【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

2020.8.26


【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

音楽を取り巻く環境はこの数年で大きく変化した。CDからデータ、データからサブスク。さらにミュージシャンが自分の音楽を世の中に発信することも、かなり容易になった。極端な話、制作から配信までスマホひとつで完結させることも可能だ。しかも今は大きな資本に頼らなくても、アイデア次第で自分の音楽を広めることもできる。そんな時代だからこそ、「Independence = 自主、独立」が重要になってくる。この企画【Of Independence】では、ジャンルや世代を問わずインディペンデントな活動をしているアーティストに「自分の人生とIndependence」について話してもらう。

記念すべき第一回目は、インディレーベル「ROSE RECORDS」を主宰する曽我部恵一。2004年に自らのレーベルを設立し、以来、実に自由なスタイルで活動を展開している。彼はなぜインディにこだわるのか、話を聞いた。

取材・文 : 宮崎敬太

 
ビジネス的に結果を出すために音楽活動するのがめんどくさくなった

——曽我部さんが「ROSE RECORDS」を立ち上げた経緯を教えてください。

ちょうどユニバーサルミュージックとの契約が終わるタイミングだったんですよ。アルバム2枚で契約していたけど、そこで僕は結果を出せなくて。更新することもできたけど、そんなに契約金がもらえない。当時僕は個人事務所に所属してて、もっとたくさん契約金を出してくれるところに移籍するという選択肢もあったけど、そういうのは僕自身がしんどくなっちゃって。

——しんどいというのは、具体的にどういうことですか?

ビジネスだから当たり前だけど、メジャーと契約すると「これくらい売りなさい」という目標があるんですよ。でもそうなると、やれることがすごく制限されてしまう。ビジネスの目標を達成するための活動しかできないというか。

——「売れる音楽」と「作りたい音楽」は必ずしも一致するわけじゃないですもんね。

そうそう。もうめんどくさくなっちゃったんですよ。結果を出すためにまた数年間頑張らなきゃいけないという状況に。当時はパンクやダンスミュージックのアーティストたちが自由で面白いことをインディでやってて、僕はそういう人たちにすごくシンパシーを感じてた。だから僕としては自分がDIYなスタンスでやっていくビジョン自体は見えてたんです。でも僕みたいなシンガーソングライター系でインディペンデントに活動している人はあまりいなかったから、最初は「やめといたほうがいいんじゃない?」とは結構言われてましたね。

——「一念発起して独立!」みたいな感じではなかったんですね。

全然ない(笑)。本当に流れ。イメージはあったけど実際はなんのプランもなかったしね。とりあえずインディでやろうかなーと思って、なんとなく下北沢に物件を見に行ったんですよ。そしたらすごいいい感じのところを紹介してもらえたんです。自分が一人でここで働いてるイメージができた。だからその日のうちか、翌日か忘れちゃったけど、すぐに契約を決めてそこからROSE RECORDSがスタートしていきました。


【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

 
手探りでやってる頃の音楽が好き

——メジャーレーベルでの音楽活動とはどういうものなんですか?

僕の場合は、いわゆる一般的なメジャーアーティストとは全然違うと思う。ユニバーサルとは、クリエイティブに関して一切口出ししないという約束で契約したから、リリースする曲も、時期も、アートワークに至るまですべで自分で決めていた。今思えば、そんなんじゃビジネス的に成功するわけないですよね(笑)。せっかく大きい会社と一緒にやるなら、どういう音楽を作ってどう売っていくかを、チームとして一丸となって進めるべきでした。でも僕自身もまだ若かったし、当時はそういうのがわかんなかったんですよ。だから僕には「自分がメジャーにいた」という実感がないんです。

——ちなみに、サニーデイ・サービスとして1994年から2000年まで所属していたMIDIレコードではどのように活動していたんですか?

本当に好きなことをやらせてもらっていましたね。どんな音楽を作っても誰にも文句を言われない。最初に所属したところがそんな感じだから、その感覚が染み付いちゃったんですよ。それに僕自身、音楽制作って楽しんで好き勝手にやるものだと思ってる。それでちょっとお金が生まれたらラッキー、くらいの感覚。

——曽我部さんのDIY気質はいつ頃から生まれたんですか?

