【連載】アーティストのための法と理論 Vol.1 – 楽曲の著作権 | Law and Theory for Artists

アーティスト向け
2020.5.11
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【連載】アーティストのための法と理論 : Law and Theory for Artists Vol.1

『Law and Theory for Artists』スタートにあたって :

日々変化する音楽環境において、アーティストはストリーミングサービスで柔軟にリリースする活動も選択できるようになり、音楽活動の自由度は飛躍的に向上しました。その一方で、自由度が増した分アーティストは自身で音楽活動に関わる正しい知識を身につける必要性にも迫られています。しかし、インターネット上には真偽の不確かな情報が溢れており、間違った情報に基づいてアーティストが判断を下してしまうことが以前にも増して危惧されます。

そういった状況を受け、この新連載『Law and Theory for Artists』では、音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の弁護士メンバーが音楽活動における法的な具体事例を「THE MAGAZINE」においてQ&A形式で定期的に解説・紹介していきます。音楽活動における法的な知識をオープン化・共有することで、アーティストが音楽にまつわる正しい法的知識を身につける一助となることを目指します。

従来の国内音楽産業の枠組みが当てはまらなくなりつつある現状において、アーティストが適切な知識を持ってアクティブかつサスティナブルな音楽活動を送ることができるよう、今後このコラボでは取り組んでいきます。

Law and Theory × THE MAGAZINE
(Illustration : LID BREAK)

 

【連載】アーティストのための法と理論 - Law and Theory for Artists Vol.1

Q. レーベルとの契約終了後に、レーベル在籍時にリリースした楽曲を再レコーディングしてリリースして良いでしょうか??

<相談内容>

私は3人組ロックバンドのボーカル&ベースを担当しています。バンドの楽曲の作詞は全て私が、作曲はメンバー全員でしています。

とある大手のレーベルに所属して数年間活動していましたが、彼らとの間で活動方針に関する考え方にズレが生じ、合意の上で専属マネジメント契約を更新せずに終了とすることになりました。

今後は、数人の信頼できるスタッフとともに自主レーベルを立ち上げて活動していくつもりなのですが、レーベルに所属していた時にリリースした楽曲を、あらためてレコーディングし直して、リリースしても大丈夫でしょうか?

レーベルに所属していた時に著作権契約書というタイトルの契約書へのサインをした記憶があるので、少し心配です。

 

 A. 水口瑛介弁護士の回答

<回答の概要>

楽曲の著作権があなたの手に返ってきていれば、再レコーディングしてリリースすることができます。

しかし、レーベルとの契約内容によってはあなたの手に返ってきていないこともあり、その場合には、自分の楽曲とはいえ、許諾を受けなければならないことになります。

 

1. 楽曲の著作権を譲渡していませんか?


楽曲には著作権があります。

著作権とは、楽曲の曲(メロディ、ハーモニー、リズム、テンポなど)や歌詞に関して生じる、これを独占的に利用できる権利のことをいいます。

楽曲をレコーディングし直してリリースすることは、その楽曲の著作権を使用することになります。そこで、まずは楽曲の著作権が誰のものであるかを考える必要があります。

自分たちが作った楽曲なのだから著作権も当然自分たちにあるのでは?と思うかもしれません。しかし、自分たちが作った楽曲であっても、その楽曲の著作権が自分のものではなくなっている場合もあるのです。

まずは楽曲の著作権が誰の手にあるのかを確認してみましょう。

大手のレーベルに所属する場合、楽曲の著作権を、レーベルに関連する音楽出版社に譲渡する内容の契約を締結していることが多いです。その際、契約書は日本音楽出版社協会(MPA)の契約書フォームが用いられることが多いようです。今回は著作権契約書にサインをした記憶があるということなので、著作権を譲渡している可能性が高そうです。

契約書にサインしたか記憶にない場合、JASRACやNexToneに管理委託されている楽曲であれば、それぞれのデータベース(JASRACNexTone)でその楽曲の名前を検索してみれば、現在の著作権者が誰かが分かります。もちろんレーベルに直接尋ねて確認してみても良いでしょう。

 

2. 楽曲の著作権はあなたの手に返ってきていませんか?


楽曲の著作権を譲渡する契約を締結していたとしても、その契約の終了に伴って楽曲の著作権があなたの元に返ってきている可能性があります。

契約書の内容を確認してみましょう。

例えば、契約期間が5年となっていれば、契約が更新されない限り、5年が経過することで著作権が返ってきます。楽曲の歌詞の著作権はあなたものであり、曲の著作権はバンドメンバー3人の共有ということになるでしょう。

つまり、この場合、契約締結時から5年が経過していれば、楽曲をあらためてレコーディングしてリリースすることが自由にできるということになるのです。

 

3. 著作権が自分の手にないことの意味とは?


