「夢を叶えるストーリーを共有する」インディペンデントアーティストが抑えておくべきポイントとは

2021.11.9

「夢を叶えるストーリーを共有する」インディペンデントアーティストが抑えておくべきポイントとは

インディペンデントアーティストがチャートのトップになり、億を稼ぐ時代となりました。全世界でインディペンデントアーティストは存在感を増し、日本でも例外なくその勢いは拡大しています。

そんなインディペンデントアーティストのためのWebメディア『THE MAGAZINE』が、音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」代表の水口瑛介弁護士(アーティファクト法律事務所)とともにインディペンデントアーティストをサポートするため、音楽活動に関するトピックや役に立つ情報などをお届けするPodcast番組『THE MAGAZINE talk』を開設。アーティストエンパワーメントプログラムを発信しています。

今回は『ストリーミング時代の音楽デジタルプロモーション・マーケテイング』#3、#4の続編となる#5、#6の内容をご紹介。
 
▼前回(#3、#4)の記事

 
#5、#6では、引き続き株式会社arne代表の松島功氏をゲストに迎え、インディペンデントアーティストのプロモーションの具体的な考え方や異なる地域へのアプローチ方法、レコード会社からアプローチされた際の判断基準についてなど、トークテーマをさらに深堀りしていきます。

 
 
■夢を叶えるストーリーを共有する

#5ではインディペンデントアーティストのプロモーションの具体的な考え方や異なる地域へのアプローチ、サウンドを軸としたアプローチ、数字のためにクリエイティブに手を加えるのは果たして是か非か……!? など気になるトピックについて取り上げます。

 
水口 : ここからは具体的なことをお伺いしていきます。ある程度のファンベースがあるアーティストの方々がより再生数を伸ばしていくためには、どのようなことを考えたらいいのでしょうか。

松島 : 難しい質問ですね。水口さんが前半でおっしゃっていたところに深く関係しているのですが、そもそもファンに聴いてもらわないと、というのが大きい問題としてあります。ストリーミングやYouTubeもそうですけど、一番大切なのはストーリー設計かなと。

いい例として、ライブの物販理論というのがあります。ライブの物販はストーリー設計がとてもうまくできているんですよ。アーティストがライブのMCで「もっと大きいステージに行きたいからこれからも応援よろしく」というと、ライブ終了後にファンは物販に手が伸びる。買った側は手に入って嬉しい・アーティストと同じものを着られて嬉しい、というのはあるんですが、ここでおもしろいのが「これを買うことでアーティストが喜んでくれるかな?貢献できたかな?」という心理なんです。ここが普段の買い物とは違うところで。グッズを買うことで「引き続き応援していこう」という気持ちが、ファンのなかで生まれるんですよね。こういったことがライブ物販では普通に定着しているんです。「物販を購入すること=アーティストが喜んでくれること」と分かっているので、ファンはグッズを買う行為によって“アーティストが挑戦したい夢を叶えるストーリーに自分も参加している”っていう感じにちゃんとなるんですよね。

これがストリーミングとなるとなかなか難しくて。ストリーミングの場合、聴く側は楽しく音楽を聴いて終わり、というパターンが多いんです。ストリーミングで聴いたり、YouTubeでみる、SNSで拡げる、UGCを作る、こういったことは聴く側が楽しいだけじゃなくて「それをやることでアーティストも喜んでるんだよ」ということが、ストーリーとしてちゃんと伝わってないとけっこう難しいかなと思うんですよ。伝える方法は色々あると思うんですけど、ここがきっちり伝わっているかどうかが、ファンベースの成長や再生回数の伸びにも影響してくると思います。

水口 : たとえば、Spotifyで「10,000 streaming thank you!」とか、そういうのをSNSでシェアするというのはそれに添ったコミュニケーションですよね。

松島 : それを伝えるのはファンもとても嬉しいことだと思います。再生回数を支えているのはファンや聴いている方々ですからね。ライブ物販の例えもそうですが、アーティストとファンが実数で共有できるものってあまりないんです。SpotifyやYouTubeの再生回数は目に見えるものなので、これらをファンに共有していくことは大事だと思います。

水口 : お話を聞いていて、たとえば10万回再生して嬉しいという気持ちを表すのは当然だし、「もっと聴いてほしい」という気持ちを見せるのもストーリーになっていくと思いました。アーティストの喜怒哀楽をSNS越しで感じつつ、ファンは同じプロジェクトに参加している気持ちになると、最後まで見届けていこうという気持ちになるんですかね。

松島 : なっていくと思います。アーティストに対するYouTubeのスーパーチャット(投げ銭)の金額はまだまだ少なくて。VTuberの人とかはすごい金額なんですが、この違いについて考えてみると、そこには明確なストーリー設計があるかどうかなのかなと思うんです。

水口 : なるほど。続いて、これから活動していこうという新人アーティストがやっていく施策ではどんなことが考えられますか?

