瑛人 インタビュー Apple Musicシングル総合1位、LINE MUSIC TOP 100 1位、Spotify Japanバイラル1位と、インディペンデントながら “ストリーミングドリーム” を体現するSSW
2020年、COVID-19が社会に暗い影を落とす中、その優しく温かい歌声、共感する歌詞とメロディでApple MusicやLINE MUSIC、Spotifyをはじめとしたストリーミングサービスのチャートを席巻しているのがシンガーソングライター・瑛人(えいと)。今や代表曲となった楽曲「香水」は、自分で活動する全くのインディペンデントアーティストながら、Apple Musicのソングチャート「すべてのジャンル」でKing GnuやOfficial髭男dism、LiSAといったメジャーアーティストを抑え1位に。また、LINE MUSIC TOP 100のウィークリーチャートで1位、さらにSNSでの話題楽曲チャートSpotify JapanバイラルTOP50でも1位をマークするなど (※追記:その後2020年5月7日にはSpotifyグローバルのバイラルTOP50でも1位に)、まさにジャイアントキリング、ストリーミングドリームを起こし続けている。これらのチャートのトップポジションになることがどれだけハードルが高いか(しかもどれか一つではなく同時に)は、音楽関係者やアーティスト自身であればなおさら理解できるだろう。国内でもインディペンデントアーティストの勢いや可能性が本格的に増していることを象徴する今回の動き。一躍話題を集める瑛人のメディア初インタビュー。
目次
話題のシンガーソングライター 瑛人 とは
——瑛人さんに関して、楽曲のすさまじい再生数の一方、まだ明らかにされていない部分もあるようなので、まずは基本的な情報を教えてください。
今年齢は22歳で、シンガーソングライターです。生まれも育ちも横浜で、具体的には保土ヶ谷ですね。ハンバーガー屋でアルバイトしています。
——音楽キャリアについて順番にお伺いさせてください。まず音楽そのものに興味を持ったのは?
歌うこと自体は子どもの頃からめちゃくちゃ好きでした。男三人兄弟で上に2人兄がいるんですけど6歳上の一番上の兄貴が清水翔太さんの「HOME」をカラオケで歌ってて、「うわぁ、いい曲だな」ってなって。そこから自分でも音楽を聴いたりカラオケで歌うようになって。なので、J-POPが入りではあるんですけど、一方で、兄貴が日本語ラップとかも聴いていたんで、ヒップホップも自然と耳に入ってました。
——リスナーやカラオケにとどまらず、もう少し踏み込んで音楽をやるようになった経緯というのは?
中学まではずっと野球をやっていて、高校ではダンス部に入っていました。学生時代は音楽は好きだったんですけど本格的にはまだやってなくて。小さい時から実はシンガーになりたいとは思っていたんですけど、それはずっと胸にしまっていて。
おじいちゃんが音楽が大好きで、家にビンテージのスピーカーとかギターやマンドリンとかそういう楽器もたくさんあって。小学生の時には、三兄弟の誰かに音楽やって欲しいって、YAMAHAのアコギをプレゼントしてくれたんです。でもその時は三人ともギターに触れなくて、タンスにしまわれたままで。おじいちゃんもちょっとがっかりしてて(苦笑)。
高校を卒業してフリーターだったんですけど、何か生活が物足りなくて。そういう時に、ダンサーで友達のKANが一生懸命自分を表現している姿を見て、刺激を受けました。でも、自分には特別な何かがあったわけじゃないので、じゃあ昔から好きな歌でやってみようってことで、しまわれていたおじいちゃんのギターを改めて手にして自分でも音楽を始めました。ただ、音楽に関して何の知識も技術もなくて、いきなりだとちょっと無理だなと思ってそこから1年間音楽学校に通いました。
——その時、例えばこういう風になりたいっていうイメージはありましたか?
