【セ・ラ・ノ#16】Menow『flannel』セルフライナーノーツ

コラム・特集
2026.4.22
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アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深掘りする連載企画「セ・ラ・ノ」。

第16回となる今回は、Menowが登場。

3月に発表された、『flannel』について、セ・ラ・ノ。



『flannel』各サブスク

Track 1「elm tree」

まつお まいこ(Vo./Gt./Synth.) (以下 まいこ)
クラギでいい曲作りたいなと思って、響くコードを探していたところから始まった曲。同じようなフレーズを軸にして、メロディだけを変えていこうと思って作り始めました。
 
ちょうど1年くらい前に、「1日1つ詩を書く」というのを続けていて、その中で“合歓(ねむ)の木”をテーマにした詩があって。「ねむの木の下では今も大切な思い出が眠っているよ」というような詩なんだけど、それを英詩に変えて仮歌のつもりで当ててました。
 
それがあまりにもフィットしてしまって、そのまま採用しています。
 
加藤 有輝也(Vo./Gt.) (以下 ゆきや)
結果的に、たぶんいちばん早くできた曲だよね。制作期間もかなり短かったし。
 
俺が最初に聴いたときは、もうメロディも歌詞も完成してたから。レコーディングも、マイク1本立てての一発録りで。
 
細かく作り込むっていうより、そのままの空気感を残した感じに仕上がっています。

 

Track 2「海溝にて鳴く鹿を見たか」

ゆきや
これは俺がギターのフレーズを先に考えて、曲の構成は一切決めずに送った曲です。サビとイントロではこのコードを使いたい、AメロとBメロは自由につけていいよって。
 
メロディも基本は好きにしていいけど、Aメロの入りのフレーズだけはコレっていう条件だけ渡して、あとは任せた感じだったよね。
 
まいこ
今までのMenowのコード感とちょっと違う感じだよね。
 
ゆきや
そのときちょうどEMOバンドにハマっていて。フレーズとしては結構エモっぽい。
 
ただ、流れとかテンポは自分たちなりに変えた感じかな。
 
まいこ
でも「エモで作って」って言われても、私は多分できない。エモって何?ってところから考え始めちゃうから。
 
ジャンルとして広いのに、言葉で指定されると逆に狭くなってしまって、固まってしまうというか。だから、知らなくてよかったかも(笑)。
 
ポンと渡してもらって、そこから自分なりに感じて作る方が合ってるんだと思う。実際、書いた詩も、こんなにエモくなるとは思ってなかったし。
 
音楽ジャンルとしてのエモはわからないけど、エモーショナルな詩にはなったなって。
 
これまでのファンタジックな感じとは違って、ちょっとリアリズムが出た気がします。それは、ギターのコード感がそうさせたのかなって思う。
 
メロも歌詞も、ほとんど作りこんでなくて。ただ歌詞を見せたときに「もう少しこういうイメージに」って言われて一度ぶつかったこともあって、テーマの捉え方の違いは結構話したよね。
 
ゆきや
最初は「生きろ」がテーマで、もののけ姫みたいなイメージって言ってたよね。
 
まいこ
そう。でも私は一回そういうテーマを全部どけて、まっさらな状態で作りたかった。結果的には大きく外れてはいなくて、「生きろ」っていうのは根底には残ってるよね、っていう着地になったと思ってる。
 
ちなみに、タイトルは、奈良の鹿から来ています(笑)。鹿って神様の使いだと言われていて、しかも鳴くんだっていうのを初めて知って、その鳴き声を調べて聴いたんですよ。その声が、この曲を作っている間ずっと頭の中で鳴っていました。
 
歌詞に直接鹿を入れたわけじゃないけど、「神様の使いがどこかで鳴いている」みたいな感覚がずっとあって。そこから、どんな状況でも、たとえば人生の深いところに落ちてしまったときでも、何かを見ようとする気持ち、ほんの少しの希望みたいなものがあればいいなと思って。それがタイトルに繋がりました。
 
最終的に、タイトルもテーマもコードも歌詞も、全部バランスよくまとまったなという感覚があるかな。
 
ゆきや
もともとこういうエモい曲はやらないって思ってたし、実際そう言ってたんだけどね。
 
まいこ
だからある意味、転機になった曲かもしれないね。
 
ゆきや
あと、曲を作るときって自分の中でイメージがだいたい二択で、坂本龍一か久石譲か、みたいな感覚があって。
 
この曲は完全に久石譲側。分かりやすくエモーショナルな方向みたいな。

 

