【連載】アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists Vol.4 – メンバー間の権利

2020.7.8


【連載】アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists Vol.4 – メンバー間の権利

音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の弁護士メンバーが、音楽活動における法的な具体事例をQ&A形式で定期的に解説・紹介する連載『Law and Theory for Artists』の第4回。

今回は、メンバー間における権利について取り上げます。

Law and Theory × THE MAGAZINE
(Illustration : LID BREAK)

 

【連載】アーティストのための法と理論 - Law and Theory for Artists Vol.4

Q. 脱退したバンドメンバーにはどのような権利があるのでしょうか?

<相談内容>

私は、アマチュアハードロックバンドLaws N’ TheoriesのボーカルをしているAXといいます。先日、バンドメンバーのMS(ドラム担当)がバンドを抜けると言い出しました。しかも、自分が関わった曲については今後一切使用しないで欲しいとまで主張しています。MSはドラムのフレーズは考えているものの、歌詞は私が考え、コード進行と歌メロはSL(ギター担当)又はDM(ベース担当)が作成してくるデモ音源をもとにしています。また、その他の全体的なアレンジはメンバー全員で話し合いながら決めていますが、MSが積極的な提案をすることは少なめで、正直あまり貢献度が高い方とは言えません。

MSにこんなことを言う権利はあるのでしょうか?

 

A. 清水航弁護士の回答

<回答の概要>

MSが完成した曲のフレーズ作り等に関与していた場合には、原則として楽曲全体について使用中止を求める権利が生じます。

但し、MSがバンド(残りのメンバー)に対して楽曲の使用を許可しなければならない場合もあります。

 

1. バンドメンバーの権利


音楽の制作過程においては以下のように複数の権利が生じるところ、脱退するメンバーの有する権利を1つでも侵害する態様で使用した場合、当該メンバーに楽曲の使用中止等を求められるおそれがあるため、それぞれを整理して考える必要があります。

(1)著作権
音楽の著作物は、歌詞と楽曲(歌詞以外のメロディー・ハーモニー・リズムのまとまり)というそれぞれ別の著作物から構成されると考えるのが一般的です。そのため、作曲にしか関与していないMSは、歌詞については著作権を有しておらず、歌詞を他の楽曲に流用すること等について権利を主張することはできません。

一方、楽曲については、MSがドラムのフレーズを考え、また、メンバー間でアイデアを出し合いながら一緒に作曲したとのことですから、楽曲の著作権がMSを含むメンバーの中で共有されることとなります。ここで重要なのは、各メンバーは自分がアイデアを出した部分だけではなく、楽曲の全体について権利を有するという点です。

そして、著作権の共有者の1人でも同意をしない場合、原則としてその曲の使用等(CD販売や配信だけでなく、ライブ演奏も含みます)はできません。したがって、MSも作曲に関与している以上、著作権者の1人として、楽曲の使用等をやめるように求める権利を有している場合が多いでしょう。

(2)著作者人格権
作詞又は作曲に関与したメンバー間では、著作者人格権という権利も共有され、各メンバーは当該著作物について、無断で公表や改変をしないように求めることができます。したがって、本件相談でも、お蔵入りになっていた楽曲を使用する場合や、楽曲のアレンジを変更する場合には、MSの同意が必要になります。

(3)実演家の権利
実演家(歌唱や楽器演奏等の実演をする者)には、自己の演奏を録音した音源について、無断で販売用CDを複製したり、配信をしたりしないように求めることのできる権利が生じます。したがって、本件相談でも、MSが実際に演奏したドラム音を用いた音源を販売等するためにはMSの同意が必要となります。

