高瀬統也インタビュー “初めての景色” 「どうして」のヒット、大盛況の香港公演を経た先に見据える次のステージ
バズっても変わらないスタンス
——SpotifyやApple Musicをはじめ、多くのチャートにも入っていましたよね。バイラルチャートには100日以上登場したり。制御ができないほどのヒットの前後で、音楽活動に対する考え方の変化などはありましたか?
それが意外と変化はないんですよね。音楽を作る上で自分が大切にしていることも変わっていませんし、制作陣も変わらなければ、予算感も変わっていなくて。最初から自分が理想とするクオリティを追求し続けてきたし、今後もそこを追い続けるのは同じなので。どちらかというと自分たちよりも周りがすごく変わったかもしれません。純粋にリスナーも増えましたし、「『どうして』歌ってる人ですよね」って知っていてもらえるようになったり。昨年末にやった香港公演でも、これまでにない盛り上がりですごい景色を見ることができました。
——かなりのバズがあったけれど、高瀬さん自身は地に足が着いていたんですね。
これまでどうにかしたいと思って身の丈にあわないこともやってきたんですけど、それがようやくマッチするようになりましたね。
——たしかに高瀬さんは昔からジャンルレスというか、色々なチャレンジをされてますよね。「どうして」の後にリリースされた「らりるれ」でもドリル、グライムなビートを試みたり、そういうスタンスはお変わりないですね。
すごく飽き性なので色んなジャンルをやってみたいんですよね。どんなジャンルも知っておきたいというか。「らりるれ」も、自分の持ち味であるメロディアスなトップラインも活かしながら、ビートをドリルにすることでまた新しい雰囲気になっていると思うし。外側というかパッケージを新鮮にしつつ、だけど基本自分の土台は変わらない。そういう組み合わせが自分の特徴の一つでもあるのかなと思います。
——それは高瀬さんが歌詞とトップラインを書いて、盟友であるプロデューサーのRINZOさんがトラック、ビートを手がけるというパートナーシップが上手くワークしているから?
まさしくそうだと思います。おととい今年最初の制作を行ったんですけど、もはや僕らの間で「どうして」の話は出ないんですよ。さっぱりしているというか、クリエイティブに関して僕らは過去に固執しないチームなんですよね。これからまた制作期間にも入りますけど、去年とはまた違った心持ちを持って次への準備を進めています。
——例えばTikTokで1曲ヒットしたのはいいけど、その後が続かなくてメンタルをやられてしまうようなケースもアーティストによってはあると思うのですが、高瀬さんのそういったスタンスは精神的にも健康ですね。
これまでずっと音楽で期待した通りの結果が出ない人生を送ってきたんですよね。だから昨年やっと少しは誇れるような結果が出たとは思いつつ、心のどこかで常に自分に対して「期待し過ぎないでおこう」というのがあって。結局、期待し過ぎると思うようにいかなかった時しんどいじゃないですか。僕としてはもともと無かったものが今はあるっていう考え方なんです。再生回数が思うように伸びなかったとしても、昔全然聴かれてなかった時期に比べたら、今日もたくさん聴いてもらえて良かったなって思いますから。
——そういうメンタリティも紆余曲折を経て様々な経験をしたからこそ身につけることができた?
そうですね、本当に色々な経験をしてきたので、あまり一喜一憂せずにマイペースでいられるのかもしれません。
一言で表すなら「ベスト」な1st フルアルバム
——その後、昨年12月に集大成的な1st フルアルバム『13月2日』をリリースされましたが、こちらはどのような作品になっていますか?
一言で表すなら「ベスト」という作品です。ただ、ベストアルバムという括りだと自分の活動段階的にはまだ早いかなと思うので、「1st フルアルバム」というカタチにしました。高瀬統也として未来をずっと歌ってきた中で、ここでいったん自分のこれまでの軌跡を見てもらえたらなということで、過去曲を多く収録し、いわゆる「はじめての高瀬統也」と言える内容になっています。何かのきっかけで知ってくれたリスナーがもっと聴きたいってなった時に、「これさえ聴いておけば大丈夫だよ」っていう作品になっています。
——たしかに新しく発表される曲としては「TWI LIGHT (feat. N.O.A)」だけですよね。
まったくの新曲としては「TWI LIGHT」だけかな。とはいえ、「I can’t stop loving you 」ではフィーチャリングに野田愛実を迎えてまた新たなカタチになっていたり、「毒のあるA」も歌詞が変わって再録していたり、「どうして」のリミックスも入っています。単に過去の曲を集めただけではなく最新のクリエイティブも楽しめる内容となっています。
——高瀬さんのこれまでのリリースを振り返っても、再録やリミックス、別バージョンなど、常に自分の楽曲を生まれ変わらせながらアップデートされていますよね。
曲を作る上ではA型の性格がけっこう出るほうで、色んな部分を常にキレイにそろえたいんです。譜割りからメロディ、ピッチまでめちゃくちゃこだわっていて。なので、その時は良いものができたと思っても、過去の作品になればなるほど今の自分からするとどうしても気になるところがあったりして。常にできる限り最新のレベルでリスナーには聴いてほしいので、例えば「毒のあるA」のような過去曲を入れるにおいても最近作った曲と同等のレベルにしたいんです。
「音楽をやってて良かった」 ― 初めての景色を実感した香港公演
——アップデートされた高瀬さんを存分に楽しめる作品がリリースされ、そして香港公演が昨年のクリスマスの12月24日、25日の2daysで実施されました。まず率直にライブの感想を聞かせてください。
音楽をやってて良かったなってはじめて心の底から思いました。音楽を信じてきて本当に良かったなと思えるライブでした。これまでライブにおいては、良い景色だと言えるほどのスケールになりきれないまま10年目を迎えていた中で、はじめて良い景色が見れたなっていう。「自分にもできるんだ、叶えられるんだ」っていう驚きや感動があって。お客さんにも圧倒されたし。それは圧倒したいと思っていた自分からすると今後の前向きな課題が見つかったということでもあって、そういう点も含め本当に素晴らしいライブでした。