Track 3「kiko」
ゆきや
これはひょんなことがきっかけでできた曲。
 
インドネシアの青年から連絡が来て、「コンピに参加しない?」って言われて。いいですよって返事したら、あとから「新曲を書いてほしい」っていう条件を出されて。
 
まいこ
そうそう、全部後出しで(笑)。「え、作らなきゃじゃん」ってなったよね。
 
ゆきや
しかもテーマが「サイクリング」って言われて。「なんでうちらにそれ頼んだ?」っていう(笑)。仕方ないのでそのテーマありきで曲を作ることになりました。
 
普段とはちょっと違うきっかけではあったけど、いい曲できたらアルバムに入れようって思ってたし、自分たちでは思いつかないようなテーマを与えてもらえたっていう意味ではラッキーだったかなと思います。

 

Track 4「forest」

ゆきや
アルバムの流れを考えたときに、ちゃんとした曲というより、インタールード的なものを入れたいね、っていう話になって。それで、まいこが「ピアノ入れたい」って言って。
 
まいこ
ずっと前にゆきや君から「必要な間」についての話を聞いて、それからずっと考えていて。
 
音楽の中の“間”ってどうやって生まれるんだろうっていうのを、頭じゃなくて体感したくて、ピアノでやってみた感じです。とにかく音をずっと鳴らしながら、“間”だけを意識していて。気づいたら1時間くらい録ってました。
 
ちょうど夕方で、西日が入ってくる中で弾いていて、外の音も入ってるんですよ。近くの公園の子どもの声とか、5時の合図の放送とか。
 
そういう生活の音と、自分の中でぼんやり見えていた景色が、同時に存在している感覚が心地よかったのを覚えています。
 
あとから振り返ると、白い霧の向こうに森が見えるようなイメージで。「フォレスト」っていうタイトルもそこからつけました。ピアノに向かっている間、現実とイメージの間で行き来しているような状態だったんだと思います。
 
音と音の間なのか、自分と音の間なのか、みたいなことをずっと探っていて。これも「作ろう」と思って作ったというよりは、実験の中で曲になっていった感じ。
 
ゆきや
今回のアルバムって、そういう作り方が多かったよね。ちょっと今までと違うことを試してみるというか、自分たちの幅を探るような。
 
バラバラにやってるようで、通して聴くと、ちゃんと一つにまとまってる感じがある。新しいことをやってるのに、結果的に居心地のいい場所に落ち着いてるというか。
 
まいこ
もともとあったものをいろんな方法で触ってみて、ようやく形にする方法を見つけたって感じかもしれないね。

 

Track 5「1540」
ゆきや
2025年の4月にサンフランシスコに行って、ライブして帰ってきたときに、向こうでお世話になったアーティストの Tony Jay に向けて作った曲です。
 
まいこ
もともとは完全にプライベートなプレゼントのつもりで、「手紙を曲にする」みたいな感じで作った曲なんです。アルバムに入れるとかは全然考えてなくて。
 
原曲は、ゆきやくんが駐車場に行ってる数分の間に私が作って、「いいじゃん」、「じゃあそのまま録音しちゃおうよ」ぐらいのノリで、そのまま一発録りしました。
 
ゆきや
サウンドは、Tony Jayの感じを意識して作っていて、エレキで弾いて後から少しだけ音を整理したくらい。これもマイク1本の一発録りだからバランスもそんなにいじれないし、ほんとほぼそのまま入ってる感じですね。
 
アルバムに入れることになったのは、ライブでやるようになってからだよね。やっていくうちに、曲としての広がりが見えてきて、「これアルバムに入れておきたいな」って思うようになった。
 
曲の存在感が、やっていくうちにどんどん大きくなってきたよね。
 
まいこ
違う国の友達ができたことで、「顔の知らない人のことも想像してみる」っていう感覚が、自分の中に出てきたというか。
 
自分たちにTony Jayみたいな友達がいるのと同じように、知らない誰かにも大事な友達がいて、その人にもまた別の誰かがいて…って考えていくと、「それぞれがそれぞれの友達を思う気持ち」って、きっと同じなんだろうなって思ったんです。
 
だったら、なんで今この世界はこんなふうに戦争が起きたりとか、差別があったりとかするんだろうっていう、そのモヤモヤがすごく大きくなっていって。だからこの曲は、最初の“手紙”から、少しずつ意味が変わっていった感じがあります。
 
みんなそれぞれ、誰かを思う気持ちは持っているはずなのに、それをもう少しだけでも想像できたら、世界は変わっていくんじゃないかって。でも人間って、なんでそれができないんだろうっていう。そういう気持ちも全部ひっくるめて、歌うようになっていって。
 