これは自分の性質なんだと思います。「自分で作るしかない」みたいな。子供の頃にあまり物を買い与えてくれなかった両親の教育方針が影響してるのかな? 周りの友達はゲームやラジコンを持ってるけど、僕は買ってもらえなくて。だからラジコンに似た何か自分で作って遊んでましたね。

——DIYという面で、影響を受けたミュージシャンはいますか?

パッと名前は思いつかないけど、僕は手探りでやってる頃の音楽が好きなんですよ。システム化される前の未完成な音楽。例えば、それまで長髪だった人がいきなり髪を切り出した1975〜6年くらいのニューヨークパンクみたいな。これはどんな音楽にも言えるけど、流行してくると「型」が確立されるでしょ? ある種のシステムというか。そこからみんなスキルの競争になっていく。僕はそれが苦手なんですよ。というか、競争する自信がない(笑)。僕は自分に音楽的な才能があると思ってないから、競争に参入していこうと思えないんです。それに個人的な好みとしても、未完成な音楽に魅力を感じる。だから僕自身、いまだにそういうものを作っていたいという思いがあるんですよ。

——確かにシーン化される前の音楽には、何が起こるかわからないワクワク感がありますよね。

そうそう。一方でカチッと作り込まれた音楽も好きなんだけど、自分が作れるイメージは湧かないんです。


【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

 
変化をネガティヴに捉えない。常に楽しむことを意識してた。

——曽我部さんはすごく軽やかで、ソロ、サニーデイ・サービスなどたくさんのチャンネルを持っていて、常に自分が面白いと感じたことを自由に表現しているように思うんです。ご自身ではアーティスト「曽我部恵一」をどのようにブランディングしているんですか?

僕ね、本当にそういうのないんですよ(笑)。「表現者として」みたいなことは全っ然考えてない。一般的にはアーティスト像を大事にする人が多いけど、そうじゃないやつが一人くらいいてもいいかなって。そんなことより、僕はエンターテインメントをやりたいんですよ。じゃあ僕にとってのエンターテインメントは何かというと、「こいつ、いつものびのびやってんな〜。俺も明日からのびのび生きてみよう」と思えたり、「こいつのダメ元の姿勢は見てると元気が出てくるね」って思ってもらうことなんです。お客さんをちょっとでも楽しませて、心をちょっとでも軽くしてあげるというか。

——とは言え、のびのびやりながら仕事としてお金を稼ぐのってすごく大変じゃないですか?

確かにね。インディになってからバーンと貯金があったことなんて一回もないし。それこそユニバーサルとの契約が終了した時はある程度貯金があったんですよ。でも事務所を作るにあたって、契約金、敷金礼金、家賃、あとコンピューターみたいな事務用品とかを買ったらマジで全部なくなった(笑)。

運転資金が必要だけど、新作をレコーディングするお金もなくて。で「どうしよう」と思った時、直近にやったライブを録音してたんですね。じゃあ「それをライブ盤として出そう」ということにして。それが2004年に出した「shimokitazawa concert」って作品ですね。最初は本当に何もかもがドタバタでした。「shimokitazawa concert」は手探りながら、自分たちでオンライン通販もしたんですよ。そしたら、ありがたいことに結構な量を予約してもらえたんです。でも注文ページを「売り切れ」にし忘れちゃって、自分たちが持っている在庫以上に予約を受けちゃって。だから自分たちが一度出荷したCDをタワーレコードやHMVに買いに行って、それを発送したりしてました(笑)。

——いいエピソードですね(笑)。

ほんとバカですよね(笑)。でもあの作品が結構売れたので、次の作品を作るための資金ができた。とはいえ、今もそんなに変わってないかな。ひとつの作品を作って売って、資金を作って次の作品を作る。さすがに通販のミスみたいなことはなくなったけど、今もトライアンドエラーを繰り返してます。

——そういう意味では、曽我部さんが「ROSE RECORDS」をスタートした2004年ごろから音楽を取り巻く環境は激変してきました。音楽の売り方もCDからデータになり、そのデータもサブスクになった。メディアも多様化して、雑誌やテレビからウェブサイト、YouTube、SNSになりました。「ROSE RECORDS」は曽我部さんの活動と同様に、そうした変化に柔軟に対応しているように思います。

