HAZUKI(lynch.)インタビュー 「自分の想像に追い付けた作品」ソロ2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』で掴んだ自由と可能性

インタビュー
2024.11.21
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ロックバンド・lynch.の葉月(Vo)が、ソロプロジェクト・HAZUKIとしての2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』を10月23日にリリースした。lynch.のメインコンポーザーとして長年に渡り硬派なラウドロックを求道しつつ、単独名義では妖艶な歌声が映えるクラシックなスタイルを打ち出してきた葉月。2022年に発足させた本プロジェクトでは、そのいずれとも異なるオリジナルの音楽を生み出してきた。

1stアルバム『EGØIST』を携えた精力的なツアー活動の後に放たれた本作は、やんちゃで無邪気な音遊びを展開しこれまでのキャリアに縛られない柔軟性を発揮しつつ、ライブをイメージしたアグレッションはほぼ全編で全開。lynch.では為し得ず、同時にHAZUKIだからこそ為し得る、自由ながら一本筋の通った力作となっている。lynch.と異なる活動スタイルや、新たな可能性を広げた今作の制作について、話を聞いた。

 
取材・文 : サイトウマサヒロ
 
 
HAZUKIでは閃きを大切にしたかった

——lynch.での活動とHAZUKIとしての活動では、マネジメントなどの体制が異なるのでしょうか?

全然違いますね。HAZUKIでは、予算面とかもしっかり把握して決めていきたいなっていう思いがあって。外向きに遠くに届けるというよりは、自分の好きなことをより納得のできる形で続けていきたかった。だから、最初から絶対インディーズでやっていきたいって考えてました。lynch.もかなり自由にやらせてもらってはいるんですけど、やっぱり会社が大きいですから。たとえば、リリースの話が進んでいく中でふとアイデアが思いついても、「もう遅いよ」っていう状況になっちゃう。ソロではそういう閃きのようなものを大切にしたかったので、少数精鋭の体制で伸び伸びとやってます。

——では、クリエイティブ以外の面でもHAZUKIさん自身が舵取りをしている?

そうですね。lynch.にも昔から関わってくれている信頼の置けるスタッフと、主に二人で舵を取っています。たとえば昨年9月にリリースしたシングル「逆鱗」はあえて流通に乗せず通販だけでやってみようとか、柔軟性を持って色々なことを試せています。

——音楽的な挑戦はもちろん、マーケティング的な挑戦も続けていると。

はい。まあ、音楽に関してはlynch.も特に縛りなくやってるんですけど、やっぱりソロにはまだ色がないので。「HAZUKIはこうあってほしい」というイメージがない状態から始まるから、最初は自由すぎて困ったぐらいですね。曲を作っても結局lynch.っぽくなっちゃうっていう葛藤もありました。でも、色んなものを取り入れて曲作りをしていくことで徐々に自分の枠が広がってきて、最近はその悩みもなくなってきましたね。最近はボカロ系の曲が割と好きでよく聴くんですけど、あの界隈って曲の展開やアイデアに「なんじゃこれ、スゲえな!?」って意表を突かれることが多いので、それを参考にしてみたり。やってみると意外と自分に合うな、って気付くことは結構あります。

——HAZUKIの始動当初はlynch.が活動休止中でしたけれど、現在はバンド本隊もアクティブな状態となっていて。そうなると、HAZUKIというプロジェクトの立ち位置にも変化があったんじゃないかなと思ったんですけれど。

どうですかね。今はlynch.とHAZUKIが交互に動いている状態で、バンドが戻ったからソロの規模が縮小したということもないので、特に何か変わったということはないですけれど。ただ、HAZUKIのツアーを回ってからlynch.のツアーが始まると、肩の荷が降りる感覚はあります。やっぱりメンバーがいるから、上手と下手は彼らに任せておこう、みたいな。ソロは全員が自分のお客さんで、あっちこっちに回らないといけないですからね(笑)。

——リフレッシュを繰り返しつつ続けている状態なんですね。

うん。どちらにも良いところがあるので、両方を楽しみながらやれてると思います。

 
 
遊び方を身につけた2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』

——この度リリースされた2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』について、明確なテーマはありましたか?

