bassy (Nyarons) インタビュー 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」

インタビュー
2019.7.17
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世界のトップYouTuberである pewdiepie の動画に使用されるなど、国内はもとより海外にも多くのファンを持つ Nyarons のコンポーザーとして、また人気ゲームタイトルや様々なアーティストへの楽曲提供などクライアントワークも数多く手がける bassy (Nyarons)


bassy (Nyarons)
bassy (Nyarons)

 
——Biography / これまでのキャリア

bassy (Nyarons)、音楽家。

 
田舎の大学の文学部を卒業した後、何かしら音楽の仕事をしたいと思って、特に当てもないまま東京に出て来ました。『Musicman』を見ながら、いろいろなスタジオや制作会社などに電話しまくって、たまたまアシスタントを探していたスタジオZ’dで働かせてもらえるようになりました。作編曲家の深澤秀行さんのアシスタントとしていろいろな現場を付いて回りました。アシスタントと言っても実際は雑用兼パシリみたいなもんですけど…

それでアシスタントをやりながら、00年代はインディーズでアーティストとしても活動していました。3年程活動しましたが、特に成果を残せずそのまま解散しました。そのあとは Barbarian On The Groove(BOG) の結成メンバーとして、ゲームミュージックを中心にいろいろなクライアントワークを手がけてました。BOG脱退後は、しばらく独りで作編曲の活動を続けていましたが、個人での活動に閉塞感を感じ、2016年にボーカルのchikaとNyaronsを結成して現在に至ります。


bassy (Nyarons)
chika (Nyarons)

 
——ターニングポイント

Nyarons結成当初は国内でのCDリリースをメインに活動を続けていましたが、2nd EP収録の「ハルカカナタ」が海外ミーム動画のBGMに使用されたのをきっかけに、海外からのリスナーが徐々に増え始めました。

そのあと同曲のイントロ部分が、当時YouTube登録者数世界一のpewdiepie氏のチャンネルのオープニングに使用されたり、あと「夜に溶ける」のMVを同チャンネル内で紹介してもらえたりして、結果として沢山の海外リスナーの方に聴いてもらえました。そんな経緯もあって、今でもNyaronsのリスナーの多くは海外のファンの方が多いです。

 
——最近作

「Vapor Fish Disco」Nyarons

 
「Ain Soph Aur」 鈴村 健一 / グランブルーファンタジーキャラクターソング ※作曲のみ

 
「イロトリドリのメロディ」小仏凪 CV:佐倉薫 / SEGA チュウニズム)

 
「虹をかけろ!」天晴れ!原宿

 
——キャリアスタート時の制作環境

DTMを始めた20年程前は、まだ今のようにPCで制作を完結できる環境ではなかったので、ハード音源やサンプラーなどをMIDIケーブルでつないで使用していました。記憶が曖昧な部分もありますが、多分こんな制作環境だったかと思います。

シンセ/音源:
Roland JV-2080
Roland D-550
YAMAHA DX7
KORG M1R
E-MU PROTEUS 2000
ALESIS NanoPiano
ALESIS S4
KAWAI Gmega
PEAVEY SPECTRUM BASS etc…


【IYOW】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
Roland D-550

 
サンプラー:
AKAI S5000
AKAI CD3000XL

 
シーケンサー:
KAWAI Q-80EX
MOTU Performer

 
レコーダー:
Roland VS-1680

 
——現在の制作環境


【IYOW】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」

 
PC :
Apple Mac Pro

 
DAW :
Apple Logic Pro
MOTU Digital Performer

 
サンプラー :
Roland SP-404SX
※独特の質感のエフェクトが充実してるので重宝してます。


【IYOW】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
Roland SP-404SX

 
プリアンプ/コンプ :
UNIVERSAL AUDIO LA-610 MkII
※主にボーカルに収録に使用してます。


【IYOW】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
UNIVERSAL AUDIO LA-610 MkII

