多部大 インタビュー 「バランスのとれた音楽を作り続けたい」 この夏「You」が大ヒット、分かりやすさとこだわりを高い次元で両立させる話題のシンガーソングライター

2022.9.27

多部大 ロングインタビュー

“ふと目覚めた時横に 君の寝顔があると嬉しい” ——— 今年の夏に、このフレーズをTikTokなどで耳にしたことがあるリスナーも多いのではないだろうか。数多の有名アーティストや話題曲をおさえ、Spotifyの国内バイラルチャートで2位を獲得したその楽曲「You」を手がけたのは、名古屋出身の1997年生まれのシンガーソングライター・多部大(たべ ひろ)だ。「You」で一躍その名を広めた多部大は、現在最も注目を集めているアーティストの一人。彼のバックグラウンドから音楽制作でのこだわり、葛藤の末に生み出された「You」の制作経緯まで、話を聞いた。

 
クラシックギターでスタートした音楽キャリア

——多部さんが音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

父の家系が音楽をやってる人が多くて、その影響で4歳の頃にクラシックギターを習いはじめました。純粋に楽しく弾く時もありつつ、コンクールの練習はちょっと辛いなという感じで。それ以外の音楽でいうと、クラシックギターの先生がかなりのメタラーだったので80sのメタルを聴かされたり、父もそういう時代の洋楽が好きだったり、子供の頃はそういった音楽に接する機会が多かったです。

その後、中学生になってからは自分でネットで色々調べて、40mpさんやハヤシケイさん、buzzGさん、livetuneさんといったいろんなジャンルのボカロPの曲を聴いていました。中でも、ハヤシケイさんの作るJ-ROCKなサウンドの楽曲は特に好きでした。

——音楽活動のスタイルがクラシックギタリストから今の形にシフトしたのはどういったタイミングでしたか?

中学時代に、クラシックギターも引き続きやってたんですけど、まねごとで歌ってみたをやったりするうちに歌うことの楽しさを実感しはじめました。その後、高校生になってバンドを組みたくて軽音楽部に入ったんですけど、最初に組んだバンドが早々にダメになってしまって。でも、ギターも弾けるし歌うのも楽しいから自分一人でもできそうだなって思ったし、YouTubeでも弾き語りのカバー動画が流行り始めた頃で、自分でもそういうのをやってたんで、ソロでやってみるかって始めたのが最初だと思います。

——すでにその頃からオリジナル曲も作っていましたか?

それは高校を卒業してからですね。高校卒業と同時に“多部大”という名前で活動していくことを決めて、それと同時にオリジナルの曲を作り始めました。一番最初に作った曲とかはもう自分でも覚えてないんですけど、「オンリーロンリー」という曲があって、その曲ができた時にはやっといい曲が作れたという感じでした。音楽の方向性としては、いろんな音楽を聴いてきたので、幅広いサウンドの曲を作りたいと思ってました。

——楽曲の作詞・作曲もすべてご自分で?

はい、基本的にはそうなんですけど、「You」は自分としても初めてコライトした曲でした。これまでリリースした曲のアレンジを手伝っていただいているKISIMENさんというアーティスト、アレンジャーの方がいるんですけど、「You」ではKISIMENさんに作曲にも携わっていただきました。KISIMENさんとは、彼がやっているロストフィルムというバンドとライブハウスで対バンした時に知り合いました。ちょうどその時「真夜中にステップを」という曲のアレンジに悩んでて、ロストフィルムの「今夜はFEEL SO GOOD」みたいな雰囲気にしたいなということで、KISIMENさんにお願いしたら快く引き受けてくれて、それから今もずっとお世話になっています。同じ名古屋なので、制作の時には僕の家にも来てくれたりして。

多部大「真夜中にステップを」
多部大「真夜中にステップを」

https://linkco.re/1PuBgeSX

 
——ちなみに他のアーティストとのつながりでいうと、青とcity lightsというユニットもやられてるそうですが。

青とcity lightsは、コロナ禍以前の2年くらいはけっこうアクティブだったんですけど、今はほとんど動いていない状態ですね。chick in wisteriaっていうバンドのドラムのヤマシタノゾムとやってた2ピースバンドで、ソロとはまた違う雰囲気の曲をやってました。今は住んでる場所が離れているので、中々活動が難しいのですが。

 
「バランスのとれた音楽を作り続けたい」

——また活動が再開するタイミングもあるかもしれませんね。改めて、多部さんの作曲に関してのこだわりはどういうところでしょうか?

