ARK ONEインタビュー 沖縄発の注目レーベル EQUALIZE INC.を率い、気鋭の才能を次々に送り出す敏腕プロデューサー
今各所で活躍する沖縄出身の新世代ラッパーRude-α。彼の出世作EP『ADOLESCENCE』のリリースを手がけたのが敏腕かつ名手と名高いプロデューサーARK ONEと、彼自身が率いる沖縄のレーベルEQUALIZE INC.だ。
ARK ONEは、Rude-αをはじめ、1otu5(ロータス)、Dloop、#ColdSpace、Joseph Blackwellといった気鋭のアーティストの才能やスキル、魅力を最大限に引き出しながら、トラップから温かみのあるサウンドまで幅広くクオリティの高い作品を世に送り出し、アーティストおよびシーンから厚い信頼を寄せられている。
だが、そのように底知れないポテンシャルを秘めた才能を沖縄から次々に世へ送り出し続けているEQUALIZE INC.、そしてARK ONEについては未だ情報が少なく、謎に包まれている部分も多い。
そこで今回、プロデューサーARK ONEにコンタクトをはかり、改めてEQUALIZE INC.について、そして手がけるアーティスト、今のシーンの現状にいたるまで話をきいた。
——まずEQUALIZE INC.について、S CASTLE FIRMという名称が併記されている場合もありますよね?
EQUALIZE INC.はプロデューサーチームであり、EQUALIZE INC.がプロデュース/トラックを手がけた作品をリリースするレーベルでもあります。そして、そのリリースをサポートしているのがマネジメントチームS CASTLE FIRMです。
——それらのチームはどういった経緯で立ち上げられたんでしょうか?
プロデュース/トラックを手がけた僕自身が大好きな楽曲が、アーティスト自身のモチベーションの低さ、レーベルから声がかからない、などの理由でリリースされないことが増え、自身のレーベルの必要性はそもそも感じていました。そんな中、2016年に Rude-αから「上京しメジャー契約をする前に一緒に制作していた楽曲をリリースしたい」と相談を受け、これをきっかけにレーベル“EQUALIZE INC.”を立ち上げ、そのリリースをサポートするためのマネジメントチーム“S CASTLE FIRM”をバンドやアーティスト仲間に声をかけ、立ち上げてもらいました。
レーベル・マネジメント業は未経験の素人集団で始めたのですが、僕の作る音楽に対する仲間達の信頼と彼らの献身的な活動のお陰でなんとかここまで続けられています。
プロデューサーチームとしてのEQUALIZE INC.は、僕がエグゼクティブプロデューサーとして指揮を執り、必要に応じてプロジェクト毎に適任のプロデューサー / ビートメイカー、ソングライター、ミュージシャン仲間を召集し共同制作を行っています。プロジェクトによってはミニマムに僕一人で完結させることもあります。
——EQUALIZE INC.の運営において、何かテーマや基本的な方針のようなものはありますか?
特定の音楽性などはありませんが、リリースする楽曲には絶対条件があります。それはアーティストの感情が強く注ぎ込まれており、僕自身がリスナーとして感動し、この音楽が自分の人生に必要だと思えることです。この条件がクリア出来ない場合は世に出す責任を果せないと考えています。データ保存にも物理媒体が必要で、いたずらにゴミを増やす訳にはいきませんから。一見当たり前のようですが、それが蔑ろなままリリースされている音楽が日本には溢れているように思います。
僕はサブスクリプションが無い時代に育ったので、これまで生活以外の殆どの金銭と時間を音楽を始めとした芸術全般の鑑賞及び、歴史・文化背景や理論を学ぶことに費やしてきました。そのため審美的感覚に相当の自信があり、それこそが僕のプロデューサーとしての最大の資質だと思います。EQUALIZE INC.からリリースされている楽曲は全て、その僕のジャッジをクリ アしていること自体がクオリティーコントロールであり、スペシャリティになっていると考えます。
——EQUALIZE INC.として手がけるアーティストについて、どういった部分を重視されていますか?
良い音楽を作れる可能性を少しでも感じられるならばとにかく一緒に制作をしてみます。まだ粗削りや未成熟であっても、僕が感じるそのアーティストの魅力を最大限引き出せるよう、持っている音楽的な引出しの中から様々なスタイルをぶつけてみてトライ&エラーを繰り返します。
またアーティストが既存のインストやタイプビートなどで作っている曲に魅力を感じた場合 は、データを貰いremixのような形でオリジナルトラックを作って差し替え「元曲より良い」 と思えた場合に限り、アーティストに聞いてもらい制作をオファーします。こうした方法で制作を行い、双方が納得出来る形で楽曲が出来る場合もあれば、途中で頓挫することもあります。
「日本語のラップ作品」を手がける際は、更に次の点も重要です。世界的に考えるとラップにおいてリズム解釈の巧みさを筆頭としたスキルの高さは必須で、その上で始めて表現力やキャラクター性などで差がでます。ですが「日本語のラップ作品」は特にリズム解釈という面においてスキルの低さが異様に目立ち、「グローバルスタンダードなラップ作品と本質的な意味で比肩出来るクオリティーの曲は1曲も無い」と感じます。平たく言えば「日本語というフォーマット上で本当に上手いラッパーはまだ一人もいない」ということです。そのせいもあり僕にとっては「日本語のラップ作品」の99%程が聞くに堪えず、その中で鑑賞に堪えうる数少ない作品は「オルタナティブとしてだがグローバルスタンダードに近い」もしくは「ガラパゴスとしての魅力が突出している」のどちらかで、このどちらかに該当する可能性の有無をプロデュ ースする際には見極めます。
——そういったシビアな審美眼をお持ちのARK ONEさんが手がけるEQUALIZE INC.のアーティストを改めてご紹介いただけますでしょうか。