松島 : これも正解がないのであくまで参考までに。やること自体は前半で紹介した内容と変わらないと思います。つまり、自分たちの得意なSNSを見つけて、自分たちにあった手段でその輪を拡げてください。これは絶対に必要です。

一方で、誰かが気づいてUGCで拡げてくれたり、アーティストがフックアップしてくれたり、プレイリストで聴かれることが増える、といったことがあるので、TuneCore Japanのサブミット機能だったり、DSPのサブミットツールとかを活用して、プレイリストへ入れてもらうようにチャレンジするというのは自分でできることなので、最低限やってほしいことですね。

あと、どんなにファンベースが小さくてもやることは変わらなくて。ファンがまだ少なくてもネガティブに考えずに、目指しているアーティストがやってることと同じことをやればいいと思います。時々、まだファンが少ないからとYouTubeのプレミア公開をやることをためらう人を見かけますが、絶対に(プレミア公開は)やった方がいいです。最初から応援してくれるファンはアーティストにとってとても貴重な存在で、古参は財産なので、見てくれるファンがたった3人だとしても(プレミア公開を)やってください。

ほかにも、自分にあった方法でかまわないので、YouTubeのプレミア公開をはじめ、LINEのオープンチャットだったり、Radiotalkで生配信をしたり、選択できるものが増えているので、今はどれだけ小さいサイズだったとしても、ファンベースを増やす試みは続けてほしいなと思います。

水口 : ファンの規模は関係なく、今いるファンと一緒にストーリーを共有して、真摯に向き合うことが大切になってくるんですね。

松島 : そうですね。今の音楽シーンにおいて、ファンの方々はUGCという武器で拡げてくれる大きな存在になっているといえます。

水口 : 巻き込んでみんなで大きくなっていくことができる時代になったんですね。次に、ちょっと細かい質問になってしまうのですが、たとえば僕がドイツという国が好きで、自分が作った曲をドイツ人に拡めたいと思ったときにできる手段はどんなことが考えられますか?

松島 : ドイツですか(笑)。そうですね…… ドイツはたしか、けっこうドメスティックな音楽を聴く人たちが多いというカルチャーを聞いたことがありますが、まずは導入でそういうリサーチをきっちりしてもらう必要があるかなと。それによって、歌詞の言語も変わってくると思いますし。歌詞の無いインストゥルメンタルやダンスミュージックならけっこう挑戦できるのかなという気もします。いずれにしても、楽曲を見つけてもらうにはけっこう時間がかかると思うので、単曲ではなく長期的に考えていく形にはなると思います。

水口 : 特定の国や都市に向けてアプローチすることも、データ分析をきちんとすればできなくもないっていうことなんですね。

松島 : そうですね。ただ、そもそも勝ち筋があるのかどうかは前もってきちんと見極めた方がいいと思います。

水口 : 今の質問はちょっと特殊だったかもしれなくて、もう少し現実的なケースの質問もさせてください。たとえば僕がロバート・グラスパーが大好きで、ポップなジャズピアノの曲を作っているアーティストだとします。ロバート・グラスパーを聴いている人に自分の曲も届けたいと思ったときに、どういった手法が考えられますか?

松島 : その条件だったらけっこう確度上がりそうな気がしますね。ロバート・グラスパーはいろんなプレイリストに入りやすいアーティストなので、この方の音楽がどういったプレイリストで聴かれているかを調べてみましょう。たとえばトム・ミッシュがやってるプレイリスト「real good shit」にも結構入っているんですよね。このプレイリストもSubmitを受け付けているので送ってみたりするのもありかと。Kan Sanoさんも入ったとことありますからね。そういったところに届けるようにするっていうのは方法のひとつとして考えられますよね。


 
水口 : なるほど。また話が少し変わりますが、再生数を伸ばすために曲自体の構造を変えるのはどう思いますか?僕はそのためにクリエイティブ自体を変えるというのは違和感があると思っているんです。

松島 : 僕もそう思います。どこまで意識してやるかですが、最初からそれを意識して作るっていうのはなかなか難しいかと。私はアーティストサービスをやる上で、作品に対しては何も言わないようにしているんです。特にインディペンデントアーティストは好きに楽曲を作っていくのがいいと思っています。あまり意識して作っていくと目的と手段が逆になってしまい本末転倒ですしね。

 
 
■レーベルからのお誘い 比較する際の“重要質問”とは
 
松島さん出演回ラストとなる#6では、再生数の向こう側への意識、そしてインディペンデントアーティストがレーベルやレコード会社からアプローチされた際、何を基準に判断すればよいかについて、非常に参考になる具体的なアドバイスが届けられます。

 
水口 : インディペンデントアーティストの相談に乗るなかで、多く質問されることだったり、「もっとこうした方がいいのに」と思うことはありますか?