外から見ると僕らは柔軟にいろいろやってるように見えたかもしれないけど、実際は新しい変化が起こる度に毎回いろいろ考えて対応していた感じでしたね。でもネガティヴに捉えるんじゃなくて、楽しんでやってました。例えばサブスクが出てきた時、カニエ・ウェストが最初に配信した音源と違うミックスを新たに配信し直したりしてたんですよ。当時はそれがすごく新しいし、面白いと思った。だから僕らもやってみたりして。今思えば、僕らがそれをやる必要はなかったんですけどね(笑)。でも面白そうなことを自分たちで実際にやってみるってことが大事なんですよ。それにお客さんも僕らがそういうことをすることが楽しいかなって思った。CDもデータもサブスクも、ただの音楽の入れ物。僕はみんなが今何を楽しみたいと思ってるか、それを常に考えてやってますね。


【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

 
僕は常に迷っている状態が好き

——先ほどからお話をうかがっていると、曽我部さんは常にユーザー/リスナー目線で物を考えているんですね。

エンターテインメントってそういうものだと思うからね。少なくとも僕にとっては。だからお客さんに何かを強いることだけは絶対にしたくない。この作品はこうじゃなきゃ聴けませんよっていうやり方は避けてきました。もちろん何かに限定することがエンターテインメントとして機能するならいいんだけど。本当にお客さんありきだから。

僕が中学生の頃は貸レコード屋さんでレコードを借りて、みんなカセットテープにダビングしてたんです。でもそれだとレコードが売れないから、レコード会社は「Copy is Killing Music」みたいなキャッチコピーを謳ってたんですよ。そういうのって本当にバカらしいと思ってた。お客さんのこと全然わかってない。音楽に限らず規制ってなんでもそういうもんなんだけど。でも自分が音楽を発信する立場になったら、こういうことをするのは絶対にやめようと思ってました。

——目先の利益を考えるとそういう規制をしたくなる気持ちはわからなくもないけど、長期的な視点で考えるとどっちが得かはわからないですよね。

僕は中古の文化が好きなんですよ。ビートルズのレコードにお店が好きな値段をつけて、それを高いと思う人もいれば安いと思う人もいる。新品の文化は定価しかないけど、中古は自由に価格が決められて、お客さんもそこで自分なりに判断できる。売るものっていうのは、常に買う側であるお客さんに決定権がある。

僕は最近のサブスクの流れがすごく面白いと思ってます。お客さんがプレイリストを作って自由に楽しむことができるじゃないですか。僕は売る側の論理じゃなくて、買う側による発想力が文化を発展させていくと思ってる。ギターだって、みんな買ったらすぐに解体してピックアップや配線を自分好みに代えていく。パソコンでも車でもなんでもそうやって楽しむべきだと思ってる。ソフトって本来そういうものだから。

——曽我部さんにはDIYの精神が染み付いてるんですね。しかも思考が本当に柔軟で軽やか。話を聞いてるとこちらが元気になる(笑)。

柔軟というか、僕は常に迷っている状態が好きなんですよ。「明日何やろうかな」って、いつも岐路に立ってる状況が楽しい。僕はそのほうがフレッシュな精神状態でいられる。それが大事なんです。

——「迷ってる状態が好き」というのは新しい視点です!

もちろん変わらないことの良さもわかるし、まったく否定はしないよ。あくまで「僕の考えでは」という話ね。でもこういう僕の根底にある考え方が音楽活動やレーベル運営にも表れてるのかもしれない。本当に思いつきでいろいろやってるからね。


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何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える

——そういえば最近カレー屋さんを始めたんですよね? ものすごくびっくりしました。

「カレーの店・八月」に関しては思いつきでオープンしたわけじゃないよ(笑)。

——もちろんそうでしょうけど、ミュージシャンをやりつつレーベルを運営しながら飲食店を始めちゃうという身軽さに驚いたんですよ。実際、飲食はすごく大変そうですし。

僕は下北沢で「City Country City」という中古レコード屋兼カフェを15年くらいやってるんですよ。でも最近下北沢の再開発の流れで周りのビルがどんどん取り壊されてるんですね。僕らが入ってるビルも「そろそろ立ち退きかな?」みたいなことを話してたんですよ。

そしたらかなり近い知人が半年くらい前に下北沢に新築ビルを作ったんです。実は仲間内で何年か前から「次はご飯屋さんをやりたいね」と話していて。それで声をかけ見たら貸してもらえることになりました。ちょっとずつ準備して、工事も終わって、いざオープンという時期になって、コロナが流行してしまい……。

——なぜカレー屋さんだったんですか?