メロディラインの分かりやすいところとそうじゃないところのバランスを上手くとりたいっていうのはけっこう考えています。昔の洋楽によくあるような、ちょっと変なメロディだけど気持ちいいっていうのが好きなんですけど、今それをそのままやるとただ変なだけって思われるかもしれなくて。逆に、王道なポップスも好きだけど分かりやす過ぎるメロディを作るのも面白くないなとも思うし。なので、そのバランスをとりながら、ちょうど気持ちいいラインを攻めるということを意識して作っています。ちゃんと広くリスナーに届く可能性がありつつ、音楽的なこだわりもしっかりあるっていうバランスのとれた音楽を作り続けたい気持ちがずっとあります。どっちも大事にしたいっていう。

——ちなみにメロディは普段からふと浮かんでくる感じでしょうか?

メロディ自体は、眠りに入る直前に浮かぶことが多いですね。起きたら忘れてることもあるんですけど、覚えている時はそれを活かしてすぐギター弾きながら作ったり。

——曲のイメージや構成との順番はいかがですか?

場合によりますけど、「真夜中にステップを」や「My Kicks」の時は最初にメロディがあって、それにアコギで合わせていくという感じで。一方、「You」の時は最初からこういう曲にしようというイメージがあったので、コードとそれにあう雰囲気のメロディを同時進行で組み合わせながら作りました。音楽理論に関しては大人になって改めて勉強したことがあるんですけど、なんか感覚的にこれ知ってるぞって分かる時もあって、なので幼少期からクラシックギターをやってた経験というのは曲作りに相当活かされてると思いますね。

 
「You」が生まれた背景

——そういったバックグラウンドがあって多部さんならではの楽曲が生み出されるんですね。「You」はこの夏に最も話題になった曲の一つとなりましたが、どういった経緯で生まれた曲だったのでしょうか。

「You」はSNS、特にTikTokで聴いてもらえる曲を作ろうっていうコンセプトを最初に決めて、それから作り始めた曲だったんです。恋愛する若い世代の人々に刺さるようなということで。音源もTikTokで使ってもらいやすそうな音作り、メロディ、歌詞を突き詰めてやってみたという曲です。ただ、今までSNSを意識した曲作りなんてやったことがなかったので、例えば平井大さんの「Buddy」だったり、Vlogでよく使われている曲を参考にしたりはしました。

——今やTikTokでのバズを狙うアーティストも多くいる中で、イメージ通りにヒットしたというのはやはりそもそも楽曲自体に魅力が備わっていたからだと感じますが、その辺はどうお考えですか?

歌詞には正直すごく行き詰まったんですよね。もともとそんなに明るい性格でもないんで、最初のデモとかも全然暗い感じで(苦笑)。もっと明るくした方がいいよねってアドバイスを周りの方からいただいても、どうしたらいいんだろってすごく悩んで何回も書き直しました。そのうち、何かのタイミングでふっと「You」の歌詞に出てくる登場人物の気持ちが自分に憑依したというか、シンクロさせることができるようになって、それから言葉がするする出てきてようやく出来上がったんです。

