SKRYUインタビュー 追い詰められても「進んでいくしかない」葛藤の末に遂げた進化 New EP『MUNASAWAGI』

インタビュー
2022.8.18
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SKRYUインタビュー 追い詰められても「進んでいくしかない」葛藤の末に遂げた進化 New EP『MUNASAWAGI』

国立大学卒で元銀行員という異色の経歴を持つラッパー・SKRYUが、「自業自得の墜落キャリアを綴った」新EP『MUNASAWAGI』をリリース。戦極 MC BATTLE、凱旋 MC Battle等での優勝という輝かしいキャリアを持つ実力派ラッパーが「これまでで作るのに一番辛い作品だった」と葛藤の末に作り上げた同作は、Noconocoフルプロデュース、DJ PMXがMixと豪華な布陣で制作され、ドームのステージにも立ったSKRYUが次へ向かうターニングポイントとも言える作品に仕上がった。各収録曲の解説から、制作にあたって向き合った自らの心の内、そしてスケールアップを予感させる今後の展望にいたるまで話を聞いた。

 
初めて立ったドームのステージ

——先日のMUSIC CIRCUS FUKUOKAではドームのステージに立たれましたが、どうでしたか?

あそこまで大きい規模のステージは初めてでした。緊張はやっぱりしたんですけど、最初の1、2曲が終わったら、もういつもどおりの感じで大丈夫かなって。だから、どんなに大きいところでもバイブス次第でどこでも一緒だなと、自信にはなりました。お客さんもあんなにたくさんいて感動でした。

——かなりリラックスしてパフォーマンスしていましたよね。

バックヤードで昼間からバカみたいに飲んでました(笑)。いつものライブでもそうやってけっこう飲んでからやるタイプなんで、いつも通りの感じにもっていけたとは思います。

——オーディエンスとのやりとりも盛り上がってました。

いつものやり方なんですけど、ライブだと前方のお客さんひとりひとりに語りかけるような感じにしてて。そうすると緊張もほぐれるんですよね。聴いてくれてることが分かると、こっちも安心するんで。ライブパフォーマンスに関してはまだまだ荒削りだとは思うんですけど、お客さんも少なくてそのうえ特に僕を見に来たわけじゃないっていう現場がこれまでたくさんあって、そこでいかに自分に振り向かせるかっていうのをいつも意識してやってきたんで、そうやって培ってきた部分がドームというデカい舞台でも発揮できたのかなとは思います。





 
「これまでで作るのに一番辛い作品だった」

——ステージの規模もだんだんと大きくなり、着実にステップアップされてる中で、先日リリースされた新しいEP『MUNASAWAGI』は、少しバトルをお休みして音源制作に集中して作りあげられたそうですね。

EPとしては3作目のEPになります。まとまった作品としてはちょうど去年の今頃に1st ミニアルバムを出してて。僕、地元の島根で銀行員してたんですけど、いったん千葉に移り住んで、そしてそのミニアルバムを出すタイミングで千葉から東京に移ってきて。もう音楽一本でやっていくっていう生活になって。それはつまり、タイムカードも押さなくていいし、昼から家で酒飲んでゴロゴロしてもいいわけじゃないですか(笑)。で、そういう自堕落な状況が少し続いてたんですけど、普段からお世話になっている方にお尻を叩いていただいて、このEPをオールプロデュースしていただいたNoconocoさんも紹介してもらって、そこからはじまったEPという感じで。ちなみに、これまでで作るのに一番辛い作品だったんです。作ってる時期、お金とお酒の問題を山のように抱え込んでしまっていて。働いてる時の収入のノリでクラブで遊んだりしてたら、消費者金融にもお世話になるようになっちゃって(苦笑)。そういう固有名詞が作品のリリックにも入ってるんで、今回の作品全体のコンセプトとしてはお金になるのかな。お金が無い時って、色々見失ってしまう大事なものがあるなと思って。

——リリースのライナーノーツにも、「金と酒に翻弄された、自業自得の墜落キャリアを綴る」とありました。とはいえ、EP全体を覆うサウンドや、聴き終えたあとの感じとしては、むしろ爽やかというか。

僕のスタイルとして、心の内をさらけ出すっていうのはもちろんなんですけど、ネガティブで終わりたくないっていうのはどの作品に対しても思っていて。どっちかというとコミカルにとらえて欲しくて。だからキャッチーなメロディラインもブレないようにしてて。「こいつ金ねーんだ」って笑って聴いてくれたらいいなっていうか(笑)。やっぱり聴いてて楽しくて、踊れる音楽が一番だなって思うし、それが自分らしいと思うし。





 
Noconocoがフルプロデュース、MixはDJ PMX

——そういうサウンドを支えるプロデューサーとして、今回はNoconocoさんが大きな役割を果たしていますが、昔からのお知り合いなんですか?

