【連載】アーティストのための法と理論 Vol.3 – 楽曲のカバー | Law and Theory for Artists

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2020.6.15
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【連載】アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists Vol.3 – 楽曲のカバー

音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の弁護士メンバーが、音楽活動における法的な具体事例をQ&A形式で定期的に解説・紹介する連載『Law and Theory for Artists』の第3回。

今回は、楽曲をカバーする際の注意点を取り上げます。

Law and Theory × THE MAGAZINE
(Illustration : LID BREAK)

 

【連載】アーティストのための法と理論 - Law and Theory for Artists Vol.3

Q. 他の人がつくった楽曲をカバーする場合、どのような点に気をつければよいでしょうか?また、ある楽曲の歌詞を丸ごと自分のオリジナルの歌詞に替えたいのですが、可能でしょうか?

<相談内容>

私は4人組レゲエバンドのギター&ボーカルを担当しています。

次にリリースする予定のアルバムの中に、

①1970年代に国内でヒットした歌謡曲をレゲエ調にアレンジしたカバー曲を入れたい

と思っています。また、

②海外のレゲエアーティストの曲にオリジナルの日本語歌詞を乗せたカバー曲も入れたい

と思っています。

誰から何の許諾を得ればよいのでしょうか?

 

A. 琴太一弁護士の回答

<回答の概要>

他人の楽曲(原曲)をカバーして演奏・録音などする際には、曲・歌詞の著作権者から利用許諾を得る必要があります(多くの場合はJASRACやNexToneの利用許諾)。

曲に独自のアレンジを加えてカバーする場合には、JASRACへ申請する前に、著作権者(音楽出版社)や著作者本人(作曲家)からアレンジの許諾を得ておくことが望ましいです。

原曲の歌詞を部分的に変更するのではなく、全く新しい歌詞をつくって原曲に乗せる場合であれば、著作者本人(作詞家)の許諾は必要なく、曲の許諾だけを得ておけばよいと考えられます。

 

1. 原曲の演奏・録音=著作物の利用


楽曲というのは、「曲」と「歌詞」という別々の著作物が結びついてできた著作物であると考えられており、著作権は曲と歌詞のそれぞれに存在しています。

そして、他人の楽曲をライブで演奏したり、録音してアルバムに収録することは、曲・歌詞という著作物の利用に当たるので、曲・歌詞それぞれの著作権者から許諾を得る必要があります(曲と歌詞のどちらかだけを利用する場合は、一方の許諾で足ります。)。

この手順についてですが、国内・海外を問わず、いわゆるプロのアーティストの楽曲(曲・歌詞)の多くは、JASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者が著作権の管理を行なっています。そのため、他人の楽曲をカバーして演奏・録音したい時は、これらの事業者に申請して利用許諾を得ることが必要になります(所定の著作権使用料を支払う必要があります。)。

なお、ライブなどでカバー曲を演奏する場合、会場側がJASRACなどと包括契約を締結して管理楽曲の著作権使用料を支払っていることが多いので、個別の申請は必要ありません。また、YouTubeなどの動画投稿サイトにカバー曲の演奏動画をアップロードする場合も、そのサイトがJASRACなどとの間で包括契約を締結していれば、個別の申請は必要ありません(なお、原曲の「音源」を使用すると前回の記事で触れた「原盤権」の問題が出てきますので注意してください。)。

カバーしたい楽曲の著作権管理状況は、JASRACNexToneのデータベース上で検索して確認しましょう。もしその楽曲の著作権の管理がJASRACなどに委託されていない場合には、著作権者(多くの場合は音楽出版社)から楽曲利用の許諾を直接得る必要があります。

 

2. 編曲権とは?


ここでひとつ注意する点があります。上記の手順を踏んでJASRACなどに申請して得たのは、あくまでも原曲を忠実に再現するタイプのカバーについての許諾であると考えられており、ここには原曲を編曲(アレンジ)する許諾は含まれてないとされています。

というのも、曲の著作権者は、その曲を編曲する権利=編曲権を持っているのですが、この権利はJASRACなどが管理せず、著作権者(音楽出版社)が直接管理しているのです。

そのため、原曲にアレンジを加えてカバーする場合に、そのアレンジが法的な意味での「編曲」に当たるのであれば、JASRACなどの許諾だけでなく、編曲権を持っている著作権者(音楽出版社)の許諾も別に必要ということになります。

 

3. 同一性保持権とは?


もう一つ注意する点があります。原曲の編曲(アレンジ)の際に、メロディを部分的に変更する場合や、歌詞の一部を変更する(替え歌)場合などは、原曲の作曲者・作詞者が持つ「同一性保持権」に触れることになります。同一性保持権とは「著作物を自己の意に反して改変されない権利」のことで、著作者だけが持っている権利です。

曲の著作権・歌詞の著作権は、それぞれ作曲家・作詞家が創作した時に生まれ、著作者の手元から音楽出版社に譲渡されるなどし、その後JASRACなどが管理を行います。しかし、著作権が譲渡されてしまっても著作者の手元にずっと残り続ける権利というものがあり、「著作者人格権」と呼ばれています。この著作者人格権の中に、自分の意思に反した楽曲の改変にストップをかけることができる権利=同一性保持権が含まれているのです。

なお、著作物の性質や利用目的・態様からして「やむを得ない改変」は、同一性保持権を侵害しないとされています。例えば、演奏技術が足りないために元の曲の音階から外れてしまったような場合は、「やむを得ない改変」であり法的な問題はありません。

 

4. どんなアレンジが「編曲」や「改変」になる?