それが特になくて。もともと未来をイメージするのが苦手な方なんです。まずは目の前のことを一つずつやっていくっていうタイプなんで。音楽学校の周りのみんなは具体的なビジョンを持っていたみたいなんですけど、そういう感じに自分はあまりならなくて。とにかくまずはいい曲を作れるようになりたいっていうことしか考えていなかったです。そこから、ライブとかリリースとか、とにかく出来ることを一つずつやってきました。
——瑛人さんのサウンドは非常にシンプルですが、こういうシンガーソングライターのスタイルになったのはどうして?
ぶっちゃけていうと、これしが手段が無かったんです(笑)。音楽をはじめてキャリアも浅くて、トラックメイカーの知り合いもいなかったし。今ギターを弾いてくれている淳之介(小野寺 淳之介)と友達になった時、二人の方が曲に気持ちも込められるんじゃないかっていうことで、もう二人でやろうと。
今リリースされている曲では、僕はギターも弾いてなくて歌だけです。ギターについては曲を作る時にちょっと弾くぐらいで。それを淳之介に「こういう風に弾いてほしい」って伝えてやってもらっています。
2019年にリリースされた最初の作品『香水』
——先日から「香水」をはじめ、他の曲も次々にチャートインしていますが、最初のリリースというのは?
初のリリースは、2019年の4月に出したEP『香水』になります。「香水」と「またね」、「君の愛と僕の愛」の3曲が収録されています。
「香水」はリリースする1ヶ月前ぐらいに、ぱっとできた曲。
「またね」には、みかんサイダーでも活動している松本千夏ちゃんが参加してくれています。これは歌詞を千夏ちゃんと二人で作ったんですけど、自分的にもお気に入りの1曲だったんで、最初の作品には必ず入れようと思ってて。ちなみに、彼女とはさっき言った音楽の学校の同級生で、その時から一緒に歌うこともあって一緒に曲を作ってみようかっていうノリで。
「君の愛と僕の愛」はまわりからの評判も良かったので、これも入れようと。
それで、まずはこの3曲でリリースしました。
『香水』 各配信ストア : https://linkco.re/13fY5myN
——また、今年に入って「HIPHOPは歌えない」と「シンガーソングライターの彼女」を一回一緒に出して、その後また別々にリリースされていますが、こういうリリースのカタチにしたのには何か意図があったんでしょうか?
最初に「HIPHOPは歌えない」と「シンガーソングライターの彼女」を一緒にリリースした時に、Explicitマークをつけていたんです。そういう言葉が入ってるわけじゃないんですけど(苦笑)。そうしたらやっぱり未成年のリスナーがサブスクで聴けないっていうことで、Explicit無しで続けてリリースしたんです。
——最近Drakeが『Dark Lane Demo Tapes』をExplicit ver.とClean ver.で出してたり、海外のリリースではそういうスタイルもけっこう見かけますが。
全然そこまで考えていたわけじゃないです(笑)。
「HIPHOPは歌えない」 各配信ストア : https://linkco.re/XTyNQApm
「シンガーソングライターの彼女」 各配信ストア : https://linkco.re/ShqyAyUS
ストリーミングチャートを席巻する楽曲「香水」
——「香水」について、Apple Musicのシングル総合チャートで1位になり、他にもLINE MUSIC TOP 100、Spotify Japan Viral 50でメジャーアーティストを抑えトップになっていて、インディペンデントアーティストが自分でリリースしてこの結果というのは、少し前じゃ考えられなかったというか、本当に”ストリーミングドリーム”が起きているといっても過言ではないと思うのですが、そういった現状について感想を教えてください。
率直に言うと「嘘でしょ?本当に?」っていう感じです。ドッキリなんじゃないかって(笑)。実感がないというか、まだ信じられないですね。
——「香水」のヒットはTikTokからだと思われるのですが、その兆候はいつごろからありましたか?
