For Tracy Hyde インタビュー | ミュージシャンからも支持されるインディ・ポップバンド

2014.10.21


For Tracy Hyde | ミュージシャンからも支持を得るインディ・ポップバンド
For Tracy Hyde

シューゲイザーやギターポップになどに影響を受け、関東を中心に活動するインディポップバンド・For Tracy Hyde。早耳リスナーから、Galileo Galileiの尾崎雄貴氏、NOVEMBERSの小林祐介氏といった著名バンドマンまでが話題にするる彼らは一体どんなバンドなのか、彼らのインタビューをお届けします。


——今回はインタビューご対応ありがとうございます!はじめに自己紹介をお願いします。

私たちFor Tracy Hydeは都内を中心に活動している5人組のインディ・ロック・バンドです。2012年秋にギターの夏botの宅録プロジェクトとしてはじまり、2014年春に現編成になりました。メンバーはラブリーサマーちゃん(Vo)、夏bot(Gu)、U-1(Gu)、Mav(Ba)、まーしーさん(Dr)となっております。
現編成では無料配布のEP「In Fear Of Love」と、各配信サイトにて販売しているEP「Born To Be Breathtaken」の2作品をリリースしております。

——For Tracy Hydeを結成した経緯をお聞きしたいです。

そもそも夏botとMavは別バンドで活動を共にしていたのですが、そのバンドが非常に後味の悪い解散をしたため夏botはバンド活動から離れ、ひとりでチルウェーブ等を制作していました。しかし、Galileo GalileiやTeen Runnings、Moscow Club、Wallflower、Juvenile Juvenileといった現行の日本のインディ・ロック・シーンで鳴らされる音楽の質の高さに感銘を受け、趣味の合うメンバーをTwitter上で募集して再びバンドを組むことを決心しました。ラブリーサマーちゃん以外のメンバーはこのようにして集まりました。この頃は夏botをボーカルとする4人編成でした。

——Twitter上でメンバーを集められたのですか!ネットの力、恐るべきです・・・!

ラブリーサマーちゃんはこの4人編成のFor Tracy Hydeのライブに客として来ていたのがきっかけで知り合いました。ちょうど宅録をはじめたばかりだった彼女の歌声やセンス、音楽的背景に惹かれて加入を打診したところ引き受けてくれたので、現行の5人編成になりました。

——皆さんは楽曲をどのように作っていらっしゃいますか?宅録をしているメンバーさんがいらっしゃるので、楽曲作りに対する強いこだわりがありそうです・・・!

楽曲は作曲者(主に夏bot)が宅録で全パートの大筋をつくり、スタジオで各メンバーが各々のパートを適宜いじったりしてつくっています。制作に際しては歌詞とサウンドのイメージを一致させること、歌詞を通じてありふれた情景を異化したり美しく見せたりすること、楽曲に海外インディの影響を取り入れつつも日本ならではのJ-Pop的なポップさを持たせることを意識しています。

——使用機材などに関するこだわりはございますか?

メンバー全員これといって楽器や機材にこだわりはなく、価格的に入手しやすくかつ実用的なものを揃えている感じです。強いていえば夏botの弾いているRickenbackerの12弦が彼のルーツを反映しているとともに他バンドにはない特色となっていること、U-1が敬愛するジョニー・グリーンウッドやNakanoiseといったギタリストの影響でDigitech Whammy(ギター用エフェクター)を愛用していて特にライブでは要所要所で使っていることくらいでしょうか。

楽器に関してつけたせば、シンセを多用しているわりにはハードのシンセを一台も所有していないので、今後いろいろと試して合いそうなものを手に入れたいと思ってはいます。

——なるほど。楽曲を作るときや、今まで音楽活動をしてきた中で様々な音楽に影響されてきたかと思われますが、メンバーの皆様それぞれ、または皆様が共通して影響されたアーティストなどはいらっしゃいますか?