(4)原盤権(レコード製作者の権利)
レコード製作者(原則としてレコーディング費用を負担した者)には、当該音源について、無断で販売をしたり、配信をしたりしないように求めることのできる権利が生じます(原盤権については本連載Vol.2[https://magazine.tunecore.co.jp/skills/67577/]を参照)。したがって、本件相談においても、MSがレコーディング費用の一部を負担したのであれば(各メンバーが自己の所持金を持ち寄ってレコーディングした場合等)、既に録音した音源の販売等するには、MSの同意が必要となります。

 
2. JASRAC等のとの契約について


メンバーがJASRACや音楽出版社との間で、著作権に関する信託契約や譲渡契約を締結している場合、対象となる著作権についてメンバー自身は権利行使ができなくなります(JASRACに管理を委託する権利[演奏権や録音権等]は選択ができるので、何を委託しているのか確認が必要です)。また、レコード会社と専属実演家契約又はレコーディング契約等を締結していれば、多くの場合、実演家の権利や原盤権も行使できません。したがって、本稿で扱う問題は、まだメジャーになっていないバンドで特に生じやすいものと言えます。

もっとも、JARACが管理しているのは著作権の一部だけですし、音楽出版社との契約においても著作者人格権の行使までは必ずしも制限されていません。そのため、少なくともアレンジの変更には、メンバー本人から同意を得る必要がある場合が多いので注意してください(アレンジに関する論点については本連載Vol.3[https://magazine.tunecore.co.jp/skills/73036/]を参照)。

なお、音楽著作権管理事業者の中でもNexToneとの契約は、委任契約という形式をとっていることから、メンバー自身による権利行使が妨げられないという違いがあります。

 
3. 各メンバーの作曲への関与の仕方について


(1)脱退メンバーのパートを差し替えればよいのか
ドラムやベースのフレーズ、コード進行は、誰かに独占的な権利を与えてしまうと不都合が多いため、単独では著作権が認められない場合が多いとされています。そこで、このような単独では著作権が認められにくい作業だけ行っていたメンバー(例えば、ドラムのフレーズだけ考えていたドラマー等)が脱退をする場合、そのメンバーが担当していたパートについて新メンバーが差替え(再レコーディングし、一定の自由度があるフィルイン部分のフレーズは変更する等)さえすれば、元メンバーから権利を主張されないで済むと思う方もいらっしゃるかもしれません。

もっとも、このような場合でも、原則的には脱退するメンバーの同意を得ない限り、楽曲の使用が認められない場合が多いと私は考えています。何故なら、楽曲は基本的に分離不可能な1つの著作物と考えられており、創作に関与したメンバーは「貢献の大小」にかかわらず、楽曲全体について権利を有しているからです。また、メンバー間でスタジオセッションをしながら作曲していく場合等をイメージすると分かりやすいですが、各メンバーは他のパートと無関係にフレーズやリズム等を生み出しているのではなく、相互に影響を受けながら全体として曲の形になっていく場合が多く、実質的にみても「ドラムのフレーズ以外には一切影響を与えていない」という場合は少ないのではないでしょうか。

(2)デモ音源について
ドラムの基本的なパターンを含め、特定のメンバーが曲をほぼ完成させた状態でデモ音源を持ってきて、ドラマーはせいぜい後から数か所あるフィルインのフレーズを考えただけという役割分担の場合もあるでしょう。この場合、少なくともデモ音源で既に決められていた部分については、ドラマーは著作者ではありません。そこで、「その楽曲にそのフィルインを組み合わせた」という点についてはドラマーに著作権が認められる(他人の楽曲のアレンジを変更した者は、その変更部分についてのみ権利を有すると考えられています)としても、逆に言えばそれ以外の部分については何ら権利を有していないだろうと思う方もいらっしゃるかもしれません。

もっとも、ドラムのフィルイン以外はデモ音源から一切アレンジを変更していないというのであれば上記のように単純に整理することも可能ですが、実際には他のパートも多少の変更をしている場合が多いでしょう。そうした場合、デモ音源からの変更部分全体の著作権について、ドラマーを含むメンバー間での共有状態となることが考えられます。そこで、バンドとしては、デモ音源まで遡って異なるアレンジで作り直すということも考えられますが、どこまでアレンジを変更すれば元の楽曲の権利を侵害しないで済むのかという別の難しい問題が生じてしまいます。

