KIRINJI インタビュー | 新レーベル・syncokinから発表したアルバム『Steppin’ Out』は冷静でポジティブなKIRINJIの現在地点を刻み込んだ傑作

インタビュー
2023.9.15

弾き語りツアーを経て、ずっと腰が引けていた歌と向き合えた

——そしてツアーへ。まず弾き語りツアーがあるんですね。

はい。バンドだと予算や集客的に難しい都市にも細かく行けると思って、去年からスタートしました。

——完全に1人ですか。サポートもなし?

そうです。Cow and Mouseっていうイベンターがいて、彼らはいわゆるライブスペースではない、お寺とか重要文化財とか教会みたいな趣のある建物でライブを組むのが得意な人たちなんです。この弾き語りは、会場含めて結構面白いと思いますよ。PAさんはすごく大変みたいだけど。音の鳴りが会場ごとに全然違うから音の芯を掴みづらいらしくて。ワンワンに音が回っちゃう会場でやった時は、PAさんに「高樹さんは早口だから、MCはゆ〜っくり喋ってください。じゃないとお客さんが何言ってるか聞き取れないです」って言われました(笑)。楽屋とかも面白いんですよ。普通の人ん家みたいなとこだったり。あと昔の芝居小屋だったとことか。そこは冷暖房がないんです。去年は10月にそこでやったんですけど、とにかく寒くて(笑)。

——バンド公演も含めると結構長いツアーですね。

2020年に予定してたけど、コロナですっ飛んでしまったツアーがあったんで、今回はそれを実現させてみようという感じですね。バンドメンバーもすごい人たちばっかりです。

——ファイナルの沖縄公演はクリスマスイブなんですね。

「沖縄でクリスマスイブ過ごそうぜ」って相当チャラいワードですよね(笑)。ちゃんとお客さんが来てくれるか心配なんですけど、個人的にはすごく楽しみにしてます。

——では最後にコロナとの向き合い方も少しずつ変化してきた今、高樹さんにとってここ3年間はどんなものだったと思いますか?

僕はライブで食べている人間じゃないから、そういう方たちと比べるとロスしたものは少ないかもしれない。むしろ新しいことや今までやってこなかったことに挑戦できた時間だったかも。特に去年始めた弾き語りツアーが大きかったんですよ。実は僕、一人になってから歌うことに対して腰が引けてたんです。でも弾き語りツアーで、そんな自分と向き合わざるを得なかったんですよね。どうやったらもっとうまく歌えるか、どうすればもっとうまくギターを弾けるか、みたいな。そういうのも今までやってこなかったんですよ。

——歌に腰が引けてたというのは意外です。

そこを弾き語りツアーで鍛えられました。例えば今回のアルバムの「Runner’s High」みたいな高いところを地声でスパンと張る歌い方なんて、昔はできなかったですから。そういう成果はあると思う。僕も、この歳になっても新しくできることがあるのかって驚きましたもん(笑)。なので、ぜひみなさんアルバムを聴いて、ツアーにも遊びに来てください。

 

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この記事の執筆者
宮崎敬太
音楽ライター、1977年神奈川県生まれ。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」での編集/執筆/運営を経て2015年12月よりフリーランスに。2019年に「悪党の詩 D.O自伝」の構成を担当した。また2013年にも巻紗葉名義でのインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』も発表している。