tiger baeインタビュー 『SXSW』で注目集めたシンセポップバンド、海を超えて掴むビジョンとコネクション
毎年恒例の世界最大級ショーケースフェスティバルとして、アートやデジタル技術分野の最先端がアメリカ・テキサス州のオースティンに集結する『SXSW』(サウス・バイ・サウスウエスト)。ここ日本からも、後にKing GnuとなるTokyo Chaotic!!!(Srv.Vinci)や、CHAI、Tohji、yahyel、Kroiなど期待のアーティストたちが海を渡りその才能を世界に向けてアピールしてきた。しかし、今年3月の『SXSW2025』でのステージがなんと正規メンバーでの初ライブだったという3人組シンセポップバンド・tiger baeはその中でも異例の存在と言えるだろう。アメリカツアーを経験するなどグローバルな評価を得つつも2013年に解散したHOTEL MEXICOのメンバーであるMasaaki Iwamoto(Dr)とJiko Kobayashi(Gt)、そしてtiger bae以前は個人で作詞や創作活動を発表していたYuco(Vo)に話を聞いた。
取材・文:サイトウマサヒロ
正規メンバーでの初ライブが『SXSW』
――tiger baeは、TuneCore Japanが実施したオーディションを通過して、今年3月に『SXSW2025』への出演を果たしました。まずは応募の経緯についてお話しいただけますか?
Yuco:ふたりに相談せずに、可能性に任せて応募しました(笑)。元々、tiger baeの音楽をできるだけ色々な人に聴いていただきたいとは思っていたんですが、テイストが合う音楽フェスが国内になかったりして。例えば、フジロックの『ROOKIE A GO-GO』は素晴らしい企画ですが私たちはちょっと違うかも、と。そんな時に世界最大のショーケースとして知っていた『SXSW』のオーディションを見かけて。私は英語の読み書きはしますが、それでもアプリケーションフォームが英語だということが応募障壁になっていたなと思っていて… チューンコアさんによるわかりやすい導入のLPがあったのも大きかったですね。
Kobayashi:我々二人は「出れるよ」っていう連絡を受けて初めて応募してたことを知ったので、「マジか」っていう感じでした。
Iwamoto:SECOND ROYAL(RECORDS、tiger baeの所属レーベル)のアーティストや僕の友達が『SXSW』に行った経験があって、すごく楽しいイベントだっていう話は聞いてましたけど、自分が出るなんて想像してなかったので、Yucoさんの行動力はすごいなっていう。
――そもそもtiger baeの結成のきっかけも、Yucoさんが制作していたZINEに付属するカセットのために二人に楽曲制作を依頼したことからだったんですもんね。Yucoさんがバンドの動きを牽引することが多いんですか?
Yuco:どちらかというと、私はちょっと客観的に見てるところがあるんです。HOTEL MEXICOの時から二人のセンスをリスペクトしていて、この才覚を届けなきゃっていう思いがあるんです。
Kobayashi:プレイングマネージャーみたいな。
Yuco:私はあくまで二人のプロジェクトに「ひとつの音の成分」として参加させていただいているような気持ちです。二人の音楽を外に届ける際に、私は音楽業界を含め色んな方面にバイアスがないのも良いのかも。
Iwamoto:僕とKobayashi君のようにLo-Fi系の音楽をやってきたアーティストは海外に強い憧れを持ってる人が多いと思うんですけど、その分向こうは大変だなと感じてるから、バイアスがかかってるというか。
Kobayashi:それはあるよね。だから僕たちだけだったらまず応募しようという発想に至ってなかったし。そこに壁を感じずに一歩踏み出せるのは僕らにはないパワーだと思います。
――とはいえIwamotoさんとKobayashiさんはHOTEL MEXICOでアメリカでのライブ経験もあったわけですが、tiger baeは結成当初から国外のリスナーに届けることを意識していたのでしょうか?
