)。日本の外に向かっていく動きを、一緒に盛り上げたいです。

 

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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。