Satellite Young インタビュー | ネオ80’sアイドル歌謡のパイオニア・ユニット解体新書

2017.5.12


Satellite Young
Satellite Young – L to R : テレ ヒデオ, 草野絵美, ベルメゾン関根
 

ジャパニーズ歌謡・エレクトロ・ユニット、Satellite Young (サテライトヤング) 。どこか懐かしさを感じる80年代アイドル歌謡のメロディーとシンセ・ウェーヴ特有の煌びやかなエレクトロ・サウンドを併せ持った「ネオ・アイドル歌謡」を生み出している彼らは、その音楽性と80年代当時のアイドルシーンを彷彿とさせるビジュアルで注目を集め、海外レーベルからのリリースやクリエイターとのコラボなど国内外を問わず精力的に活動を行なっています。今年3月にはアメリカ・オースティンにて行われたSXSWにも出演を果たしたSatellite Youngに、“解体新書”と題し、ユニットの「レトロ・フューチャー」な価値観のルーツについて語っていただきました。

 

——まずはじめに、自己紹介をお願いいたします。

草野絵美(以下:草野):ボーカルの草野絵美です。主に作詞作曲を担当していますが、楽器ができないので鼻歌で曲づくりをしています。

ベルメゾン関根(以下:関根):ベルメゾン関根です。主にサウンドメイキング、アレンジ、エンジニアリングを手がけてます。たまーに作詞作曲もします。

テレ ヒデオ(以下:ヒデオ):デ メディアテクノロジスト ノ  テレ・ヒデオ デス。テレビデオ ヲ カイゾウシテツクラレタ、サイボーグデス。

 


Satellite Young
テレ ヒデオ
 

 
——Satellite Youngの結成経緯というのは?

草野:幼少の頃、自分が生まれる前の大衆文化や若者カルチャーに憧れを抱いていた私は定期的に「00年代 テレビ」など、様々な年代の情報をネットで検索しまくっていました。そんなある日、東映不思議コメディーシリーズの『魔法少女 ちゅうかなぱいぱい』という特撮番組を見て感銘を受けたんです。

それがきっかけで『ちゅうかなぱいぱい』で鮮烈に感じた80年代独特の「ださかっこよさ」みたいなものを再現したいと考えるようになって。それを大学の先輩に相談したところ、関根さんを紹介してもらいました。紹介してもらって1年経ったときに、突然、「ジャック同士」の歌詞とメロディーが降りてきて、気づいたら関根さんにアカペラ音源を送っていたのがSatellite Youngのはじまりです。

 

 
関根:Satellite Young結成時に掲げたコンセプトは、日本の80’sアイドル歌謡を只のリヴァイバルではなく、ずっと途切れる事無く継承され、進化してきたジャズやロックのように、一つのジャンルとして普遍化・進化させるということでした。でも実際には、80’sアイドル歌謡って90年代にはほぼ駆逐されているんですよね(笑)。そこで、他の惑星で生き残っていて脈々と進化してきた、というストーリーが思い浮かんだんです。そういう想像をすると、音作りの方向性も見えてきたんですよ。

 


ベルメゾン関根(Photo by Tomofumi Usa)
ベルメゾン関根(Photo by Tomofumi Usa)

 
——Satellite Youngといえば当時の80’sアイドル歌謡を彷彿とさせるサウンドですが、みなさんが80’sサウンドやアイドル歌謡に出会うことになったきっかけは?

草野:とにかく私は自分が生まれる前の二度と戻れない時代への憧れが強くて。幼少期は、図書館でピンク・レディー、本田美奈子、森高千里をよく聴いていました。図書館はTSUTAYAと違って無料だし、たくさん借りて色んな曲を聴いていました。80年代をリアルタイムで経験してはいないのですが、懐かしい気持ちになって聴いていましたね。初めて聴いた洋楽は、シンディー・ローパー。マドンナやカイリー・ミノーグも好きでした。

