CREAM 新アルバム『CHAPTERS』インタビュー 数々の苦難を乗り越え二人がたどり着いた愛と再生の物語

2023.8.28

CREAM

今年でデビュー10周年を迎えるヒップホップデュオ・CREAM。3年半ぶりとなる7作目のアルバム『CHAPTERS』は、インディペンデントになった二人が心機一転、改めてゼロから作り上げた作品に。紆余曲折、様々な危機を乗り越え新たなステージへとたどり着いたCREAMの愛と再生の物語とは——

取材・文 : Jiro Honda

 
“愛のサイクル”を描いた『CHAPTERS』

——今回のアルバム『CHAPTERS』のコンセプト、テーマを教えてください。

Minami:今回10曲を収録していて、それぞれの曲が“章=CHAPTER”として成り立っている1冊の本のような作品になっています。1曲目「GAME OVER」の別れから始まって、最終的に新しいパートナーに出会って幸せになるまでを描いた一つの愛の物語。CREAMは昔からコンセプチュアルなアルバムを作ってきたんですけど、ここまでコンセプチュアルなものを作るのは今回が初めてでした。

Staxx T:この作品を作るにあたって一番こだわったことは“アルバムとしての意味”でした。シングルでコンスタントにリリースするスタイルも当たり前になっているこの時代に、あえてまとまった曲を一連の流れで聴くからこそ意味がある、そういうアートの美学を意識して取り組んだアルバムです。それを前提に、人生の3〜4年くらいで起きる恋愛の出来事をまとめて、ひとりの主人公が歩むある時期の“愛のサイクル”を描きました。だから、最後の曲「YOZORA」はハッピーエンドですけど、そこにたどり着くまで途中の時点でうまくいかなくて「GAME OVER」に戻ってまた繰り返すこともあるだろうし、曲順すべてに意味があって、それぞれが繋がっているストーリーなんです。

——ではシャッフルで聞くというよりも…

Minami:ですね、シャッフルしないで歌詞を読みながら1曲目から順番に聴いてほしい。

——Staxx Tさんは、作品リリース時のインスタライブでは、映画の脚本家に近いような気持ちで作ったとおっしゃっていましたね。

Staxx T:このアルバムから最初のMVとなった「How Many Times」を撮るにおいても、監督にはとにかくシネマティックにしてほしいとリクエストしました。MVなんだけど、ドラマを感じられる質感にしてくださいと。言うなれば、本が原作の10章あるNetflixオリジナルドラマの1つのチャプターのようなイメージ。こういった試みも今回が初めてで、映像作品としてもアルバムと統一したコンセプトを貫いているから、MVからもアルバムの世界観をより具体的に感じてもらえると思います。
 

 
——リスナーは恋愛における自分の「今」が10曲のどこかにはあてはまりますよね。失恋、立ち直り、出会い、安定など。

Staxx T:例えばもし今「YOZORA」に共感できなくても、時が経ったらすごくしっくりくるかもしれないし、タイミングによって曲の聞こえ方が変わってくる作品だと思います。そういう意味でも長く愛してもらえるアルバムになっているかなと。

——ちなみにお2人の本作でのお気に入りの曲をあえてあげるとすれば?

Minami:私は時期によってほんと変わるんですよね。リリースしたばっかりの時は「キミノセイ」だったんですけど、今はもう「Ready4Summer」になってる(笑)。

Staxx T:僕は「fallin’ for you」ですかね。新しいことをやってるわけではないんだけど、だからこその懐かしさとか、良さがある曲というか。「GAME OVER」のようにCREAMにとって新しい要素を取り入れた楽曲もあるけど、「fallin’ for you」は恋に落ちてく途中の男女の気持ちがイーブンに描かれていて、言ってみれば一番CREAMらしい楽曲な気もします。

Minami:今回はそんな2人の掛け合いになっている曲も多いので、それも聞きどころかな。

Staxx T:不思議な偶然もたくさんあるアルバムで、実際は10曲のストーリーの展開する順番を基準に曲順が決まったんですが、タイトルに“4”を含む「Ready4Summer」がたまたま4曲目だったり、“6番(ロクバン)“ の曲が 「lock down (ロックダウン)」だったり(笑)、そういう思わぬ仕掛けがMVも含めて散りばめられているんで、細かいところまで意識して聞いてもらえたら2度3度と楽しめるかな。


