TORIENAインタビュー 「みんなにとっての『圏外』が、私にとっての『安全圏』」 シューゲイザーを取り入れた新作アルバムに込めた思い
ギター≒ハードシンセ?
——収録曲の中でも、シューゲイザーな「アンコンシャスバイアス」「エミリー」の2曲はエレクトロな要素がほぼないこともあり、かなり新機軸です。
ギターを買って一番最初にできたのが「アンコンシャスバイアス」でした。シューゲイザーをやろうと思ったのは……去年ぐらいからマイブラにハマってて(笑)。シンプルにカッコいいなって。
——これまでの楽曲とは、やはり制作の過程が全然違うんじゃないかと。
うーん、めちゃくちゃ変わってるわけではないですね。最初にコードを鳴らして、いい感じだったら録って、ラフをバーっと作って。あとは、Guitar Rigでリバーブやディレイをかけてシュワーっとさせて。ドラムは打ち込みで。実は大学のバンドサークルで一瞬ベースを弾いてたので、ベースも録音して……。
——今お話していて気付いたんですけど、シューゲイザーも制作においてかなりサウンドメイクの比重が大きいジャンルじゃないですか。それってもしかして、TORIENAさんの中ではテクノの音作りの延長線上にある?
そうそう、そうなんですよ! シューゲイザーを聴いた時に、このエフェクトをかましまくってるギターを、ハードシンセと同じ軸で考えても別にいいのかなって思ったんです。それまで、プロのミュージシャンなのに下手なギターを弾いちゃったら恥ずかしいじゃん、みたいな気持ちもあったんですけど。普段からBehringerのTD-3とかのハードシンセで遊んだりしてて、その延長でやってもいいって気付けたから、シューゲイザーを始められたんだと思います。
——なるほど、面白いです。でもシューゲイザーって、身体性が感じられない、一言で言えば「踊れない」音楽じゃないですか。TORIENAさんはこれまで身体性の高い楽曲にこだわってきたと思いますが、その点での心境の変化はあったんですか?
なんでなんだろう……自信が付いたのかな。テクノとかダンスミュージックって、人間味がありすぎるとどうしてもノイズになるんですよね。その中でも自分なりに感情を込めてきたし、両方を同居させられるのが私の良いところだとは思うんですけど、今ならいったん感情ベースに振り切ってもいいかもしれないって思った。20代でそれをやっても、表面的でそれっぽいものしかできなかったんじゃないかな。技術的にも、人間的にも。ある程度の経験を経た今だから、ようやく語るに値することがあるかもしれないっていう自信。
——フロアでの実用性を犠牲にしても成り立つ作品を作れると。
あとは、今まで虚勢を張ってたっていうのもあるんですよ。弱音を吐きたくなかったし。だから、『PURE FIRE』は怒りが原動力になってきた。でもその怒りって、誰かを攻撃したいわけじゃなくて、「こんなに音楽に対して情熱があるのにどうして伝わらないんだ!」っていう怒りで。そこに本当は悲しさもあるし、諦念もある。それを今回いったん暴露してみようかなって。私は臆病なんですよね。弱いから吠えるというか。私は私の楽曲が大好きだけど、他の人が良いって言うとは限らないから、ぶっちゃけ怖いんです。でも、曲を出さないと誰かにわかってもらえない。わかってほしいんですよ、やっぱり。
——まさに、『圏外』はそういった弱さも見せる内省的なアルバムですね。そして結果的に、ハードなものこそ本物だというダンスミュージックシーンにおけるある種のマッチョイズムを、サウンドとコンセプトの両面で解体する力も帯びているように感じます。
シーンの歴史とかってすごい大事だと思いますけど、私はそこまで頭が回らないというか。とりあえず音にしないと感情が破裂してしまいそうだから、ジャンルとかを気にせず形にしてる。そうすると、「でもTORIENAがやってるのって厳密にはハードコアじゃなくて……」みたいなことを言われたりするじゃないですか。私としては、「知らないよ!」みたいな。
——いわゆる「警察」が(笑)。でも、TORIENAさんのありのままのその姿勢で間違ってないという確信は、今作でより強まったのではないでしょうか?
「もういいや」って思いました。誰にどう見られてるかっていうのは、もう全く考えてないと言っても差し支えないですね。そういう意味でもやっぱり、すごく感情的な作品だと思います。これまでも怒りや反骨精神を込めてきたけど、今回はもっとコアな、他人に見せない部分を曝け出してるなって。人間って、なんで怒ったり悲しんだりしてるのか、自分でも分かんなかったりするじゃないですか。でも今は、それが自分なりに少し理解できてきたから、こういう作品になったんだと思います。だから、やっぱり若かったら作れなかったかなって。