 
関根:僕は80年代生まれなのですが、幼少期は父親に80年代の洋楽を聴かされて育ちました。Jan Hammer、Journey、CUSCOなどは繰り返し聴きましたね。その頃は80年代への興味は一切無かったんですよ。2000年代後期のアシッド・ジャズやジャズ・クロスオーバーの文脈でむしろ70年代にハマっていたんです。

2010年頃に渡辺真知子さんの『フォグ・ランプ』というアルバムを聴いて、日本の歌謡曲に興味を持ち始めました。そして、『フォグ・ランブ』のアレンジャーだった船山基紀さん繋がりで、つちやかおりさんやWinkなど80’sアイドル歌謡に興味を持ち始めてどんどん掘って行きました。特に衝撃を受けたのが、南野陽子さんの『楽園のDoor』や、松田聖子さんのアルバム『The 9th Wave』でした。こんな素晴らしい音楽が「懐メロ」のレッテルを貼られて過去の遺物扱いになっていることに憤りを感じたんです。その想いがSatellite Youngをはじめるきっかけになりました。

 
——80’sアイドル歌謡の他にも、影響された音楽やカルチャーはありますか?

草野:中高のときは人生で一番音楽を聴いていて、ゴリゴリのJ-ヒップホップ、シューゲイザー・ロックからレゲエ、ジャズなど本当に色んなジャンルの曲をiPodに取り込んでいました。高校時代は2000年代の後半だったんですけど、80’sダンス・ミュージックのリバイバルである、シンセ・ポップやニュー・レイブ音楽がとても流行っていましたね。

当時の世界最大のSNSだったmyspaceで、Bloc PartyやThe Strokesの卵たちをディグっては、学校の唯一趣味が合う友達と二人で盛り上がっていました。当時、myspaceで見つけてどんどん有名になっていくのを間近で見ていた、Lily Allenのガーリーだけど皮肉めいたアティチュードには影響を受けていると思います。あとはtoro y moi、Hadouken!とか。当時のネット発っぽい音楽文化やアートワークも大好きでした。

 

 
関根:僕は90年代から2000年代中頃までのクラブ・カルチャーには凄く影響を受けました。ハウス、テクノ、ドラムンベース、アシッド・ジャズ、アンビエント、トランス、エレクトロニカなど、ここ10年くらいで本当に色んなスタイルの音楽が出て、どんどん細分化していったじゃないですか。ジャンルを問わず、なんでも面白がって聴いていました。

2000年代初期には、クラブ音楽もジャンルごとで硬化してしまって、閉塞感が漂っていたところに、イギリスのJiscomusicからThe Revengeらがディスコのリエディットを発表したり、InnervisionsのDixonがHouseの文脈に70’sプログレのシンセサウンドを取り入れたり、Dam-Funkみたいなアーティストが出てきたりと、過去の音楽スタイルを再構築して進化させるような試みが沢山出てきました。そういう時代の大きな潮流みたいなのをクラブ・ミュージックの文脈から感じ取ってました。

 

 
——Satellite Youngのサウンドメイクの方法や、その際に意識していることを伺いたいです。

関根:現代の人の耳は80年代と比べると確実にビートコンシャスになっているはずで、ビートをいかに気持ちよく聴かせるかは、ポップスのフィールドでエレクトロニック・ミュージックをやっている人なら不可避的な課題だと思います。キック・ベース・スネアは曲の「心臓」ですしね。一方で日本の80’s歌謡はストリングスやベルを多用していて、ビートよりも音のレイヤーや余韻で聴かせる構成になっていることが多いんです。そしてそれが正にジャパニーズ80’s歌謡サウンドの核だと思っています。

Satellite Youngの音作り、特に今回のアルバムのミックスやマスタリングでは、ビートをしっかり聴かせるという現代的な課題と、ウワモノのレイヤーサウンドや、ヴォーカルのリヴァーヴの余韻を聴かせる、という二律背反的な課題をどちらも成立させ、全体としていかに音で包み込むか、ということをとても意識しています。

 
草野:私たちのアルバムと、80’sアイドル歌謡とを聴き比べてもらうと気付くと思いますが、音色は同じでも、音像は全然違うんです。よく、「80年代を忠実に再現している!」と言われるんですが、それはもしかするとSatellite Youngの音によって、当時の音の記憶がアップデートされたのかも?と思うんです。それはまさに「フェイクメモリー」なのかもしれませんね(笑)。

 

——歌詞に関してはいかがですか?