いえ、今回はじめて紹介してもらったんです。でも、はじめて会ったときからめちゃめちゃウマが合うなと思ったし、Nocoさんはほぼ毎日スタジオに籠もって四六時中音楽作ってて、めちゃめちゃ音楽に対してストイックな印象があります。音楽に対する姿勢にも刺激を受けますし、自分も毎日時間惜しんで音楽やんないと昼間から酒飲んで時間を無駄にしてたらヤバいなと(苦笑)。とはいえラフな部分もあるし、とにかく波長が合う方です。

——はじめて会った時からプロデュースを全部任せられる安心感があった?

はじめてNocoさんのスタジオに遊びに行った時に、後に今回の「Magic Potion」っていう曲になるビートを聴かせてもらって、「これやばいっすね!」って。良い意味で現行のビートとはまた違う、オールドスクール、2000年代な感じもあって。僕のスタイルに合うノリのものをオリジナルで作ってくれる方には中々出会えないと思ったし。サウンドの幅ももちろん広いし、最初からぜひお願いしたいなと思いました。

——さらに、今回ミックスもレジェンドのDJ PMXさんが手がけられていますよね。

手がけていただけるってなった時は当然僕もめちゃめちゃ興奮しました。「あのPMXさんですか!」って(笑)。実際、MCバトルでも「Reason」のビートでラップしたこともありましたし。だから僕の作品をミックスしてくれるなんてびっくりですよね。仕上がりも本当に理想的なサウンドで。Nocoさんが喜んでたのも嬉しかったし、とても感謝です。

——ではそういう文脈もあってEPのジャケもPEN & PIXEL風ということなんでしょうか?

僕もそんなに詳しくないんですけど、まぁノリというか。車とお金、セクシーなお姉さんみたいな(笑)。欲望が露骨に表れてるのが今回の作品にすごいマッチしてるなと思って。ちょっとお下品なくらいがいいかなと思って、良いバランスに仕上げていただきました。

——SKRYUさんの歌のスキルが相当アップしてるのも感じました。

嬉しいです。ボイトレ通ったりもしてたんで(笑)。ライブで歌えないのはダサいなとやっぱり思うんで。Nocoさんのメロディのエディットのスキルはすごいんで、そのおかげもあると思います。リードトラックの「MUNASAWAGI」は、自分としては珍しくオートチューンを使ってるんですけど、そこも上手に仕上げてくれて。

——作品全体としてクオリティの高さを感じますが、SKRYUさんも例えばアレンジにリクエストを出すといったことはありましたか?

曲によりますけど、サビ前にブリッジをつけてくださいとかはあります。例えば「VIP」っていう曲はビート1ループにフックっていう感じじゃなくて、J-POPやK-POPのように起承転結があって展開が多いんですけど、そういう中でのメロディメイクっていうのが僕の強みの一つだと思ってて。なので、それが発揮できるよう話し合いながら作ったりしました。Nocoさんにもその辺はすごく上手に汲み取っていただきました。


『MUNASAWAGI』のアートワーク

 
SKRYU自ら『MUNASAWAGI』を解説

——今回せっかくなので、1曲毎に解説いただければと思うのですが、まず「Intro -Million-」は何かがはじまることを予感させる雰囲気と、お酒とちょっと下品なリリックがSKRYUさんらしい良い意味での変態感があるというか(笑)。

ですね(笑)。実はこの曲が今回一番最後に出来た曲で。このEPを網羅するというか、お酒とお金と女の子にまみれたことを歌おうと。ブーンバップの曲が一つ欲しいねってNocoさんもおっしゃっていたし、僕の土俵の曲というか。最初のビールを開ける音もけっこうノリで入れたんですけど、ライブでもこの曲を1曲目にしてプシュってやりたいですね(笑)。ライブをイメージして作った部分もあります。

酒場でショットグラス流し込めば
Jump around 上着脱ぎ捨てなる裸
こちら牙剥く3時前の江頭
隙のないあの子も
パンチラインで犯しちゃう

っていうリリックが気に入ってて、出来たときはこれキタなって。よくライブで酒飲んで上半身ハダカになってるし、リアルだなと(笑)。

——続いてトークボックスにLIL’Jさんを迎えられての「VIP」。こちらは、一転してゴージャスなR&Bというか、黒くてファンキーな楽曲になっていますね。

僕もめちゃくちゃ大好きなサウンドです。LIL’Jさんは、トークボックスに前から憧れててやってみたかったので、このサウンドならトークボックスが映えるんじゃないかということで、紹介してもらって参加していただきました。曲としては、最初はもっと王道ファンクな感じだったんですけど、どんどんおしゃれな仕上がりになっていって。今回音楽性がもっとも注ぎ込まれた曲になっているんじゃないかな。展開も激しくて音の種類も多いし、飽きさせないというか。Nocoさんとも、美味しいとこだけ詰め込みまくった結果、「これジャンルなんなんだ」って話したりしてて(笑)。リリックとしては、昔は感動してたことも、慣れてしまって何とも思わなくなっちゃったみたいなこともすごいある気がして。例えば、レコーディングのラフを聴くあのワクワク感って、多分キャリアの最初の頃の方がすごくて。そういうのを忘れてしまってないかなと思って。「あの時の気持ちを忘れたくないですよね」っていう。でも今を生きるしかない、そういうけっこう前向きな曲になってます。