最近は、この曲はうちらなりの「Imagine」だな、って思うようになった。
 
ゆきや
アルバムに入れたときは、そこまでの意味合いじゃなかったもんね。単純に「Tony Jayに向けて作った曲を、この作品の中に残しておきたい」っていう気持ちが強かった。
 
でも今は、歌っていく中で意味が変わってきて、ちゃんと一つの曲として育ってる感じがあります。

Track 6「No.22」

ゆきや
これは、いろんな意味で問題作です(笑)。
 
まいこ
いやほんとに。あなたが勝手に録音してたやつだからね~。
 
ゆきや
ライブでは話してるけど、ピクサーの「ソウルフル・ワールド」を観たあとに、まいこが急に鼻歌で歌い始めて。たぶん映画から受けたものをそのまま出してるんだろうな、みたいな感じで見てたんですよ。
 
ちょうどギターもセットしてあったから、合わせて弾いてて、「これちょっとメモで録っとこうかな」ぐらいの軽い気持ちで、こっそりiPhoneで録音してたやつを…そのまま入れました。
 
まいこ
録音されてるなんて思ってないからね。普通に遊んでて。22番のぬいぐるみがあって、その子が歌ってるっていう体で歌ってたの。
 
で、横にIKEAのサルのぬいぐるみもあって、その手がマジックテープになってるから、ずっとバリバリやってて(笑)。その音まで入ってるからね。
 
ゆきや
一応、なるべく消したけど…残ってます(笑)。
 
まいこ
だから、ほんとに意図して作ったとかじゃなくて。あの映画を観て、自分の中に残ったものがそのまま出てきただけなんですよね。
 
なんか説明しようとしてるわけでもなくて、そのとき受け取ったメッセージがそのまま出てる、みたいな。
 
ゆきや
うん、だから作ったというより、「その瞬間がそのまま入ってる」みたいなことだね。

 

Track 7「MONOLITH」

ゆきや
ライブで、いわゆる「曲をやる」以外のこともやりたいよね、っていうのがずっとあって。ジャンルで言うとアンビエントっぽいのかもしれないけど、そういう言葉で括りたくはなくて。
 
もともと2人で歌なしで音だけをずっと回して遊んでる時間があって。それをそのままで終わらせるんじゃなくて、「ライブでもやってみたいな」と思って、後半に差し込むようになったんだよね。
 
だんだんそれが、ライブの中でひとつの“切り替え”みたいな役割になってきて。スイッチというか、トリガーみたいな感覚で、そこを通ると最後の曲に入っていく、みたいな流れが自然とできるようになっていって。で、その感覚をアルバムの中でもそのまま作りたいなと思って、最後の一個前に置く形にしました。
 
「この感覚は何に近いか?」って考えたときに、自分の中でしっくりきたのが“モノリス”だった、っていう。
 
まいこ
モノリスって、あの映画に出てくるやつだよね。
 
ゆきや
そう、「2001年宇宙の旅」に出てくる黒い石。あれに触れることで人間の進化が促されていく、っていう象徴として出てくるやつなんだけど。
 
ライブの中で、それに近いイメージがあって。その石に触れることで、何かが切り替わって、次に進んでいくみたいな感覚。
 
タイトルをつけたのもアルバムに入れるときで、ライブでは名前もなく、ほんとに直感だけでやってたものです。
 
まいこ
レコーディングもライブと同じ感覚で、その場で出てくるものを出すっていうことをしました。だから、ライブでやるってなると、毎回「何やってたっけ?」ってなる(笑)。
 
いくつかテイクを録って、その瞬間に感じたものをそのまま出している感じだから、再現しようとすると、思い出せないんですよ。
 
ゆきや
レコーディングは、録ったあとにそれぞれをミックスして、最後にギターを重ねて一曲にしていった感じです。
 
作り込むというよりは、出てきたものをどう繋ぐか、どこを残すか、みたいな感覚で。切り貼りも含めてかなり直感的にやっていて。まいこが弾いてた中で、印象的なフレーズがあって、それだけは残そうって決めて入れてます。
 
ライブと同じで、「その瞬間に出てきたもの」をそのまま使ってるから、結果的にまとまるのも早かったし、ちゃんとあのときの感覚のまま形になった曲だと思います。

 

Track 8「Utau」
ゆきや
この曲は、このアルバムの中でたしか最初にできてた曲だね。
 
まいこ
ライブでも1回しかやってないし、なんかタイトルもずっと仮みたいな感じだったけどね。
 
「Utau」っていいじゃんって言われてたけど、全然ピンときてなかった。
 
ゆきや
今はどうなの?
 
