【このリリースがすごい!】零度pool『ジュノーの知らない六月で』 | 氾濫する言葉のたった一雫でも、届くことを信じて

コラム・特集
2026.5.30
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、零度poolのEP『ジュノーの知らない六月で』を紹介。


刺激の多寡が音楽の滋味に直結してるとか、音層を聴き分けられるリスナーこそが正しく表現を受容できているとか、そういった単なる錯覚や気の迷いのような流行に過ぎない秩序が、とても覆い尽くしきれない場所まで。決して追い付かれないスピードで、零度poolは逃げ続けている。

ボーカルと美術を担当するlj∮Åとトラックメイカーの木田昨年による、“無政府状態ポストシューゲイザー・ユニット”。2025年1月26日の結成以来、4枚のフルアルバムや8枚のEPを含む大量の楽曲群を、異様とも言えるペースでリリースし続けている。5月20日に突如配信開始された8th EPの本作『ジュノーの知らない六月で』は、5月4日の前作EP『夏シュtart・てsト』に続いて今月2作目のリリースとなる。

溢れ出て止まらない創造力は、その尋常ではない作品数のみならず、一曲一曲の密度にも表れている。シューゲイズに許容される轟音を情報容量の大きさだと解釈し直したサウンドの過剰さは、今年3月にリリースされた4thアルバム『深海恐怖症と25mのプール』を境目として、以後さらに加速。前作でボカロ以降ポップスのピーキーさやハードなエレクトロのエディット感覚を飲み込むと、今作では一旦発散された言葉たちを再び繋ぎ合わせるようにして、従来から持ち合わせていた内省的な世界観に現在の音楽的モードを接続した。

ノイジーなバンドサウンドと切迫したハイトーンで駆け抜ける「シュレディンガーの箱と君」から、全5曲。リバーブをかけられたまま重なり合う様々な音色が、混ざって白い眩しい光となって直視を拒むから、それぞれが打ち込みなのか演奏なのかサンプリングなのかも判然としない。その不鮮明こそが、零度poolとあなたの一対一の間に、あらゆる余計な他者を介在させない。メロディのキャッチーネスを信頼しきってそれ以外に奔放な改造をこれでもかと施す手法は、とあるリスナーが「hyperflip的」と形容するのも頷けるほどカオティックだ。

そうした視界を埋め尽くすほどの振動を通じて、零度poolはあなたに何を伝えようとしている? それはあまりにもか細い祈り。たった一瞬交わった君と僕が、ほんの少しだけ一瞬じゃなくなったらいい。強く思えば思うほど色濃く伝わるなんて思っちゃいないけど、強く思い続ければ少しくらいは伝わるかもしれない。「快晴の予報に喜んだり、 / 僕の訃報に泣いたりして。 / そのあとはぜんぶ、忘れていいから。 / 今だけはここにいてくれないかな。なんて。」(M2「ジュノーの知らない六月で」)。氾濫する言葉のたった一雫でも、あなたに届くことを信じて。

 


零度pool『ジュノーの知らない六月で』

零度pool『ジュノーの知らない六月で』各サブスク

零度pool『ジュノーの知らない六月で』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。