挫・人間 インタビュー「幸福って、やっぱり苦悩の先にしかない」 生々しいロックを体現した最新作『銀河絶叫』が描くハッピーエンド
失われていくものがそこにあったことを証明する歌
——ちなみに、『銀河絶叫』というタイトルにはどんな意味が込められているのでしょう?
これはAIが考えました(笑)。挫・人間のコピーバンドの名前を遊びでAIに作らせたことがあったんですよ。そこで出てきたのが『銀河絶叫』で。「ダッサ!なにそれ!」って笑ってたんですけど、今回アルバムを録り終わった時に、ふとその事件を思い出して。
——期せずしてカッチリとハマりましたね。特にオープニングの3曲(「セイント・ギロチン」「教祖S」「未来・挫・フューチャー」)は文字通り絶叫しまくりで。
よく叫んでますよね(笑)。なんか若々しい。
——こういったラウドな側面がフィーチャーされた楽曲では、声児さんのベースプレイが冴え渡りますね。
ベース、上手いですからね。
——やっぱり、レッチリからの影響が大きいんだなと感じます。
フリーみたいな瞬間がありますしね。声児は酔っ払うと路上で寝て一切反応がなくなるんですけど、レッチリの「Stone Cold Bush」を流すと寝たまま立ち上がって歩き出すんです(笑)。そのくらいレッチリが好きで。
——5曲目の「俺だけがZU・BU・NU・RE……」はリード曲にもなっています。歌謡メタル的なアプローチが新鮮な一曲ですね。
これを面白いと思ってくれる人はセンスがあると思います(笑)。今までやったことないような曲だし、パンチありますよね。ヴィジュアル系みたいな。これはタイトルがパッと頭に浮かんで、その瞬間に色んなイメージが沸いてきたんです。「ZU・BU・NU・REだ」と叫びたいし、Aメロはマイナーコードでいきたいし。それをメンバーが見事に形にしてくれて。イントロのギターとかも、ダサすぎてビックリしますよね(笑)。そんなのよく思いつくなと。
——下川さん自身は、ヴィジュアル系にルーツがあるんですか?
DIR EN GREYとかcali≠gariが大好きなんですよ。この曲は全然そんな風にはなりませんでしたけど(笑)。僕らが子どもの頃って、よくヴィジュアル系バンドがアニメ主題歌をやったりしてたじゃないですか。その血が騒いだ感じで、声児もノリノリでした。
——6曲目「ストリップ劇場の恋」はフィクショナルな楽曲ですけど、アルバムのピースとして自然にハマっている楽曲です。
やっぱり僕は、失われていくものに対する気持ちが強いんですよね。ストリップ劇場みたいな場所も、いまどんどん清浄化されていて。僕はそういう、お茶の間で存在しないことにされていく、時代に取り潰されていく存在を、できるだけ歌にして残したいんです。福岡の小倉にA級小倉劇場っていうストリップ劇場があって、一度行ってみたかったんですけど、コロナの影響もあって閉館してしまったんですよね。なので勝手に、A級小倉劇場であったらいいなという物語を、ストリップダンサーになったつもりで歌ってます。
——8曲目「かっこよくなりたい」は、グルーヴィーなアンサンブルと下川さんの語りで構成されるインパクト抜群の一曲です。どのように制作されたのでしょう?
キョウスケが作ったギターのフレーズをみんなで膨らませたんですけど、どう歌を乗せれば良いか悩んでて。結局、お題に沿って即興の一発録りでやることにしました。「かっこよくなりたい」をテーマにしたフリースタイルです。だから、甘噛みしたりしてるんですけど。
——下川さんがバンドや音楽にこだわる理由が表れてますよね。「かっこよくなりたい」からなんだと。
それ、すごい大事ですよね。挫・人間はそこを誤解されることが多いけど、バンドってカッコつけることですから。飾る余裕もない言葉で、バンドの美学の話をしています。
——10曲目「ここにいないあなたと」は、胸が締め付けられるような曲で。こちらはやはり、吉田さんに宛てられた曲ですよね。
もう一度吉田と一緒に挫・人間をやろうっていう会議をしてた時に電話がかかってきて、それが吉田の奥さんからの彼が亡くなったっていう報告だったんですよね。それですべてのバランスが一度崩れちゃったんですけど。でも今思うのは、彼がいたことをちゃんと歌っていかなきゃいけないなってことで。彼が生きていたことを証明できる人は、これから減っていく一方なんですよね。それを僕が伝えていきたい。そういう永遠を背負うことには責任が伴うなと思いつつ、その決意として腕に「吉田拓磨」のタトゥーも入れました。
——締めくくりの「アンチ 神 嫌いだ 殺したい forever」というフレーズからは、率直で切実な思いが垣間見えます。
理不尽な現実に、納得してると思われたら癪だなと思って。綺麗に終わらせられるような気持ちじゃないですから。受け止めるけど納得はしないって、神に対して言っておきたかったんです。