KIRINJI インタビュー | 新レーベル・syncokinから発表したアルバム『Steppin’ Out』は冷静でポジティブなKIRINJIの現在地点を刻み込んだ傑作

インタビュー
2023.9.15

「不恰好な星座」は喪失を乗り越える歌

——サウンド的には次の「不恰好な星座」がすごく好きです。

この曲は、今年の1〜3月にかけてたくさんのミュージシャンが亡くなりましたよね。高橋幸宏さん、坂本龍一さん、バート・バカラックも。あまりにも立て続けだったので、ちょっと驚いたんです。それを歌にしようと思って作った曲ですね。それまで夜空の風景の一部として輝いていたものが消えていくけど、僕らはその夜空を見慣れるんです。そうしないと生きていけない。喪失を乗り越える歌です。実はこの曲、最初はバラードというか、もっと遅いミドルテンポだったんですよ。でもこういう歌詞だからメソメソした感じになるのは嫌だなと思って。それまで書いてたメロディは全部なしにして、詞を残して新たに曲を全部書き直したんです。

——そんな作り方もされるんですね。自分の頭の中である程度完結したものを、また1から作り直すのって難しそうです。

僕もこんなやり方は初めてですよ。難しいし、大変だし、めんどくさい(笑)。でもしょうがない。自分が納得できないから。アフリカっぽいグルーヴから連想される景色って壮大じゃないですか。スケールデカい、その広がっていく感じがいいなと思って。最初はもっと生っぽい演奏のアフロファンクだったんです。でもなんか面白くないなと思って、ベースを生からシンセの打ち込みに変えたんですね。そこから全体をエレクトロっぽい雰囲気に変えていって最終的にこうなりました。

——「死は優しくおごそか/雨はそっとあたたかく/あなたがいてよかった/さよなら」で終わるから、これが生ベースだと確かにかなりイメージは違いますね。

そうなんですよ。こういう歌詞だから、音はバランスを取らないとセンチメンタルすぎちゃう。

——最後「Rainy Runway」も頭の歌詞がすごいですね。

そうですね(笑)。これも「プレイバック」って言葉とメロディがバチっとハマったとこから膨らませていきました。

——そういう作り方が多いんですか?

いつもではないですよ。「不恰好な星座」みたいに詞を先に書く場合もありますし。テーマを決めて作ることもありますし。

——「不恰好な星座」は詞先だったんですか?

そうです。で、「Rainy Runway」に話を戻すと、「プレイバック」という言葉から何をプレイバックしてるかみたいなことから考え始めました。同じ曲を何回も聴いちゃったり、惰性で同じ映画を何度も観ちゃったり。そういうときって新しいものを摂取するエネルギーはないから、とりあえず、みたいな感じじゃないですか(笑)。頭使わなくていいというか。でもこの曲は「そこに陥っていませんか?」って曲ですね。

——耳が痛い(笑)。

そもそもはこの曲を6月にリリースすることが決まってたから、梅雨でずっと雨降ってるけど表に出ようっていうのが最初のアイデアだったんですよ。もう部屋の中にいるのは飽きてるんだよねっていう。これを聴いた人は、雨をコロナ禍と比喩していると解釈した方が多かったようなのですが。

 

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この記事の執筆者
宮崎敬太
音楽ライター、1977年神奈川県生まれ。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」での編集/執筆/運営を経て2015年12月よりフリーランスに。2019年に「悪党の詩 D.O自伝」の構成を担当した。また2013年にも巻紗葉名義でのインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』も発表している。