tiger baeインタビュー 『SXSW』で注目集めたシンセポップバンド、海を超えて掴むビジョンとコネクション

インタビュー
2025.9.26

「こうあるべき」は気にせずに

――4月16日にリリースされた最新シングル「Quarter to Five」についても聞かせてください。この曲は『SXSW』のライブでも現地のオーディエンスから大きな反響を得た楽曲とのことですが、現地で演奏することを想定して制作した楽曲なんですか?

Iwamoto:いや、『SXSW』に出演が決まる前には作り始めていた曲なので、そこまで強く意識はしてなかったです。ただ、これまでのtiger baeの楽曲は近いテンポの曲が多かったので、今後のライブ活動を見据えてちょっと違うビート感の曲を用意しようと思ってました。

――MVの概要欄に記載された英語のメッセージが印象に残りました。翻訳すると「今夜、一人でこの動画を見ているあなたへ —この動画はあなたのために作りました。この曲は静かな場所から生まれました。スマホを何度も確認していたけど、何を探していたのか分からなかったあの頃。胸の奥にまだ何かが残っているなら、まだ遅くないかもしれません」。ここに込めた思いについてお伺いしたいです。

Yuco:外向けのクリエーションはほとんど私が勝手にやっていて、二人の許諾を得ないままに詩を載せたりしています。音楽の邪魔をしないように、こっそりと色んなメッセージを入れ込むっていう。今回のものに関しては、苦しい思いをしているリスナーに寄り添いたいという気持ちを表現しました。これまでの楽曲で国内外問わず再生数が良いのが「Useless」で、サウンドは明るい曲なんですけど、歌詞は結構ネガティブなんです。ネガティブを許容するというか。それを良いと言ってくれる人が多いってことは、やっぱり心に辛さを抱えてる人が多いんじゃないかなって。私たちがその苦しさを受け止めたり、ささやかな感情を肯定したりする優しい受容体でいられると良いなと思ってます。

――なるほど。本編というか、楽曲の歌詞そのものに関してはどのようなことを考えながら?

Yuco:4時45分(=「Quarter to Five」)の曲なんですけど、私は夜に作詞することが多くて。色々とモヤモヤ考えていたものが、朝方になってカタルシスを迎えて、ザラザラしていたものが滑らかになっていくような瞬間がよくあるので、それを言葉にしました。


https://linkco.re/pE1aRs6D

 
――Yucoさんの表現したいテーマとサウンドがカチッとハマっている印象がありますね。作曲担当のお二人は、楽曲のテーマや歌詞に関するディレクションを行ったりすることはあるんですか?

Kobayashi:僕の曲に関しては、タイトルと音からの大喜利みたいなことをしてもらってるようなイメージですね。僕がこだわってタイトルを付けられた時はなるべくそれを変えたくなくて、「これに合った歌詞を乗せてください」って投げる時があります。

Yuco:問いを与えられてそれに答える感じで、楽しいです。

Iwamoto:僕は、歌詞に関してディレクションすることはまったくないですけど、メロディや歌い方に関してはめっちゃ細かいことを言う時もあると思います。意味がわかっているわけではないですけど、メロディに歌詞が合ってないと感じるところは一単語ずつ直してもらったり。ただ基本的には、自分が出したものを他人がいじって想定と全然違うものが出来上がった時が楽しい。自分で何回も聴いたデモに、ゆうちゃん(Yuco)のボーカルが加わって予想以上のものになった時が嬉しいので、大体はお任せしてます。

――複数人でのクリエイティブの醍醐味ですね。

Iwamoto:バンドで楽曲を作る上での強みでもありますよね。

Kobayashi:僕も、Yucoちゃんが独自に創作できる余白は常に持たせるようにはしてて。「思い浮かぶメロディがあったら何でも入れて」って伝えて、実際にそのメロディを採用することも結構多いです。

Yuco:二人からトラックを貰ったら、その日の夜中に自転車で爆走しながら、「こんな感じかな?」っていうのを考えて、iPhoneにボイスメモしてます。ちょっと怪しまれてるかもしれないですけど(笑)。そうして二人にとって意外性のあるものを作れたり、逆にまた完成したものを私が聴いてびっくりしたりもするので、創作のプロセスはめちゃくちゃ楽しいですね。