 
マイク :
AKG C214
BLUE Baby Bottle
RODE NT2000
※最近はAKG C214がお気に入り。


【IYOW 】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
AKG C214

 
全体としては、曲のアレンジとミックスはApple Logic Proをメインに行ってますが、歌などの収録に関してはMOTU Digital Performerを使用しています。クライアントワークではPC内で完結することが多いですが、Nyaronsなどの個人制作の場合は外部のサンプラー(Roland SP-404SX)なども含めて、積極的に音作りを行ったりしています。

 
——モニター環境

ヘッドフォン :
SONY MDR-CD900ST
※ノイズチェック用に使用する程度で、普段はスピーカーでのモニターがメインです。

 
モニタースピーカー :
EVENT 20/20
SONY SMS-1P


【IYOW】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
EVENT 20/20

 
——使用音源

・PREMIER SOUND FACTORY / Moog Premier
恐らくMini Moog?のオシレーターをそのままサンプリングしただけのKONTAKT音源です。とにかく音が太いのでのベースやシンセリードなどによく使用します。僕のアレンジ楽曲の7~8割以上の確率で頻繁に使用してるかと思います。

 
・Roland D-550 / プリセットNo61 Staccate Heaven
D-50/D-550に搭載されてるプリセットサウンドのひとつで、僕は世界で一番美しいシンセサウンドだと思ってます。実機から直接マルチサンプリングしたものをKONTAKTでプログラムしなおして使用しています。ソフトシンセなどでレイヤーされたコードサウンドなどに、うっすら混ぜてあげたりすると独特の奥行きが表現出来て好きです。

 
・imperfect samples / Steinway Walnut Concert Grand Piano
ピアノ音源で一番使用頻度が高いKONTAKTライブラリーです。3つのマイクポジション個々に別サンプルが用意されていて、それぞれにバランスを調整出来ます。単体でリアルなピアノを表現できますが、オケ中で埋もれやすいので、例えば歪んだギターサウンドの中でピアノを主張させたい時などは、Logic付属のプラグイン「Clip Distortion」で軽く歪ませてから使用しています。

Imperfect Samples Walnut Concert Grand (EXS | Kontakt | VST | AU)

 
——使用プラグイン

・PSP / VintageWarmer
テープシュミレーター系のプラグインですが、マルチバンドコンプの機能も搭載しているので、2mixのマスター処理で使用することが多いです。帯域ごとに アタック・リリース・サチュレーション の効果を細かく設定できる所が気に入ってます。

 
・Abbey Road / RS135
8khzの帯域を2dbずつブーストするだけのプラグインですが、通常のEQでは出せない質感が加わるのでボーカルトラックなどによく使用します。

 
・iZotope / Vinyl
アナログレコードの質感を再現するフリープラグインですが、ちょっと変わったEQとしても使用できるので重宝しています。例えば高域を自然にカットしたい場合などは “YEAR” のパラメーターを 1980~2000 あたりに設定すると、EQとはまた違った質感でカットされるので面白いです。


【IYOW 】 bassy (Nyarons) 「歌モノのビートメイクはどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きる」
各プラグイン

 
——ビートメイクのプロセス

良いメロディさえ浮かべば、その後の作業はすべて上手くいくと僕は思っています。ただ、素敵なメロディが自然に浮かぶことなんて年に数回程度しかないので、普段はまずコード進行から考えていきます。

最初に4~8小節ぐらいのコード進行を決めます。あるいはモチーフになり得そうなコード進行を含んだ素材を探します。それをループさせながら、ただひたすらメロディを探っていきます。まず最初のコードのルート音に対して、メロディの第一音目をどのテンションでスタートさせるかを考えていきます。その曲を誰が歌うのかによって、その第一音目が変わってきます。あくまで僕のイメージですけど、例えばサブドミナントのコードに対して、9thは都会的、M7thは哀愁、6thなら和風・東洋的、♭5thは壮大・・・みたいな、同じコードでもメロディのスタート位置によって、曲の色彩のようなものが変わってくるので、そこに時間をかけます。そして最初の2小節をとても大事にします。その2小節間にワクワク出来るメロディが含まれていることが大切だと思います。