(1)はじめに
これまでの話をまとめると、他人の楽曲のアレンジが法律上の「編曲」や「改変」に当たる場合には、JASRACの許諾以外に、編曲権を持っている音楽出版社の許諾、同一性保持権を持っている著作者本人からの許諾を得る必要があるということになります。逆に言えば、「編曲」や「改変」に当たらないアレンジであれば、JASRACの許諾だけでOKということになります。

そこで、どのようなアレンジが法律上の「編曲」や「改変」に当たるのか?ということを考えてみたいと思います(アレンジが法律上の「編曲」に当たる場合は通常は「改変」にも当たると考えられているため、これ以降は「編曲」を中心に検討します。)。
 
(2)音楽用語の「編曲」と法律上の「編曲」
音楽用語として一般に使われている「編曲」は、ある楽曲を他の演奏形態に適するように改編すること、などと定義されています。この定義でいくと、例えばクラシック曲をジャズにアレンジしたり、ポップス曲をリミックスして違うバージョンに変更することは、編曲に当たります。リズムやテンポ、伴奏などに変更を加えて原曲の印象を変えるアレンジはこの意味での編曲に当たるので、一般的にイメージされる「アレンジ」は、基本的にどれも編曲といえそうです。

これに対し、法律上の「編曲」は意味が異なります。過去の裁判例では、「編曲」とは、元の曲に新たな創作的表現を付け加えて、原曲の表現上の本質的特徴を直接感じられる別の著作物を創作する行為、とされています〔どこまでも行こう・記念樹事件控訴審〕。

つまり、法律上は、原曲に付け加えたアレンジが「新たな創作的表現」といえる場合だけが「編曲」に当たり、編曲権や同一性保持権の問題をクリアする必要が出てくるというわけです。
 
(3)新たな創作的表現
法律上の「編曲」に当たるかどうかのポイントは、「アレンジが新たな創作的表現といえるか」ということになるわけですが、ここはケースバイケースであり線引きは難しいです。実は、この点について過去に裁判所が結論を示したケースというものは見当たりません(音源の自主回収に至った事例として「大地讃頌事件」というものがあります。)。できるだけ権利関係のリスクを減らしておくという観点からは、他人の楽曲に独自のアレンジを加える場合には音楽出版社と著作者の許諾まで得ておくのが望ましいということになります。

ここからは私の個人的な見解になりますが、メロディ(旋律)部分を変えてしまうのであればともかく、メロディそのものは変えずに、リズムパターンやテンポを変える、メロディに付けるコードを変える、楽器編成や伴奏のリフ部分を変えるといったアレンジは、特にポピュラーミュージックの領域では頻繁に行われており、そのようなアレンジを「新たな創作的表現」と評価すべきケースは実はそれほど多くないのではないかと考えています。

このように考えないと、YouTubeの「歌ってみた」動画でよく目にするような、バンドの楽曲をピアノ弾き語りでカバーする場合なども法律上の「編曲」に当たり、音楽出版社や作曲者の許諾が必要ということになりますが、一般的な感覚からは少し違和感があるのではないでしょうか。また、「新たな創作的表現」を広く捉えてしまうと、JASRACに申請すれば誰でも楽曲を利用できるというシステムのメリットがかなり失われてしまうように思えます。

今回の質問にあるような、古い歌謡曲をレゲエ調にアレンジするといったケースでも、もちろん実際のアレンジの内容によりますが、「新たな創作的表現」とはいえず、法律上の「編曲」には当たらないと捉えられるケースは十分に考えられるのではないかと思います。
 
(4)とはいえ許諾を得るのが望ましい
私の個人的な見解はさておき、実際の音楽業界では、どちらかというと許諾が必要な「編曲」を広い意味(音楽用語としての編曲)で捉えているような印象もあります。ここぞというアレンジをする場合には、やはり音楽出版社と著作者の許諾を得ておくのが望ましいでしょう。

原曲の音楽出版社がどこかという情報は、JASRACのデータベースで調べられます。また、同一性保持権に関する著作者の許諾についても、音楽出版社を通じて著作者本人へ確認が行われ、音楽出版社から回答をもらうというケースが通常です。

 

5. オリジナルの歌詞を原曲に乗せる場合


最後に、他人の楽曲に別の歌詞を乗せる場合について簡単に触れておきます。

先ほども述べたとおり、作詞家は同一性保持権を持っており、歌詞の一部を変更するアレンジはこの権利を侵害する可能性が高いです。また、外国語の歌詞の場合、翻訳して日本語詞にする際にも同一性保持権が問題となるため、作詞家の許諾が必要になります。

他方で、全く新しい歌詞をつくって曲に乗せる場合には、元の歌詞の本質的な特徴は残っていない別物であり、翻訳したわけでもないので、同一性保持権の侵害にはならないと考えられます(ただし、歌詞をつけることが予定されていないインスト曲に歌詞を乗せる場合などには、作曲者の持つ同一性保持権に配慮すべきケースがあります。)。

今回の相談のようなケースでは、曲についてのみ必要な許諾を得ておけば、オリジナルの歌詞を乗せて演奏・録音することに問題はないということになります。


 
アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists

 

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この記事の執筆者
琴 太一弁護士
音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。  音楽、ファッションをはじめカルチャー領域に関する案件を幅広く手掛ける。Law and Theoryきっての南米音楽フリークであり、ブラジルへの渡航経験あり。