Iwamoto:ゆうちゃんがあまり楽器をやらないから、スケールやリズムの型にハマってないのが武器になってますね。インディーの音楽では、それが一番大事だと思ってます。

――ここまでのお話で、クリエイティブな面でも、その他のパーソナリティに関しても、作曲担当のお二人とYucoさんが別の方向を向いていることがtiger baeの面白さなんだということを実感できました。

Iwamoto:僕はいまだにゆうちゃんのことを別ジャンルの人だと思ってますね(笑)。

Kobayashi:俺も思ってる。

Yuco:私も、それを良い意味で受け止めてますよ。

Iwamomto:音楽的なジャンルじゃなくて、人間としてコミュニティが違う人間。だから良いんだと思ってます。

――最後に今後の活動の展望を聞かせてください。

Yuco:先ほどもお話した通り、『SXSW』で声をかけてくれたアーティストが何組かいまして、いくつかコラボレーションのプロジェクトが動いてます。私、創作活動ってコンバージョンレートが大事だと思うんですよ。繋がったものの関係性をリリースが実現するまで維持するのって難しいケースもあると思うんですけど、そこは諦めずにちゃんとやりきりたい。私一人としても、“Yuco from tiger bae”として出稽古みたいな形で(笑)、別の方と創作をしてtiger baeに貢献したいなと思ってます。「こうあるべき」はあまり気にせずに、可能性に蓋をしないでやっていきたいですね。

――ライブ活動に関してはいかがでしょう?

Iwamoto:現状予定しているものもいくつかあるんですけど、まずはEPとかを出して、そのリリースパーティみたいなことをやるっていうのが目標です。やっぱり日本でもちゃんとライブをして認知してもらいたいですし、国内で感覚の近い人たちとともに小規模でもシーンを作っていきたい。そこから繋がっていって、『SXSW』で出会ったアーティストを日本に呼べるようになりたいと思ってます。アメリカのインディー系のバンドは最近なかなか日本に呼べないので。

Kobayashi:『SXSW』でアジアのアーティストたちと共演してお話しした経験も踏まえて、もう少しアジアに目を向けて活動する感覚があってもいいのかなと。かつて「Distant Calls」のMVをジャカルタの映像作家であるSEBASTIAN SUSANTOに撮影してもらったこともありましたけど、ライブでも向こうに行けたらと思います。

Yuco:ただ待ってるだけじゃなくて、こっちから発信していくのも大事な時代なので、来るEPはそういう意味でも大切なメッセージを持つ作品になると思います。



tiger bae「Coasting (feat. Ibuki Aran)」

tiger bae「Coasting (feat. Ibuki Aran)」
 
HOTEL MEXICOのメンバーとヴォーカリストYucoにより東京で結成されたシンセポップ・バンドtiger bae(ティガー・ベイ)。2022年デビュー・ミニアルバム「Calm Like This Love」を発表。女優・冨手麻妙が出演した収録曲「Deeply」のMVが8万回を超える再生回数を記録。Jonny Jewel主宰レーベルITALIANS DO IT BETTER所属のBark Bark DiscoとJOONによるリミックスも話題に。
 
2025年3月にはアメリカのテキサス州オースティンで開催の「SXSW 2025」に出演。ラジオ局「KEXP」が主催する”KEXP’s Eastern Echoes”、”Italians Do It Better x Indie Sleaze”といった複数のSXSWオフィシャルショーケースに出演を果たした。7月にはSXSWのライブでも披露され大きな反響を呼んだ新曲”Quarter to Five”をリリースし、国内はもちろんアメリカをはじめメキシコやイギリスなど世界各地でリスナーを獲得。
 
本楽曲”Coasting”は「Lollapalooza Argentina 2024」や「SXSW 2025」への出演で注目を集めるパラグアイのバンドEl Culto Caseroのメンバー、Ibuki Aranとのコラボレーション曲。「SXSW 2025」での出会いをきっかけに制作された本作は、風通しのよい軽快なバンドアンサンブルと心地よい浮遊感が、Yucoのシルキーでアンニュイなヴォーカルと溶け合い、これまでで最もポップな側面を提示するインディー・ドリームポップに仕上がっている。
 
9月24日配信リリース
https://linkco.re/VMPgp8E0

 

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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。