——3曲目は一息つくインタールードですね。サブタイトルには「Rakuten」とあり、ここでも一貫してお金のエッセンスがありますね。

お金が湧き出る魔法のカードがあると思ってたんですけど……(笑)お酒飲んだら気が大きくなってみんなに奢り散らかしてたら、そりゃ督促も来るよねって(笑)。サウンド感も「VIP」とつながる雰囲気もあって。次の「MUNASAWAGI」が完全にお金を歌った曲なので、その導入としてもふさわしいというか。あのアナウンスは全国の消費者金融にお世話になっている人たちに響くと思います、ドキッとするんじゃないかな(笑)。

——そしてタイトルトラックの「MUNASAWAGI (feat. SUB-K)」。これは冒頭からすごくキャッチーで、良い意味でTikTokじゃないですけど、SNS受けするのではと感じるほどです。

これと次の「Magic Potion」に至っては、トラックをもらった瞬間すぐに(リリックが)書けた曲でした。けっこう思い入れがある曲で、「Million」っていう言葉がリリックに出てくる通り、借金返したいっていうメッセージがあって。ちなみに、この曲はもともと「Million」っていうタイトルだったんですけど、直前で「MUNASAWAGI」に変更したんです。その方が最終的にバチッとくる感じがあったんで。で、フックに

あの屋根裏のスタジオ
夢の足音がステレオから
目には見えないけれど
触れそうに思えたような

ってあるんですけど、1stと2nd EPはぜんぶ尾道のTAG DOCKスタジオでレコーディングしてて、ラッパーでありプロデューサー、DJでもあり、色んなことをやられている先輩の太心さんにエンジニアをやっていただいて。そこで生まれたものがお金になって今の自分の生活を支えてくれるひとつになっている。「ステレオから」流れたのは自分の曲で。全てはあそこから始まったよねと。





で、フィーチャリングに入ってるSUB-KがそのTAG DOCKスタジオの秘蔵っ子というか。TAG DOCKスタジオのことを歌うならSUB-Kが相応しいなと。

——たしか福山で活動されているラッパーさんなんですよね。

そうです。なんで売れないんだってもうこの5、6年くらい言われ続けているほど良いアーティストで、僕も大好きで。早く売れちまえばいいのにって思ってるんですけど(笑)。とにかくこの曲は、手前味噌ですけど最高です!

 
——そして、ラス前の「Magic Potion」は先行シングルになっていました。この曲を先行にしたのはどうしてだったんですか?

「Magic Potion」の歌詞は、今までのキャリアを全て詰め込んだ内容になっていて。自分の中でセーブポイントというかしおりというか、そういう位置づけの曲なんです。これまでの自分が全て分かるということで、これはこれで一つの作品として聴いてもらいたいなっていう気持ちがあったし、今回一番最初に出来た曲でもあったんで先にリリースしました。「Magic Potion」はSKRYUっぽいと思われるだろうなって自分でも感じているんですけど、それに比べて「MUNASAWAGI」は僕としてもすごくフレッシュな曲になっていて。そのコントラストを際立たせるためにも、「Magic Potion」を先に出して、「MUNASAWAGI」をEPリードトラックにしました。そういうところも感じ取ってもらえたら嬉しいですね。ちなみに、「Magic Potion」って酒を例えているんですけど、自分を翻弄するものでもあるけど、ポーション的な役割でもあるという。酒と共に、そしてクラブと共にっていうアンセムになっています。















 
——最後を飾る「No Drama」はチルで、少しシリアスな雰囲気もあります。

サウンド感としてはめちゃくちゃ気に入ってて、最後を飾るにはふさわしいかなと。ただ、これまでの5曲とは対極にあるというか、リリックに関して、「これ書いてもいいのかな?こんなこと歌ってもいいのかな?」って一番葛藤した曲です。