CHAPTERS CREAM

CREAM『CHAPTERS』

 
 
「普遍的な良さを持ったアルバムに」

——ひとつ前のアルバム『LOVE + PARTY』以降、シングルとしては「Tattoo」や「BESTIE」などもリリースされていますが、『CHAPTERS』に関しては全曲書き下ろしになっていますね。

Staxx T:良いことも悪いことも、この3年半の間本当に色々あったので、心機一転して、仕切り直したかったんですよね。気持ちを新たにというか。最近は「Tattoo」もまたたくさん聴いてもらえたりしていますが、ここはいったんゼロからフレッシュに作ろうと。

Minami:これまでCREAMはアルバムを3作出してベストをリリースするという流れでやってきてて、サウンド感もアルバム3つごとで近いものにしてきたんです。1st〜3rdのサウンド、4th〜6thのサウンドという風に。なので、今回、次の3作に向けた1発目の7thということで、新たなサウンド感やコンセプト、内容を構築しようとしたんですけど、やっぱりそれにすごく苦労しました。「キタ!次の3作もこれでいける!」っていうものを見つけるのって、やっぱりすごく時間がかかるんですよね。進化もしつつ、昔からのファンも楽しめる要素も必要で。そのコンセプトを見つけてからはけっこうスムーズだったよね?

Staxx T:そうだね。あと表現する内容自体もやっぱり変わったよね。これまではパーティー感が強かったというか、クラブに行って酔っ払ってバックレるみたいな(笑)。そういうのがCREAMのイメージかもしれないけど。

Minami:それもCREAMではあるんだけど、この3年半の中でライフスタイルもだいぶ変わったのもあるし、もちろん昔その時はそれがノンフィクションだったけど、今回の『CHAPTERS』では「クラブ、パーティー以外の日常」を中心に歌ってる曲が多くなってます。

——たしかに普遍性が増したと感じました。

Staxx T:自分たちの遊び方の変化がダイレクトに出てるかもです。昔みたいに毎晩パーティーじゃないけど、大人になって感じるフレンドシップの大切さとか、しょうもないことで彼女と喧嘩して仲直りの仕方がわからない、とか今の生活の中で感じることをCREAMらしく表現してます。

——そういう意味では、CREAMのリスナーの間口がさらに広まった作品と言えそうですね。

Staxx T:そもそもCREAMはクラブ主体の曲ばかりを作ってきたってわけでもないので、原点回帰みたいなところもありますかね。ヒップホップやクラブミュージックがベースにありながら、いろんなものを掛け合わせてCREAMならではのカラーにするのは、初期にYouTubeでカバーとかをしてた頃からやってきたことなので。「今までやってないことをやりたい」と「色々やってきたからこその引き算」を経て、今回は普遍的な良さを持ったアルバムにしたいなと思いました。

——今回お二人が見つけたという“7作目からの新たなサウンド感”を言語化するとしたら?

Staxx T:僕らリアルタイムがY2Kのヒップホップなんですよね。だから「fallin’ for you」のギターとか、Lloyd とAshantiの「South Side」のコードをギタリストに弾いてもらってそこに現行の808のベースとスナップだけ入れて今っぽく作ってみたり。最近はUSでもその頃のサウンドのリバイバルがよく見られますけど、一周回ってきてるのがそもそも自分たちが青春時代に聴いていて大好きなものだったりするので。今作ってて楽しいのはその辺のサウンド感なのかな。

——今回、弦のアレンジがかなり前に出てますよね。

Minami:それはStaxxが去年ギターをはじめたのもけっこう影響してるよね。

Staxx T:これまでギタリストとのセッションはたくさんしてたんですけど、それ以外にももっと自由にギターサウンドの曲を作りたいな、と思って、そこからですね。去年頭くらいからちょいちょい自分でギター入れてるものとかあって。鍵盤や打ち込みに加えて弦っていう選択肢もメインで考えるようになったのでCREAMとしての曲の幅が広がりましたね。

——幅の広さでいうと「Ohh La La」のゴスペルファンクとも言えるようなビートも新鮮でした。

Staxx T:そうですね、「Ohh La La」のようにトレンドやジャンル関係なくやってみようっていう曲もあります。

Minami:新しいサウンド感を見つけていく中で、作る曲がしっくりこなくて試行錯誤してた時期もあって。でもトレンドを意識しすぎないのも大事だなと。CREAMはトレンドの音楽を取り入れつつも、その中でオリジナルなスタイルを作ってきたグループなので。

 
 
「CREAMはCREAMらしく」

——昨年からお二人はソロ作もリリースされましたが、そこでの経験が反映されたりはありますか?

