SPRAYBOXインタビュー 日本と世界をつなぐベースミュージックのゲートウェイ 注目レーベルのこれまでとこれから

インタビュー
2023.12.26
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国内UKベースミュージックシーンをリードするDJ/プロデューサーであるGenick、Jacotanu、Nizikawa、Oblongarの4名によって2021年11月に創設、コアメンバーにkyo、That Fancy I、Yusaku Katoを加え、UK本国と日本のクリエイターをつなぐゲートウェイとして存在感を増しているダンスミュージックレーベル・SPRAYBOX。2023年にはSpooner「4AM (Speed Garage Mix)」、Uh-U!「Supa Dupa」など国内外の現場を沸かせるヒットを世に放ったほか、ピーナッツくん、嚩ᴴᴬᴷᵁ、valknee、MEZZ、nyamura、TORIENAを客演に招いた全曲ボーカルトラックのコンセプトアルバム『THE RAVING SIMULATOR』がシーン外のリスナーからも注目を集めた。12月28日には初のレーベル主催パーティー『SPRAYFEST』を東京・clubasiaにて開催し、来年1月にファウンダー4名で初となるUK本国でのDJ出演が決定するなど、その進撃は止まる気配をみせない。そんなSPRAYBOXのメンバーに、レーベル設立の経緯やシーンを活性化&拡張させるビジョンを訊いた。

取材・文 : サイトウマサヒロ
企画 : Shuntaro Oka, Jiro Honda

 
 

「ごった煮」な国内シーンを世界へ発信

——まずはじめに、レーベル発足の経緯を教えてください。

Oblongar : まずはじめに、僕とNizikawaの間で、UKのレイヴミュージックやベースミュージックを軸に据えた新しいコレクティブを作ろうという話がありまして。そこから同じ方向をみている友人であるGenick、そしてJacotanuに声をかけて、本格的にレーベルとして動かしていこうという流れが固まりました。満を持して最初のリリースを発表したのが2021年の11月です。

Oblongar
Oblongar

 
——ちなみに、「SPRAYBOX」という名前にはどういった由来があるのでしょう。

Oblongar : 色とりどりのスプレー缶が一つの箱に詰め込まれているイメージが、ジャンルに縛られずに様々なカラーの楽曲やアーティストを発信していこうという目標や、それぞれ異なるバックボーンを持つファウンダー陣のイメージとも重なって出てきた名前でした。

Genick : レーベルのロゴをイラストチックなものにしたいっていう意向が最初からあったんですよね。で、スプレーが入っている箱ってロゴにもしやすいし、検索しても他に使われている例がなかったので、「SPRAYBOX」が一番しっくり来て。走り出しからビジュアル面もしっかり整えていこうと思っていたので、名前もロゴも丁寧に議論して決めていきました。

Genick
Genick

 
——メンバーのみなさんから、SPRAYBOX発足以前の日本のベースミュージックシーンはどのように見えていましたか?

Genick : このメンバーが共通して感じていた範囲では、2014年くらいからサウンドシステム(レゲエカルチャーをルーツとする低域を増強したスピーカー)を入れたイベントが盛り上がりをみせていた時期がありました。我々ファウンダーたちはダンスミュージックの情報をネットから得る世代だったんですけど、実際に現場でサウンドシステム・カルチャーに出会ってかなり衝撃を受けて、そこに映える音楽に魅了されていきました。それから僕は、UKガラージっていうジャンルにハマっていって。2017年に、当時UKガラージ&ベースラインを銘打っているパーティがなかったので、『RIP』というイベントを立ち上げて後にSPRAYBOXの中核を担うメンバーをブッキングしたり。そこで現在に至るまでの流れが作れたと思います。

——SPRAYBOXメンバーが第一線で活躍を始める前からあったサウンドシステムのムーブメントを引き継ぎつつ。

Genick : なので、自分のパーティーでそういったシーンの方にも出演いただいたりとか。それと、2017年頃はUK発のグライムっていうラップミュージックが全盛で、日本でかなり取り上げられていた時代でしたね。

——そういった流れの中で生まれたSPRAYBOXは、どのようにシーンを拡張させていきたいと考えていたのでしょう?

Oblongar : 我々の世代は、ゲームミュージックやオタクカルチャー、ネットレーベルの文脈などにも大きな影響を受けていて、それらがベースミュージックカルチャーに隣接して人が行き交っているようなシーンでキャリアを積み重ねてきました。そういうごった煮で面白いクラブカルチャーを日本独自の個性として拡大、発信していきたくて。

——なるほど。

Oblongar : このメンバーでレーベルを運営していくなら、一方向に尖っていくより幅広いシーンを巻き込んで、国内でのベースミュージックの裾野を広げていくことに尽力すべきと思ったんです。それに加えてUK本国に対しては、日本独自の色を持ったアウトプットを届けていく。

Genick : SPRAYBOXはがっつりアンダーグラウンドでUKのダンスミュージックをそのままやりたいわけではないんです。とはいえ、あまりにジャパナイズされすぎて、ポップミュージック的になるっていうのも違う。そのちょうど間の立ち位置で、しっかり大衆を取り込みつつ、UKのシーンに触れてもらう入口としても機能していきたいなと思ってます。

——日本独自のシーンを海外に輸出する動きと、UKの空気感を国内に普及する動きの両軸があるということですね。

Nizikawa : ただ、オタクカルチャーそのものの発信というわけではなく。そういった、インターネットミュージック、ゲームミュージックなんかをバックグラウンドに持った人間なりのUKダンスミュージックを届けていこうっていう。

Nizikawa
Nizikawa

 
That Fancy I : 僕なんかは元々アニソンのGarage調のアレンジやリミックスが好きで、自分で聞いたり作ったりしているうちに源流のUKのクラブミュージックの良さも分かるようになりました。なので、音楽の入りがオタクカルチャー・ポップスであるからこそのオリジナリティが出せると思っています。実際に僕がSPRAYBOXから初めてのEP『Poppin』をリリースしたときも、好意的な評価をたくさん頂けて嬉しかったですね。

That Fancy I
That Fancy I

 
——リリースされた楽曲が海外のラジオやパーティでプレイされるなど国際的な影響力を持ちつつあるSPRAYBOXですが、特にブレイクスルーとなったアイテムはありますか?

Jacotanu : 今のところ、ステップバイステップで進んできてるんですよ。初めて作ったコンピレーション『SPRAYDEPOT Vol.1』(2022年6月リリース)がラジオやフェスで流れまくってUKのプロデューサー間でのSPRAYBOXに対する認知度が上がって。その次にはロンドンのレーベル・Steppers Clubとコラボレーションした企画『Steppers Globe』(2023年1月に合作曲をリリース)があって、そこでもかなり名前が上がったし。今年はMixmag Asiaなどのメディアに取り上げられる頻度も上がって、Spooner「4AM (Speed Garage Mix)」で海外プロデューサーのトラックをはじめてリリースしたり、Uh-U!「Supa Dupa」がブレイクしたり。直近では11月にリリースしたコンピレーションアルバム『THE RAVING SIMULATOR』がたくさんのプレイリストに入って。

Jacotanu
Jacotanu

 
Genick : どこかで革新的に変わったというよりは、徐々に階段を上ってますね。

kyo : 合間にメンバーが個々で海外レーベルからリリースしたりもしているので、その影響も手伝ってるかなと。

kyo
kyo

 

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