TORIENAインタビュー 「みんなにとっての『圏外』が、私にとっての『安全圏』」 シューゲイザーを取り入れた新作アルバムに込めた思い

インタビュー
2024.11.8
TORIENAインタビュー 「みんなにとっての『圏外』が、私にとっての『安全圏』」 シューゲイザーを取り入れた新作アルバムに込めた思いのサムネイル画像

ゲームボーイ実機で楽曲制作・ライブを行うチップチューンアーティストとしてキャリアをスタートさせ、Kawaii Bass Musicの隆盛と手を取り合いながらスケールアップ、2020年のアルバム『PURE FIRE』以降はハードテクノに傾倒し、毎年目の覚めるような快作を放ち続けているTORIENA。そんな紆余曲折のプロフィールすらも過去に追いやってしまうのが、9月25日にリリースされた10枚目となるニューアルバム『圏外』だ。全13曲の中で、エレキギターという新たな相棒とともにシューゲイザーやミクスチャーロックを含む多領域を横断。怒りを動力源にしてコロナ禍以降のミュージックシーンをサバイブしてきた彼女が、その裏に隠していた弱さや本音を密やかに打ち明ける。新境地に至るまでの道程と、同作に込められた思いを聞いた。

 
取材・文 : サイトウマサヒロ

 
 
楽曲という自分の分身が、リスナーに寄り添うことを祈って

——今年の3月ごろから、エレキギターをライブセットに取り入れていますよね。

これまではDJミキサーに自分のPCを繋いでライブしていたんですけど、傍から見た時にDJとの区別が付かないよなって常々思ってたんですよね。キャリアをスタートさせてからずっと、基本的に全部自分自身で作詞、作曲、編曲、ミックスやマスタリングをしてるんですけど、イマイチそれが伝わってない感じ。だから、「曲を作ってますよ」っていうのを視覚的に訴えたかった。そこでエレキギターを今やってみても良いかもしれないと思って、今年の2月ごろにフェンダージャパンのジャズマスターを買いました。

——ギターを手にするミュージシャンに対するピュアな憧れのようなものも、その動機になっているのでしょうか?

実は中学生の時に、エレキギターが欲しくてお母さんに相談したことがあるんですよ。そしたら「エレキはちょっと……」っていうことで、アコギを買ってもらって。でも、当時の私にはあんまりしっくりこなかったんです。 Daft PunkとかThe Prodigyとか、バンドっぽい要素が入ってる電子音楽が好きだったので。その後も、Melt-BananaとかLightning Boltみたいなサウンド感にハマったりしたし。ああいうバリバリした音を、ギターを持って鳴らしてみたいっていう気持ちはずっとありました。実際、2020年の『PURE FIRE』以降はエレキギターのサンプリングを取り入れたりしてたんですけど、やっぱり自然なフレージングにはならないというか。そういう意味での説得力も欲しかった。

——新しい機材を取り入れるときに、理屈より先にまずは「触ってみたい!」という欲望が先立つタイプだったりしますか? もしかすると、TORIENAさんが最初にゲームボーイで楽曲制作を始めた時の感覚と、今年ギターを手にした時の感覚は案外近いんじゃないかなと思って。

確かに、昔からそうかもしれないですね。楽曲を作る時って、明確なプランがあって始まるっていうよりは、なんとなくダラダラ楽器を触ったりDAWを触ったりする中でイメージが湧いてくることが多いので。今回もまずはギターを弾いてみて、DAW上でカットアップしたり、ギター用じゃないVSTを挿してみたりしているうちに曲が出来ていきました。

——そうしたトライアルが今回のアルバム『圏外』に繋がっていきます。どのようなコンセプトで制作された作品なのでしょうか?

幼少期から、自分が良いと感じたものを誰かに共有できないっていう疎外感を感じてたんですよね。みんなが盛り上がってるものに興味を持てないし、逆に私が好きなもののことをみんなが知らない、みたいな。音楽を始めてからは、どのシーンにも馴染めない感覚があるし。でも、そんな私と同じようなことを感じてる人が、地球上のどこかにはいるんじゃないかなと思うんです。だから、そういう人が布団の中に潜って楽しむような位置付けのアルバムを作りたかった。タイトルには「みんなにとっての『圏外』が、私にとっての『安全圏』なんだ」っていう思いを込めていて。『安全圏』とどっちにするか迷ったんですけど、『圏外』の方がひねくれてて私っぽいかなと。

——昔の自分のようなリスナーに捧げる一枚でもある?

そうですね。私はできるだけ出会った人ひとりひとりに寄り添いたいと思ってるんですけど、現実では深く全員と向き合うことなんて無理じゃないですか。でも、楽曲っていう自分の分身を作って、そこに嘘のない思いを込めることによって、なるべく多くの人と深く関わって生きたいという願いが叶うなって前々から思ってて。その気持ちの集大成だと思える作品です。今までのアルバムはクラブユースも意識しながら作ってたんですけど、今回はそれをあんまり考えてない。だから結構ミクスチャーで、ミックス・マスタリングで整合性を取るのが難しかったんですけど。

——確かに、近年ハードテクノを軸に突き進んできたTORIENAさんにとって、これまでにない振り幅の作品ですよね。シューゲイザー、ミクスチャーロック、HIPHOP、アンビエントなど……。

とても商業的なアルバムではないと思ってます(笑)。クラブミュージックをやっていると、ジャンルの括りで語られることがしばしばあるじゃないですか。でも、私にはあんまりそのこだわりがないっていうか、昔から「この曲のここの8小節が好き!」みたいな、断片的な好みで聴くことが多くて。そもそも音楽を始めたきっかけの一つが、自分の好きな要素だけを集めた曲が聴きたいからでもあったので。その感覚のままアルバムを作ったって感じですね。

——TORIENAさんって、クラブやライブハウスの現場で得たものを作品に貪欲に取り入れてる印象があるんですよ。だから今作におけるサウンドの幅広さは、ライブ活動の拡充が反映された結果でもあるのかなって。ロックバンドとの共演や、『AVYSS Circle』『Crash Summer』といったオルタナティブなイベントへの出演が近年は増えてますよね。

それこそ2020年以降は出るイベントもどんどん変わってて。以前一緒に曲を作ったFalling Asleepとか、今年共演したmizuirono_inuとかのライブを見ると、「すごいな、カッコいいな」って刺激を受けますし。そういった影響は無意識に表れてるかもしれないですね。
 

 

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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。