実は最初は老若男女が入れるレストランをやりたかったんです。でもその物件はそんなに広くなかったから、「専門店にしよう」という話になって。それでカレーにしたんです。カレーって気軽に食べられるけど、作る側にとってはすごく深い。そういうところも自分たちにあってるなと思って。研究しがいもあるし。下北沢には僕らがリスペクトするお店もいっぱいあるから、同じ街でカレー屋をやるなら変なものは出せないって気持ちはありますね。

——しかし4月にオープンにして、いきなり自粛要請が出てしまったのは大変でしたね。

もう本当にドタバタでしたよ。お店をオープンしても、イートインはできないからテイクアウトを始めて。朝からずっと呼び込みしましたね。でもそこで一つ発見があったんですよ。うちのお店の前に老舗の焼鳥屋さんがあるんですね。僕が店の前で呼び込みをしてると、向かいのお店の中で昭和の映画に出てきそうな人が黙々と焼鳥を焼いてるのが見えるんです。

そのお店はテイクアウトとかをやってなくて、一時期閉店してたんですよ。でも自粛要請が解除されて、お店が再開するとまた顔色ひとつ変えずに焼いてるんですよ。僕はその姿がカッコいいと思った。きっと心中はいろいろあったはずなんです。でもその人はその場で自分のやれることに一生懸命に取り組んでた。その真剣な姿に感動しました。何かを一生懸命にやってる人っていうのは、はたから見るとすごくカッコよく輝いて見えるんだと思いましたね。

——確かに一生懸命に夢中になってる姿がDIYの魅力でもありますね。イアン・マッケイのディスコードに始まり、ムーディーマンことケニー・ディクソン・Jr.のKDJ、日本ではISSUGIさん、仙人掌さん、Mr.PUGさんのDogear Records、そしてもちろん曽我部さんの「ROSE RECORDS」も。ではこれからインディとして活動をはじめようとしてる人、また現在やっている人にアドバイスをお願いします。

とにかく思いついたことを躊躇せずにすぐやるべきだと思う。今日思いついたら、今すぐやるべき。それができる時代だし。そして自分の作品をすぐにアップロードすべき。とにかく行動しないと何も生まれないから。もちろん発信したところで大抵は無視される。でも発信しなかったら100パーセント何も起こらない。やってみるってことが大事なんです。また明日って先延ばしにすると、それが来週になって、来月になって、来年になる。そして今日感じたモチベーションは来週になると絶対に薄れてる。僕はマックスの熱意で作品を作るべきだと思ってる。特に自分の作品を出したい、広めたいと思ってる人は、まずは行動すべきですね。

——では最後に曽我部さんにとって「インディペンデンス」とはなんでしょうか?

僕はあらゆる人がインディペンデンスな存在だと思っています。すべての基本であり、根本でもある。人間は一人で生まれて一人で死んでいく。一人の力で周りの世界と戦うということが基本。だから個人の思想、やり方を持つべきだと思う。僕にはスタッフやバンドメンバーがいるけど、みんなそれぞれに人生があるわけだしね。だから会社に属してようが、自主レーベルをやってようが、何してようがみんな同じインディペンデンスなんです。「DIY」とか「インディペンデント」とかいろんな言葉があるけど、それはみんなに当てはまることで、同時に生まれた時からずっとやってることなんですよ。

 
Info


【Of Independence Vol.1】曽我部恵一「何かを一生懸命にやってる人はすごくカッコよく輝いて見える」

2020年8月26日リリース「戦争反対音頭」各配信ストア : https://linkco.re/VD5hnxX2
 


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2020年8月21日リリース『LIVE IN HEAVEN』各配信ストア : https://linkco.re/m1uDyP90
 


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2020年8月14日リリース『永久ミント機関』各配信ストア : https://linkco.re/H6qGNbMz

 
曽我部恵一
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この記事の執筆者

宮崎敬太

音楽ライター、1977年神奈川県生まれ。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」での編集/執筆/運営を経て2015年12月よりフリーランスに。2019年に「悪党の詩 D.O自伝」の構成を担当した。また2013年にも巻紗葉名義でのインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』も発表している。

https://twitter.com/djsexy2000