小西遼インタビュー リモートコラボ音楽制作プロジェクトTELE-PLAYをプロデュース「みんなが音楽の力を信じる思いを強く感じた」
未曾有の状況の中、人々の心を優しく照らすあたたかい日差しのような楽曲「あいにいきたい」を先日リリースしたリモートコラボ音楽制作プロジェクト・TELE-PLAY。Charaや屋敷豪太をはじめ、SIRUP、TENDRE、BASI、A.G.O(CIRRRCLE)、HSU(Suchmos)、挾間美帆、真砂陽地、宮川純、中島優紀、関口将史、Shin Sakiura、高井天音、吉田沙良(ものんくる)といった豪華アーティストが参加していることでも話題になっている。その錚々たるアーティストによるこのプロジェクトをプロデュースしているのが発案者でもある小西遼(CRCK/LCKS / 象眠舎)だ。彼を長くそばで見守ってきたスタッフをして「音楽家としてはもちろん、とてつもないプロデュース力、人間力を備えている」と言わしめる小西遼がこのプロジェクトで表現したかったこととは。
——TELE-PLAYをスタートさせたきっかけを教えてください。
ことのはじまりはやはりコロナです。2月ぐらいに雲行きが怪しくなり、多くのライブが開催中止や延期をアナウンスし始めてましたよね。でもその当時は政府から補償の動きはぜんぜん無く、ライブハウスや運営、制作陣の方々も苦しい選択に迫られる板挟みの空気感で。3月に入って僕自身も象眠舎の東名阪ツアーが延期、CRCK/LCKSもリリースライブが中止になりました。普段ライブが中止になる経験なんてなかったと思うんです。今回みたいに1、2週間後の目前のライブが次々に中止になって、いつ再開できるかわからない状態はほとんどのミュージシャンにとって初めてだったのではないかなって。でも僕の周りのアーティストはオーディエンスに対して何らかのリーチはしたいと感じていて、インスタを始めSNSを中心とした生配信ライブがどんどん増えていきました。
そうして先が全然見通せずに悶々としているときに自粛が宣言されて、なんか気持ちが弾けちゃったんですよね。この感情はなかなか上手く伝えられないんですけど、攻撃的な負の感情というよりも「これどうすんだ?」っていう気持ちが押し寄せてきて。それでアーティストのクリエイテイブに対する価値を保ちながら、継続的な何かに取り組まなきゃと思ったんです。家から出られないという制約をアイデアの起点としてとらえて新しいプロジェクトをスタートさせていこうと。その話を何人かとしていたら是非やろう、となって。その時の仲間が今の運営チームです。最初は色々とアイデアを練っていたんですが、コライトと制作ドキュメンタリーまでを含んだ音源・映像をコンテンツに出来たらかなり新鮮なアプローチなんじゃないかなと。それがTELE-PLAYのはじまりです。で、ここまで思いついた後にみんなに電話をかけました。「今こういう風に思ってて、こういう面白いことやりたい」、「今できることとしてこういう取り組みをして、次動けるようになったときに良い流れにつなげたいんだ」ということを伝えました。
——錚々たるミュージシャンの方々が参加していますね。
いや、本当に(笑)。こんなに大勢の仲間が集まってくれたことがシンプルに嬉しかったです。本当にすごい面子だと思います。本当は全員の名前をあげて感謝したいんですけどそうするとそれだけでこのインタビューが終わってしまいそうなんで、とにかくみんなには心からshout-outっていう感じで本当に最高のミュージシャンたちが集まってくれました。
——声をかけた際のみなさんの反応はいかがでしたか?
もう全員二つ返事でOKしてもらえました。細かい条件とかの話の前に「やろう!」って快諾してくれました。こういうアイデアや話を面白いと思ってくれる波長があうミュージシャンと仲良くなってきたというのもありますし、自分も含めみんなが音楽の力を信じる思いを強く感じました。世代やジャンル、国境を越えて繋がっていける力ですよね。
あともう一つ、自分の中で大事だったのは多かれ少なかれちゃんとアーティストが収益を受けられるプロジェクト、プラットフォームにしたかったということです。楽曲や映像が再生され購入され、演奏するミュージシャン含めアーティスト全員の収益になるような。音楽家の情熱に託してる部分も多いだけに、出来る限りちゃんとペイをしていきたい、と。現状がモデルとして完璧ではないとは思いますが、こういうやり方もあるということを提示したかったんです。自分はキャリアとしてはまだ駆け出しですが、知名度関係なく自分の関わり方次第でこういうことができるんだっていう。根性論は好きじゃないですけど、ミュージシャンでも考えて動けば自分たちでも出来ることがあるし、それを回せる方法もきっとある、この企画はそういった挑戦・提案でもあります。そしてこの企画をちゃんと大きく知ってもらって、参加者全員に恩返ししていきたいです。
——TELE-PLAYというプロジェクト名の由来を教えてください。
一番の決め手は「テレプレ」って略したら可愛いからです(笑)。単純に語感も良いですしね。言いやすいし覚えやすい。
意味としては”TELE” は「遠い」という意味の接頭語なんですけど、”TELE” は “telephone” や “television” だったり距離を縮めるために人間が考えて、発明されたものに冠されていますよね。一方で “PLAY” は遊んだり、演奏したり、とシンプルに体を動かす意味の言葉。この特殊な状況の中で、音楽を奏でるという原始的な行為から産まれるものを現代の発明である”インターネット”を通して遠くへ届けていくという対比関係も含め、”TELE-PLAY” はしっくりくると思ってこの名前にしました。
——TELE-PLAY第一弾となる「あいにいきたい」のサウンドとしてのテーマはどういったものになっていますか?
