【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード4「タイプビートをめぐる注意点」

アーティスト向け
2023.2.17
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音楽家に無料で法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective “Law and Theory” の弁護士メンバーによる連載【アーティストのための法と理論 ビギナークラス – Law and Theory for Artists beginners’ class】。

音楽活動をはじめたばかりの方やまだ音楽に関する権利等に詳しくない方へ向けて、マンガを解説する形で役立つ情報を発信しています。

エピソード4のテーマは「タイプビートをめぐる注意点」。

前回は「編曲権」について学んだジロー(前回のエピソード3はコチラ → https://magazine.tunecore.co.jp/skills/258011/)。今回は、自分で作った曲、ビートを販売しようと試みるジローに弁護士エーちゃんから助言が。

 

Law and Theory × THE MAGAZINE
漫画 : mot / Produced by PARK

 

 
 
■山城尚嵩弁護士による解説

タイプビートとはなにか?

近年、当団体に寄せられる相談の中で急上昇しているのがタイプビート関係の相談です。

タイプビート(Type beat)とはその名のとおり「~風のビート」という意味であり、ビート販売サイトでアーティストがビートを検索するときに、「**** type beat」という形で検索されることから定着した名称です。この「****」には、曲のジャンルや雰囲気、アーティスト名が記載されます。

 
 
ビートメーカーが気をつけるべきポイント①

ビートメーカーが気をつけるべきポイントの代表的なものとして、①適法な楽曲を提供すること、②ライセンス条件、とりわけ独占ライセンス時の条件設定が挙げられます。

まず①について。例えば、設例のジローが、無断で第三者の音源をサンプリングしたビートをビート販売サイトに投稿した場面を考えてみましょう。

ジローの楽曲を気に入ったあるアーティストは、ビート販売サイトを通じてジローから楽曲を購入し、リリックを乗せてリリースすることになりますが、リリースした後に、サンプリングに利用された音源の権利者からアーティスト自身がクレームを受ける可能性があります。その結果、場合によっては、せっかく制作した楽曲を取り下げなければならなくなったり、アーティスト自身が損害賠償を受けたりするほか、そのアーティストのプロップスやレピュテーションの問題にも関わります。もちろん、ビートメーカー自身も、音源の権利者から損害賠償請求されたり、アーティストから求償を求められる可能性があります。

ここで挙げた無断サンプリングは、クリアランスが取れていない例の一つにすぎません(サンプリングについて気になった方は、本連載第2回をご参照ください)。ビートメーカーは、アーティストに迷惑をかけないためにも、適法な楽曲を提供することが必要です。

 
 
ビートメーカーが気をつけるべきポイント②

次に②についてです。タイプビートは通常ビート販売サイト経由で販売することになりますが、一般にビート販売サイトでは販売に際してのプランが用意されています。

そのため、ビートメーカーは、自身がどのような内容で楽曲提供をすることになるのかということをきちんと把握することが肝心です。とりわけ、独占ライセンスの場合には、事前に条件を決めていなければ、アーティストとの間で金額やその他の利用条件について交渉をして決定することが必要です。

また、独占ライセンスをするということは、今後同じ楽曲を他のアーティストにライセンスすることはできないということを意味します。したがって、独占ライセンス後には速やかにプラットフォーム上から当該楽曲を取り下げたり、マーケティング目的でYouTubeにUPしている場合には動画のタイトルに[SOLD]と記載したりするなど、ライセンス先のアーティストとの「独占」性の約束に違反しないようにしましょう。

 
 
アーティストが気をつけること

アーティストはライセンスを受けた範囲内で利用し、ライセンス違反にならないようにするということに気をつけましょう。先に述べたとおり、ビート販売サイト上ではいくつかの販売プランが用意されており、提供されるファイル形式やライセンス条件に応じて楽曲のライセンス料に差が設けられています。

たとえば、低額のプランでは、音源制作のために利用できるとしつつも、流通枚数やストリーミング再生回数、ビデオ収録の数に限定があるほか、ライブにおいても非営利の上演に限定したライセンスに限定されているなどの制約があります。

また、非独占的ライセンスだと無制限(Unlimited)プランだとしても、他のアーティストが同じビートで楽曲をリリースする可能性はあります。それを防ぎたければ、独占的ライセンスプランで契約をするしかありませんが、駆け出しのアーティストには潤沢な制作資金があるわけではないので、やはりここは自分にあったプランを選ぶのが一番です。

このようにプランをどうするかという問題は大変悩ましいのですが、こうして早いうちから自分にあったプランでビートを買うことは良い習慣です。長く活動することを考えているのであれば、YouTubeなどから違法にダウンロードしてきたトラックを使ってリリースするようなことは避けるべきでしょう。  

 
今回のタイプビートについてをはじめ、音楽の法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

 


『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

この記事の執筆者
山城尚嵩弁護士
弁護士(STORIA法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。音楽ビジネスを中心としたエンタテインメント領域やAI・データをはじめとするIT/テック領域が専門領域。Law and Theoryメンバーの中でもHIPHOPへの思いは負けないと(勝手に)思っている。