Iwamoto:というか、そこしかないっていう。もちろん日本にも好きなアーティストはたくさんいますけど、やっぱり海外でライブしたい、海外でリリースしたいっていう思いはずっと変わらずにあります。
Kobayashi:結成時に話を重ねる中で共通していたのは、自分たちが好きで聴いてた海外アーティストと同じイベントに出られたらいいなっていう目標だったので。そのビジョンはメンバー間でも差異がなかったんじゃないかと思います。
Yuco:まちゃくんと慈幸ちゃんに共感します。あと、二人ほど長い音楽経験はないけれど、ずっとアートやデザインなどの創作に取り組む中で、海外のものが刺さることが多くて、創る側も受け手もクリエイションへの受容性が高かったり、自分の好きなように自由に解釈して愉しむことが多いように個人的に感じます。簡単に言うと、『SXSW』でのお客さんの“ノリ”がすごく良かったんですよね。それぞれ気持ちいいスタイルで体を揺らしていたり、曲が終わるごとに色んな歓声が聴こえて幸せな気持ちになりました。
――音楽シーンでいえば、北米の方がメジャーとインディーの境界線が薄いところはあるかもしれないですね。たとえば音楽性的にtiger baeとも親和性の高いMen I Trustなどのアーティストが大きな市場で評価されていたり。
Iwamoto:そうですね。
――さて、そうして『SXSW』への出演が決まったわけですが、tiger baeはそれまでにライブを行った経験が一度だけだったんですよね。しかもKobayashiさんはそのライブに出演していなかったとか。
Kobayashi:はい(笑)。なので、正規メンバーが全員揃ったライブは『SXSW』が初という、ちょっとクレイジーな状況でした。そんなバンド、多分いないと思うんですけれども。僕自身、楽器を長いこと触ってなかったですし、遠方に住んでいることもあって、東京のスタジオで合わせられたのも本番前に二回だけだったので、演奏面の不安はずっとありました。
Iwamoto:僕もKobayashi君も、基本的にはどちらかというとリスナータイプというか。めちゃくちゃ楽器が好きとか、めちゃくちゃ演奏がしたいっていう方ではないので。そういう意味では、楽しく過ごせればいいかなくらいの感覚でもありました。
Kobayashi:僕は演奏しないでマネージャーみたいな仕事をしようかっていう案もあったもんね。音は打ち込みにして、代わりにカメラマンをやろうか、みたいな(笑)。
――二人よりもさらにステージ経験が少ないYucoさんにとって、不安はなかったのでしょうか?
Yuco:楽天的なところがあり…あまり不安はなかったですね。頭の中の妄想をそのままやろうと思ってました。あと、いつかtiger baeで『Coachella』に出たいと思っていまして、『SXSW』もそのために必要な大切な舞台だというイメージですね。
――『SXSW』のステージに臨むにあたって、何か戦略のようなものはありましたか?日本でのライブとは色々と違った環境だったと思いますが。
Iwamoto:HOTEL MEXICOでの経験からして、アメリカではどんなジャンルでも暖かく迎え入れてくれる土壌があるというのはわかっていたので、当初のやりたいことはブレずにやろうという思いでスタジオに入ってましたね。日本ではこういうジャンルがなかなかハマらないイベントも多いですけど、アメリカだと知らないバンドや知らないジャンルでもとりあえず盛り上がろうみたいなムードがあって。それこそMen I Trustのようなアーティストのライブでも盛り上がったり、静かなバラードでモッシュが起こったりする文化があるので、自分たちがカッコいいと思うことをしっかりやれば良いライブになるだろうという想定でした。
Kobayashi:東京でスタジオに入った時にIwamoto君とも話したんですけど、やっぱり僕たちはテクニックよりも音色(おんしょく)で音楽性を出すバンドなので。エフェクターをはじめとする機材をどう組み合わせるか、tiger baeのサウンドを現地でどうアウトプットするかを家で試行錯誤して、スタジオではその成果を測ることに重点を置いてましたね。結果、上手いこと行ったなぁと思ってます。
――サウンドメイクについてはベニューによる環境の違いもあるから、中々苦労がありそうです。
Kobayashi:そうですね。ジャズコーラス(のアンプ)がなかったりとか。
Iwamoto:でも、転換やリハの時間が短いにも関わらず、向こうのエンジニアはすごく上手だなと思いましたね。オースティンにはあれだけライブハウスがあって、『SXSW』のように朝から夜までずっとライブをやる文化があるから、やっぱり知見が多いのかなと。
Kobayashi:特に『KEXP』でのライブ(『SXSW』における、シアトルのラジオ局『KEXP』によるステージ)は音がすごくわかりやすくて良かったですね。
――実際のライブの率直な感触はいかがでしたか?
Iwamoto:1日目は『KEXP』のステージでしたけど、僕もいつもアプリで聴いてますし、それに出られるってだけで結構緊張しましたね。ただ、ライブとしては非常に良かったし、他のバンドも素晴らしくて、良い滑り出しができました。
Kobayashi:サポートをしてくれたPoor Vacationの二人(Daisuke Funamura(Syn.)、Hayato Narahara(Ba.))の経験値と技術をお借りして、安定した演奏ができました。Yucoちゃんも、2回目とは思えない堂々としたパフォーマンスで。
Yuco:私、比較的本番に強いんですよね。本番で150%の力が出せる…あと、ライブが終わった後にたくさんの人がステージに駆け寄ってきてくれたのには感激しました。その時にお声がけいただいた縁が日本の音楽祭への出演に繋がりましたし。ライブを観てくださった方と直接お話しして繋がるっていうのは国内でキャリアを積んでいても中々ないことのようで、すごくかけがえがない経験です。
――オーディエンスの反応で印象的なものはありましたか?
Yuco:客席の前の方で聴いている音楽性が違いそうな金髪の女の子と華やかな服を着た男性がめちゃくちゃのってくれてて、それぞれ自分なりのバイブスを感じ取ってくれてることに感動しながら歌ってました。
Kobayashi:インタラクティブ部門で参加されてる日本人の方もライブを見にきてくださったり、声をかけてくださったりしたのも印象的ですね。