あと、共感性という部分はすごく意識しました。直接的な表現ではないんだけど、気持ちが伝わるような具体的かつクサくない描写、フレーズにはこだわりました。

——それらに加えて、歌詞の言葉の語感もちゃんと気持ち良くなっているのがすごいなと感じます。

昔から曲を聴く時も作る時も語感の気持ち良さっていうのは大切にしてきたので、それが反映されているのかなと思います。

——「You」はVlogでの使用に加えて、後からダンスでの使用もバズって、二段階でバイラルしていたのが印象的でした。

Vlogで使ってほしいっていうのは狙っていたんですけど、ダンスでの盛り上がりは僕も予想していなくて。KISIMENさん曰く、色んな使われ方がされるようなアレンジになっているんだよということで。決めを多くして、音数もあえて少なくしてドラムとヴォーカルが際立たつように、そうやって踊れるヒップホップ的な要素を加えていて。なので、後からもっとダンスでも盛り上げようってなった時にもそういうアレンジがめちゃくちゃ活きましたね。

——楽曲が本来持っている良さに加えて、そういう考えられた工夫もあると。「You」はSpotifyのバイラルチャートでも多くの有名アーティストや話題曲をおさえて最高2位まで上昇するなど驚異的な結果を残しましたが、最初バズった時はどんなお気持ちでしたか?

けっこう興奮してたというか、夜寝れなかったり(笑)。TikTokの作成動画の数が1万本を超えた時とかは、なんかもう現実味がなくて本当に自分のことなのかなって、ひたすらびっくりしてました。でもそんな中でも、曲で一番使われた部分以外も好きだっていう動画やコメントとかもあって、単に使われてるだけじゃなくて曲としてちゃんと届いているんだって実感もありました。

これまで僕は、とがったこだわりのかっこよさ、反対に商業音楽に思いっきり振り切ったかっこよさ、それらの真ん中にいて結局どっちのかっこよさも持ってない人間なんだと感じていたんですけど、そのバランスをとってどっちも大事にしながら作り続けて辿り着いた「You」という曲がちゃんと人に届いたということで、どっちも大切にしていていいんだなってちょっと自信が持てるようになった作品だと感じています。

多部大「You」
多部大「You」

https://linkco.re/epTVGRdE

 
ヒットを経てさらに次のステージへ

——商業的な部分とクリエイティブなこだわりというのは悩みどころですよね。そういう意識で活動されている中で、リスペクトや共感するアーティストはいますか?

Nulbarichさんはめっちゃかっこいいなと思ってて。こだわった音楽をやられていますけど、「ポップスはポップスで本当に素晴らしさがある」っていうおっしゃっているのを何かで目にして、そのマインドにグッときましたね。あと、藤井風さん。僕と同い年なのに、なんかもうかっこ良すぎて、ツラくなる時ありますけど(笑)。

——今後、共演や共作をしたいアーティストはいますか?

シンガーソングライターのゆいにしおちゃんはもともと名古屋で知り合いで、年も同じで出身も同じということで、前から何かやりたいねってお互い言ったりしてますね。あと、これは本当にもしもですけど、星野源さん。フォークな弾き語りから、ポップス、R&Bソウルまで幅広いスタイルはマジで憧れで、いつかご一緒できたらなと。ヒップホップだとPUNPEEさんがめっちゃ好きで、ラッパーの方とも曲を作りたいですね。ギターで二人でやる感じだとTHE CHARM PARKさん。他にも、すごく影響を受けている向井太一さん、最近よく聴いているFurui Rihoさんや竹内アンナさん、とにかくたくさんいます(笑)。あ、あと同じような感じでTikTokでバズっているアーティストのみなさん、有華さんやさとうもかさん、クボタカイさん、imaseさん、高瀬統也さんといった方々ともTikTokでぜひご一緒できたらなと思っています。

——ヒットの次のリリースにはまたプレッシャーもあるかと思いますが、最後に今後の予定を教えてください。

「You」でたくさんの方に知っていただいて、改めてとてもありがたいと感じています。本当にありがとうございます。次の曲も「You」とつながりのある部分があったりするので、ぜひそれを楽しみに待っていただければ嬉しいです。ライブもやっていますし、フェスにも出れたらなと思っています。これからもよろしくお願いします!

 

 

 

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