Minami:私はまだ始めたばかりですし、あまりないですね。Staxxはどう?

Staxx T:ソロでシングルを4、5作出しましたけど、僕もそこからCREAMに何か、というよりは、この3年半で過去の作品を振り返って、改めて客観的にCREAMを見つめ直しましたね。比較的新しい曲は「BANANA」とか「PLAYBOY」みたいなチャラめな曲がたくさんあったり、過去の作品には「the end」みたいな普遍的なバラードがあったりして。一貫して言う“CREAMらしさってなんだろう”っていう。で、今回たどり着いたのは、もはやExplicitマークをつけなくても大丈夫なクリーンな内容、それは10年経っても聴けるものだろうし、親や子供にも聴いてもらえるものになってると思います。

Minami:「BANANA」は親と聴くとしたらすごく気まずい(笑)。

Staxx T:『CHAPTERS』は家族と一緒に楽しめるよね(笑)。あと、本というコンセプトもあって自分たちなりのファンタジー感を演出しているので、そこに合わない露骨な言葉や表現を入れるのはやめようと。

——Staxx TさんはMABUさんやMC TYSONさんなど、他のアーティストとコラボしたりプロデューサーとして楽曲提供もされていますが、その時とCREAMの時は切り替えている感じですか?

Staxx T:それはもう全然別ですね。というか、その辺をごっちゃにしてた頃は割と迷っていたかもしれないです。あれもこれもやりたくて、CREAMでやろうとしたらハマらないなってものもあったりするので。今はビートにしてもCREAMに合うもの、他の方が合うものの違いが自分の中でクリアになってるし、もうCREAMはCREAMらしくやろうと。

——Minamiさんも、ちゃんみなさんなど他のアーティストと曲を作る時とは別ですか?

Minami:そうですね。もともとCREAMは男女のユニットで視点が二つあるから、一人のアーティストの場合とはその違いがあるんです。曲の中での「男女の関係性」もCREAMは色んなパターンがあって、同じテーマだったとしても男性目線と女性目線がある。それがCREAMで歌う曲の良さなので、CREAMではそこを大事にしつつ。ソロではもっとパーソナルな視点でストーリーが描かれてます。


CREAM

 
 
「待ってくれているファン、リスナーがいる」

——また、『CHAPTERS』は終わりから始まる物語ですが、CREAM自身の再生の物語でもあるのかなと感じたんです。独立を経て、新生CREAMとしてまた次のステージにたどり着いたような。

Staxx T:確かにそうかもしれないですね。そういうことをはっきり意識していた訳ではないんですけど、さっき言ったように心機一転して全曲新しく作るっていうのもそうだろうし。メジャーを抜けたからこそ分かることもたくさんあったり。

Minami:この3年半、立て続けに色んなことが起こりすぎて、落ちに落ちてもうムリだっていうとこまでいったんですけど、だからこそ逆に吹っ切れて全部がリセットできたっていうか。

——そういった紆余曲折があってもCREAMを続けることができているモチベーションというのはどんなところでしょうか?

Staxx T:やっぱり待ってくれているファン、リスナーがいるっていうのが一番大きいですよね。

——今回を機にお二人で話し合いも相当されたのでしょうか?

Minami:もう話し合いどころじゃないくらい。喧嘩もしたし(笑)。

Staxx T:音楽どうこう以前に、メンタル的にもね。

Minami:病んでた時にStaxxから言われて印象深かった言葉が「一回メンタル整えてもらっていい?」っていう(笑)。

Staxx T:とりあえず一回真っ直ぐしようって(笑)。

Minami:やっぱり病んでると声も出ないし、リラックスしてないと歌詞も書けないし、全部に影響するんで。

Staxx T:メンタルが崩れるようなことがありすぎたから、アルバムを作ろうっていうタイミングもなかなか難しくて。だから、今回アルバムを無事リリースできたっていうのは、ある意味でちゃんと心の整理ができたっていう証かもしれないです。先行曲含めて、リリースした瞬間から嬉しい反応が次々に届いて、リリースできて本当によかったと心の底から思いました。これだけ時間が空いても信じて待っててくれた人にちゃんと届けられたのが、とにかく嬉しいです。

 
 
活動10年、インディペンデントになった今

——また、本作はインディペンデントになってはじめてのアルバムですが、メジャーにいたころと比べてどういった違いを実感されましたか?

