【連載】アーティストのための法と理論 Vol.5 – ライブ配信時の楽曲の権利処理について | Law and Theory for Artists

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2020.8.26
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【連載】アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists Vol.5 – ライブ配信時の注意点

音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の弁護士メンバーが、音楽活動における法的な具体事例をQ&A形式で定期的に解説・紹介する連載『Law and Theory for Artists』の第5回。

今回は、昨今増えているライブ配信時に必要になる楽曲の権利処理について取り上げます。

Law and Theory × THE MAGAZINE
(Illustration : LID BREAK)

 

【連載】アーティストのための法と理論 - Law and Theory for Artists Vol.5

Q. 自分のバンドのライブを配信プラットフォームからライブ配信(ストリーム配信)したいのですが、その際に必要になる権利処理などについて教えてください。

<相談内容>

私は5人組テクノポップバンドでエレキギターを担当しています。来月、都内のライブ会場を使用して無観客ライブを行い、配信サービスを利用してこのライブをリアルタイムでライブ配信しようと思っています。今回はYouTubeやZoomを利用した無料配信で行う予定ですが、ゆくゆくは有料配信プラットフォームを利用するなどして収益化できればと考えています。セットリストはオリジナルが中心ですが、国内曲のカバーも演奏したいと思っています。

このような内容でライブのライブ配信を行っても法律上問題はないでしょうか?配信でアカウントがBANされたなどの話も聞くので心配です。

 

A. 琴太一弁護士の回答

<回答の概要>

自分が著作権者ではない楽曲の演奏をインターネット上で配信する場合には、無料配信であっても、著作権者からインタラクティブ配信に関する許諾を得る必要があります。

利用する配信プラットフォームが、JASRAC等の著作権管理団体との間でどのような契約を結んでいるのか(包括契約を結んでいるかどうか)を事前に確認しておきましょう。

演奏ではなくCD等の「音源」を配信で利用する場合には、著作隣接権者(レコード製作者、実演家)からの許諾が別に必要になるため、注意が必要です。

 

1. インターネット配信する権利=公衆送信権


楽曲の演奏をインターネット上で配信する権利(インタラクティブ配信する権利)は、著作権法では「公衆送信権」と呼ばれています。この公衆送信権も著作権の一部であり、楽曲の著作権者が持っている権利です。

そのため、自分が著作権を持っていない楽曲を演奏し、これをインターネットで配信する場合には、その楽曲の著作権者から、インタラクティブ配信の許諾を得ておく必要があります。もちろん、自分が著作権を持っている楽曲については自由にインターネット配信ができます。

なお、今回の質問のケースは無観客ライブの配信ということですが、会場に観客を動員してライブを行い、その模様を配信するケースもあるでしょう。観客に向けて演奏する際には、楽曲の著作権者の持つ「演奏権」がはたらきますので、インタラクティブ配信の許諾だけではなく、演奏の許諾も得ておく必要があります。

 

2. 演奏楽曲の著作権管理状況を確認


本連載第1回で解説したように、自分が作詞や作曲した楽曲であっても、音楽出版社に著作権を譲渡している場合などは、著作権が自分の手元にはないことになりますので、現在の著作権者からインタラクティブ配信の許諾を得る必要があります。特にレーベル等と契約しているアーティストの場合は、演奏予定の楽曲の著作権者が誰なのかを確認しておきましょう。

日本では、多くの楽曲の著作権をJASRACNexToneなどの著作権管理団体が管理しています。配信ライブで演奏する予定の楽曲がJASRAC等の管理楽曲である場合には、著作権管理団体所定の手続を行いましょう(JASRACのデータベース「J-WID」上では、楽曲の「管理状況」欄に「配信」という項目があります。これが「〇」になっている楽曲は、JASRACがインタラクティブ配信の権利も管理しているという意味です)。

演奏予定曲の著作権をそもそもJASRAC等が管理していない場合や、インタラクティブ配信の権利については管理対象外となっている場合には、音楽出版社などの著作権者から直接許諾を得る必要があります。

なお、JASRAC等の管理楽曲であっても、カバーの際に独自のアレンジを施して演奏・配信するには、著作権者や作曲者から「編曲」についての許諾を別に得る必要があるかもしれませんので、注意してください(カバーにまつわる権利処理については本連載第3回を参照)。

 

3. 無料配信の場合でも権利処理は必要


自分が著作権者ではない楽曲を演奏するライブであっても、観客からお金を取らない無料ライブなどの営利を目的としていないイベントで、かつ出演者等に報酬が支払われていないなどの、いわゆる「非営利利用」の条件を満たす場合には、著作権法の規定により、例外的に著作権者の許諾は必要とされていません。