再生データをチェックしてて、それまでは1日1,000回再生されるだけでもヤバいって思ってたんです。なんか「徐々に増えてるな、なんで聴かれてるんだろう」って。それで、4月のアタマぐらいから、それが更にどんどん増えはじめて。4月の中旬ぐらいの段階で「あ、これは本当にすごいことになりはじめてる」って意識しはじめました。驚きましたね。
最初はTikTokからだとは思います。色々な動画上がってるっていうのは後から気づきましたね。
——例えば、中島颯太(FANTASTICS from EXILE TRIB)さんなど既に認知の高いアーティストも「香水」をカバーした動画をTikTokにアップしていたりしますが、ただ、データを見る限りそういった動きも今回のヒットの要素の一つに過ぎないと言うか。いわゆる有名な方々がカバーする前からすでに再生が増える傾向、流れがデータでは現れていますよね。何かご自身で戦略的に仕掛けたことなどはありましたか?
それは一切ないです。そういうの出来ないですし(苦笑)。本当に知らないうちにって感じで。
@fantastics_official 初弾き語り投稿。瑛人さんの香水✨##fantastics ##中島颯太##弾き語り##アコギ##春の歌うま ##歌うま##おうち時間##香水##瑛人##さん
——TikTokで定期的に投稿したりなどは?
全然していないですね。2、3個カバー動画をアップしたりもしましたけど、別にそれにいいねがたくさんついているわけじゃないですし。ライブに関しても数ヶ月に1回とかそういうペースですし、路上ライブをガンガンやってたわけでもないです。
——現在のヒットに対してまわりの反応はいかがですか?
友達が「誰々も聴いてくれているよ」ってインスタのスクショを送ってきてくれたり、母親もLINE MUSICのランキングを常にチェックしていて、「今何位だよ!」って言ってきてくれたり。母が一番気にしてるかも(笑)。
——その歌声と、共感を呼ぶ歌詞が広く支持を得ていますが、改めて「香水」についてどういった思いを込めて作られましたか?
曲の作り方として、淳之介とかにギターを弾いてもらいながらフリースタイルで言葉を吐いていくっていうセッションをよくやるんです。その時の感情を言葉にばーっとぶつけていく感じで。で、ある日そういう風に淳之介ともう一人のギタリストとセッションした時、たまたま3人ともみんながちょうどフラれたみたいな日があって、その時のセッションで出来た曲が「香水」でした。
後から整えたりはしましたけど、「別に君を求めてないけど」っていう歌詞やメロディのベースとなる部分はその場のフリースタイルで出来た曲です。本当にその時の感情がそのまま出てるっていうか。
——他の曲も普段からそういう作り方ですか?
このやり方は多いかもしれません。ラッパーではないですけど、フリースタイルで言葉を紡ぎ出すっていう。最終的なカタチに仕上げていくのには、そこそこ時間はかけますけど。
——また、「香水」のMVも日を追うごとに再生回数が伸びていますが、MVはどういうコンセプトで作られていますか?
うーん、コンセプトでいうと…… ダンサーさんとカメラマンさんにお任せした部分が大きいですね。カメラマンは高校の先輩のイナバケイタさん、ダンサーはakariさん(akari kamayachi)です。「香水」をリリースした後、イナバさんと「香水」のMVの内容を打ち合わせしている最中に、akariさんから「ダンスの振り作ったよ」って動画が送られてきて、それを見たら、「あ、もうこれでいこう」ってなりました。
シンガーソングライター瑛人に影響を与えたサウンド
——瑛人さんのサウンドはどういったアーティストの影響を受けていると思いますか?