草野:歌詞は主にテクノロジーに関しての違和感を歌ってることが多いですね。最初のシングルは「ジャック・同士」というTwitterのCEO、ジャック・ドーシーをもじった歌で、スタートアップバブルの頃のどことなくカタカナを叫ぶ感じがなんとなく80’年代っぽいかなというところから着想を得て書きました。

「フェイクメモリー」は、80年代の、皆がひとつの方向に向かって熱狂的になる感じと、現代のTwitterやFaceBookなどのSNSで、多くの人が同じ物を共有して、同じ様な感覚を抱いている現象……情報過多が生む偽装の記憶について。「Break!Break!Tik!Tak!」に関してはソニー・タイマーをアップル製品にかけて歌った非常にマニアックな歌になりました。他にも小説家の平野啓一郎さんが提唱した分人主義について歌ったり(「Dividual Heart」)、人工知能について歌ったりしています(「Al Threnody」)。

 


草野絵美
草野絵美
 

 
——今年3月にアメリカ・オースティンにて行われたSXSWに出演した経緯についてお伺いしたいです。

草野:去年のSXSWに観客としてオースティンを訪れていたんです。そのときに「Satellite Young ですか?」と2人も声をかけられたんですよ。日本じゃなかなかないことだし、驚いて。

その後、「来年はSatellite Youngとして出たい!」とFacebookに投稿したんですけど、ファンの人がSXSWの日本人の担当者の方に「彼らをSXSWに呼んでくれ!」とコメントと一緒にメンションを飛ばして、その一年後にその投稿がきっかけで正式にオファーをもらったんです。

 
——SNSの時代ならではのきっかけですね。Satellite Youngの活動当初はアメリカのネット・レーベル、Future City Recordsから音源をリリースしていたとのことで、海外からも認知度が高いと思われます。実際にアメリカで触れた海外オーディエンスの反応はいかがでしたか?

草野:海外でライブするのが初めてだったので緊張しましたが、舞台に立った瞬間、お客さんと対面するとすぐにリラックスできました。欧米特有のオーディエンスとアーティストに隔たりがない感じが最高でした。私が一度、体を揺らせばすぐに一体感がでてくるので、私にはこのバイブスを止めてはいけないという使命が細かい単位で伝わって、とても勉強になりました。

関根:僕ら自身も、幼少期からずっと海外の音楽を聴いてきたこともあって、どちらかというと日本の多くの人よりも海外リスナーの方が感覚的に近いのかもしれない、と気付いて、腑に落ちたんです。日本語で唄っていても、根本的なノリはむしろあちら側に近いのかもしれないと感じました。

 


(photo by Masahiro Saito)
(photo by Masahiro Saito)
 

 
——昨年10月、個人的に初めてSatellite Youngのステージを拝見しました。ライブの時のステージングやVJ、衣装はもちろん、MVや1曲ごとのアートワークに至るまでの、ビジュアル面のこだわりについて伺いたいです。

草野:昔から「レトロフューチャー」のような文脈が大好きで、80年代が描く未来を意識しています。幼少期からわりとアメリカかぶれな家で育ち、高校時代をアメリカで過ごしていたこともあって、外国人が思う「ネオ東京かっこいい」といった感覚をかなりもっていましたね。帰国してからは原宿でストリートでスナップを撮るバイトをしばらくやっていたこともあり、より外国の方に近い「東京ってかっこいい!」という憧れが人一倍強くなりました。そこから、逆輸入ぽい、未来ぽいネオ・ジャポニズムな世界観を愛するようになりましたね。

自分が今まで培ってきた「レトロフューチャー」の文脈や感覚をフォトグラファーの宇佐巴史さん、イラストレーターのうえむらさん、MV作家の渡辺直さんなどのクリエイターさんに解釈してもらって、Satellite Young独自のビジュアルが拡張されてきたように思えます。

 
——ちなみに、アーティスト同士の交流ってございますか?

