【コラム】韓国ミュージックビデオのトレンドを生み出すクリエイター3組|Mu:E、VM Project Architecture、NAIVE

2019.2.5

世界中でまさに”飛ぶ鳥を落とす勢い”の躍進を見せる「K-POP」。日本でも「第三次」と言われる韓流ブームが2017年ごろから若者を席巻。TWICE、BLACKPINK、Red Velvet、iKONなど、様々なアイドルグループ/ユニットが日本進出を果たし、爆速的に人気を獲得している。

その勢いはアジア諸国だけでなく、欧米諸国にも広がりを見せている。男性ヒップホップグループ・防弾少年団(BTS)は昨年発売した2枚のアルバム(『LOVE YOURSELF 轉 ’Tear’』『LOVE YOURSELF 結 ’Answer’』)が、米・ビルボードの発表するメインチャート『Billboad 200』にて1位を獲得。アジア圏出身者として初の快挙となるこの結果は、まさにK-POPの文字通りの「世界進出」の成功を物語っている。

そんな近年のK-POPのグローバルな大躍進には、間違いなく「ミュージックビデオ」の存在が大きく関係している。若者の視線がテレビからインターネットへと移行している昨今、人々が触れるコンテンツの数は加速度的に増加し、消費されている。そんな慌ただしいタイムラインの中でアーティストの周知を図るためには、短時間でアーティスト・楽曲の魅力を最大限に引き出し、小さな画面の中でもひときわ輝くビジュアルコンテンツを作り上げることが必要不可欠。その時代性にいち早く対応し、他国をも圧倒する注力度合いを以ってして躍進を手にしてきた音楽市場こそが、「K-POP」なのである。

今回はそんな昨今の「K-POPミュージックビデオシーン」のトレンドメイカーである3組のクリエイターたちを紹介しようと思う。

 

アートディレクションチーム「Mu:E」

無機質な部屋、統一感のある色使い、遊び心のある小道具…近年のK-POPミュージックビデオにおいて多く見られるようになったこの独特の世界観の流行は、アートディレクションカンパニー「Mu:E」の仕事っぷりによるところが大きいだろう。

 
ZICO – She’s a Baby

Mu:Eはキム・ボナとパク・ジンシルを筆頭に、複数の女性アートディレクターによって構成されており、数多くのK-POPアーティストのミュージックビデオやCMの制作に携わっている。2016年の結成後、現在までに123本ものプロジェクトに参画し、多くのミュージックビデオ制作現場から引っ張りだこのチームである。セットのデザインから小道具のコーディネートまで、映像内における全ての「美術」を監修し、映像の一貫性を保つ重要な役割を担う。

 
SEVENTEEN/SVT LEADERS – CHANGE UP

昨年開催の、韓国の大手音楽専門チャンネル「Mnet」(運営元:CJ E&M)が主催する音楽授賞式「Mnet Asian Music Awards 2018 (MAMA2018)」では、「ベストアートディレクター賞」を受賞するなど、高い評価を受けている。

 
BTS(防弾少年団) – FAKE LOVE

 

映像プロダクション「VM Project Architecture」

MVディレクターにもそれぞれ多様な特徴があるが、不要な要素を削ぎ落とし、圧倒的なシンプルさを以ってして、ファンを魅了する映像制作を行なっているのが映像プロダクション「VM Project Architecture」である。Beomjin Jo氏を筆頭に設立されたVM Projectはこれまでに事務所を問わず多数のミュージックビデオを監督。前述のMu:Eとのコラボレーションも多く、ほとんどの作品のアートディレクションなどを彼女たちに委託するなど、関係が深い。

 
iKON – LOVE SCENARIO

彼らの作品の共通点は、先ほども述べた圧倒的な「シンプルさ」。無駄のないカット割りやズーミング、スムーズなカメラワーク、過剰なCGの使用もせず、必要な要素のみで構成された映像は、「アーティストの魅力を最大限に引き出す」というミュージックビデオの本質的な役割をしっかりと全うする作品に仕上がっている。

 
IU – BBIBBI

また彼らの作品におけるもう1つの特徴が、タイポグラフィの美しさだ。曲や作品のテイストによってフォントを厳選し、適切なレイアウトで配置する。極めて基礎的な要素のように思えるが、それを高い純度で徹底できるのは、長い制作キャリアによってやはり磨かれたセンスがあってこそなせる技であるように思える。

 
EXO – MONSTER

 

映像プロダクション「NAIVE」

近年の日本での韓流ブームの再燃に際し、その立役者となったのは2017年に日本デビューした「TWICE」ではないだろうか。同年に日本デビューした他のグループに先駆け、2年連続で紅白歌合戦に出場、今年三月には東名阪三都市でのドームツアーと2枚目のベストアルバムのリリースも決定するなど、まさにスターダムの階段を駆け上る彼女たち。そんなTWICEのデビュー以来、韓国のリリースにおける全てのミュージックビデオの制作を担当しているのが、映像プロダクション「NAIVE」である。世界的ヒットとなった「TT」のミュージックビデオを制作したのも彼らだ。

 
TWICE – TT

NAIVEが得意とするのは、「ストーリー性」があり、それに伴う「事細かなコンセプト・設定」を含んだミュージックビデオだ。K-POPのミュージックビデオでは、ダンスや歌唱など「パフォーマンス」をいかに魅力的に見せるかに重点を起き、その他の描写は抽象的になるというケースもあるのだが、NAIVEは楽曲の歌詞や音楽性に着目し、楽曲に込められたメッセージを映像表現に落とし込むという手法に長けている。

 
TWICE – What is Love?

例えば「TWICE – What is Love?」という楽曲は「まだ恋をしたことのない女の子が、いつか自分も経験する恋の瞬間を夢見て妄想を馳せる」という意味合いの歌詞が歌われているのだが、これを「9人の女の子が、9つの恋愛映画を見て、恋を勉強する」というストーリーに展開。メンバーがそれぞれ「恋愛映画を見る女の子」・「恋愛映画に出演するキャスト」の2役を演じ、登場する映画作品は世界中の有名映画を細やかにオマージュしたものだ。

実際にこのミュージックビデオが公開されると、ファンたちは登場した恋愛映画のオマージュ元の推測や、メンバーが演じたキャラクターのディテールに言及するなど、ミュージックビデオについての話題はファンの間で尽きることがない。こうしてNAIVEの得意とする「コンセプト・設定を細部まで拘る」というスタンスが、結果的に長いバイラルを生み、アーティストの求心力へと繋がる作品を生み出しているのだ。

 
DAY6 – I Smile

 

まとめ

以上、今回はK-POPシーンをミュージックビデオから支える、3組のクリエイターをご紹介した。韓国音楽業界ではミュージックビデオにもトレンドがあり、1組のクリエイターが事務所も異なる複数のアーティストのミュージックビデオを手がけることもある。世界を魅了する韓国のミュージックビデオがこれから先どのような進化を遂げるのか、その進化の過程で脚光を浴びる新たなアーティストの存在なども、引き続き取り上げて行きたいと思う。

この記事の執筆者

Video Kicks

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