「あいにいきたい」というタイトルそのままのイメージです。いま一番浮き彫りになったことって寂しさより「会いたい」っていう気持ちだと思うんです。音楽には、古来から人々の気持ちを昇華させていく儀式的な要素もあるし、「早く会いたいね」っていう色んな人たちの「祈り」、「繋がり」のようなものが形になったらいいなと。
作曲はCharaさんとTENDRE、SIRUPのコライトなんですけど、その3人とリモートMTGで集まった最初のときにそのテーマを伝えました。この状況が少し落ち着いた時に散歩しながら気持ち良く聴けるような、その人に会いたいっていう気持ちが心にすっと入ってくるような曲にしたいと。
——この曲を聴いていると、会いたい人に散歩しながら会いにいくイメージが本当にこれ以上なく湧き上がってきます。リリックの制作はどのようにすすめられましたか?
リリックもさっき言ったテーマを受けた上で状況やストーリーラインをみんなで話し合いながらコライトしました。もちろんみんなそれぞれ自分の言葉で書いてくれているんですけど、その前段階で世界観やタイムラインをみんなで整理することで、同じ世界線を共有した物語を紡ぐことができました。
——BASIさんのラップパートに関してはいかがでしたか?
ラップは一番最後に入れていただいたんです。こういったテーマがある楽曲の場合、船頭多くしてじゃないですけど、今回10人以上のミュージシャンが参加しているので、それぞれの世界観のバランスを完璧にするのが難しいんですよね。今回の世界のホームを作ったのはCharaさん、TENDRE、SIRUPで、そこにみんなが遊びにやってくるイメージでした。なのでBASIさんはゲストの立ち位置でありながら、リリックは書くという。かなり難しいポジションで参加していただいたんですが、さすがでした。もちろんお願いした時からBASIさんのナチュラルでLOVEな世界観は作曲陣もBASIさんなら間違いないって信頼していました。でもその想像を超えるリリックを仕上げていただいたし、あのラップがなかったらこの曲は完成しなかったと本当に思います。
——制作を進めるにあたって苦労したことはありましたか?
全てリモートのやりとりなのでいつものスタジオでのコントロールルームとレコーディングルームの様な距離感に比べると、やっぱりタイムラグの苦労は感じました。ただ、その分曲に向き合う時間が普段よりあったので、そのタイムラグがあったからこその仕上がりになっているとは感じます。
そしてなにより、この企画で苦労したのは僕自身ではなくて、それぞれいつもと違う環境でセットアップしながらこの曲に向き合って演奏・録音してくれた参加ミュージシャンたちでした。本当にみんなが寄り添い、向き合って貰えたからこそ出来た曲です。
作曲陣、演奏陣もそうですが、トラックメイクのA.G.Oも何日も曲の構築作業に付き合ってくれました。全員からのアイデアや演奏が届くたびに一緒に悩みながら、諦めることなく愛を持って曲に向き合い、堅牢なビートと曲の土台を作ってくれました。
あとエンジニアの葛西さんも本当に大変だったと思います。それぞれ宅録環境もデータの作り方も違うミュージシャンが10人以上も参加していたので。恐らく通常の3倍くらいのセッションファイルが届いていたんじゃないかな。ファイルの整理だけで2日かかったらしくて、それって普通怒られてもおかしくない量なんですよね。リリースされているこの音源のクオリティは本当に葛西さんの力なしには実現出来なかったと思いますし、本当に素晴らしいエンジニアワークを提供していただきました。
今回僕の苦労なんて大したことなくて、ミュージシャンのみなさん、エンジニアさん、そしてスタッフの方々のほうが本当に大変だったと思うし、心の底から感謝しています。
「あいにいきたい」各配信ストア : https://linkco.re/9FRHF0dE
——小西さんは大勢の人々とひとつのプロダクトを作りあげる仕事がお好きということですが、今回はまた新しいチャレンジでしたか?