関根:コラボレーションもしているbrinqさん(トラックメイカー:ユウ フジシマ氏のソロ・プロジェクト)とは個人的に色々話が合いますね。brinqさんは「Hyper POP」っていう言葉で表現してますが、彼は現在のいわゆる“メインストリーム”ではないんだけれども、また新しいTOKYOのPOPSの形を創り出そうとしていますね。

 

 
——「Sniper Rouge」やアニメ『せんぱいクラブ』のED「卒業しないで、先輩!」では、海外クリエイターともコラボレーションされてますよね。どのようなきっかけで海外クリエイターとのコラボが生まれたのでしょうか?

草野:Mitch Murderとの「Sniper Rouge」のコラボは、思いがけずMitch Murder本人からSoundCloud経由で直接オファーがありました。彼はシンセウェーヴ・レトロウェーヴ界のスーパースターなので、かなりビックリしましたね。Synthwaveシーンの牽引役とも言えるNew Retro Waveというメディア・レーベルがあって、そのYoutubeチャンネルで私達の曲が紹介されているのを見たのがきっかけのようです。Mitchと曲を作るときも私の鼻歌でやりとりとして、架空のスパイアニメのテーマをイメージして作りました。

Youtubeで100万再生を誇るアニメ『せんぱいクラブ』とは、Twitterで繋がって、「コラボしようよ!」という話をしてから始まりました。偶然ですが、Mitchも『せんぱいクラブ』の作者であるオリビアとエリックのふたりも、シーンは違いますが皆スウェーデンの方でしたね。

 

 
——こうして国内外のクリエイターと出会い、音楽やアートワーク等を自分たち以外の人と共に作っていく中で、Satellite Youngの音楽が影響を受けたことや、そのことで新しく生まれた価値観ってありましたか?

関根:自分たちの中で全然種が無いものを外側から貰って来て、新しい価値観が生まれるっていうことはいまのところ無くて。コラボレーションをすることで、自分たちの中におぼろげにある美意識みたいなものを触発してもらう感覚なんです。 「こんなこともできるんじゃないか、あんなこともできるんじゃないか」って思っていると、凄くラッキーなことに、それを具体化できそうなコラボ相手から声がかかるんですよ(笑)。

例えばせんぱいクラブの場合だと、「小さい頃、夕方に繰り返し聞いた80’sアニメEDテーマのあの雰囲気やりたいな〜」と思っていたら、「今度80’s風のアニメを作るから、そのEDテーマを作ってもらえない?」っていうドンピシャの話が来たんです。Mitch Murderの場合も、ピュアなシンセウェーヴ・サウンドに自分たちのメロディー載せたらどうなるんだろう?と思ってたら本当にそのタイミングでMitchから声がかかったんです。

 

 
——では最後になりますが、今後の活動予定やSatellite Youngとしてやってみたいこと・目標などありましたら聞かせてください。

ヒデオ:ライブの演出では、80年代に流行ったもの(赤青の3D立体メガネやミラーボールなど)と最新のテクノロジー(ドローンや立体映像)を融合させた新しい舞台表現をしてみたいですね。あとは大画面でファミコンを会場にいる人達とやっても楽しいかも。

関根:5/14に阿佐ヶ谷ロフトAでトーク&ライブイベントをやります。モデレーターに『音楽世界旅行 [共産テクノ部]』の作者である四方宏明さんを迎え、色々なコーナーを画策しています。結成秘話から、テレヒデオ電撃加入、コラボレーションの裏話なんかを盛り込む予定の『サテライトヤングストーリー』のコーナー、SXSWギグを360° VR映像で楽しむ『SXSW凱旋VR報告会』コーナー、せんぱいクラブの作者エリックと映像作家の森翔太さんをお呼びする『MV上映会&MV大喜利』のコーナー、そして、激レアプレゼント抽選会もあります。


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この記事の執筆者

TuneCore Japan Official Ambassador

TuneCore Japan 公認 学生アンバサダー

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