メンバーが共通して好きなのはスピッツやGalileo Galilei、スーパーカー、相対性理論、Captured Tracks(アメリカのインディ・レーベル)のギター・ポップ・バンド勢、渋谷系、国内外のシューゲイザー・バンドなどです。それぞれ関心がかけ離れている部分もあるのですが重なっている部分もかなりあるので、話が通じなかったりイメージが伝わらなかったりして困るということはあまりありません。

——EP『Born To Be Breathtaken』についてお聞かせください。EPのコンセプトや制作時のエピソードなどお聞きしてみたいです。

明確なコンセプトは特にないのですが、前作「In Fear Of Love」がかなりシンセを多用した作品になっていて楽曲の振れ幅もそこそこ広かったので、今度は逆にギター・ポップ色の強いわかりやすい作品にしようという意図がなんとなくありました。タイトルは「誰もがほかの誰かの瞬間の美に息を呑むために生まれてきたのではないか」という発想でつけました。

制作はこれといって変わった事件もなく、わりと淡々と進みました。強いて言えば録音の手順が一風変わっていて、土日にレコーディングをしたのですがラブリーサマーちゃんが日曜日にサークルのライブを控えていたため土曜日しか参加できず、宅録のデモ・トラックに合わせて先にボーカルを録音→残りの楽器をリズム隊から順次差し替えるという順番でレコーディングしたくらいでしょうか。

——『Born To Be Breathtaken』はインスト曲を含む全4曲の楽曲の眩さに心を奪われましたが、またジャケット写真にも心を奪われました。このジャケット写真はどのように撮られたのでしょうか?

ジャケット写真はこれまでのFor Tracy Hyde作品の大半と同様に、Ano(t)raks(日本のインディ・レーベル)の作品群のジャケットを撮影している小林光大氏に提供してもらいました。撮り下ろしではなく彼のポートフォリオから選んだのですが、作品のイメージに合わせて選んだので違和感のない仕上りになったと思います。また、フォント入れやデザインはSports Milk氏の仕事です。
EPがiTunes Music Storeの総合チャートやオルタナティブ・チャートに入っていたときに「世の音楽作品と並べて見るとかなり印象が違うおもしろいジャケットだな」と改めて思いました。

——For Tracy Hydeといえば音源のリリース、パッケージング方法が独特で、Twitter上で話題になっていましたね。
1stEP「In Fear Of Love」ではプレスされたCDの無料配布とbandcamp上でのフリーダウンロード、2ndEP「Born To Be Breathtaken」ではライブ会場にてステッカー、バッジ形態で販売し、またコミックマーケットで音源の頒布をしたりと、皆様は楽曲を届ける形に強いこだわりをお持ちかと存じます。
このような方法で楽曲をリリースしようと思ったきっかけや、リリース時のエピソードあればお聞きしたいです!

まず、1st EPが無料配布だったのは夏botとU-1が敬愛する渋谷系ユニットSpiral Lifeに倣ったためです。Spiral Lifeはデビュー前に1stアルバムの収録曲のラフ・ミックスを収録した無料サンプラーを全国のTower Recordsで配布していたのですが、なにかしら変わった形式でのリリースをしよう、自分たちなりにルーツへの敬意を表そうと考えたときにこのことが思い浮かんだので、そうしてみました。
個人向けの郵送を受けつけたところ思いのほか反響が大きくCDの梱包と郵送でてんやわんやになったこと、TOWER RECORDSの旭川店に置かせていただけた上にかなり大々的に展開していただけたこと、Galileo Galileiの尾崎雄貴氏やTHE NOVEMBERSの小林祐介氏など敬愛するアーティストたちに反応をいただけたことがとても印象に残っています。

私自身、当時JET SET下北沢店(下北沢のレコード・ショップ)にて配布していた1stEPを頂きました。
正直、「これを無料でもらっていいのか!?」と躊躇してしまうくらい音源・パッケージのクオリティが高かったです。

——現在も1stEPはbandcampにてフリーダウンロードができるようになっていますね。
最近は楽曲をフリーダウンロードでリリースするアーティストが増えてきていますが、For Tracy Hydeの皆様は、楽曲をフリーダウンロードでリリースすることに対して、どのような意義や考えをお持ちですか?

