なぜ HoneyWorks「可愛くてごめん」はこれほどまでにバズっているのか、楽曲の独自性から浮かび上がってくる “あざとさ”

2023.2.10

現在、TikTok内のプレイリスト『TikTok Hot Songs Japan』で1位をキープ(2022年11月4日~2023年2月2日)し、驚異的なバズを生んでいる楽曲が、歌い手・かぴをボーカルに迎えたHoneyWorksの「可愛くてごめん(feat. かぴ)」だ。楽曲制作を手がけたHoneyWorksとは、2010年代からボーカロイドシーンの代表格として活躍する、作編曲・プロデュースを手がけるGomとshito、イラスト・ムービーを手がけるヤマコの3人から成るクリエイターユニットである。

この楽曲は、同ユニットが昨年8月13日にリリースした歌い手やボーカロイド、VTuber、アイドルをフィーチャリングした同人CD『告白実行委員会 -FLYING SONGS- 恋してる』に収録されており、8月後半には、サブスク配信がスタートした。

 

 
9月初旬にTikTokでユーザーがサビ頭の<Chu!>の歌詞に合わせて投げキッスをするダンス動画を投稿すると、ミーム化し、楽曲のテーマに合わせたメイクアップ動画など様々なシチュエーション動画がTikTok内で激増。TikTokの人気楽曲が反映される注目チャート『TikTok Weekly Top 20』では、6週連続1位を達成した。

12月初旬には、K-POP界にも飛び火し、SEVENTEEN(JEONGHAN)、NCT DREAM(SHOTARO)、IVE(REI&REIとYUJINのコラージュダンス動画)など、人気の韓国アイドルグループが次々とダンス動画を投稿。また、TikTok内の静止画をAIが自動でイラスト化してくれるエフェクト「AIマンガ」を使用した動画のBGMとしても使用されており、YOASOBIの「たぶん」と同様に国内外でひとつの盛り上がりを形成している。年が明けてからは、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE(吉野北人)、GENERATIONS from EXILE TRIBE(白濱亜嵐)、Travis Japanの(七五三掛龍也)など国内の著名人も続いたことで、今年1月25日に公開された『TikTok Weekly Top 20』で再び、トップ(2023年1月16日~1月22日※https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/121237/2)に返り咲き、その流れは今も加速している。国内外問わず、ここまで注目されている理由は一体なにか。

TikTokでバズを生み出す楽曲の前提条件として、たとえば、男性アイドルグループ・THE SUPER FRUITの「チグハグ」など、軽快なテンポ感とメロディのキャッチーさがあげられる。「可愛くてごめん」はBPM160で、小気味良いギターのカッティングやオブリガートにより、ついつい踊りたくなるようなリズムになっている。サビの<Chu!>と<ごめん>の繰り返しには一度耳に入ると忘れられないキャッチーさもあり、バズを生み出すベースとしての条件は十分揃っていることになる。そんなギミックがある同楽曲の独自性に触れたとき、まず、“あざとさ”が大きなファクターではないかと筆者は考えた。TikTokのダンス動画で多用されているフレーズは下記の通り。

 

Chu! 可愛くてごめん
生まれてきちゃってごめん
Chu!あざとくてごめん
気になっちゃうよね?ごめん

 
<可愛くて><あざとくて>などの自身の魅力に<ごめん>が掛かっている歌詞からは、ヒロインが謝罪の心を1mmも抱いていないのが、明瞭だ。そこから想像できるのは、自分自身を好きな主人公像。口ではごめんと言いつつも、実は鼻で笑っているようなあざとさが感じられる。2020年ティーンが選ぶトレンドランキング(ことば篇※https://teenslab.mynavi.jp/column/trendranking2020/)で「あざとい」と「かわいい」を掛け合わせた造語「あざとかわいい」が3位にランクインしていたことからもわかるように、あざとさを表現した歌詞が、ティーン中心のTikTokユーザーに響いたのではないだろうか。さらには、あざとさを象徴する歌詞や、<Chu!>や<ごめん>に合わせた可愛い手振りを取り入れたダンスが、自己顕示欲の強いユーザーの魅力をアピールするにはもってこいで、彼らの挑戦したい心に火を付けたのも関係していると思う。

また、実は上記のサビの結びの言葉には<ムカついちゃうよね?ざまあw>があるが、そこはTikTokでは切り取られていないのもポイント。全体の可愛い印象がダークな印象へと塗り替わってしまうほどのパワーがあるこの歌詞の引用をあえて控えることで、可愛さに注力したユーザーから表れているのは、紛れもない“あざとさ”だ。

結果的に「可愛くてごめん」が、国内外問わずブレイクしているのは、TikTokのユーザーのトレンドを反映した楽曲であったことはもちろん、楽曲に対してポジティブなイメージで終わるフレーズまでをユーザー側が上手に切り取ったことが大きい。まさに、UGCがヒット曲の火付け役になったことの証左といえる。興味深いのは、フル尺と、TikTokで使用されたセクションのみを再生するのとでは、楽曲の印象が異なること。まだ、一度もフル尺を再生したことのない人はぜひ聴いてみてほしい。そこから、また新たな発見があるはずだ。

 

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この記事の執筆者

小町碧音

1991年生まれ。ボカロ、歌い手界隈のアーティストを中心に取材するフリーの音楽ライターです。元証券レディ。現在は、ライブレポート/インタビュー/コラム/その他諸々を執筆しています。

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