楽曲の著作権を譲渡しており、そして、まだこれがあなたの手に返ってきていないという場合、どうなるでしょうか。

楽曲をレコーディングしてリリースすることが、楽曲の著作権を使用することになるのは、最初に述べたとおりです。

具体的には、楽曲のレコーディングをすることは著作権の中の複製権を、配信することは公衆送信権を、新しい楽曲にアレンジすることは編曲権を、使用することになります。つまり、あなたは楽曲の著作権者から許諾を受けない限り、この楽曲を利用して再レコーディングとリリースをすることができないということになるのです。

もっとも、逆に言えば、許諾を受ければ、楽曲を利用できるということです。あなたから楽曲の著作権の譲渡を受けた音楽出版社は、著作権の管理をJASRACまたはNexToneに委託していることが多いです。その場合、使用料の支払いをする必要がありますが、JASRACまたはNexToneに使用の申請をして許諾を受ければ、楽曲をレコーディングし直してリリースすることができます。

使用料の金額の目安は、JASRACとNexToneそれぞれのウェブサイト(JASRACNexTone)で調べることができます。ただし、編曲権についてはJASRACなどでは管理されていないため、音楽出版社から許可を直接得る必要があります。楽曲の著作権の管理がJASRACまたはNexToneに委託されていない場合には、音楽出版社から全ての許可を直接得る必要があるということになるでしょう。

 

4. 著作権が返ってこないという契約は有効なのか?


先ほど、契約期間が経過して契約が終了していれば、楽曲の著作権が返ってくると説明しました。しかし、契約期間が「5年」や「10年」ではなく、「楽曲の著作権存続期間」となっている場合があります。楽曲の著作権存続期間は、楽曲が創作されてから著作者の死後70年(2018年12月30日までに50年が経過しているものは除く)までの間ですので、少なくともあなたが生きている間には楽曲の著作権があなたの手に返ってこないということになります。

にわかに信じられない話かもしれませんが、著作権譲渡契約においては、このように半永久的に原著作者の手元に著作権が返ってこない条件になっていることがあります。MPAの著作権契約書「逐条解説」にもこのような記載例が存在しており、MPAとしてはこのような条件も有効と考えているようです。

しかし、このような条件が本当に有効なのか、個人的には疑問を持っています。

アーティストにとって、自身が生み出した楽曲を再レコーディングしてリリース出来ないことは、当該楽曲が生み出す可能性のある収益を失うことを意味しますから、非常に大きな不利益になります。また、その楽曲がアーティストにとって特に重要な楽曲である場合、より良い条件の他レーベルへの移籍や自主レーベルを設立しての独立などの選択肢を奪ってしまうことにもなりかねません。

さらに、大手レーベルとアーティストとではその法的知識の有無や程度につき大きな差があり、アーティストが大手レーベルから著作権契約書へのサインを求められた際にその契約期間につき将来発生し得る不利益を予測して交渉することは現実的に困難と言わざるを得ないと思います。

他方で、レーベルは、レーベルとアーティストとの専属マネジメント契約中に、当該楽曲から得られる利益の大部分を既に享受していることが多いのではないでしょうか(リリース直後の一定期間に利益の大部分が発生することが一般的かと思います)。

また、著作権契約の目的は、楽曲の「利用開発を図るために著作権管理を行うこと」とされています(著作権契約書第1条)。とすれば、専属マネジメント契約の終了後にレーベルが楽曲の利用開発を図るために行う業務が、半永久的に当該楽曲の著作権が生み出す利益を受け取り続けることを正当化できるだけの実質を伴っているのかという観点も重要かと思います。

私見ですが、このように契約期間を「楽曲の著作権存続期間」とすることで半永久的に楽曲の著作権を譲渡する内容の契約は、アーティストに極めて大きな不利益を生じさせるアンフェアなものであり、優越的地位の濫用に及んでいるとして独占禁止法に違反し、無効と評価される可能性もあるのではないかと考えています。


 
アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists

この記事の執筆者
水口瑛介弁護士
弁護士(アーティファクト法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyers Collective「Law and Theory」を設立し、2022年まで代表を務める。アーティスト、レーベル、音楽関係企業などをクライアントとする案件を多く手がける。