フリー・ダウンロードの意義はなんといってもリスナーに届けやすいことだと思います。インターネットで無料配信してしまえば金銭や土地に縛られることなく広く音楽を届けることができるので、東京にいながらにして北海道や沖縄、果ては海外のリスナーにまで自分たちの音楽をお聴きいただくことが可能になります。
しかしその反面、フリー・ダウンロードや無料配布はなんのハードルもなく気軽にできるがゆえに、乱発することでアーティストや音楽の価値に対するリスナーの感覚を鈍らせるリスクもあるようにも思えます。

無料で配布される音源にある程度の価値がないと聴かれなかったり聴かれても「ふーん」で終わってしまったりしますし、逆にクオリティが高すぎると今後同等の音源をつくっても課金しづらくなります。その辺りの問題をどう解消するのかが大きな課題ではないでしょうか。

——なるほど。

そして2ndEPについてですが、遊び心と苦し紛れの産物でした。8月1日のラブリーサマーちゃんワンマン・ライブに合わせて物販に出品できるように制作をはじめたのですが、6月中旬にレコーディングし、それからミックスとマスタリングをしてCDをプレスしようとすると非常にスケジュールがタイトで厳しいということになりました。 そこで話し合った結果、ジャケットのデザインを先に決めてバッジやステッカーを作り置きし、それらに音源のダウンロード・コードを後づけで添えればぎりぎりまでプロダクションを詰めることができるのではないか、というアイディアが出てきたので採用しました。バッジとステッカーをつくったのは、世の音楽リスナーが自分の好きなバンドへの支持を表すアイテムとして活用しており、実用性があると考えたためです。

コミック・マーケットに関していえば、夏botやMavが元々同人音楽的なバックボーンを持っており、M3という同人音楽イベントにたびたび出入りしていたので、その延長で出展いたしました。単純にほかのインディ・バンドがやらないことをやりたかったという部分もかなり大きいのですが、コミケは参加者の母数がかなり大きく、その分熱心な音楽リスナーもいるのでまずまず有意義な試みだったと思います。M3もかなり幅広いリスナー層の集まるイベントですし、アーティストを支援する、長く見守るという意識をお持ちの方が多いので、インディ・ロック・アーティストも参加すると得るものが少なからずあるはずです。
全体的に振り返ると、こうした変わった形態でリリースしようと考えたのはやはり渋谷系のアーティストたちのパッケージングに対するこだわりや遊び心の影響がかなり強いと思います。また、自分たちが幼少期からインターネットを利用できる環境にあったことも無関係ではないでしょう。

——話が変わりますが、TuneCore Japanをはじめに知ったきっかけとは何だったのでしょう?

実は、きっかけはYkiki Beatのインタビューです。夏botが以前Batman Winksにサポートで参加していた頃にYkiki Beatと共演したほか、For Tracy HydeでもYkiki Beatのメンバーが参加しているDYGLと共演したことがあり、以前から交流があったのですが、彼らが薦めるサービスなら信用ができると思い、このたび音源の配信をお願いした次第です。

手続きから配信までの対応が素早く、料金設定等の金銭面の条件もとても良心的で、ありがたく思っております。海外配信にも対応可能なところもまたとても素敵です。リスナーの拡大や海外シーンとの共振性等について考えるべき点が多く、一方ではそれらを考慮する際に金銭的に制約を負うこともしばしばあるインディ・ロック・アーティストがうまく活用するととてもおもしろいのではないでしょうか。

——最後に、今後の活動予定や、バンドとして挑戦してみたいことなどございましたらお聞かせください。

ありきたりではありますがとにかくいい曲をつくり、いいライブをしていくことが当面の課題です。今後について具体的なヴィジョンが存在するわけではないのですが、ゆくゆくフル・アルバムを制作し、それに合わせて自主企画を開催したいという気持ちはあります。


For Tracy Hyde
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TuneCore Japan

この記事の執筆者

TuneCore Japan Official Ambassador

TuneCore Japan 公認 学生アンバサダー

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