テーマとしては、相変わらず好きにやるってだけなんですけど。ただ、その幅を前作よりもだいぶ広げられるんじゃないかっていうのは、去年の夏の『BURST SUMMER TOUR’2023 “反逆ノ行脚”』を回っている段階から思っていて。その時の自分の想像にちゃんと追い付けた、満足できる作品になったと思ってます。

——前作以上に、「lynch.では出来ないこと」が意識されているような印象を受けました。

前作の頃には無かった色が加えられてますよね。特に「MOONLIGHT SLAVE」「QUEEN」「AMEN」あたり。HAZUKIを始めた当初は、どこまで遊んでいいのかがわからなかったんですよ。でも、ツアーのどこかで「もっと幅を広げてもよく見せれるぞ」って思えた瞬間があって。楽曲はもちろん、ステージングにしろMCにしろ、「HAZUKIってこうじゃなきゃダメ」がどんどんなくなっていった……なくなるだけじゃダメだと思うんですけど、幅の広げ方がわかっていったっていうイメージです。

——振り幅がある一方で、どの楽曲にもライブ映えする要素がふんだんに盛り込まれていますよね。

それは制作する上で絶対に意識してることですね。ライブで演奏する前提で曲を作ってますから、いまいちピンと来ないイントロとかは絶対嫌なので。盛り上がるポイントをわかりやすくするというハードルを常に設けています。

——そのライブ感、バンド感の向上には、ツアーメンバーとの結束も影響しているのかなと。

前作は色々なミュージシャンにお願いしてあれもこれも試してみて、HAZUKIで何ができるかを知っていく作業をしてたんですけどね。今年の春の『INSANE SPRING TOUR’2024 “惨逆ノ行脚”-the encore-』がようやく声出しOK・フルキャパで、コロナ禍の鬱憤を晴らすようなツアーだったので、そこでバンドとしての結束力が高まって。僕としては、HAZUKIでは固定のメンバーにこだわるつもりはないんですけど、今回はツアーを回ったメンバーだけで作ろうっていう話になりました。

——各収録曲についても詳しく教えてください。4曲目の「魔ノユメ」はリリースに先駆けてMVも公開されていましたが、本楽曲を今作のリードトラックとした理由は?

それは、スタッフやPABLO君からも絶賛だったので。普段曲を作る時は、リフやメロディ、構成を脳内で整理してからパソコンに向き合って音に起こしていくんですけれど、「魔ノユメ」はその脳内ストックになかったんですよね。なのに、ギターを触っていたら急にこの曲のリフが出てきたから、そのままの流れで作っちゃって。リード曲として狙って作ったわけではないんです。自分がよく言われる「エロい」っていうイメージをMVに落とし込めそうな曲でもあったし、『MAKE UP ØVERKILL』=メイクして着飾ることを武器にしてるんだというアルバムのコンセプトにマッチするという点も含めて、これはリードにするのがいいなと思いました。
 

 
——続く5曲目の「霊蕾-laylay-」は、先ほどHAZUKIさんがお話されていた「ボカロ感」を匂わせる一曲ですね。

そうですね。この曲は、幅が広がる大きなきっかけになった一曲です。僕としてはサビの転調がボカロ曲らしさなのかなと思っていて。ああいう転調は今までやってこなかったし苦手だったんですけど、取り入れてみたらすごくハマった。「俺、こんなことできるんだ」って驚きましたね、

——今作には、HAZUKI発足当初からタッグを組んでいるPABLOさんが単独で作曲を手がけた楽曲も収録されています。その一つが6曲目「MOONLIGHT SLAVE」ですが、こちらはどのような経緯で制作されましたか?

これはもう、とにかくニュー・ウェーヴをしっかりやりたくて。ただ、僕は最近よく聴いてて好きなジャンルなんですけれども、ルーツにあるわけではないので、元々そのルーツを持っているPABLO君にお願いして作ってもらいました。とはいえ、構成やメロディは一緒に考えているので、完全に他人の曲だという意識もないです。

——そういったリアルタイムなHAZUKIさんの興味を創作に反映できるスピード感は、HAZUKIというプロジェクトならではのものなのでしょうか?