やってることとしては、いつもと同じような感じはします。色んな人と意見を交わしながら一番良いと思う音楽にみんなで向かっていくというのは、視野や言葉の部分での違いはありますけど、今までやってきた吹奏楽やビッグバンド、そういうアンサンブルと近いのかなと。ただ、プロデューサー、人間としての経験値やレベルはとてつもなく上がったと思いますね。他のプロジェクトと比べても、関わっている人数が桁違いに多いですし。TELE-PLAYは僕“も”いる世界のプロジェクトなので。
——このプロジェクトでは、世代の違うアーティストであるCharaさんや豪太さんとも、小西さん世代の特徴であるインターネットの世界観の中でうまく調和していますね。
Charaさんも豪太さんも感性が絶え間なく研ぎ澄まされてますから…… 本当に尊敬してます。なので、恐れ多いかもしれないけど今回世代が離れた方々と一緒にやったという意識は僕の中には全然ないです。かっこいい音楽をやっているミュージシャンと一緒に音楽を作ったという感触だけです。若い世代に対してもそうで。Shin Sakiuraくんはかなり歳下ですが、そんな意識ないですから。ただの友達(笑)。ただ、培われてきた経験や背負ってきたもの、スタンスも含め、クリエイティビティにおいてCharaさんや豪太さんから学ぶことは多くありました。審美眼というんでしょうか、そういった部分は本当にひれ伏すというか心底すごいなと思い続けました。
——小西さんは演劇への深い造詣もお持ちですが、TELE-PLAYに関して演劇的に読み解くとするならばいかがでしょうか?
やめてください、好きなだけで、造詣深くないです(笑)。あの、音楽をやるときに演劇的な要素を入れ込むっていうのはあまり意識したことはないんです。でも、あえて言うなら「あいにいきたい」のMVは映像チームの発案で魚眼の演出になっているんですね。魚眼の向こうにミュージシャンがいて、きっと無意識的にもオーディエンスは覗いているっていう感覚を持つと思うんです。覗いた先にミュージシャンの自宅、制作現場というプライベートな空間があって。そこを覗くっていうのは言うなれば魚眼のあちら側は劇場、こちら側は観客として分けられている図式になっていて、これは見方によっては覗いている、覗かれている構造が逆転しやすい、メタっぽい構造になっている演出だなというのはMVが出来上がっていく過程で感じていました。
——MVとは他に制作ドキュメンタリーも公開予定とのことですが。
最近は増えてきましたけど、音楽の制作風景や制作スタンスにフォーカスした映像って国内ではそんなに多くなかったと思いますし、僕は音楽のそういうところにもっと光が当たったらいいなと以前から感じていたので、TELE-PLAYに参加しているミュージシャンのファンはもちろんTELE-PLAYの曲がいいなと思った方には、ドキュメンタリーを通して制作の部分についてももっと興味を持ってもらえたら嬉しいですね。
——Red Bull Music Studios Tokyoでのライブもアナウンスされていますね。
こればかりは状況を見ながらになるのですが、気持ちとしては色んなことが落ち着いたら参加ミュージシャンで集まって今度は近い距離で一緒に演奏したいし、それをライブ配信してオーディエンスにも楽しんでもらいたいと思っています。
——今回第一弾ということですが、今後のTELE-PLAYの展開や構想はどうお考えですか?
エピソード1の「あいにいきたい」は緊急事態宣言下での制作だったのですが、今後のエピソードにおいてはまた違った状況での制作になっていくと思うので、その時々の状況に沿った、TELE-PLAYというプロジェクトらしい”距離”を意識した作品づくりをしていきたいと思っています。
——最後にメッセージをお願いします。
このプロジェクトは曲に触れ合って頂けるリスナーを始め、参加ミュージシャン、スタッフのみなさん、各方面で関わっていただいた方々の誰か一人、何か一つでも欠けていたら成立しなかったと思います。僕は発起人ではありますが、プロジェクトが完成したのはそういったみなさんの気持ちと尽力の上にあるものだと思うので、繰り返しですけど本当に感謝しています。TELE-PLAYの作品をぜひ多くの人に楽しんでいただければと思います。
Info
7/6スタートのJ-WAVE夏のキャンペーン「MY NORMAL NEW SUMMER」にて、「あいにいきたい」がキャンペーンソングとしてキャンペーン期間中J-WAVEで随時オンエア。
「MY NORMAL NEW SUMMER」https://www.j-wave.co.jp/special/newsummer/
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