もうやだ

っていう入りなんですけど、本当に音楽を楽しく遊び感覚で作ってた時の喜びっていうのが薄れてきてて、曲を書くのがキツイい時があって。ネガティブを歌った曲なんですよね。踊って欲しい、ネガティブにはさせたくないって最初に言ったこととは矛盾するんですけど、この曲は自分にとってはじめての鬱曲というか。自分の負の部分を全部詰め込んだ感じになってます。例えば、音楽でお金を稼げるようになってくると、有り難いことに色んなところから声もかかるようになる。

適当に触れて俺を汚すな

ってすごい強い言葉も使ってるんですけど、そういうお誘いも、「これ本当に僕のことを思ってくれて誘ってくれてるのかな?」とか。僕も好かれたいから色んなところにいい顔をしてしまうんですけど、結局いいように使われてしまってるのかなとか。舐められてるんじゃないかって怒りを感じることもあったり。そういう気持ちがこの曲にあらわれてる。アーティストとしてレベルアップをさせてもらったが故につきまとう副作用というか。とはいえ、

それでもまた飛び込む音の中

ということで、いやだと思っても進んでいくしかないと思ってるんで。それこそ、Nocoさんからも「やるしかない」って言って後押ししてもらってるし、進むのがマストなんだなって自己完結させた唯一の鬱曲ですね。



——SKRYUさんとしても珍しいこういう暗い曲を書かざるを得ない出来事とかがあったんでしょうか?

けっこう仲の良い友達から「お前は売れるって言われ続けてるけど、でも結局売れないぜ」、って言われたこととか。あと、本当に些細なことなんですけど、「お前安売りしすぎてない?いつまでそんなとこいんの?」とか言われたり。基本、楽観的にはやってるんですけど周りの目とかめちゃめちゃ気になる方なんで、そういう声が気になって焦ったり揺らいだ時期があって…… あんまりこういう面が出すぎると、いわゆるSKRYUとしての良さがなくなるんじゃないかと思いつつ。場所を選ばず、誰とでもコミュニケーションして、八方美人でみんなのお兄さん的なキャラでここまできたとは思うんですけど、ここから先に行くには、そういうことをしていると本当に自分のことを大切にしてくれている人に背を向けることにもなるんじゃないかなとか、そういう葛藤があって、「あ゛ーもうやだ!!」ってなってできた曲(苦笑)。最後までEPに入れるか迷ってたんですけど、敢えてこの曲を入れることでこの作品をちゃんと完結させることができたかなっていう思いはあります。

すべてが上手くいく明日の朝
死ぬまで描き上げるNo drama

最後のフックだけリリックを変えていて、すごくポジティブなメッセージで終わってるんですけど、明日は上手くっていう気持ちがあればスベっても頑張れるかなって自分にとっても良いメッセージになったと思ってます。

 
葛藤した新作を経て見据える次のステージ

——この作品を経て、また今後新しいSKRYUさんの活動が見れそうですね。東京に移ってきて、都内のシーンはどう感じていますか?

ヒップホップの中でも、各ジャンル全部が盛り上がってるていうか、そういうイメージはあります。めちゃくちゃ楽しいですよね、どこに行っても盛り上がってるので。やっぱり東京ってすごいなって。

——SKRYUさんも今後これまでやってこなかったビートやジャンルに挑戦しようと考えることはありますか?

クラブに行って新しい音を聴くと、例えばドリルやトラップ、2Stepとかもやりたいなとは思うんですけど、戻ってきてしまうというか。でも、ラップのないゴリゴリのシティポップはいつかやってみたいですね。Mariya Takeuchi type beatみたいなビートで(笑)。

——それは楽しみです。このEP含め、音源制作に集中している時期だったと思いますが、現時点でバトルに対してはどんなスタンスでしょうか?

出たいですね。やっぱり半年に1回くらい、場所によっては出たいと思っていて。去年はそれこそ毎月出ずっぱりだったんで、さすがにちょっと休みたいなと思ったんですけど。







——以前ワンマンライブをやりたいとおっしゃってましたが、このEPでその予定はある?

ワンマン自体はやりたいんですけど、タイミングはまだ未定という感じです。

——あと、今後共作したいなっていうアーティストはいますか?

鎮座DOPENESSさんはぜひ声をかけさせていただきたくて。以前バトルでも当たってて。鎮さんと四つ打ちのビートの曲とかやれたら最高ですよね。他にも、tofubeatsさんや、イベントでもフィールしたSkaaiくんとかも一緒にやれたらなと。

——今後の動きも楽しみにしています、今日はありがとうございました。最後に今後の展望を教えてください。

いずれはお茶の間にも知られるような存在として活動できればと考えているんですけど、まだ今のスタンスややり方で出来ることがたくさん残ってると思うんで、まずはそれを全てやってからかなと。とにかく、ぜひ『MUNASAWAGI』を聴いていただければと思います!そして、お金とお酒には気をつけましょう!(笑)


SKRYU『MUNASAWAGI』

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