HIPPYインタビュー 最新アルバム『ひろいしま』で広島から全国、そして世界へ届ける願いとエール
「ぼく」ではなく「ぼくら」の応援ソング
――そういった地元への強い思いを感じさせる曲はもちろん、HIPPYさんらしい応援ソングも多数収録されていますね。代表曲の「君に捧げる応援歌」もピアノバージョンで再録されています。
シンプルに、しっかりと歌を届けるバージョンがあってもいいんじゃないかと思いまして、歌詞もメロディも輪郭をハッキリと描いて歌わせてもらいました。ピアノだけの伴奏だと、僕のブレスすら歌になる。その空気感と生々しさはマイクに残して、ファーストテイクくらいの勢いでレコーディングしました。もう一回これを歌えと言われても歌えないような歌をパッケージしてます。
――「君の笑顔」もピアノでリアレンジされています。
熱いエールソングで注目してもらっていますけれど、こういうピースフルで軽快な楽曲もありますよっていう。僕のライブは、0歳代から100歳代まで老若男女に見てもらいたいんです。それこそ、スポーツの現場みたいな。だから楽曲の幅は大事にしたくて。子どもたちにも一緒に口ずさんでもらったり、楽しんでもらえるような楽曲も収録しました。
――トーンを抑えた楽曲でじっくりと歌を聴かせる楽曲が数多く収録されているのは、長年のキャリアに裏付けられた自信の表れでもあるのでしょうか?
確かにそうかもしれないですね。改めて今、歌を聴いてほしいという思いはあります。「君に捧げる応援歌」で知ってもらった方にも、これまで挑戦してきた色んなジャンルの良い曲があるんだぜっていうのを伝えたくて。色んなHIPPYの歌声を楽しんでもらいたいです。
――「君に捧げる応援歌」目当てで再生した人に、別の角度から見たHIPPYさんの魅力が伝わるかもしれない。
そうですよね、本当に。最近は配信で一曲一曲出していくパターンもありますけど、やっぱりアルバムによって出会う楽曲がたくさんあるので。「君に捧げる応援歌」をきっかけにこのアルバムを買ったとしたら、残り10曲を知ってもらえることになるじゃないですか。一曲当たるなんていうのは本当にご褒美でしかないので、これからもアーティストとしてやりたいことをやりながら、次のヒットを待ちつつ制作を続けていこうと思っています。
――アルバムのラストを飾る「ぼくらのスタートライン」は、7月22日に開幕したインターハイの応援ソングです。歌詞は広島県高校生活動推進委員会の学生とともに作り上げたそうですね。
インターハイを支えている推進委員のみなさんが歌詞になるキーワードをたくさん集めて、思いを僕に託してくれました。最初に連絡をもらったのは2年前だったので、高校1年生だった彼らとともに青春を過ごしたような気持ちで、けっこうエモーショナルなんですよ。コロナ禍でできなかったことがたくさんあった世代でもあるので、それを乗り越えた先を意識したフレーズもたくさんあって。
――ただ、それでもインターハイはゴールではなくあくまでスタートラインだと。
僕自身、今から10年前、活動を始めてから15年かかってようやくデビューできたんですよ。でもその時に、「これでゴールだ」と思っちゃって、それをすごい後悔してるんです。そこからがスタートなんだって気付くまでに時間がかかったから、色んな動きが後手後手になっちゃったし。デビューしたら勝手に売れると思っちゃって……(笑)。そういった経験が今の僕の栄養になってもいるんですけれど、その気持ちをようやく曲に落とし込むことができて、本当に良い機会をいただけたなと思います。
――今のHIPPYさんだからこそ歌えるメッセージを込めつつ、高校生たちのリアルな言葉を盛り込んだ楽曲なんですね。
そうですね。今までの応援ソングは自分のドキュメント的に書いていた部分もあったんですけど、今回は色んな学生さんたちの思いをまとめるのがすごく難しくて、これまでで一番時間がかかったかもしれない。まっすぐな気持ちがダイレクトに伝わってきたからこそ、それを細かく入れ込みたかったし、みんなで作ったんだって胸を張って言えるものにしたかったので、すごく悩みました。でも完成したらみんなに納得してもらえて、「俺の出したフレーズが入ってる!」って喜んでもらえたりして。色んな人が関わって作品を作ることの難しさと、それを乗り越えた時の喜びの大きさを感じましたね。
――パーソナルな楽曲ではなくて、ある種“みんなの歌”というか。
今までの僕だったら「ぼくのスタートライン」になっていたかもしれないけど、今回は「ぼくらのスタートライン」になった。それは心境の変化でもあるし、人との繋がりのおかげで豊かに活動させてもらえているという喜びと感謝の表れでもあります。
――これまでと違う姿勢で取り組んだ曲でもあるんですね。そういえば、オープニングトラックの「威風堂々」は歌い回しに新鮮なニュアンスを感じました。
これはバンド時代からともに制作していたプロデューサーのマツモトマサヤさんに作詞作曲をお任せして、僕にないものを引き出してもらったんですよ。今回が4枚目のアルバムですけど、その1曲目で新しい自分を提示したくて。今作は書き下ろしの曲が多くて、全曲で色んな挑戦をさせてもらいました。どれも深掘りしまくって、かなり取材もしながら作りましたね。