まいこ
「しっくりきてます」って言うべきなのかもしれないけど、そうでもない(笑)。たぶん歌い続けていくうちに、しっくりくるものなのかもねっていう感じかな。
 
これも、もともとは「1日1詩」の中で書いた詩で、「いいものできたから、この詩に合うギター作って」って渡したんだよね。だから完全に歌詞ありきでできていった曲で、アルバムに入れるとかも全然考えてなかった。
 
ゆきや
メロディも俺が作ってるわけじゃなくて、コードだけ作ってるパターンが今回多いよね。
 
まいこ
そうだね。で、できたときは「いいね」ぐらいだったんだけど、時間が空いてから歌ってみたら、「なにこれ、めっちゃいいじゃん」ってなった(笑)。
 
歌詞も、最初は街の中でうつむいて歩いてる視点なんだけど、だんだん草花とか太陽とか大地とか青空とか、視界が広がっていく流れになってて。でもそれって意識して作ったわけじゃなくて、後から「こういうストーリーになってるんだ」って気づいたんだよね。
 
悩みながら歩いてる人が、周りにあるものに気づいていって、「別にどこで曲がってもいいじゃん」って気づいて進んでいく、みたいな流れができてるっていうのに、全部完成してから気づいた。「これ誰が書いたの?」って思うぐらい、自分で書いた感覚があんまりない。
 
ゆきや
たぶん、それだけ自然に出てきてるんだよね。
 
今回のアルバムって、「こういうメッセージを伝えたいから書く」っていう入り方じゃない曲が多くて、まいこのアウトプットの精度が上がってる感じがある。
 
まいこ
それは完全にトレーニング!「1日1詩」で、とにかく毎日出すっていうのをやってて、良い悪いのジャッジもしないし、テーマも決めない。思いついたものをそのまま出すっていうのを繰り返してたら、たまにすごい原石が出てくる、みたいな。
 
最初はほんとゴミみたいなものしか出てこないんだけど、それを続けていく中で、純度のいいものが混ざってくる感覚があって。作ろうとして作るものより、そっちの方がたぶん純度が高いものになるんだね。
 
今まではテーマを与えられると、それに合わせて頑張って言葉を探してたけど、それだとどうしても型にはまるというか、ちょっと違うなってなりがちだったような気がする。だから今回のやり方のほうが、自分に合ってたんだなって思うよ。
 
ゆきや
外から見ると、めちゃくちゃ考えて書かれてるように見えるんだよね。でもそれをさらっとやってるのがすごい。
 
まいこ
さらっとじゃなくてトレーニング(笑)。筋トレだから!
 
でも結果的に、ちゃんと満足できるものができるっていうのは分かった。

 

最後に
ゆきや
今回3枚目のアルバムにして一番「自分たち」って感じがするよね。リファレンス的な音源もなくて、全部そのまま自分たちの音っていうか。
 
ただ逆に、自分たちだけで完結させられない部分っていうのも実感したよね。
 
今回は、日暮愛葉さんの絵をジャケットに使わせてもらってるんですけど、それが最後にピタッとはまった。それまではどこか落ち着かなかったのが、一気にまとまったと思う。
 
まいこ
あれで完成した感じあったね。
 
ゆきや
そう。自分たちだけだと収拾つかなくなるところがあって、それを誰かの手が入ることで一気に整う感じも含めて、なんか「俺らっぽいな」って思った。
 
その、不完全なまま進んでいく感じとか、最後に誰かが与えてくれた要素でピタッとはまる感じも含めて、自分たちの在り方っていうものがそのまま出てるというか。だから、これまでで一番素に近いアルバムだと思います。
 
このアルバムは配信の他に、名古屋のレーベルGalaxy Trainからカセットテープでもリリースされています。
Galaxy TrainのBandcampまたはライブ会場、大須のレコードショップFILE-UNDER RECORDSなどで購入可能です。その他お取り扱い店舗はSNSなどでご確認ください。



【セ・ラ・ノ#16】Menow『flannel』セルフライナーノーツ


Menow
空想と現(うつつ)の淵っこを旅するアシッドフォークデュオ。淡いエフェクトを帯びたアコースティックギターに、男女混成のハーモニーとアナログシンセで絵本のような世界を創作する。2025年4月にはアメリカ•サンフランシスコでのライブを敢行。
 
2023年3月 1stアルバム「泡~abuku~」をHOP ON DOWNよりリリース。
2025年2月 2ndアルバム「マスピレヌスの塔(Tower of maspillenus)」
2025年5月 7”アナログ「白〜haku〜」
2026年3月 3rdアルバム「flannel」を、galaxy trainよりリリース。

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