しかし、インタラクティブ配信の場合には、この「非営利利用」の例外が認められていません。そのため、たとえ完全無料で配信する場合であっても、著作権者から公衆送信の許諾を得る必要があります。ここは勘違いしやすいポイントなので、注意してください(無料配信(非商用配信)の場合のJASRACの手続流れはこちらを参照)。

 

4. 配信プラットフォームとJASRAC等との包括契約


YouTube、ニコニコ動画、LINE LIVE、Twitchなど多くの配信プラットフォームは、JASRAC等の著作権管理団体との間で、楽曲の利用に関して「包括契約」を締結しています(現在JASRACが包括契約を締結しているUGCサービスはここから確認できます)。このようなプラットフォームでは、ユーザーがJASRAC等の管理楽曲を利用するケースが非常に多く、毎回の利用ごとに許諾を取るのは煩雑になるため、ユーザーができるだけ自由に管理楽曲を使えるようにするために、包括的な利用許諾契約を著作権管理団体との間で締結しています。包括契約を締結しているプラットフォームを利用してライブの配信する場合には、演奏者サイドが重ねてJASRAC等へ申請してインタラクティブ配信の許諾を得る必要はありません。

今回の質問のケースでいくと、配信でYouTubeを利用するのであれば、包括契約があるため、セットリストの中にJASRAC等の管理楽曲が含まれている場合であっても、特に許諾の申請は必要ないということになります(もちろん、JASRAC等が管理していない他人の楽曲を演奏・配信する場合には、著作権者から許諾を得る必要があります。)。

他方、Zoomは現時点でJASRAC等と包括契約を締結していませんので、Zoomを利用して配信する場合には、JASRAC等の管理楽曲を演奏するのにも事前に手続が必要ということになります。

 

5. 有料配信プラットフォームやライブ会場とJASRAC等との契約


近時、有料ライブ配信に特化したサービスも多く登場しており、コロナ禍を契機としてこれらのサービスにより注目が集まっています(ZAIKOStreaming+イマチケなど)。このようなサービスの中にも、JASRAC等との間で包括契約を締結している事業者があります。自身が利用するプラットフォームが、JASRAC等の著作権管理団体との間でどのような契約を締結して権利処理をしているのか、あらかじめ確認しておくことが大事です。

なお、今回の質問のように、特定のライブ会場での演奏をライブ配信する場合で考えると、会場側がJASRAC等との間で包括契約を締結しているのであれば、バンドサイドが重ねてJASRAC等へ申請する必要はありません。権利処理の面からどの配信プラットフォームを使用するべきかを悩む必要もなくなります。

もっとも、現状ではライブハウスなどの会場がインタラクティブ配信を含む包括契約を締結しているケースはそれほど多くないようです。ライブハウスが「演奏」のみについてJASRAC等と契約している場合には、インタラクティブ配信の許諾をクリアしている配信プラットフォームを利用するか、バンドサイドでインタラクティブ配信の許諾を得る必要があります。

 

6. 配信で「音源」を使用する場合は要注意


ここまでの説明は、あくまである楽曲の「演奏」を配信する場合を想定していますが、演奏ではなくCD等の「音源」を使用する場合には、さらに別の権利処理が必要になります。

たとえば、複数のバンドのライブを配信するイベントで、セット転換中にDJプレイを配信したいという場合です。この場合はCD等の音源を使用することになりますが、これには、配信される楽曲の著作権の処理に加えて、レコード会社などが持つ原盤権(レコード製作者の権利)と、実演家の著作隣接権の処理が必要になります(原盤権については本連絡第2回を参照)。

上記のとおり、著作権者はインターネット配信について「公衆送信権」を持っていますが、原盤権者と実演家も、CD等に固定された音をインターネット送信する権利である「送信可能化権」を持っているため、音源を使って配信するためにはこれらの権利者の許諾が別途必要になるのです。

なお、実務上、実演家の送信可能化権は、原盤権者を通じて権利処理がなされるのが一般的ですので、音源を使用したい場合は、各原盤権者へ問い合わせることになります。

DJライブ配信にまつわる諸問題の詳しい解説は、水口瑛介弁護士のnoteを参照してください。

 

7. まとめ


配信ライブで演奏する楽曲の著作権を自分たちが持っているのであれば、権利処理を気にすることなく自由に配信が可能です。しかしそうでない場合には、上記の説明に沿って、演奏する楽曲がJASRAC等の管理楽曲なのか、著作権者から直接配信の許諾を得る必要があるのか、利用する配信プラットフォームやライブ会場がJASRAC等との間で包括契約を締結しているのか、といったポイントを事前に確認し、権利関係をクリアにしておきましょう。
 


 
アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists

 

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この記事の執筆者
琴 太一弁護士
音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。  音楽、ファッションをはじめカルチャー領域に関する案件を幅広く手掛ける。Law and Theoryきっての南米音楽フリークであり、ブラジルへの渡航経験あり。