【このリリースがすごい!】momonesuko『troche』 | シューゲイズの夢からはみ出る現実の気配

コラム・特集
2026.5.13
【このリリースがすごい!】momonesuko『troche』 | シューゲイズの夢からはみ出る現実の気配のサムネイル画像

音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、momonesukoのアルバム『troche』を紹介。


SoundCloudへの楽曲投稿や断続的なイベント出演を中心に活動していたアーティストによる、待望の初リリースである。昨年10月にBandcampにて音源配信およびLP販売が開始され、今年4月17日にサブスク配信が開始された。ライブ演奏はデュオ編成で行われているようだが、momonesukoが果たしてバンド名やユニット名なのか、一人のミュージシャンの名前なのかはいまいち判然としない。しかし、そんな曖昧な在り方自体が、momonesukoの有する美意識のもとで統制されているようにも感じる。

そのぼやけた輪郭は、シューゲイズの音像ともリンクする。M3「mimei」やM8「obake tunnel」におけるマキシマイズされた合奏は、My Bloody Valentine『loveless』を賛美するものだろう。M6「WAV:波」では、USインディー的なヨレで酩酊へと誘う。一方でほとんどの楽曲が1分〜2分前後で、サラリとした聴き心地はクラウドアーティストらしい。長い夢に沈み込むというよりは、眠りに落ちる直前の祈りが積み上がったタイムラインを遡っていくように。10曲20分のあっけなさに、拍子抜けしながら救われもする。

甘美な轟音に官能的な魅力を感じつつも、momonesukoはオートチューンで自らの声から生気を奪い取る。ファズギターを掻き鳴らしながら、エレクトロなビートが差し込まれてバンドから生々しさが失われる。本作の楽曲を唯一無二たらしめているそうしたアイロニカルな諸要素は、どこかに逃げたいけどここでしか生きられない、というアンビバレンスそのものかもしれない。

幻想の中に迷い込んだような音像の中で、やけにリアリティのある言葉に引き止められる。「最大サイズのショッパー / 膝に乗せた真昼 / 病院帰りの京王線 / みんな口を開けないようにしている」(M2「undertow」)、「瞳の奥燃え残る火を消し忘れて / 乳酸菌飲料で涼む / 僕らを突き刺してくれよ」(M9「そして2本目に火をつける」)。逃避しようとすればするほどに目について離れない現実が、淡い光の中で確かに描写されている。

 


momonesuko『troche』

momonesuko『troche』各サブスク

momonesuko『troche』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。