 
4. 同意義務について


それでは、脱退メンバーが同意をしない限り、ほとんどの場合は楽曲の使用ができなくなってしまうのかと言えば、そうとは限りません。何故なら、著作権法上、著作権が共有されている場合には、脱退メンバーが「(同意をしないことの)正当な理由」を立証しない限り、他の共有者(バンド)による使用に同意をしなければならないとされているからです。

この同意義務の対象となる権利には、著作権のほか、著作者人格権、実演家の権利(共同実演を認める場合)及び原盤権も含まれます。但し、アレンジの変更等に関わる著作者人格権については、「(脱退メンバーが同意しないことが)信義に反する」ことをバンド側が立証しなくてはならないとされており、原則例外が逆であること等から、少しハードルが高くなっています。

同意義務が認められるか否かについては、過去の裁判例(東京地判H12.9.28)を参照すれば、楽曲の内容、作曲時から現在までの間の社会状況の変化、メンバー同士の関係(脱退の経緯)、作曲の経緯、各メンバーの貢献度、その楽曲が使えないことでバンドが被る不利益、その楽曲を使うことで脱退メンバーが不利益を被るおそれ、脱退メンバーに対する金銭の支払い等を総合考慮することとなりますが、現時点では事例の蓄積が少ないため、専門家でも難しい判断となります。

もっとも、私見になりますが、本件相談のような特定のメンバーがアマチュアバンドを脱退するという場合(特に作曲に対する貢献度が高くないメンバーの場合)には、比較的広く同意義務を認めるべきであると考えています。その理由として、まず、まだメジャーではないバンドの場合、メンバー交代は頻繁に起こることですから、様々な原因による脱退の可能性というのは、多かれ少なかれ加入時から想定されているものといえます。また、メジャーではないバンドのメンバーとして活動を継続していくということには様々な負担が生じるところ、自らは脱退によってその負担から免れるにもかかわらず、権利を主張して残されたメンバーの活動を妨げることに合理性が認められる場合は少ないでしょう。

 
5. 権利関係の明確化のすすめ


上記のように、バンドメンバー間の権利関係には複雑な問題がありますが、それを後になって争うとなった場合、作曲過程における事実関係について、立証のための証拠がないどころか、当の本人たちですらよく覚えていないことも多いのが実情です。その場合、CDのクレジット(作詞・作曲を、特定のメンバー名義ではなくバンド名義にしていた場合)等をもとに大雑把に、メンバー全員での共有していると判断せざるを得なくなるわけですが、そうすると脱退メンバーの任意の同意を得る必要があるという原則に立ち戻らざるを得なくなってしまうことが想定されます。

そこで、メンバー間で適宜、脱退する場合はどうするのかということを話し合い、形に残しておくことが推奨されます。形に残す方法としては、誓約書等の書面が望ましくはありますが、後から勝手に変更することができない方法であれば、メールやSNSのグループ内のメッセージ等を利用することも考えられます。また、具体的な内容としては、「脱退時に著作権やその他の権利を残されたメンバーに譲渡する」(著作者人格権は譲渡ができないため、「著作者人格権を行使しない」等と定めることとなります)、「脱退時又は脱退後に収益を要求しない」、「この楽曲は、●●の脱退後は使わない」等といったことが挙げられます。なお、バンドの知名度が上がってきて事情が変わった場合等に、新たに合意し直して従前に作った決まりを変更することは可能ですから、一度だけでなく適宜話し合いをしていくことが望ましいと言えます。


 
アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists

 

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この記事の執筆者

清水航弁護士

東京弁護士会所属。Music Lawyer Collective「Law and Theory」メンバー。

https://law-and-theory.com/