数時間弾いても良いメロディが見つからない場合はキーを変えてみます。変える場合は必ず奇数値で移調します。気分を変えるためです。

半日程度無駄に過ごすことも多々あります。その場合は別の作業をして気分を変えます。諦めかけて寝る前にふと良いメロディが浮かぶこともあります。
とにかくここに時間をかけます。

 
歌モノの場合のビートメイクは、やはりどれだけボーカルが気持ち良く歌えるかに尽きると思います。なのでメロディに合ったBPMを決めて、ボーカルの歌い方・息づかいや呼吸のタイミングをイメージしながら、それに合わせてドラムとベースのノリを決めていきます。常に自分でも歌いながら作っていくことが大事だと思います。

それともうひとつ大事なことは、あえてひとつだけダサい音を入れること。なかなか難しいけれど、リスナーの耳の残る音楽ってある種の違和感がないとダメだと思うんです。だからそれをあえてやるんです。

あと気を付けていることは、オフボーカルの状態で完璧なものを作らないようにします。オフボーカルの2mixを聴いてみて、何か足りないと感じれるうちにアレンジ作業を終えます。ボーカルが入って初めてアレンジが完成することが大事だと思ってます。

 
——ビートメイクポリシー

Nyaronsの制作に関して言えば、いわゆる歌モノになるわけですが、出来る限りボーカルのchikaが、自然体で歌えるものを作るように心がけています。ボーカリストに頑張って歌ってもらわなきゃならないような曲は、僕の中ではボツです。キーの設定やメロディの分かりやすさもそうですが、何よりその曲の持つ “色” や “匂い” のようなものがchikaに合っているかどうかという意味です。曲の良し悪しではありません。そういう色彩・嗅覚的要素が合致していないと、収録で無駄な努力と時間を浪費した上に、結果としてもあまり良いものが出来ないと考えています。

 
——My favorite works / 自分の作品からのお気に入り

「ハルカカナタ」Nyarons

やはりこの曲をきっかけにNyaronsのことを知ってくれた方が一番多いのではないかと思います。海外のミーム動画に使用されて、その後の反響は先ほどお話させていただいた通りです。

 
「Melt in Night – 夜に溶ける」Nyarons

ボーカルのchikaがとても自然体で歌っています。収録がとてもスムーズだった記憶があります。理想の形のひとつです。

 
「キミだけのワンダーランド」天晴れ!原宿

天晴れ!原宿 というアイドルグループに提供させていただいた楽曲です。意図せずいろいろな偶然が重なり、リスナーの方々に育てていただいた楽曲だと思っています。ライブ動画がYouTubeに沢山ありますので良かったら聴いてください。

 
——Message

Nyaronsのコンポーザーとして僕、bassy をとりあげていただきありがとうございます。

普段音楽を作っていると、「どんなジャンルの音楽をやっているの?」という質問をされる事が多いのですが、そういう質問に答えるのが僕はとても苦手です。あまりそういう分野に詳しくないということもありますが、何よりも僕自身が飽きやすくて、ひとつのことを続けていくのが苦手なのかもしれません。

Nyaronsの音楽も同様に、あまりジャンルという枠組みで考えたことがありません。ただボーカルのchikaの歌声はとても強い “色彩” と “匂い” を含んでいると思うので、それだけでひとつのジャンルになるのではないかと思っています。だから飽きやすい僕はどんな音楽を作っても、最終的に彼女がそれを歌うことによって、”Nyarons” というジャンルが維持されるのではないかと思っています。

SpotifyやApple Musicなどでも、多くの楽曲が試聴出来ますので、ぜひ聴いてもらえたら嬉しいです!

 

 

 
bassy
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