松島 : インディペンデントアーティストが増えてきているなかで、みなさん自分たちなりの方法で試行錯誤して活動されているので今後も知見の共有をしながら、みんなで盛り上げていければいいですよね。あとは自分たちがアーティストとしてどう見られているかを日頃から調べていくことが大切です。毎日のリスナー数を把握して、夢を叶えるためのストーリーを伝えながら活動していくのが本人にとって健やかに活動できる方法だと思います。

水口 : 数字の先に人がいるのは分かっているけど、常に意識はしていないかもしれないですね。

松島 : インディペンデントアーティストの場合だと特にSNSのフォロワーよりリスナー数が多いケースも結構あるので、そのリスナーをSNSに誘導するにはどうしたらいいかなど考えられたりするとよいかと思います。

水口 : 潜在的にストーリーに乗ってくれる人がもっといるんじゃないかということですね。あと、私のところにもアーティストからよくいただく相談で、「大手レーベルから声をかけてもらっているのだけど、どうしたらいいか」というのがあります。アーティストによっていろんなファクターがあるので、いつも回答が難しいなと思っているのですが、松島さんの観点からみて、どういった判断をしていくのがいいと思いますか?

松島 : これはすごく難しいですよね。最終的には「自分の夢を叶えるための最良の手段はどれか」という点を考えますが、比較検討するうえではお金で判断してほしいと思います。たとえば、メジャーレーベルからお誘いがきていて条件提示された資料を読んでもよくわからない、という場合は「御社と契約してシングルリリースをし、その曲がすべてのストリーミングの合計で1,000万回、YouTubeでも1,000万回再生された場合、私の手元にはいくら入りますか」というリクエストを出してください。その回答をみながら比較しましょう。TuneCoreで配信している分に関してはある程度どれくらいの収益になるのかが大体分かるかと思いますので。それと比較して、正確な金額や細かいシチュエーションまで回答してくれるレーベルなのかどうかも見極めた上でですね。あとは「この金額はレコード会社に取られるけど、こんなサポートをしてくれる」なども把握できるので、まずはお金でイメージしてほしいなと思います。

水口 : 音楽業界じゃない人からすると、1,000万回再生あったとしてもそこからどれだけのお金を生み出しているのかって分からないじゃないですか。ここが特殊なところですよね。新人に限らず、正確な金額を知らないまま数年〜数十年も活動している人もたくさんいますし。私も松島さんとまったく同じで、「概算でもいいから、いくらもらえるか計算しましょう」と伝えています。たとえば1,000万円の収益があって、そこから500万円取られるのであれば、レーベルがその分の働きをしてくれるのかどうかを見極めましょう、と。

松島 : お金で見るとイメージしやすいという点がありますよね。あと、ちょっとテクニカルになりますが「御社と契約した場合、有名になったときにTHE FIRST TAKEに出れますか?」という質問もしてくださいと伝えています。これはレーベルが権利を持っている楽曲がYouTubeでどこまで使用できるか、できないのかを判断するためです。自分のところと関係ないYouTubeチャンネルでパフォーマンスすることに対してネガティブと捉えているレーベルもあったりもしますので。今ではだいぶ減りましたが。

水口 : お金を前提として、自分が将来どうなりたいかというゴールを考えたときにそのレーベルと契約してそこにいけるかどうかを判断するということですね。

松島 : そこが大事だと思います。メジャーレーベルを選んだ方がいい場合ももちろんあると思いますし、これについては選択肢だと思うので、しっかり吟味して選ばれるのがいいかと思います。特に最近はYouTubeの収益だったり、以前と比べてすごく複雑になっていますからね。 

水口 : そうですよね。今日はたくさんデジタルマーケティングについてお話をお伺いしました。非常にリスナーのみなさんにも役に立ったのではないかなと思います。またゲストに来てください!本日はありがとうございました。
 


 
前回とあわせ、ポッドキャストでは全4回にわたってトークが配信されているので、上記記事を読んで気になった方は音声でもぜひチェックしてみてください。

 
THE MAGAZINE talk #5, #6

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Ko Matsushima / 松島 功
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この記事の執筆者

aya/綾

株式会社arne / Webメディアで編集&ライターもやっています / 趣味→Spotify / 好き→焼肉 / エンタメマーケ勉強中

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