現在ソニーミュージックで活動しているRude-α、OZworld擁するMr.FreedomのLen Kinjo as 1otu5、Rude-α直属の先輩KDT擁するExQlusiveクルーのDloop、ラップスタア誕生Season3で準優勝したJoseph Blackwell や現在メンズノンノのモデルとしても活躍する岸本ルークことKoLuKeを擁する#ColdSpaceなどをこれまでに手がけました。あちらから声がかかる場合とこちら側から声をかける場合の両方ありますが、自然な繋がりと出会いに必然性を感じられることを大事にしています。
——そういったアーティストがいらっしゃる中で、レーベルとしての最新のリリースや今後のリリース予定はどういった作品になりますか?あわせて、その聴きどころを教えていただければ。
最新のリリースはJoseph Blackwellの1stソロ『Paranoid Grapes』。実はこの作品の楽曲は1年以上前、彼がラップスタア誕生に出演する以前に既に出来ており、ライブでも何度もやっていたものです。並行して行っている他の楽曲の制作や、リリースの際にブラッシュアップするのに時間を取られてこの時期になってしまいました。彼はそのラップスキルを評価されることが多いですが、僕から言わせるとスキルはまだまだ未熟で、そこを評価する方の目は節穴ですね。彼の凄さはその感受性と感情表現力の豊かさで、これほど楽曲と自分のエモーションをシンクロさせ表現できるアーティストは中々いないと思います。今回の作品もその極端な振れ幅がそれを象徴しているのではないでしょうか?ただそれももう昔の話で、今の彼はラップスキルも表現力も更に上がっており、これから出す作品では皆さんの予想を良い形で裏切れると思います。
『Paranoid Grapes』 各配信ストア : https://linkco.re/eUZ3sqV5
今後の予定としては、『Paranoid Grapes』収録の「Cryin’」で素晴らしい歌声を披露してくれたSOLAの作品、Tokyo Young VisionのNormcore Boyzと#ColdSpaceのコラボ作品などが直近のリリースとして控えています。SOLAもその歌唱力が注目されがちですが、彼の良さである日本人離れしたブラックミュージックのフィーリングを引き出すことを念頭に作品を作ったので楽しみにしていてください。
——次々に楽しみな作品がリリースされますね。少し話は変わりますが、沖縄を拠点にされていらっしゃいますが、沖縄でプロデューサーチーム/レーベルとして活動するメリットなどは何かありますか?
特にありませんが強いて言えば、地方ですので必要以上に日本のトレンドに振り回されずに意識的に情報を取捨選択出来ることでしょうか。また在日外国人の方も多く、彼らから生のレスポンスを得られるため、制作した作品が世界でどう受け止められるかを推し量る指針になるというメリットもあるかもしれません。
——沖縄のシーンの現状について何か普段から感じたり、思われることはありますか?
楽観視は出来ないですね。沖縄には全国的に注目されている、いないに関わらず素晴らしいアーティストが多くいますが、そのポテンシャルを引き出せるプロデューサーが不足しているように思います。さらにこれは沖縄に限らず日本全体の日本語のラップシーンに言えることですが、現在一線で活躍されているアーティストでさえ才能はあるが磨かれていないことが非常に多い。もしアーティストやリスナー共々現状で満足しているなら今後の発展は望めないですし、既に退化の兆しさえ見えます。
——そういった状況の中、今やアーティスト自身でもリリースができる時代になっていますが、プロデューサーチーム/レーベルとしてどういった部分でアーティストをサポート/フックアップしていきたいと考えていますか?
アーティスト自身だけでは成しえないワンランク上の音楽表現を作り上げる、という部分です。またその共同制作を通じてアーティスト自身のスキルや表現力が向上するように心がけています。
「日本語のラップ」シーンは現状、スキルアップを蔑ろにし過ぎます。スキルアップのメソッド自体もまだまだ未確立のため、努力しようにも方法がわからないアーティストも多いことでしょう。スキルに乏しくとも感情表現に秀でた素晴らしい作品はたくさんありますが、そこから前に進めていない。音韻やフロウなど発展した部分も多いですがリズム解釈という面では壊滅的な状況です。ビート上で韻を踏んでいるだけ、更に最悪なことに韻も踏まず喋っているだけといった趣きの楽曲が横行しています。これには日本人の特性や様々な原因が考えられますが、ここ最近ではフリースタイルブームの影響が特に大きくA級戦犯と言えるでしょう。もちろんスキル至上主義で感情が置き去りにされた音楽はゴミですが、スキルが無ければ表現しえないことも多くあります。クラッシクやJAZZなどに当て嵌めて考えてみれば分かり易いでしょう。EQUALIZE INC.はこのような視点でアーティストが感情表現のみならずスキルの点においても向上出来るようサポートしています。
——最後に、今後の展望や展開のご予定を教えてください。
現在は若手中心のリリースになっていますが、僕が元々一緒に制作していたベテラン達との作品も着実にリリースしていきたいです。全国的には知名度が低くとも素晴らしいアーティストが沖縄にはまだ多くいます。酒血武海、NO LIFE LINE、ウルトラマイク、BAGGY BOUNCE、将人、MC二枚目やExQlusiveクルー、etc…… ここで全てを挙げきれないほどで、彼らと制作したまだ日の目を見ない作品の数々に光を当てたいです。
非常にシビアかつフラットなスタンスで日本の音楽の現状を見つめながら、アーティスト及び作品に対峙しているARK ONE。そのともすると厳しい言葉の裏には、音楽及びアートに対する限りない愛情が垣間見える。そんなARK ONEが手がける作品、そしてEQUALIZE INC.の動きに今後も要注目だ。
EQUALIZE INC.
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