Minami:やっぱりスタッフが限られるんで、全部自分たちで決めて対応しなくちゃいけなかったり。

Staxx T:あとバジェットも全て自分らの持ち出しということも。

Minami:なのでメジャーにいた時の感謝の気持ちも深まった一方で、どうやったらもっとサクセスできるかっていうことに対して、より二人で真剣に向き合うようになりました。

——独立して最もポジティブなことは?

Minami:やっぱり自由なこと。自分たちのタイミングで好きなことができるし、自分たちがお金をかけたいところにお金をかけられる。例えば、ビデオの収録も自分たちのさじ加減でコントロールできたり。

Staxx T:メジャーの頃もだいぶ自由にやらせてもらってたんですけど、やっぱり最後の決定権は自分たちには無かったので。もちろんそれに良し悪しあるとは思いますが、いずれにせよ今は成功しても失敗しても全て自分たちの責任だっていうのは実感しています。

——プロモーションも自分たちでということになりますよね。CREAMの初期はYouTubeの『CREAMVISION』で注目を集め、先がけてデジタルの活用をされていたイメージがあります。そこから様々な新しいサービスも登場しましたが、現在SNSの活用に関してはどう考えていますか?

Minami:サービスのトレンドの移り変わりも早いんで、どれかにフォーカスし過ぎても逆に柔軟性がなくなる気はしています。例えば、今TikTokすごいですけど、そこだけにフォーカスするのもちょっと違うなと思いますし。やっぱり、まずは良い曲を作って、それを気に入ってもらって勝手にどんどん使ってもらう、広まるっていうのがベストかなって。

Staxx T:SNSベースで流行っているアーティストは、それはそれで本当にすごいことだと思います。ただ、CREAMとしてはアルバムも今回7作目でキャリアもだんだん長くなってきている中で、TikTokで流行りそうな曲を作ろうとかよりは、今SNSが全部なかったとしてもこの曲良いよねって言われるものを作り続けていたい。そこが普遍性にも繋がってくると思うし。世代を問わず何かのきっかけで曲に触れてもらった時に、ちゃんと良いと思ってもらえるものを作ってることが大事なのかなって。

Minami:そうだね。TikTokは私的な印象でいうと、ビハインドザシーンとかの方がよく流れてくるイメージかも。

Staxx T:結局ミュージシャンがやらなければならないことって、良い曲を作って、良いビデオを出して、良いライブをする。やっぱりこういう昔から変わらない部分がいちばん大事だと思うんです。それ以外のことに注力しすぎて、曲もアーティストとしても消費されてしまったら音楽活動をするにおいては元も子もないかなと。

——CREAMの最初のリリースから今年で10年という節目のタイミングですが、10年間活動してきてことに関して、現在の率直な心境を教えてください。

Minami:活動を10年間続けることがどんなに大変なことか、本当にいま実感しています。デビューした当時、キャリアの長いアーティストがどれだけすごいかは分からなったんですけど、いま自分たちで10年やってきて、本当にいろんなことがあって、続けることが一番難しいことなんだなって感じています。

Staxx T:僕も本当にそう思いますし、10年経っても未だに毎日が勉強だなって感じています。もっと新しいものをたくさん作りたいなといつも思うし、死ぬ直前まで成長しながら作っていきたい。もうこれ以上いいもの作れないってなったら音楽やめるんでしょうけど、まだ全然そうじゃない、早くもう次のアルバム作りたいくらい(笑)。ここからさらに楽しくなると感じています。

——では最後に今後の予定をお願いします。

Staxx T:まずはこの夏、アルバムからMVをいろいろ出そうと思っています。夏フェスも決まっていて、年明けあたりになるかもですが、ワンマンも考えています。

Minami:『CHAPTERS』を100%楽しんでもらうための色んなアプローチを準備してるんで、お楽しみに!



 
 
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