KIRINJI インタビュー | 新レーベル・syncokinから発表したアルバム『Steppin’ Out』は冷静でポジティブなKIRINJIの現在地点を刻み込んだ傑作

インタビュー
2023.9.15

言い換えることによって何かが失われる感覚がどうしてもある

——3曲目「指先ひとつで」の歌詞は面白いですね。すごい発想だなと思って。

これは、まず1行目のフレーズ「中指 立てないで」を思いついたんです。パシッとメロディにハマって。で、自分で立てた中指を見て「これをどうしようかな……」と考えたんですね。そこから歌詞にもあるとおり、親指とこすり合わせると指パッチンになるなと思って。つまり指先のアクションだけで、いろんな感情を表せることに気づいたんです。口笛も出てきますけど、基本的にはそこをテーマにしました。

——そんなふうに発想していくんですね。

じゃあ指先には他にどんなアクションがあるかなって考えて。後ろ指っていうのは最近の問題でもあるSNSでの誹謗中傷ですね。亡くなられる方もいて。それを韓国では指殺人っていうらしいんですよ。キーボードなりスマホなりで指先だけで人を死に追い込む。だから人差し指と親指と交差させて小さなハートを作る動きにしたんです。

——高樹さんは以前作詞に関するインタビューで「メロディに合わせて言葉を変えると、最初に思いついたインパクトから弱くなる」という旨の発言をされてました。かなり前の記事ですが、その感覚は今も変わらないですか?

言い換えることによって何かが失われる感覚はどうしてもあります。「これは変えないほうがいいな」ってものに関してはメロディを変えることで対処します。ポップスを作ってると1番と2番のメロディは一緒じゃなきゃいけないって思っちゃってたとこがあるんですよ。確かそのインタビューを受けたのが10年くらい前だったんですけど、その頃くらいから「いやそんなことない」って思えるようになってきた。洋楽のポップスもよくよく聴くと、実は1番と2番で譜割りが全然違ったり、ざっくりとは似てるけど、語尾が違ったりってのは普通にあるんですね。もしかしたらJ-POPという形が1番と2番は同じメロディじゃなきゃいけないっていう呪縛に囚われてるのかも。

——それはなぜだと思いますか?

J-POPは曲を作った人がメロ譜というかメロディが入ったデモを作るんですね。それを作詞家に渡すんですが、作詞家は作曲家が作った曲に対して、音符を足したり、引いたり、飛ばしたりしちゃいけないみたいな不文律があるんです。逆も然りですが。それが慣習化して僕らも知らずと影響されたというか、縛られてたというか。

——作曲と作詞が分業だった時代の名残?

そうそう。僕はちょうど10年くらい前に「別にいいんじゃないの?」ってことに気づいたんです。遅いんですけど。それこそバート・バカラックはハル・デヴィッドという作詞家とコンビで制作してたんですね。作詞家と作曲家が一緒に話し合って作ってるから「この言葉を入れたいから、ここを伸ばして欲しい」とか「この言葉をこう変えていい?」みたいなやり取りがあったんです。分業制だからこそ生まれた、日本ならではの良い面もあるんですけどね。

——次の「説得」も「説き伏せてみてほしい」という強いワードから発想していった?

これはね……、僕、仕事の依頼が来ると、それがどんな仕事だろうと、必ず最初は「めんどくさいな」と思うんですよ(笑)。自分で曲を作るのは好きなんです。だけど仕事になると……。とはいえ、全て断ってたら、それこそ仕事がなくなっちゃうし、付き合いもあるし。そもそも依頼されること自体がありがたいこともわかってるから、(仕事を)やるじゃないですか。これってフリーランスで仕事してる人だったら一度は感じたことあると思う。

——めちゃくちゃわかります(笑)。

でしょ? 大抵その依頼された仕事は、受けるわけですよ。だったらその「めんどくせえ」と思っちゃった時に誰かが背中を押してくれたり、強制的にやらされるほうが楽だなと思って作った曲です(笑)。それに何でもかんでもめんどくさいと断ってても面白いことは何も起きないし。

——やってみると結果的にすごく楽しいんですよね。

そうそう。もちろん大変なこともあるけど、相手のことを調べて、インタビューを読んだり、音源を聴いたりして、興味が出てくると楽しくできる。問題は最初の「めんどくせえ」なんですよ(笑)。これは自分に向けた歌ですね。

 

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この記事の執筆者
宮崎敬太
音楽ライター、1977年神奈川県生まれ。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」での編集/執筆/運営を経て2015年12月よりフリーランスに。2019年に「悪党の詩 D.O自伝」の構成を担当した。また2013年にも巻紗葉名義でのインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』も発表している。