小学校の時は清水翔太さん、中学から高校にあがったら平井大さんとか、好きなアーティストは色々いるんですけど、基本自分は雑食タイプで音楽は曲単位で好きになるんです。なので、特定の誰かをずっと好きっていうのはこれまで一度もなくて。影響、インスピレーションという点でいうと、身近にいる人からのインプットの方が多いかもしれないです。
——瑛人さんのお気に入りの楽曲、最近聴いている楽曲を教えてください。
それこそいっぱいあるんですけど今思い浮かぶのだと、清水翔太さん「HOME」、Rickie-Gさん「ラブソウル」、RYO the SKYWALKERさん「好きにやったらええ」、HYさん「366日」、TEEさん「ずっと」、菅原信介さん「5人家族」、ルンヒャンさん「ティッシュマンズ」、Def Techさん「My Way」、韻シストさん「Don’t worry」、スピッツさん「魔法のコトバ」、HOTDOGS「挨拶はヤーマン」、iriさん「ナイトグルーヴ」、junnosさん「生きるの大好きです」、WILYWNKAさんと唾希さん「Take It Easy」、般若さん「素敵なTomorrow」とかですね。他にも、dodoさん、ハンバート ハンバートさん、PONEYさん、松本千夏とか聴いてますね。洋楽よりは国内のアーティストが多いかもしれません。
——今後コラボしたいアーティストはいますか?
平井大さんやあいみょんさんとかと一緒にできたらヤバいですよね。あと、これからはラッパーの方ともコラボしてみたいし、言い出したらキリがないんですけど、今言ったお気に入りの楽曲の方々ともしコラボ出来るなら本当に夢みたいですね。
共感する楽曲を生み出すこだわりとその人柄
——瑛人さんは音楽表現にあたって、何か特に心がけていることはありますか?
自分だけの言葉で表現すること。あと、1行の歌詞であっても、ひとつの意味じゃなくて「こういう状況で聴いたらこう感じとれる」みたいな色んな聴き方ができる歌詞を意識しています。聴きやすくするためにそうしているというよりは、自分の性格上、悲しいことがあっても敢えて楽しそうにしてしまうんですけど、そういう時に言葉の裏に感じられるブルージーさだったり、そういう表現をしたくて。歌詞の意味が文字通りだけじゃない表現にはこだわっています。最初聴いたら「あれ?」って思われるかもしれないけど、それも敢えてというか。押し付けじゃなくて、聴いた人が自由に感じてくれたらいいっていうか。そしてより多くの人に伝わればいいなって。
——もともとの性格が辛くてもそれを周りには見せないようしているところがある?
そうですね、基本は常にハッピーな感じで。昔からですね。気付いたらこうなっていたというか。「何でお前いつも笑ってんの?」みたいな(笑)。基本ポジティブで。
もちろんヘコむこともあるんですけど、それが音楽の表現につながったりしますし、そういう色んな感情が次の作品にはさらに色濃く反映されると思います。
——音楽以外だと趣味やどんなことに興味がありますか?
映画は好きですね。特にラブコメを前はよく見てました。キモいってよく言われるんですけど、キュンキュンするのがよくて(笑)。『きみに読む物語』、『あと1センチの恋』、『ワン・デイ』とか。最近はさすがに幅も広がって他のジャンルも見てますけど。
あとは、ハンバーガーがとにかく好きなんです。特に横浜に「PENNY’S DINER(ペニーズダイナー)」っていうアメリカンダイナーのお店があるんですけど、そこのハンバーガーが一番好きですね。ぜひみなさんにも食べてほしいぐらい。お店に行ったら僕がいるかもしれません(笑)。
——どうしてそんなにハンバーガーが好きになったんですか?
子供の頃からビッグマックをずっと食べてたんです。「こんなに美味しいものがあるんだ!」って。1日3個食べる日があったり(笑)。で、大きくなるにつれて横浜はもちろん都内のハンバーガー屋を食べ歩くようになって本格的にハンバーガーが好きになるっていう(笑)。
——そういう音楽以外の部分からも瑛人さんの親しみのある優しくて前向きな楽曲のルーツが垣間見えた気がします。最後に今後の予定やメッセージがあれば。
最近のこういう状況で具体的な予定がちょっと分からなくなっちゃったんですけど、今年中にアルバムをリリースしたいなっていうのと、ワンマンもコロナが落ち着いたらやりたいと思ってます。
友達とか関わってくれているみんなに対して、本当にありがとうと伝えたいです。みんなの協力があってこそなので。あと、「香水」をはじめ曲を聴いてくれているみなさんにも本当に感謝しています!