うーん、どうですかね。でも、lynch.でニュー・ウェーヴをやったとして、同じものは出来ないですよね。バンドの場合はメンバー以外の人間を入れずに自分達だけで完結させたいから、時間もかかるだろうし。「餅は餅屋に任せよう」ができるっていう意味では、HAZUKIのフットワークは軽いですね。

——別のコンポーザーが手がけた楽曲を歌うことで、ボーカリストとしての新たな一面が引き出されることもありますしね。

そうですね。「MOONLIGHT SLAVE」の歌い方は今までやったことがないと思う。口の形のちょっとした違いとかなんですけれど、ある意味で古臭い歌い方を研究しながら録れたので、引き出しが増えた感覚があります。

——ラストを飾る「LOVE SONG」も、同じく作曲にPABLOさんが単独クレジットされています。

曲がある程度出揃ってきた時に、スタッフと「バラードは無いの?」っていう話になって。僕は切ない系のバラードを書くのが得意なんですけれど、そうではなくもっと壮大で、優しさや温かさがある曲が欲しいなと思い、PABLO君にお願いして作ってもらいました。この曲、めちゃくちゃPTPですよね。だから、そこに自分の声が乗ってるのが不思議です。昔から聴いてくれてるファンの人には、色々な思いで受け取ってもらえるんじゃないかな。

——その他に、HAZUKIさんが新しい挑戦を実感できた楽曲はありますか?

わかりやすいのは「QUEEN」ですかね。ごった煮というか、闇鍋みたいな曲だと思うんですけど(笑)。ふざけて小鼓の音と歌舞伎の掛け声を入れたら面白くなっちゃって、「コレだ!」と。その音色に引っ張られて歌詞でもかなり遊べたので、すごく好きな曲ですね。ライブでもめちゃくちゃ盛り上がると思います。

——なるほど。作詞に関しては、lynch.とHAZUKIで意識の違いがあるのでしょうか?

いや、あまりないと思いますね。でも、曲が違うから自然と出てくる言葉が違うんですよ。僕は、伝えたいことありきで歌詞を書くことがないんです。伝えたいことがあったらとっくにTwitterに書いてるから(笑)。歌詞は、曲のイメージや世界観をより広げるためのパーツであり、メロディをより良く聴かせるための素材だと思ってて。だから、曲を聴いた時のイメージから歌詞を書き始める。それはlynch.でも変わらないんですけど、lynch.の方が音が硬派でハードだから、自ずと歌詞もそうなっていきますね。

——わかりやすいところで言うと、「東京彩景 -TOKYO PSYCHE-」のように具体的な場所や時代を連想させる言葉選びはHAZUKIさんにとって珍しいと思いました。

確かに「東京」って言うのは珍しいですよね。サビのメロディが出来た時に、「東京PSYCHEDELIC」っていうフレーズが頭に浮かんじゃったんですよ。その時は「『東京』て……」と思ったんですけど。でも、「待てよ、この部分をツアーで各所の地名に変えたらめちゃくちゃ盛り上がるぞ」って気付いちゃって。別に東京が好きだからとか、そういうわけではないんです。

——ここまでは作詞作曲や編曲についてお話を伺ってきましたが、サウンドメイクの面でこだわった点はありますか?

あるにはあるけど、言葉にするのは難しいですね。

——たとえば、それこそ「MOONLIGHT SLAVE」は直球のニュー・ウェーヴですけど、スネアの鳴りには鋭さが残っていたりしますよね。

確かに、当時のニュー・ウェーヴほどスカスカの音ではないですもんね。

——そういった音作りの結果として、本作が単なる「HAZUKIが色んなジャンルの曲を歌ってみた」ではない、幅広くもHAZUKIというプロジェクトとしての芯が通った作品になったのではないかなと。

なるほど。そこはエンジニアのЯyo(girugamesh)君に任せてる部分でもありますね。僕からオーダーするのは歌に関する部分が多いので。ただ、楽曲のキャラを立たせるために、バンドサウンド以外のノイズを入れたりとかはこだわりました。あとは、「東京彩景 -TOKYO PSYCHE-」だけドラムが打ち込みで。逆に「霊蕾-laylay-」は打ち込みで作ってたけど生で録り直しました。そこに明確な理由があるわけではないけれど、感覚でチョイスしてますね。

——確かに、「霊蕾-laylay-」でボーカロイド楽曲からの影響をもっと打ち出すなら、もっとパキパキの音に仕上げてもいいですもんね。そこにあえてオーガニックさを残したという。

別にボカロ系をそのまんまやりたいわけではないですからね。自分の色を混ぜて、もっとよくわからないものにしたいじゃないですか。
 

 

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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。